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グロウ・ソウル  作者: PIERO
修学旅行編
37/57

想定を超える敵(修正完了)

「諸君!!現在海魔族の軍勢が多数こちらに侵攻している。くれぐれも死なぬ程度で戦ってほしいというのが私の建前だ。だが、あえて本心を言おう。戦え!そして皆殺しにしろ!侵略者を一人達とも逃がすな!」


 倉沢の演説はこの駐屯地の兵に対して大きく士気を上げる。その勢いに和貴、雪花、理雄、凍原の四人は声量の大きさに戸惑いを覚えた。


「すごい士気。みんなやる気に満ちてる」


「まあ、ここを突破されたら日本が終わることはないにしろ、近くの民家が皆殺しになる可能性があるからな。みんな死守してでも守りたいんだろうな」


 雪花はの一言に和貴は冷静に現状を分析していた。昨晩、アテナが刻んだ加護によって不思議と気持ちが落ち着いていた。その様子に違和感を覚えたのか、理雄は和貴の肩を思いっきり叩いた。


「何するんだ理雄?めちゃくちゃ痛いんだが…」


「いや、すごい冷静だなって思ってさ。普通、初陣なら少しは緊張感を持っても不思議じゃないのに和貴からはそういうのは一切感じないしさ」


 理雄の指摘によってようやく和貴は普段以上に落ち着いていることに気が付く。和貴はアテナが刻んだ刻印を指でなで、原因を考えた。


――この刻印のおかげか?…あながち加護というのは間違いではないのか――


 和貴が冷静になり、演説を始める前に倉沢から手渡された槍を強く握った。倉沢曰く、恐怖を薄れるためには剣よりも槍のほうがいいと進められたからである。


 余計なことを考えていると、斥候部隊が何やら大声を上げていた。どうやら敵の姿が海面に映り始めたらしい。和貴は敵が現れる正面ゲートから海面を覗く。海面からは鮫のヒレらしきものがはみ出ていた。だが、その数は一つや二つではない。百、いや千を超える数のヒレが水面に現れていたのだ。


「目視するとここまで多いのか…厄介だな」


「雑魚相手なら問題ない。和貴、指示は任せるぞ。効率よくあいつらを殺させてくれ」


 和貴は数の多さに圧倒されるが、残りの三人は問題ないといわんばかりに闘志をむき出す。その姿を見て和貴は改めて安心する。少なくとも彼らがいる限りは安全だと思ったからだ。


「皆さん!!まだ動かないで下さい!!海にいる限り、油断はできませんからね…」


 倉沢の声で皆が飛び出しそうな気持ちを抑え、ここぞというタイミングを待った。海魔族は海面から上がり、その正体を現す。姿はヒト型に等しかったが、身体の至るところに付着しているフジツボや首元に目立つ鰓、そしてこの世のものとは思えない醜悪な容姿であった。


 海魔族の姿に和貴達は吐き気と寒気が襲い掛かるが、前日に海魔族を見たためか、ある程度の耐性はできていた。この駐屯地に努めている軍人達は発狂したかのように様子がおかしかったが、それでも正気を保っているかのように見えた。


「第一射!!放て!!」


 倉沢の合図で後衛に潜んでいる遠距離部隊の攻撃が始まる。一斉射撃による銃弾の雨は海魔族の肉体を貫き、一匹、また一匹と倒れていく。しばらくして一斉射撃が終わると次から次へと海魔族の群れが現れる。第二射の号令をしようとした倉沢だったが、海魔族の行動を観察し始めた。海魔族は撃たれた同胞を持ち上げ、それを盾として駐屯地に近づいてきたのだ。


「ふむ、肉壁ですか…。こざかしい手段を使ってきますね。ならプランΔですね」


 倉沢はトランシーバーを使い、遠距離部隊に伝言を伝える。会話が終わったのかトランシーバーを懐にしまった倉沢は和貴達に命令する。


「諸君!!合図したタイミングで突撃をせよ!奴らの肉の壁を引っぺがし、遠距離部隊の援護をするのだ!!」


 倉沢は手を掲げ、皆の突撃する姿勢を待つ。それに習い、和貴達も海魔族に突撃する姿勢をとる。皆が確認をとったところで倉沢は手を振り下ろす。


「前衛!突撃!」


 雄たけびと共に我先へと走り出した軍人達は海魔族に向かって突撃する。海魔族は敵が近づいたことを察知し、肉壁となった同胞を突撃している軍人達に向かって投げつける。


 肉壁は人間を殺すには充分すぎる威力となって突撃兵に衝突する。しかし、人間も数多の能力を用いてその投擲を防いだ。突撃に遅れた和貴達は最後尾をなってしまったが、これが戦いなのかと実感していた。


