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グロウ・ソウル  作者: PIERO
選抜試験編
56/57

禁忌に触れた者

 真似猫族のリーダーであるゲンセツは今の戦場の流れが嫌な物であると本能的に感じ取っていた。

 理屈はわからないが、長年の戦場を駆け巡った経験則から獣人族の方へと集中しすぎのような気がしたのだ。普通ならこれでいい。だが、今回は人間が敵にいるのだ。だからこそ、この流れはまずいと感じ取った。

「やれやれ、何でいつも俺の直感はまずい時しか働かないんだ?いや、だからこそチャンスが訪れるのか」

 そう言い終わったと同時にゲンセツの死角から二人の人物が現れる。一人は黒い槍を持った男、霊峰和貴(たまみねかずき)だ。そしてもう一人は見たことがない銃を手に持っている男、神崎有樹(かんざきゆうき)である。

 有樹は能力を用いて透明の弾丸をゲンセツに向かって撃ちぬこうとしていた。当たれば全身のあらゆる骨、内臓器官に衝撃波が染み渡り、最悪ショック死してもおかしくない弾丸である。だが、そんな弾丸を前にゲンセツは不敵な笑みを微笑む。

「その程度の能力で俺を仕留められると思ったのか?ハッ・・・・甘ぇぞ!人間!!」

 有樹の透明な弾丸が放たれたと同時にゲンセツも手のひらから能力を発動する。その能力は有樹と同じ衝撃波である。形状こそ違うけれど、その威力は有樹が放った透明の弾丸を無効化するのには充分だった。

 透明の弾丸は透明の壁によって相殺された。その出来事に驚愕したのか、和貴と有樹は動くことが出来なかった。

 しかし、それはゲンセツも同じだった。咄嗟に真似て能力を発動したのはいいが、流石に代償のことは考えていなかった。その結果、能力を発動させた右側の腕が痺れて上がらなかった。今は見栄と根性によって何ともないように見せているが、実際のところは右腕は限界であった。

 だが、弱っている素振りを見せるわけにはいかないと考え、ゲンセツは挑発するかのように和貴達をあおり始めた。

「能力なら嫌というほど見てきた。俺は他の奴らとは違う。俺はこの森を管轄としているリーダーだ!!」

「・・・・」

「ぞっとしたか?それとも恐怖で何も言えなくなったのか?そうだろう、そうであろうなぁ!!」

「・・・・」

「・・・・なぁ、なんか反応してくれないか?それとも、絶望して考えることをやめたか?」

 それでようやく和貴と有樹は意識を取り戻り、そしてゲンセツにとって衝撃の一言を和貴は言った。

「いや、済まない。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()つい意識が遠くなってしまった」

 それに同感するように有樹は頷く。

「右に同じだ。教えられた知識と現実ではまるで違うな。『常識は破る物』なんて昔聞いたことがあったが、その言葉が当てはまってるな」

「・・・ちょっと待て。お前らの国では俺達のことは一体どんな評価を受けているんだ?」

 和貴と有樹は互いに顔を合わせて、無自覚でゲンセツ達真似猫族の評価を話し始めた。

「学習しない、捨て駒、愛着猫、それから・・・種族で最も弱い雑魚だったか?」

「それだけじゃないぜ。後、獣人族より獣人族らしいとか、話せない劣等種族だっけな」

 プツン、とゲンセツの中で何かが切れた。ゲンセツの表情は般若の面の様に恐ろしく変貌し、左手からは紫電を、使えない筈の右腕からは青い炎を纏っていた。

 突然の戦闘態勢に和貴達は驚くが、同時に納得もしていた。

(事実とはいえ、あんなに罵ったらそりゃ怒るだろうな。だが、怒らせれば冷静さが欠け、俺達が有利になる)

(信用していいんだよな和貴。あのタイプは明らかに怒らせると案外面倒な奴だぞ?)

 和貴と有樹は小声で話したつもりだったが、野生で培われたゲンセツの聴覚はその小声を聞き取った。

 ゲンセツは表情では激しく怒っているように見せて、内面で熱くなった頭を冷やし、冷静になる。そしてこれ以上戦えば勝機があるかどうか模索し始めた。

(俺が全力で戦えば問題ないが、野郎どもの犠牲は免れねぇ。・・・聖骸布を盗んだのは間違いなくあの二人のどっちかだな。なおさら引くことができねぇが、これから始まる戦いの前に兵力を削るわけにはいかねぇ・・・)

 和貴と有樹はゲンセツの動きに警戒して先手を出さなかった。ゲンセツがあといくつ能力を持っているかわからないことが原因であった。その結果、未知の能力に警戒し先手を打てずにいた。

 これをチャンスだと思ったゲンセツは和貴達に攻撃を仕掛けた。和貴達はそれを待っていたかのようにそれぞれの能力を迎撃し始めた。

 紫電は和貴に向かって地面を這い、和貴達に襲いかかる。和貴は黒弔を地面に刺し、避雷針の様に電撃を寄せる。青い炎は有樹の元へ襲い掛かろうとしたが、エンド・ワールドから放たれた衝撃波によって霧散する。だが、ここまでがゲンセツの計算通りだった。

