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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
26/57

平和の安らぎ(1.5部の4)

 駅に到着し、公共交通手段を用いて一時間。和貴達は目的の旅館へ到着した。


 周囲には湯気が漂っており、近くには大きな火山が見える。火山活動こそしていないが、その存在はこの地域を収める偉大な領主の様に思えた。


 その領土の中で、一番と思える立派な建物が和貴達の目の前に待ち構えていた。今どき珍しい和式の建物であり、屋根は今どき珍しい瓦が敷き詰められている。その旅館から漂う年期の古さは戦争が始まる以前から存在しているような神秘性を感じた。


 この旅館こそ、和貴達が今回お世話になる旅館であった。


「アル、一つだけ聞いていいか?」


「ん?何何?なんでも聞いて!」


「お前、一体どんなコネを使ったら、こんな立派な宿を予約できるんだよ!?普通なら、三か月以上かけてようやく予約できる宿だぞここ!!」


 本郷の言いたいことは尤もである。旅館について詳しくない者でも、目の前に見える旅館がとんでもない代物であることはすぐに理解できるだろう。はっきり言って和貴達学生がこの旅館に泊まるのはおかしい。詩奈や綾華のような身分ならまだしも、和貴達のような身分が泊まるべきではないだろう。


「本郷の言う通りだ。きっと道を間違えたんだろ。なら、さっさと戻ろう」


 和貴は元の道に戻ろうと歩こうとした時、旅館から一人の人物が現れた。朱色の割烹着の格好からして、この旅館の従業員だろう。従業員は和貴達の存在に気付くと、驚いた表情に変わった後、旅館の中へと戻って行った。すると、今度は立派な衣装の人物が旅館から現れた。その人物は和貴達に近づいた。


 その人物は紫色の着物を着ており、一目でこの旅館の中でもかなり高い地位の人物、女将さんであると認識できた。


「お久しぶりですアルケミック様。十年前以来でしょうか?」


「おっひさー!!おばさん!!急な予約取ってくれてありがとうね!!」


「いえいえ。かつて修行していたアルケミック様がご友人を連れてこの旅館へ来て下さるとは感謝の極みでございます」


 他愛のない会話をしているアルと女将は友人の様に話し合っていた。その光景を見て和貴達は驚愕していた。


「ははは…本当のまさかなのか?どう思う和貴?」


「さあな。俺だって驚きを隠せないよ。(アルは昔能力を使いこなすために修行したことがあると聞いていたが、まさかこの旅館がそうなのか?)」


 和貴達の推測などお構いなしに、アルケミックは女将と話をしている。ある程度会話を終えた時、アルケミックが呆然としている和貴達に声をかけた。


「早く中に入ろー!!外は寒いし、それに荷物も重いし!!」


「ねぇアルケミック。本当にこの旅館で合っているのよね?もしそうだとしたら、お金の不安があるんだけど…」


「その心配はないよ!この旅館の管理人は僕だから!!」


 一瞬、思考が停止した。アルケミックが言った言葉を理解できなかったからだ。再度確認するかのように和貴はアルケミックに問いかける。


「なぁ、アル。俺の聞き間違いじゃなきゃ、この旅館の持ち主はアルだってことなんだよな?」


「そうだよ!!この旅館は僕が能力の使い方を修行してきたときに卒業試験として最後に創った旅館なんだ!いや~、あの時は本当に苦労したな~」


「いやいやいや…。本当に創ったのなら、ここまで年期が経過しているわけがないだろう。第一、建物自体、何十年前に建築された物だろう?」


「そこまで怪しむ?ちょっと傷つくな~。そこまで言うなら、再現してみるよ」


 そう言ってアルケミックは手のひらをかざし、新品のハンカチを創り出した。そしてそのハンカチをポケットにしまい、もう一度能力を使って今度はボロボロのハンカチを創った。この現象を見て和貴は納得する。


「そういうことか」


「どういうことだ和貴?俺には理解できないんだが…」


「アルの能力は『創造』。頭の中で想像したものを理論や過程をすっとばして現実にする力だ。つまり、新品のハンカチを想像すれば、新品の物を。ボロボロのハンカチを想像すれば、ボロボロのハンカチが創ることが出来るということだ。この旅館も年期が経過した旅館として想像することによって、創ったということだ」


