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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
25/57

和貴の過去(1.5部の3)

「当時、和貴は『能力優遇制度』という法律によって苦しめられていた。その法律の名前ぐらいは知っているな?」


 その言葉を聞いて三人は苦虫を嚙み潰したような嫌な表情を浮かべた。『能力優遇制度』とは、能力に優劣をつけ、能力が優秀であればあるほど莫大な資金を提供し、逆に能力が劣悪であれば税金と称して財産を奪い取るという現代において有り得ない法律であった。


 この法律という名の略奪は十年という長い年月の間敷かれ、詩奈達が中学三年生の頃に戦場から帰還した重力王によって廃止されたのである。


「はい。確か能力に優劣をつけて、優秀なほど政府から莫大な資金をもらう制度ですよね?それが和貴先輩と何が関係しているのですか?」


 綾華の問いに答えた叶は何故和貴と今は亡き法律が関わっているのか理解できなかった。その疑問に答えたのは、和貴の弟子である詩奈だった。


「叶ちゃんは知らないの?和貴君は無能力者なのよ。つまり、政府からの援助金を受け取ることが出来ない。つまり…」


「詩奈の言う通りだ。政府からの援助金ももらえず、加えて両親も和貴が小さい頃に失っていた。本人曰く、物心ついた四歳の時からストリートチルドレンを始めたと言っている。時には都会に行って盗みを行い、またある時は社会の闇にも足を入れかけていたと言っていた。もし、その闇に深くかかわっていたのなら、今頃本政府組織の一員として活動していただろうよ」


 蒼鳥襲撃事件から間もない三人は味方だった和貴が頼もしかった分、もし、敵に回っていたらどうなっていたのだろうかという想像をしただけで恐ろしかった。


「話を戻しましょう綾華さん。そうならなかったということは何か和貴を変える何かが起こったんですよね?」


「その通りだ。和貴が闇に落ちかける一歩手前の時、今の和貴の父である義父が和貴を救い上げたんだ。その義父の生活は当時、裕福とまでは言わなかったが、生活するのに充分すぎたんだ。一人増えても同じだろうって。そして和貴は三年間その義父から勉強を習い、中学校から学生生活を始めたんだ」


 だが、と綾華は一拍置いてからどこか悔しそうな表情で続きを語り始めた。


「和貴のクラスメイトに厄介な人物がいてな。そいつは和貴と同じ元ストリートチルドレンの餓鬼だった。しかし、そいつは妙にカリスマだけは持っていた。そいつが初めに行ったことはクラス内の能力者によるカースト制度だった。無論、無能力者の和貴は最下位としてクラスメイトから忌み嫌われ、或いは能力の実験体としてそいつらに呼び出されることもあった」


 綾華は普段よりも憤りを感じながらも和貴の過去を話し続けた。今の時代であれば社会的な大問題になっていたはずだが、当時は『能力者優遇制度』によって問題視されていなかったのだろう。


「和貴先輩の味方は誰もいなかったんですか?」


「少なくともクラスメイトは全員敵だったと和貴は言っていた。他の教室も似たような感じだった。たった一人を除いてな。その人物が和貴の親友であり、恩人でもある理雄だった。和貴から聞いた話では理雄は相当変わっている奴だと聞いたが、実際どうなんだ?」


「確かに変わっているわね。『強き者を挫き、弱き者を助ける』っていう感じだわ。いや、それに人が良すぎる天然っていう感じだわ」


 その質問に答えたのは頭を抱えている詩奈だった。理雄が住んでいる場所から比較的近所であった詩奈は小さい頃から有名人であった理雄の噂をよく聞いていた。詩奈は半分呆れながら理雄の武勇伝の一つを語り始めた。


「有名な理雄の話なら一つあるわね。理雄が住んでいる商店街の外れに公園があるんだけど、知っているかしら?」


「知っています。ボクも散歩でよく通ります。今は確か新しい遊具にするために工事中でしたっけ?」


「その公園で会っているわ。その公園で遊んでいる子供がいたんだけど、数人の不良が能力を使ってその子供達をいじめていたのよ。その光景を見ていた理雄が乱入して、不良達と喧嘩をしたのよ。当時小学四年生の子供が高校生数人に対してよ?」


 興味を持った綾華はその結末を気になったのか、口元が少しだけ笑い詩奈に尋ねる。


「ほう、それでどうなった?」


「噂で聞いた話だけど、不良達の能力を全て受け切って返り討ちにしたって。真偽はともかく、普段の理雄を知っている人物なら、本当だと思っちゃうわ」


 理雄の武勇伝を聞き、雪花と叶は驚いた。クラスの中でも最高の戦力と言っていい理雄の幼少期がそこまで強かったのかという驚き。そして、不良に立ち向かっていく勇気が既に小さい頃から持ち合わせていた事に。唖然としている二人を見て綾華は咳払いをして話を戻す。


