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ワールドコネクト  作者: 如月
第二章 方向転換
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012 愛欲の刻印

 私は不細工だ。それは私でも認めているし、客観的な事実なのだろう。

 周りはいった。そばかす女と。周りはいった。シミ女と。周りはいった。愛してくれる人なんて永遠にいないよと。言葉が私の心に浸み込んでいき、蝕んで離さない。

 どうしてなんだろうか。顔が悪い。それだけの理由で私は愛されてはならないのだろうか?


「はっ、お前なんて好きじゃねぇよ。ブスが。」


 え?目の前に居るのは何だ?私の彼氏ではないのか?私は彼から告白されて付き合っていたはずで、少しばかり遅刻が多いのも、金の扱いが雑なのも受け入れていた。

 私は確かに彼を愛していて、私は彼に愛されていた、はずで。でも、きっと彼は私を利用していただけだった。

 ブス。その言葉があれば、私を蔑み、利用して、簡単に切り捨てる。そんなことが許されるのだろうか?何故、そんな言葉が免罪符になるのだろうか?


「ど、どうして?」

「はぁ?最近金払い悪いしさぁ、お前もういらないんだよね。」

「……っ」


 どう、して。どうして、こうも人生は上手くいかないのだろうか。何故、私だけがこんな苦悩を与えられなければならないのだろうか。

 最初から彼にとっては私は金以外の価値はなく、私の存在など金にも劣るものだった。彼の中では、いや、世界の中ではそれが正しいの、だろう。

 それでも、それでも私は縋ってしまう。神に祈っているのではない。ただ、今までの記憶が、絆があると信じていたいのだ。


「う、嘘だよね。ちょっとした悪戯だよね?」

「ははは、ごめん。君の愛を確かめたくて。」

「そ、そうだよね!!」


 彼は、確かに愛してくれている!!だって、嗤っている。あぁ、嗤っている。でも、きっと、彼はそういう人で、でも彼なりに私を愛してくれている。

 彼は私の愛を疑ってしまうくらい、少し弱くて、ずきりと痛む腕を抑える。痛い。どうしてだろう。昔感じていた痛みなんてとうになく、別にもう痛みも感じてなかったはずなのに。

 どうしてだろう。嗤っている彼を見ると、無性に私は涙が出そうになる。


「な~んてな。お前なんてカス以外の何物でもないだろ!!」

「……え?」

「じゃあな。」


 どうして嗤っているの?どうしてすぐに立ち去ってしまうの?どうして私を見てくれないの?

 もう、疲れた。疲れてしまったよ。この世界はあまりにも残酷で、私が不細工ってだけで排他する。どこにも逃げ場がない地獄。誰にも愛してくれない地獄。




「何かあったのか?」


 くたびれた中年の男。茶色のコートを翻して、男は立っていた。

 私の眼をしっかりと真正面から見つめて、私を見てくれている。いや、信じてはダメだ。元カレは最初は優しかった。時が経つにつれて、少しづつ私を虐げ始めたのだ。

 この男も同類である可能性は高く、この男が悪である可能性の方が高い。世界なんて信じてはならないのだ。


「私、警察ですが。困ったことがあれば助けますよ。」

「けい、さつ。」

「はい。市民の味方です。暴行を加えられたのですか。つらかったですよね。」


 警察。それなら私の話を真摯に聞いてくれるかもしれない。元カレの悪逆を断罪して、私が正しいと証明してくれるかもしれない。私こそが、正義なのだと。

 それでも、微かに私の心は壁を作っている。私は彼を受け入れていいものか。警察だからと簡単に信じていいのか。分からない。だって、元カレの本性を見抜けなかったのだから。


「信じる心を強く持ってください。人は協力しないと、生きてはいけませんから。」

「信じる心を強く……」

「とはいえ、この年にもなって、警察内の政治事を上手くできなくて、現場で駆けずりまわっているのですが。」


 どうしてだろう。彼の事は信じられる。警察内の政治が出来ないのは彼が真摯だからだろう。彼は悪を認められない故に、政治というものから一歩足を引いているんだ。

 それを現場で駆けずり回るだなんて、きっと彼は高潔な人。私の信じる心は確かに間違っていない。彼を信じていいと私の心が強く叫んでいる。


「それで、どうかされました?」

「実は……」




 私は語った。元カレのことを。最初は優しかったこと。少しずつ遅刻が増え、金遣いが荒くなっていったこと。そして、私を痛みつけること。最後には私を拒絶して、私を捨てて行ったこと。

 そんな私の言葉を彼はゆっくりと頷いて、時に難しい顔で唸り、そしてあえて笑い飛ばすようにカラッとした表情を浮かべた。

 どれもが私を気遣っている証拠で、私はやはり彼は信じていい人間であると、確信を持てるのだ。


「それは、大変でしたね。」

「はい。私はただ愛されたいだけなのに。」

「ええ、愛されたいですよね。その気持ちはもっと強く持った方がいいです。愛されたいと強く思う。それが、幸福な人生への一歩です。」


 あぁ、これが言うからにはそうなのだろう。私は人を信じてもいいんだ。人に愛されたいと願ってもいいんだ。私の心が彼を信じていいと、愛を欲していいと叫んでいる。

 私は間違ってはいなかった。ただ、今までは運が悪かった。それだけ。それだけ、だけど、私は人から愛されたい。どうしようもなく愛されたいのだ。


「どうしたら、愛されることが出来ますか?」

「信じ、愛して、受け入れる。どうでしょうか?」

「なるほど。私が信じて、愛して、受け入れることで、初めて人に愛されるのですか。」


 理解した。私はただ信じて、愛して、受け入れればいいのだ。そうすれば、人は私を愛してくれる。

 私の心の罅が完全に開き、新しい私が完成する。ここに私の狂器がなった。

 信じ、愛して、受け入れる。それが究極的な愛を手に入れる方法。後は人から愛を引き出されば、それが一方通行じゃない、真の愛になるのだ。




 ここになった。狂器“愛欲の刻印(リミット・アウト)”が。


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