「流石カッキー!理解が早いね!それじゃあ、早く中に入ろ!入ろ!」


 一番乗りでアルケミックはスキップしながら旅館の入口へと向かって行った。和貴達もアルケミックを先頭にして旅館の入口へと向かって行った。


 旅館に入り、下駄箱へ靴を預けた和貴達の視界に最初に入ったのは赤い絨毯が広がっている廊下と木材で作られた受付だった。これが全てアルケミックが創りだした物であるとは到底信じられないだろう。


「すげえな。こんな旅館はそうそう言ったことないぜ?なぁ詩奈」


「そうね。おじい様の仕事でホテルとか旅館に行くことは多いけど、ここまで立派な旅館はそうそうないわ」


 政治の世界に片足踏み込んでいる詩奈は感動した様子で旅館の内装を見渡していた。詩奈だけではない。綾華も興味があったのか旅館の案内板を見て、どのような施設があるのか内容を把握していた。


 そんなことをしていると、受付を済ませたアルケミックが和貴達のところに戻り、部屋の鍵を和貴と詩奈に渡した。


「お待たせ!!カッキーに渡したのが男子部屋で、詩奈に渡したのが女子部屋だから!!それじゃあ、早速部屋へ行こう!!」


 アルケミックはテンションが高い状態でずんずんと向かって行ったその様子を見て和貴は元気があるなと思いながらも部屋へと向かって行った。


 途中女子と別れた和貴達男子組はアルケミックに渡された部屋の鍵を使って部屋へと入った。その瞬間、本郷は口笛を吹いた後、ポツリと呟く。


「すげえな。見ろよ、窓からのこの景色。絶景っていうのに相応しい景色じゃないか!」


 本郷の言う通り、和貴達の部屋の窓から眺められる景色は絶景だった。下を見渡すと山脈が無限に連なり、緑色の絨毯が広がっていた。視線を上に切り替えると白い雲と青い空が絶妙に混ざり合い、青天井という言葉そのものを表す景色だった。


「その気持ちはわかる。今頃詩奈も同じ感想を言っているかもね。まぁ、勘だけど」


 幸成は部屋の隅に荷物を置きながら、本郷の心象に賛同していた。和貴は口では何も言わないが、その気持ちだけは理解できていた。


 和貴達は自身の荷物を纏めた後、この後どうするか考えていた。元々の予定では、みんなで一緒に旅館の周辺を歩いて観光しようという意見に決まっていたがそれまで時間がまだずいぶんと余裕があった。部屋でだらだらしているのもよかったが、それでは勿体ない。そう思って和貴は男子二人に意見を述べた。


「みんなで観光するまでの集合時間までの間さ、せっかくだから、旅館の中を探索しないか?何があるとか把握しておきたいし、この目で見ておきたい」


「お、いいじゃんそれ。俺は賛成だぜ。ただ、それはアルが部屋についてからにしよう。恐らく、アルは俺達と同じ部屋なんだろ?だったら、アルが来るまで待とうぜ」


 本郷は和貴の意見に賛成し、旅館内を探索する準備を始めていた。一歩で幸成は旅館の探索に参加しなかった。和貴は理由を聞くと「和貴には悪いがせっかくの休みだからさ、たまには一人でだらだらしたいわけ。それに肩も凝っているからな。今日だけはあまり動きたくないのさ」とのことだった。

 

 強制しているわけじゃなかったため、和貴は幸成の意見を尊重し、幸成は参加させなかった。すると、ドタドタとこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。


「お待たせ!!詩奈達を案内してて、遅れちゃったよ!」


「お疲れ。アルの荷物は運んでおいたから」


「ありがとう!!ボクはこれから旅館の人に挨拶してくる!詩奈達にも伝えたけど、みんなで観光するのは一時間後で!!」


 アルケミックはそう言った後、どこかに行ってしまった。部屋に残された和貴と幸成、本郷は一時間の間何をしようかと考え始めた。


「さてと、このまま一時間昼寝をするのもいいが…俺としてはこの旅館を探索してみてぇ。和貴と本郷はどうする?」


「じゃあ、俺も一緒に行こうかな。詩奈達の部屋がどこにあるか気になるし。和貴はどうする?」


「俺はいいよ。荷物の整理もしないといけないし。それに、ずっと新幹線に乗っていたからかな?体の疲れが取れない。部屋の荷物を整理した後、俺は少しだけ寝ることにするよ」