 和貴達がそれぞれの能力に対処してるとき既にゲンセツは別の能力を発動しようとしていた。そのことに気付いた和貴はゲンセツの両手に警戒し、穿とうとするがゲンセツは和貴の予想外の方法で対処してきた。

 ゲンセツは突如口から赤い煙を和貴に向かって吐いた。和貴は予想外の場所からの攻撃に驚き、煙の中に飛び込み息を止める。

 一歩退くことで和貴はその赤い煙の中から抜け出し、その煙が煙幕であることを理解した。すると煙の中から声が響き始めた。

『今回はこれで勘弁してやる!!だが、覚えておけよ!!てめぇらが盗んだ聖骸布は必ず取り戻す。それまではてめぇらに預けてやる!!野郎ども!!撤退だぁ!!』

 ゲンセツのよく響き渡る声は乱戦の中でも味方の耳に届いたのか、真似猫族は戦いをやめた。そして盗賊が逃げる様に武器を投げ捨て、一目散に撤退し始めた。

 あっけにとられた獣人族は何が起きたのか理解できなかった。だが、理解したことはこの戦いに勝利したことと、しばらくの安心を手にしたことだった。




 戦闘が終わった後、和貴は何が悪かったのか考え直していた。

 先ほどの真似猫族がリーダーであったことは間違いないと確信していた。だが、複数の能力を所持していることや、和貴の想定を超える方法での撤退方法。何より、敵の学習能力が異常に高いことが和貴の計算を狂わせた。

 その結果、目の前の敵を逃すという結果になってしまったのだろうと結論付ける。悔しさが半分、残りは敵の見事な戦術に感服して、和貴は今回の戦闘の反省を一度切り上げ目の前の問題に取り掛かる。

 戦闘が始まる前までは敵視していた獣人族は、真似猫族との戦闘が終わった後警戒して和貴達の行動を観察していた。無理もないと和貴は思う。獣人族達が劣勢であった真似猫族を容易にあしらった敵が今度は自分達に襲いかかるのではないのかと思っているからだ。

 一体何を話せばいいのかと考えていると、先ほど交渉をした獣人族が和貴達に話しかけてきた。

「助けてくれたことに関しては代表して礼を言いたい。ありがとう。君達の敵意が無いことは充分に証明された。それと、先ほどは殺気を向けてすまなかった」

「こちらこそすみませんでした。逆光で姿が分からなかったとはいえ、あなた達を奴隷商人と間違えるなんて人間でもきっと怒るでしょう」

 とりあえず敵意が無いことを証明した和貴は「さて」と言葉を続ける。

「私達の目的は基地に帰還すること。そのためにはこの先を通って行くことが一番の近道なのです。なので、この先を通ってもよろしいでしょうか」

「ああ、構わんよ。恩人である君らが村に入ることは長老も歓迎するだろう。・・・だが、そこの少女はだめだ。」

 この場にいる獣人族全てがコハルを忌々しい物を見るかのような目で見ていた。一体どういうことなのか有樹は獣人族に説明を求める。

「本来君らが言う我々獣人族は特徴があります。クマのような爪を持つ者、キリンのように手足が長い者、獅子のように強靭な顎を持つ者と一種類の動物の特徴を兼ね備えている」

「ああ、そのことなら和貴と一緒に学校で学んだぜ。そして、他種族とは比べ物にならない知識を持っていることもな。けど、それが何でコハルを軽蔑することに繋がるんだ?」

「それは「それは私が説明する。お前らでは変な印象を付けられかねんしな」

 獣人族が説明しようとした時、その言葉に割り込むようにコハルが話そうとしていた。そのことに獣人族は納得したのかあるいはコハルの威圧感に恐れたのか、喋るのをやめた。

 コハルは覚悟を決めたのか和貴達に自身の存在について語り始めた。

「私は獣人族の中でもかなり異端な存在だった。その理由が『二種類以上の動物の特徴を持っていた』からだ。これは本来の獣人族にとっては異常なことだった。そして根も葉もない噂を流された結果、私達の一族は『禁忌に触れた者』として獣人族全体から追放された。もちろん、ただで追放されるわけではない。当時、私達一族を束ねた当主の首を一つこの村に納めることによってな」

 壮絶な話に和貴と有樹は唖然とする。こんな壮絶な過去があったとは思いもよらなかったのだ。和貴はふとコハルが奴隷商人に囚われそうになった時のことを思い出す。

(あの時の最後ってコハルの一族が最後ということなのか。いや、だとしたらコハルは何故一人だけと言ったんだ?いや、考えるまでもないか)