「理雄という人物の話は私も気になるが、話を戻そう。本題のどうやって和貴と理雄が知り合ったかだが、帰り道が偶然一緒だったらしい。その時にしつこく理雄が和貴に話しかけていたそうだ。鬱陶しいと最初は和貴も思っていたが、半年経つ頃には掛け替えのない支えになっていたそうだ。時には理雄の実家で夕食を御馳走させてもらったり、理雄に勉強を教えてもらったりと、和貴にとって初めての友人が出来たそうだ。しかし、それを良しとしない人物がいた」


「…いじめの主犯格ですか?」


「ああ、そいつは和貴をいじめるのではなく、完全に学校から抹消しようと試みた。最初に行ったことは持を隠すという行為。だが、そいつが隠した物は教科書や筆箱といったものではなく、和貴の財布だった。無論、和貴はいじめの主犯格に問い詰めたが、それも奴の狙いだったのだろう。その現場を先生に見られ、二日の謹慎処分を受けた。だが、これだけでは済ませなかったようだ。謹慎が開けてすぐにいじめの主犯格は次のプランに移行していたそうだ」


 そのプランとは?と気になった三人は想像する。もし、次の一手を考えるのであれば何が効率的なのかということを。最初に発現したのは雪花だった。


「また同じ手で和貴を嵌めたんですか?」


「いや、流石に同じ手はしなかった。和貴本人が言っていたが、手段は覚えたから同じ手は二度引っかからないと言っていた。少なくとも、同じ手ではないな」


 すると、叶が自信なさそうに発言した。


「もしかしてですけど…買収ですか?例えば担任の先生のとか…」


「いい線をいっているがおしいな。教師を買収することは不可能だ。そんなことをしたら、逆に不利になってしまうからな。正解は「和貴の友人、つまり理雄を買収する…ですか?」…正解だ。詩奈はよく頭の回転がいいな」


 正解したとはいえ、あまりいい気分ではなかった。何故なら、この手の知識は政治の世界での手段だからである。特に、詩奈の祖父、厳宗はこのような手段を受けたこともあり、本人は勿論、詩奈自身も嫌っている手段であるからだ。


「たまたまです。付け加えるなら、そのお金は和貴の財布から抜き取ったお金でもあると考えてもいいですか?」


「これはたまげた。まさか次の話の流れまで理解しているとは…(流石墓守厳宗の一人娘だな)」


 驚きと同時に墓守厳宗の娘ならこれくらい簡単に想像できる筈だと納得する。綾華は一度だけ詩奈の祖父、厳宗と話したことがあったが、中々に食えない人物であったという印象が脳の隅に刻まれていた。

 詩奈の考える力を軍に使えるかどうかと考えてしまう思考を遮断し、会話の続きを話し始める。


「詩奈が答えを言ってしまったから続きを話すが、要は理雄を買収しようとしたのだ。そうすることで和貴を完全に孤立させようとしたのだろう。簡単に買収できる、そう思ったのがそれがいじめの主犯格の最大の誤算だった。どうやってかは知らないが、理雄は主犯格の買収を断ったのだ。加えて、腕っぷしも知っていると思うがかなり強いからな、一度断ったらもう手出しすることはできない。その上、理雄は和貴の味方に付いたんだ。結果、和貴に対して簡単に手を出すことが出来なくなった」


 一気に話した綾華は乾いた喉を潤すために持ってきた鞄から水筒を取り出し、一口飲む。話の続きが気になった雪花はその間の時間が長く感じたようで、焦らしていた。一拍置いて、綾華は話の続きを話す。


「期待しているようで悪いが、その後の話はわからない」


「ええ!?ここからが気になるところなのに!?」


 焦らされて何も答えない。否、その続きが分からない。これからだというところで、何も知らないという展開に雪花の反応も致し方なかった。綾華は補足するかのように言葉を継ぎ足した。


「言っておくが、秘密にしているわけじゃないぞ。和貴自身が答えてくれないだけだ。聞こうとしてもはぐらかされる。全く、困ったものだな」


「そっか…。綾華さんの態度から、本人に聞くこともできなさそうね。まぁ、仕方ないか。誰しも聞かれたくない過去の一つや二つあるものよね」


 あからさまにがっかりしている雪花だったが、流石に嫌な記憶を本人に問いただすという行為には行わず、新幹線の窓に映っている景色を眺め始めた。叶や詩奈も同じ意見で、これ以上和貴の過去について追及しなかった。