 意見が纏まった和貴達はそれぞれ時間を潰し始めた。幸成達が部屋から出ていったことを確認すると、和貴は自身の荷物を整理し始めた。


 アルケミックの計画では二泊三日の旅行だ。そのほとんどを皆と一緒に観光しようという企画である為、一人という時間が貴重であった。


 荷物の整理を終えた和貴は畳の上に寝転んで瞼を閉じる。念のために四十分後に起きれるようにアラームもセットした。


(とりあえず寝るか。 頭を少しでも休ませないといざっていうときに行動を起こせないからな)


 こうして和貴は旅行の疲れを癒すためにひと時の間眠りについた。




 一方、和貴と別行動していた幸成と本郷は旅館内を探査していた。


「にしても、かなり広いな。これがアル一人で創ったなんて誰が信じるかな?」


「誰も信じないと思うよ。だって、日常のアルケミックがあれだからな。和貴の話からアルケミックがかなりぶっ飛んでいる奴とは聞いていたが、まさかここまでとはな…」


「そのぶっ飛んでいるは恐らく悪い意味でだと思うぞ。」


 幸成は改めて旅館の設備を見渡す。汚れ一つ無い廊下。文句一つない完璧なサービス。自然の景色を完全に生かした最高の立地。全てが至高だった。長年執事として詩奈や厳宗と一緒に様々な旅館に行ってきたが、ここまで素晴らしい旅館はそう多くない。


「俺達EXクラスの中で世界が平和になったら普通に暮らしていけるのはアルだけだな。最悪、ここに就職でもしようかな…」


「はは、そう言ってられるのも学生の内なんだろうな。…さてと、余計な話はここまでにしよう」


 今までの態度と変わって本郷は真剣な表情で幸成の視線を見る。幸成も本郷の意思を理解したのか、一言もしゃべらずに頷いた。


「よし、それじゃあ、早速向かうとしようか。幸い、集合時間まで余裕がある。それまでに俺達はやらなくてはならないことがある」


「その通りだ。それじゃあ、俺はその時間帯の状況を、本郷は仕掛けを頼む」


 その後、二人は別々の行動を始めた。その手際の良さは恐らく彼らの人生の中で最も素早かっただろう。限られた時間の中、無駄を余すことなく全ての時間を費やした彼らは人目のつかない宿の裏側で密談を行っていた。


「…仕込みの方はどうだ?本郷」


「問題要素は山ほどあったが、最大の難関はセンサーだな。あれがあると持ち込める物も制限されちまう。全く、余計なことだけはしっかりしてくれるよなアルは」


「だが、問題ないだろう?」


 そう問われ、本郷は鼻で笑った後、自慢げに語り始めた。


「当然さ。あれくらいのセンサーを弄るくらい、できないわけない。加えて、アルが創った物だ。外見やシステムこそ素晴らしい物だったが、構造は単純だった。後はうまくタイミングを合わせれば問題ない。それで、そっちはどうだった?」


「ああ、普段なら混雑しているが、アルの計らいか、その時間帯だけは俺達で貸し切りとなっている。しかも付き人も見張りもいない。その上監視カメラも止まっている。こんな機会は恐らく一生手に入らないだろう」


 その情報を聞き、本郷と幸成は作戦が確実に成功することを確信していた。だが、それと同時に本郷は幸成の情報がどこから手に入れたのか気になった。


「確かにまたとない好機だが、そんな情報どうやって…まさかお前能力を!?」


「心配するな。俺の能力の発動条件は既に満たしているからな。それにこれくらいなら消費したに入らないさ」


 そう言って本郷と幸成は互いに強く握手をする。目的の仕込み、情報収集は完璧だ。あとは時が来るまで待つだけである。


「そろそろアルが定めた集合時間だ。あんまり遅くなると心配される。行こうぜ幸成」


「そうだな。それじゃあ、作戦の成功を祈るとしよう」


 こうして二人の旅館偵察?は終了した。のちの話だが、この時の二人の表情は何を想像したのか、かなりにやついており、合流した女子達から距離を置かれていた。




「さてと、みんな揃った?それじゃあ観光にレッツゴー!!」


 全員が揃ったことを確認したアルケミック一行は街へと向かっていく。一行のほとんどはこれから始まる物見遊山を楽しみにしていたが、アルケミックが案内するというワードだけで不安になる人物もいた。


(結局、アルが案内する事になったけど、大丈夫かしら?)