「これが前で戦う実感か。こんな環境の中、理雄達は戦っていたのか」


「感心してる場合じゃないわよ和貴!今は軍人さんが倒しているけど、いつ私達に牙が向くかわからないからね!」


 感心している和貴に対して雪花は注意をするが、事実それぐらいの余裕はあった。軍人は狂戦士の如く突撃し、陸地に上がった敵を全て殲滅してしまった。敵が襲い掛かる可能性などないに等しかった。


 それが和貴の油断だった。足元に倒れている海魔族の死体が突然起き上がり、目の前にいた和貴に襲い掛かったのだ。突然のことに和貴は一瞬体が動かなかった。


「しまっ!?」


「和貴!危ない!」


 近くにいた理雄が和貴を吹き飛ばし、海魔族の攻撃を庇った。吹き飛ばさた和貴はすぐに立ち上がった。和貴を庇った理雄の体には傷一つなく、平然と立っていた。一方攻撃を仕掛けた海魔族はなぜ攻撃が効かないのか理解できず、うめき声をあげていた。


「理雄、大丈夫なのか?」


「ああ、平気だ。こいつらは俺よりも弱いからな。だから俺の能力の対象になる」


 理雄の能力の副次効果を思い出し、和貴はホットする。理雄の能力は一つだけだが、副次効果として、別に能力が備わっている。『鎧強筋』それが理雄の副次効果の名称である。


 理屈は不明だが、理雄より格下の相手には攻撃が一切通らなくなるという副次効果にしては凄まじい能力である。しかし、格上には通用せず、普通に戦わなければならない上、凍原のように必殺の能力というわけではないため、使い勝手がいいというわけではない。


 理雄は海魔族を掴み、宙に投げ拳で地面に叩き付けた。叩きつけた理雄の拳からは緑色の滴が滴り、海魔族の急所を確実に仕留めていた。


「まあ、やばくなったら呼んでくれ。俺が盾になるからさ」


「それは助かる。だが、俺も前衛として戦闘の経験を積んでおきたい。その時は一緒に戦ってもらえるか?」


「勿論!というか、和貴がいないと的確な指示とかしてもらえると助かる!」


 理雄は笑顔で和貴の頼み事を聞き入れ、周囲の状況を確認する。海岸を警戒していた凍原と雪花は微妙な表情で観察していた。


「どうした凍原、何かおかしなことがあるのか?」


「和貴か。ちょっとな。違和感を感じただけだ」


「違和感…。敵が侵入してこないことについてか?」


 和貴の答えに凍原は海岸に目を向けたまま無言で頷く。先ほどの突撃でおよそ三十の敵が陸上に上がり、襲い掛かったが、それ以外の何万の敵は何かを待っているかのように動かなかった。


「和貴、確か海魔族は知性が低いはずだよな?なら、なんで百匹程度で侵入をやめたんだ?」


 凍原の質問に和貴は一つの可能性を思い浮かぶ。和貴は全身に嫌な予感を感じ取り、すぐに周囲を見渡した。それと同時に倉沢の放送が駐屯地上に鳴り響いた。


「前衛!後退しなさい!今すぐに!」


 しかし、その指令は遅かった。海面から一気に上陸した海魔族は隊列を組み、手に何かを持っていた。前衛のほとんどが呆然している隙に、海魔族の手に握っているそれを前衛に投げつけた。飛来する投擲物は軍人の一人にぶつかり、当たった場所は抉られその場に倒れた。誰が見ても致命傷であったことをこの場にいる全員が理解した。


