表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドコネクト  作者: 如月
第二章 方向転換
27/29

017 妄信の残響VS秤量する死神

 ――――ざーざー。部屋の密室には雨の音が鳴り響いている。その中に居るのは二人の男とその中心にいる女である。女の口には猿轡が嵌められており、椅子に縄で手が結ばれている。

 片方は警官であり、まだ若く経験も浅そうな男だ。もう一方の男は白衣を着た男で冷徹な瞳で女のことを見つめていた。


「~~~っ!!」

「何を企んでいる?」

「ハハハ。企むなんて酷いですね。特にこれと言って、理由はありませんよ。ただ、実験材料が欲しくてですね。それでそこのを攫ってきたわけですが……どうにも足がついてしまいましたか。いやはや、困りました。」


 女が助けを求めるように警官に必死に目線を送っているが、警官は白衣の男から目を離せないでいた。何故なら、白衣の男の能力が未知数であり、眼を話した瞬間にどうしようもない事態に陥る可能性があったのだ。

 対して、白衣の男はポケットに手を突っ込みながら悠々とコーヒー片手にペラペラと口を回している。その間も視線は部屋中をさまよい続けて、この密室からの脱出方法を演算しているようであった。

 だが、唯一の扉の場所には警官が立っており、逃げられる隙はありそうもなかった。この密室が中々広い空間でなかったら、今頃は二人の狂器の渦がまき散らされていただろう。


「う~ん。それを解放しますので、見逃してはいただけませんかねぇ。人間を攫うのは初犯なんですよぉ。お互いに攻撃し合うのは効率が悪くないですか?この部屋を破壊されるって言うのも困りものですから、どうにか退いて欲しいのですが。どうですかねえ。」

「初犯?火とか、爆弾とか、危険物を使っていないと?」

「火?こんなところで火を使ってしまうと、二酸化炭素中毒になってしまいますよ。ははは。あなた警官ではなかったでしょうか?それに危険物なんてこの狭い部屋で取り扱うのは私にとっても危ないではないですか。」


 白衣の男はずっと口を回し続けている。それは疚しいことがある証拠か、それとも頭の回転が速すぎるからだろうか。どちらにしても、疚しいことは発覚しており、警官が白衣の男を見逃す理由なんてなかった。

 それに、こうして適当に話していても、警官にとっては増援が来る可能性が高まり、それだけでも勝利に天秤が傾くのだから、それを利用しない手はない。


「危険物を取り扱っていたら、罪が増えるからな。確認だよ。」

「ほう、確認、ですか。しかし、その確認は今するべきことなのでしょうか?私を捕まえてから確認をする方が効率的ではありませんか?……狙いは増援ですか。それともあなたの狂器の発動条件でしょうか。ふふふ。」

「そういうお前はどうなんだ?どうしてそんなに話している?何か意図があるのではないか?」


 お互いに牽制をしながらも舌戦から、直接的な戦闘には移行しない。警官としては増援待ちとして、また人質に危害が広がらないように無暗に戦闘を開始したくないから。

 そして、白衣の男にとってはどうだろうか。男の口からは言葉が多く漏れ出るが、それはあまりにも軽快に語られるものだから、警官にとってはどの言葉が本当のものであるのか、それを判断する術がなかったのだ。

 また、目線から読み取ろうにも、忙しなく動く白衣の男の目線から何を見ているか、何を狙っているかを読み取るのは難しく、拮抗状態にならざるを得ないということもある。


「ハハハ。私の能力ですか?私は狂器“秤量する死神ジャッジメント・スケール”ですよ。能力は罪の重さを天秤にかけて、罪の軽い方の身体能力を、重い方の身体能力に加算することが出来るものです。まぁ、認識の上で私に罪なんてありませんから、あなたの身体能力をそのまま加算して適用できるわけです。それに、それのもね。対象は一人には限りませんから。増援が来るほど身体能力が上がるのです。」

「なっ……!!ブラフか?それとも……本当なのか?」

「嘘をつくと罪が重くなってしまうではないですか。それなのに嘘を吐く道理はありませんよね?私はいつでも私に正直に生きてきましたから。私が能力を公開したのに、あなたは公開しないのはフェアではありませんね。つまりは、あなたの罪ですよ。」


 さてはて、白衣が語る能力は本当のものか、それとも嘘なのか。どれが誤魔化しで、どこまで本当か。増援を止めるべきか、それともこのまま現状維持に主旨するか。

 警官の選択肢は急激に増えすぎた。あまりにも急激に増えた演算処理量に脳が悲鳴を上げて、くらりと眩暈をしたように視線を下にずらした。

 その瞬間に白衣の男は踏み込んでいた。警官が慌てて対応しようにも、今の時点でも処理が追い付いていないのだ。それなのに急な攻撃に対応することは出来ずに、先手を許してしまう。


「ぐふっ……!!くそっ……!!」

「防弾チョッキですか。狙いを間違えましたね。単純に頭でも狙った方がよかったかもしれません。当てやすさを重視して腹狙いは中々厳しかったかもしれませんね。失敗です。今度はもっと早く、もっと鋭く頭を狙いますね。」

「ちっ、奇襲をする方が罪ではないのか?」


 警官への初撃はクリーンヒットしたものの、防弾チョッキを装備していたことでどうにか戦闘不能になる事態を回避できた。もし、防弾チョッキが無かったら、もし、警官が三人以上いたら、防弾チョッキ越しであっても、きっと即落ちしていただろう。