(…杞憂であってほしいさ。だが万が一、何かトラブルが発生したら俺達で解決する努力をしよう。それでもだめなら、大人の力を借りるしかないがな)


 そう答え、和貴は視線を綾華に向けた。アルケミックの特徴を知らない彼女は何も考えずに楽しんでいた。視線の先の人物を見て雪花は納得したようで、少なくともこれ以上心配することはなかった。一方で和貴は問題を解決した後について考えていた。


(最大の問題は姉さんの力を借りて解決したとなったら後だ。雪花達は綾華が何者なのか知らないからな。…本当に何も起こらないでくれよ?)


 心の中でそう祈るしかなかった和貴はアルケミックの行動を注意深く観察していた。トラブルが発生する火種の原因と考えられるのはアルケミックの周辺、もしくは本人の行動からだと考えられるからだ。


「…和貴先輩?なんか怖い表情ですけど、どうかしましたか?」


「気にするな。叶は何も考えずに楽しめ。問題は俺と雪花で片づけるから」


「はぁ。先輩がそういうのであればボクは存分に楽しみますが…」


 叶と会話している矢先、女性の悲鳴が聞こえた。倒れている女性が叫び、一人の男性が荷物を持って和貴達の方へ向かってくる。その荷物は見たところ、女性用の鞄であった。ひったくりに遭遇したと理解するのは容易かった。


 ひったくり犯はこちらに向かって行くが止まる気配はない。かといってこのまま見過ごすつもりはない。今に限って理雄がいればと和貴は考えてしまう。


「ほう、私の目の前で事件を起こすとはいい度胸だな?そう思わないか和貴?」


 和貴の全身に悪寒が走った。この空気は初めて綾華と出会ったときと同等、もしくはそれ以上だった。犯罪者とはいえ一般人のひったくりに対して人類最強と言える綾華。もし手加減を間違えれば犯罪者がどうなるかなど、簡単に想像できた。


「…姉さん。とっ捕まえるなら能力は厳禁だぞ。下手に使って大騒ぎになったら旅行どころの騒ぎじゃなくなるからな」


「…善処しよう」


 そんな会話をしているうちにひったくり犯は目前まで迫っていた。ひったくり犯は「どけ!!」と言ってこちらに向かってくる。もし綾華が一般の女性であれば、ぶつかった時点で吹き飛ばされ、重症を負うだろう。しかし、相手が悪すぎた。


 突然、ひったくり犯は地面にぶつかった。正確に言えば、地面に引き寄せられたというべきか。ひったくり犯は理解できない現象を目の当たりにして何とか身体を動かそうと必死に動かす。しかし、全身が地面に引き寄せられ、立つことはおろか、指先一つ動かすことが出来なかった。


 綾華の能力を見て、和貴を除く皆がゾッとした。無理もない。電車の中で楽しく話し合った人物がここまで強い人物だったとは誰が想像できただろうか。


「さて、このまま押し潰すことも可能なんだが…どうする?とりあえず、足ぐらいは潰した方がよいか?」


 ひったくり犯は涙目になって命乞いをする。これ以上は過剰防衛になりそうな予感がした和貴は綾華を止める為に仲裁し始めた。


「まって姉さん。それ以上はやりすぎ。とりあえず相手を縛って後はここの治安部隊に任せた方がいいって。それに、せっかくの旅行何だからこれ以上こんな奴に時間を割くのは勿体ないって」


「ふむ、それもそうだな。だが、こいつをこのままにしておくのもまずい。何か縛るものがあればいいんだが…」


 しばらくすると、アルケミックが縄を持って綾華のところに持ってきた。どうやら能力で縄を創ったらしい。その縄を受け取ると綾華は慣れた手つきで相手を縛り上げた。相手が動けないことを確認すると、綾華は茫然としている被害者の女性に鞄を返した後、お願いをする。


「申し訳ありませんが、私達はここにいなかったことにしてください。せっかくの旅行を台無しにしたくないので。お願いしますね?」


 先ほどの光景を見たためか、女性はこのお願いが脅しに聞こえたのか、少し怯えたような表情で頷いた。この光景を見て和貴は初めて綾華と出会った自分を思い出していた。


(ああ、なるほどね。通りであの時義父さんが笑っていたわけだ…)