 そこからは先ほどと一変しパニックになっていた。悲鳴、独断行動、逃走と隊列は崩壊し、敵の投擲物は雨あられのように降り注がれ、海岸は血の海へと化した。


 それは和貴達も例外ではなかった。あの投擲物に当たってしまえば確実に死ぬ。その恐怖は和貴達の精神を蝕むには充分すぎた。


――どうすれば!どうすればいい!?どうすれば助かる!?いや、まだ死ぬわけにはいかない!でも戦わなければ…しかし、このままだと死ぬ!どうすればいい――


 まともな思考を考えることができずに和貴はその場に突っ立ってしまう。それが海魔族にとっていい標的となってしまったのか、和貴に向かって投擲物が投げられる。


 和貴は感じ取った。自身に向けて放たれる殺意の塊を。それを肌で感じとった和貴回避できないと確信した。刹那、和貴の左目の隈が少し輝く。パニックに陥った和貴の身体は硬直から解き放たれ、直感的に襲い掛かってくる投擲物に対して紙一重で回避する。第二、第三と投擲物が襲い掛かるが、それらも紙一重に回避した。


 危険が去った瞬間、左目の輝きは収まり、和貴は大きく深呼吸をする。そして先ほどの感じた体感を思い出していた。


「今の感覚は一体何だったんだ?まるで世界が一瞬遅くなったような感覚だったが…」


 周りを見てみるとほとんどの軍人が撤退を始めていた。軍人の中でも階級が偉い物が撤退の指示をしているところから駐屯地へ撤退の指示が出たのだろう。


 辺りを見渡しても、他の仲間の姿は見当たらなかった。このまま戦場にいても意味がないと判断した和貴は指示に従い駐屯地へ撤退を始めた。撤退した後に残ったのは海魔族が少しずつ陸地に侵略してくる足音とそれを防ぐ砲弾が着弾する衝撃音だけであった。




 倉沢は指令室にて自身の戦術が効かなかったことについて深く考え込んでいた。


 決して慢心していたわけではない。むしろ、海魔族を専門として研究していたのだから間違えなどない。そう確信した戦術であった。


 本来の手順であれば、あの後海魔族がぞろぞろと現れ、前衛と後衛が協力して敵を殲滅すれば戦いが終結していた。多少の予想は超えてくるだろうと判断していたが、まさか作戦の根本を覆すことになるとは想定もしていなかった。


「一体なぜ?私の作戦が漏れた?…いや、万に一つもない。知性が低い海魔族がそれを実行できるとは思えない。知っているならば、最初から後衛やここを潰すに違いない」


 あらゆる可能性を模索し、倉沢は考えていた。情報が足りないこの状況で倉沢は一人基地の門でさぼっているである草部に連絡を試みた。


「無視ですか…。いや、まさかとは思いませんが草部にも何かあったのか?…あの草部が倒されることはないにせよ、連絡できない状況。そしてこの素早い対応…まさか()()()()()()()()()()()?」


「倉沢さん!このままでは前衛が崩壊します!撤退しているものもいますが、被害は尋常じゃあありません!」


 部下の報告を聞き、倉沢は戦局が悪いことを改めて理解する。今は何者が指揮しているかを考えるのではなく、現状を打開する策を考えなければならないと思考を切り替えた。


「前衛はそのまま撤退を!後衛は前衛の撤退をサポートするように援護射撃を命じてください。前衛が駐屯地に撤退しましたら、一度ゲートを閉じます」


 この場を凌ぎ、倉沢は打開策を考え始める。一つ理解しているのは完全に後手に回っていること。この現状を何とかしなければ勝ち目はない。それを肝に銘じ、戦略を考えるのであった。




 駐屯地へ撤退した和貴は理雄、雪花、凍原の三人を探していた。駐屯地の休憩所は負傷兵が多く、今の苦痛のうめき声で満たされていた。


 理雄は負傷することはなくても、雪花や凍原が負傷している可能性がある。そう考え和貴は現在医療所へ足を運んでいた。


「とはいっても、ここまで負傷していたとは…やっぱりあの投擲物が発端だったな」


 探しながら和貴はパニックになった原因、そしてここまで負傷兵が出てしまった原因を考えていた。敵を簡単に殲滅し追撃をしたことにより、前衛が敵の投擲物の射程距離範囲に入ってしまった。結果、あの事態になってしまったのだろう。