 和貴の考えを読み取るように、コハルは自身の話を続け始めた。

「当主を失った私達の一族が崩壊するのは時間の問題だった。統率が取れなくなった私達は他種族から一方的に攻撃を受け、人間からは希少価値として乱獲されていった。そして最終的に私だけが一族の生き残りとなった。そのことに関しては貴様ら人間に恨みはないさ。弱者が強者に淘汰されていくのは当然の摂理だ。だが、貴様らだけは許さん。同じ獣人族であったはずなのに、理不尽にも追放した貴様らはな。例え村に入ってもいいと言われても私は入らん。誰が追放した村に入るものか」

 コハルの悲しみなのか、それとも怒りなのかあるいは両方なのか、どちらとも言えない表情でコハル自身の話を終えた。

 コハルは話し終わると、森の方へと向かっていった。和貴は何故か去ろうとしたコハルに声をかけた。

「ちょっと待てよコハル。何で森に帰ろうとしてるんだ?」

「決まっているだろ。お前らの目的は基地に戻ることだ。であれば、私はもう必要ない。有樹の持っている地図を使えば簡単にお前達の基地に辿り着くだろう。なら私は不要だ」

 コハルの言う地図とは、基地まで記した特別な地図のことである。和貴はもらえなかったが、有樹を含む他の兵士はその地図を配布されていた。そのことを知っていたコハルは森へ進もうとしたが、和貴はその手を離さなかった。いくらコハルが力強く引っ張ても和貴は握った手を離さなかったのだ。しびれを切らしたコハルはカッとなって和貴の脇腹に向かって蹴りを入れた。和貴は突然の攻撃に顔を苦痛の色に染まるが、その手は放さなかった。

 力づくでも放さなかった和貴に対してさらにイラついたのか、コハルは怒鳴り散らした。

「いい加減にしろ!!私はこいつらの村に入るつもりは無い!それに私の役目は終わった。貴様はさっさと基地に戻れ!」

「いい加減にするのはお前の方だコハル。約束を破ってんのはお前だ。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」」

「ならば私は必要ないだろう。貴様らには基地までの地図がある。だから私は必要ないだけだ」

 すると和貴は有樹に視線を送った。有樹はやれやれとした態度を出し、リュックから一枚の紙を取り出した。それは先ほどコハルが言っていた特別な地図であった。

 有樹はポケットからライターを取り出し、一瞬ためらったが覚悟を決めその地図を燃やし始めた。

 コハルは驚愕する。何のメリットもないのに何故大切な地図を燃やしたのか。完全に地図が燃え尽き灰になったことを確認した後、和貴はコハル方へと振り向き、話を続けた。

「これでお前がいる理由ができたな。じゃあ、案内を続けてもらおうか」

「・・・何で私なんだ。この村にも案内できる者が一人ぐらいはいる筈だ」

 和貴は溜息をつき、コハルに呆れた表情をする。一体何がおかしかったのかわからなかったコハルは和貴に問いかける。

「何故そこで呆れたような表情をするんだ」

「あのな、コハルは自覚がないと思うがお前はもう俺にとって大切な仲間なんだよ。過去に何があったとかいる必要がないとか知ったことか。一緒に戦って、一緒にこの森の中生活した。それだけでお前は俺達の仲間なんだよ」

 コハルは瞳を開き驚愕する。コハルにとってその言葉は生涯に一度も言われたことがない言葉だったからだ。コハルは下に俯き、和貴に問いかけ始めた。

「本当に私が必要なのか?」

「当り前だ。地図を失ったこの状況で誰が道案内するんだ?」

「この道は通りたくないって言ったらどうするつもりだ?」

「それなら別の道を探すしかないだろうな。作戦ならともかく、それ以外で嫌だって言うならそれを尊重するさ」

「私は獣人族なんだぞ。人類の敵だ。それなのに一緒に行っていいのか?」

「俺達の仲間は大体が変人だ。獣人族が一人いたところで問題ないさ」

「・・・私を捕まえようと奴隷商人も追っているんだぞ?」

「それなら俺も一緒だ。だったら一緒に返り討ちにすればいいさ」

 沈黙。コハルのいうことを全て返され去る理由を全て和貴は一つ一つ丁寧に返される。コハルは最後の確認のため和貴に最後の問いを言った。

「私には帰る場所も居場所もない。ここを離れたら多分私は戻れなくなる。それでも一緒に行ってもいいのか?」

「居場所が無ければ作ればいい。それくらいは俺が作ってやるさ」

 満点な回答ではないが、満足な回答を得たコハルはそうかと呟き、和貴に目を合わせる。

「良いだろう。これからも私がこの先を道案内をしよう。だが、遅すぎて置いて行っても知らんからな」

 コハルの表情は先ほどの何者かに囚われているような雰囲気から解放され、清々しくまっすぐとしていた。 

 コハルのはわだかまりは完全になくなることはないだろう。だが、それでもコハルにとって必要とされること、居てもいいという事実が何よりもコハルにとって嬉しかったことは彼女だけの秘密であった。

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