 一件落着したところで和貴達の観光は再び再開した。しばらく進んだ後、雪花は和貴に話しかける。


「言った傍からトラブルが発生したね。にしても、和貴のお姉さんがここまで強かったなんて知らなかったよ。普段は何の仕事をしてるの?」


「悪い、それは姉さんに口止めされているんだ。とりあえず、問題は解決したし、警戒はしつつ俺たちも楽しむとしよう」


 和貴達の観光が再び始まり、アルケミックの様子を警戒して観察していた和貴と雪花だったが、危なさそうな出来事にも遭遇せず、皆が楽しんでお店の中や食べ歩きを行っていた。和貴と雪花の二人を除き、他の皆が観光スポットの草原の丘と呼ばれる場所で遊んでいる間に二人は同じ机に座り、監視した結果を報告していた。


「今のところ問題は起きてないが、雪花から見て今回はどう思う?俺は外れだと思うが…」


「私も同じ意見よ。今回は外れでよかったわ。ようやく心置きなく遊べるわ」


 座ったまま背を伸ばし、大きなあくびと共にリラックスする雪花を見て、和貴も首の骨を鳴らし、思考を監視から切り替える。


「遊べる時間はあと一時間ぐらいしかないが、雪花はどうするつもりだ?」


「私?私は今アルと叶が遊んでいる草ソリで遊ぼうかなって考えているところ。和貴も一緒にどうかしら?」


「俺が体動かすのはあまり嫌いなの知ってるだろ?俺はこのお店のコーヒーでも飲んで雪花達が楽しんでいる姿を見て楽しむさ」


「言うと思ったわ。それじゃあ、一緒にいい思い出を作りましょう!」


 直後いつの間にか背後に隠れていた詩奈と幸成に和貴は拘束され、無理やり草ソリの山へと向かっていく。


「おい、詩奈、幸成。どういうつもりだ!?」


「雪花からの提案でね、どうせ和貴はみんなと一緒に遊ぶつもりがないから無理やりでもしないと一緒に遊ばないでしょ?」


「ちなみに俺はせっかくの旅行なのに思い出一つ作らない和貴がかわいそうだな~っていう善良な心からだな」


 和貴は抵抗して脱出しようにも、普段から筋トレして鍛えている詩奈の腕力とその詩奈から鍛えらえている幸成に対して筋力で勝つこと自体不可能な話だった。


「というわけで観念して私たちと一緒に遊びなさい!」


「それを言うなら姉さんはどこに行ったんだ!?俺と遊ぶよりも姉さんと遊んだほうがきっと面白い筈だ!」


「それなんだけど…あれを見てくれればわかるかな?」


 雪花が指さした方向を和貴は確認する。確かにそこに綾華はいた。一眼レフカメラを手にもって。一体何をしているのかと見ていると、パシャという音が聞こえた。しかも、何故か和貴だけに向けて写真を撮っているように思えた。


「…本当に何しているんだ姉さんは…」


「あははは…まぁ、あの状態じゃあ話かけられそうにないし、ちゃんと楽しんでるからほっといても大丈夫かなって。そういうわけだから一緒に遊ぼう!」


 和貴は逃げられそうにないと観念し、攫われる形で皆と遊ぶことになった。だが、不思議と和貴の表情は嫌な表情はせず、むしろ居心地が良いと思えた。




 楽しい時間は過ぎ去り、和貴達は疲れた体を癒すため、旅館へと戻っていた。その中で和貴は皆と比べてかなり疲弊しきっていた。


「ようやく終わったか。さっさと風呂に入って、飯を食って床に就きたい…」


「そういうなって和貴。そういいつつも、お前も楽しかったんだろ?」


 疲れ切った和貴の肩を組んだ人物、本郷は和貴を褒めた。和貴は溜息を吐くが、本郷の肩組を払った。


「まぁ、否定はしないな。それよりも本郷、悪いが今は肩を組むな。疲れすぎてお前を支える自信がない」


「まじかよ…。少しは体力も鍛えたほうがいいぜ?じゃないと、病気で死ぬかもよ軍師様?」


 冗談交じりの警告に和貴は軽くあしらうが、本郷の言う通り、体力の低さはどうにかして鍛えたほうが良いと判断した。そんなことを考えていると、本郷は思い出したかのように和貴に伝言を伝える。


「おっと忘れるところだった。アルからの伝言なんだが、この後、予定では入浴なんだとさ。その後に夕食だとさ」


 了解。と和貴は返事をする。ふと和貴は空を見上げた。雲一つなく空は赤く染まっている。日差しは山に隠れようとし、周辺は明かりが照らし始めている。一日という膨大な時間が終わる。そう考えれば、中々充実した時間ではないかと和貴は思った。


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