 周りの負傷兵の痛々しい傷を遠目で観察してみると、何かを食いちぎったかのような跡が残されていた。


「和貴!無事だったの!?」


「雪花。お前も無事だったか」


 偶然出会えた和貴と雪花は無事だったことを喜んだ。雪花は和貴と同じく偶然にも負傷せずに撤退できたらしく、擦過傷が少しある程度で済んでいた。


「理雄と凍原は知らないか?」


「ごめん。私も知らないわ。あのパニックの中、みんなはぐれちゃったから…。今は元帥が能力を使って集合場所を定めているところ。何故か和貴だけが繋がらなかったらしいけど、合流できてよかったとりあえず、集合場所へ行くわよ」


 和貴は雪花の案内によって皆が集合している場所へと案内される。その間に和貴は負傷兵とすれ違ったが先ほどのような重症の兵士はどこにもおらず、和貴や雪花のようなあまり負傷していない兵ばかりが集まっていた。


 しばらく歩くと一つのテントの前に辿り着く。六角形の大型のテントだったが、中にはちらりと知っている人物、EXクラスのメンバーの姿が見えた。和貴はそのテントの中に入ると、皆が驚愕していた。


「カッキー!?生きてんだ!!」


「人を勝手に殺すな。というか、なんで俺は死んだ扱いになっているんだ?」


「すまんな。儂の能力が何故かお主だけには届かなかった。もしやと思ったが無事で何よりだ」


 元帥の開設に和貴は納得し、テントの隅に移動する。この場に集っているのは和貴、雪花、元帥、アルケミックそして本郷の五人である。


「他のみんなは大丈夫なのか?」


「凍原と理雄はここに来るよう伝えた。連絡がついた以上、無事の筈じゃ。霧和は遠距離部隊と共に侵攻を防いでおる。炎星と有樹はまだ武器が完成しておらんから参戦しておらぬ。叶は現在衛生兵として活動中じゃ」


「そうか、とりあえず皆無事だったんだな」


 和貴はほっと胸をなでおろし、改めて現状を確認し始めた。敵に作戦を読まれ、戦術も聞かず、この駐屯地に撤退してしまった。となればとれる手段は二つしかなかった。


「これからできることは『このまま敵との交戦を続け、殲滅する』か『援軍が来るまで持ちこたえる』かの二つか」


「いえ、選択肢は一つだけです。霊峰くん」


 テントの中に入ってきたのは倉沢だった。しかし、普段の倉沢と違い、余裕がなく冷静に現実を見つめていた。それほどまでの追い詰められているということを理解した和貴は先ほどの倉沢の発言に嫌な予感を感じながらも意図を聞いた。


「倉沢さん。それはどういう意味ですか。もしかしてと思いますが、援軍は呼べないということですか?」


「察しがいいですね。先ほど政府を通して援軍の要請をしたところ、『海魔族程度、その程度の軍隊でなんとかできる』という理由で断れました。全く、あいつらは現状を全く理解できてなくて困りものですね。というわけで選択肢は戦うしかありません」


「率直に聞きます。勝てますか?」


 和貴は倉沢に問うと倉沢は無言になった。その態度がこのテントの中にいるものに不安を与えた。もしかして手がないのかと。しかし、それを打ち破るように倉沢は大声で叫んだ。


「確かに!!先ほどはしてやられました!!がしかし!!それだけで私たちは敗北を認めるつもりは一切!一ミリもない!ここからです!ここから人類の底力を見せてやりましょう!」


 先ほどまでの冷静な倉沢からよく見かける倉沢に変わったことに安堵した和貴達は士気を取り戻す。すると倉沢は首をグリンと回り、本郷のほうを見た。


「本郷君!調べてもらいたいことは調べてくれましたか?」


「いきなり首を百八十度回転してこっち見んな!びっくりするわ!っとじゃなくて!ちゃんと調べましたよ。倉沢さんの予測通りでした。可能性だけで当てるなんてびっくりしたぜ…」


 一体何を調べたのか理解できない皆は本郷に何を調べていたのか問う。すると、本郷は冷や汗を掻きながらその問いに答えた。


「今回の敵の総大将は海魔族じゃない。それ以上の相手だったわけだ」


「それ以上って、まさかクルベルトみたいな戦闘族!?」


「いや、()()()()。総大将はあの龍神族さ。ほんと、ついてないな俺ら」


 本郷の偵察に皆が息を呑む。学校を襲撃してきた戦闘族、クルベルトよりも格上の相手がこの上空にて戦局を観察している。その言葉を理解しただけで和貴達は半年前に味わった絶望を思い出した。

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