 それでも、今はまだ戦闘を続行できる。

 警官は今の攻撃で確信した。白衣の男の能力は騙っていないと。白衣の男の語り口は軽快ではあるが、それに反して言葉の内容に嘘は無さそうで、それか自分を信じ込ませるのが上手いか。


「奇襲は立派な戦法ですよね。それにたいして罪とは認識が甘いのではないでしょうか。でも、あなたにとってはそれは罪なのでしょうね。奇襲という戦法を取った時点で、あなたの罪は重くなってしまう。あなた自身がそう定義しましたからね。」

「けっ、厄介な奴だな。」

「ハハハ。誉め言葉として受け取っておきましょうか。それより、今もあなたの罪は加算されて行っていますよ。早く能力を公開してはどうでしょうか?防御壁とかでしょうか、それとも身体能力向上?あとは、光線を撃ちだしたりですか?」


 警官はまだ手札を切らない。一撃を加えられたにもかかわらず、警官に焦りはなかった。そればかりか、時間が経つにつれて余裕を深めて行っているような。

 白衣の男は警官の様子に怪訝そうな表情を向けながらも、能力の考察を止めない。じっと警官の様子を見ながら、その反応によって能力を解き明かそうと頭の回転を加速させているのだ。


「どうだろうな?だが、どれも不正解だ。」

「……他の能力というと、何でしょうか。時間経過による強化があり、かつ今の状況を見守ることで効果を発揮する能力。例えば、薄い霧を出して相手を拘束するとか。それか霧を冷結させるのでもいいでしょうか。それかもっと広範囲を対象にするから使えないということか。」

「お前の能力には一つ弱点がある。」


 白衣の男が必死に頭を振り絞る中で、警官はしたり顔で頷き、笑みを浮かべた。その警官に不気味な予感を覚えた白衣の男は、その予感を振り払おうと警官と目線を合わせて、その真意を探ろうとする。


「お前の身体能力が上がっても、戦闘技術はこちらの方が上だ。身体能力が上の奴でも対処できるように、訓練しているからな。」

「確かに、それは認めましょう。しかし、あなたが不用意にこちらに攻撃を仕掛けてこない以上、その言葉は事実でありながら、不正解でもあるわけです。それが最善手であるなら、とっくに行動に移していたでしょう。それなのに行動に移していない。それは単純にあなたが確実に勝てるという保証を持っていないということ。」

「バレたか。不用意に攻撃してくれたら楽だったのに。……だけど、もうこちらの勝ちだぞ。」


 自信あり気な警官の様子に白衣の男はびしっと顔を固めた。その言葉が本当に真実であるような気がして、その直感に冷や汗を垂らしたのだった。

 だが、それも束の間、白衣の男は余裕を取り戻したように、不敵な笑みを浮かべた。何も秘策があるのは警官だけではない。これ以上に身体能力をあげる術を白衣の男は持っているのだった。


「勝ちですか?しかし、残念ですね。あなたのその勝利宣言も私は覆すことが出来るのです。どうやっても負けることはないのですから。あなたのその宣言は滑稽なものになり果てますよ。それともその上で勝てるだけの策を持っているのでしょうか?」

「霧、零結、拘束。」

「は?……あぁ、そういうことですか。なるほど。“秤量する死神ジャッジメント・スケール”」


 警官の男が単語を呟くと、白衣の男の周りには霧が広がり、霧が凍り付き、それで縛りあげようと白衣の男に迫った。途端に口数が減った白衣の男は切り札を切る。この程度の拘束なら、簡単に解くことが出来るが、警官の能力を察するにすぐに仕留める方がよいとの判断してだ。

 この一階の下では数多の生物が蠢いている。ライオン、チーター、鷹、水生生物。その全ての身体能力が白衣の男にのしかかる。あまりに強大な力故に自分自身さえ壊してしまう切り札。だけど、それでも警官の能力は危険すぎると判断したのだ。


「まっ、身体能力向上、防御壁、強化、霧、零結、拘束!!」


 警官が高速で紡ぐ言葉たち。それは警官の身体能力を確かにあげて、そして少しの後退と白衣の男の少しの停滞には役立つ。だが、それだけだ。それ以上に強大な身体能力という異常。それがすべてを壊して、警官に拳が迫る。

 この異常に対して柔で制するなどという言葉では生ぬるく、格上相手の戦闘技術など役に立たない。どうにか目で追えるレベルなのは、白衣の男の身体が崩壊するため、それをセーブするため、それと白衣の男自体が世界を見るため。

 それでも圧倒的な出力の前では軽い拘束なんて役には立たない。


「くそっ……二酸化炭素。」


 その瞬間、白衣の男の周囲だけ二酸化炭素濃度が急激に上昇する。それをもろに喰らった白衣の男は地面に転がった。それと同時期に警官の男と囚われの女もまた意識を失ってしまったのだ。

 凶悪すぎる切り札による互いにノックアウト。

 警官の増援が来た頃には衰弱して、今にも死にそうであったのが、どうにか治療して命は助かった。一秒でも遅かったら死んでいたかもしれない。そんなお互いに命を削り合う戦いはこうして幕を閉じた。


 警官の狂器“妄信の残響(ブラインド・エコー)”。対象が発した言葉をなぞることでその単語の現象を引き起こすことが出来る。また、物質の生成などもすることが出来る汎用性の高い能力だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