 暗くなった空気を変えるべく、綾華は何か話題を振ろうとしたが、こんな状況に限って何も思い浮かばない。どうしたものかと悩んでいると、叶が気になったのか、綾華に話しかけた。


「ところで話が変わってしまうのですが、そろそろお昼ご飯を食べませんか?丁度いい時間帯ですし…」


 叶は新幹線に設置されている電子時計を指さし、今の時刻を綾華に教える。現在のお時刻は十二時半。お昼を食べるには丁度いい時間帯だった。


「それもそうだな。目的地まであと一時間で到着しそうだし、ゆっくりとご飯を食べるとするか」


 そう言って、綾華は途中で買てきたコンビニ弁当を食べ始めた。他の三人もそれに見習い、各自昼食を始めた。余談だが、この時雪花の弁当の件について女子達で色々話し合いがあったことはまた別の話である。




 少年は夢を見ていた。少年にとっては思い出したくもない記憶であり、屈辱でもあったが、それでも覚めない夢によって少年、霊峰和貴は苦しんでいた。


(これはあの時の記憶か…。何故今に限ってこんな夢を見るんだ?)


 最初に見たのは幼い自分が何者かによっていじめられているところだった。その人物の顔は覚えていないが、なんとなく誰なのかは察した。その人物は和貴をいじめていた主犯格。狡猾で相手を陥れる為ならばどんなに時間をかけても手間のかかることをする。そんな人物だった。


 暗闇に一人、誰も味方がいない。そう思い込んでいた時、一つの光が幼い和貴に降り注いだ。その光の根源は和貴の親友である竹蔵理雄だ。彼の存在のおかげでこうして平然と過ごすことが出来る。いるという確実な証拠は和貴の精神を安定させてくれる。そのおかげで和貴は中学生活を乗り越えることが出来た。


 その光の先を見ようとした時、和貴の瞼が開き、夢から目覚めた。周りを見ると、幸成や本郷、アルケミックも寝ていた。時間を確認すると目的地に到着するまであと十五分程度だった。そろそろ三人を起こして降車する準備をし始めた方がよさそうな時間だった。


 肩を回り、関節がポキポキと鳴ったことを確認し、和貴は三人を起こし始めた。最初に意識をはっきり取り戻したのは本郷だった。和貴が本郷の身体を少し揺らしただけで目を開き、周囲を確認する。元々早起きが得意なのか先ほどぐっすり寝ていたとは思えない程の目覚めの早さだった。本郷は和貴に今の時間を聞くと預けていた荷物を取りに席を後にした。


 残りの二人を起こそうとして、和貴は起こそうとするが、中々起きない。そう思っていた時、背後から和貴に声をかける人物、墓守詩奈が話しかけてきた。


「そろそろ降りるから知らせに来たけど、知らせる必要はなかったわね」


「いや、今丁度困っていたところだった。本郷はすぐに起きたからまだしも、この二人が中々起きなくて困っていた所だった」


 気持ちよく寝ている幸成とアルケミックを見て詩奈は溜息をこぼす。無理もない。一応身内ともいえる幸成がいびきをかいて未だに寝ているのだ。このまま放置してしまうのは流石にどうかと思っていると突然詩奈が幸成に近づき、手を大きく振り上げた。


 まさかと思い、和貴は視線を明後日の方向へ逸らした。すると、詩奈と本郷がいる場所からパチンパチンと何かを叩く音が響き渡った。


「いつまで寝ているのよ!もう到着するわよ!?さっさと起きなさい!!」


「ぐぇえ!?詩奈!!ちょっと待t「問答無用!!さっさと起きて降車の準備をしなさい!じゃないとまた同じのをやるわよ?」


 イエッサー!!という声をあげて頬に赤く腫れあがった紅葉を浮かべながら幸成は急いで荷物を取りに向かって行った。先ほどの幸成の様子から見て和貴は呆れながらも、すぐに何をされたのか理解できた。


(往復ビンタ…しかもさっきの叩かれた音を数えるとおおよそ十連続。そりゃ、否が応でも起きるな…)


 ほんの一瞬だけ哀れと思ったが、起きなかった幸成の自業自得と言ってしまえばそれまでだろう。さっさと起きなかった幸成が悪いと切り捨て、和貴はアルケミックを起こそうとした。しかし、その必要はなかった。何故なら、アルケミックは先ほどのやり取りを見ていたのか、恐怖で顔色が真っ青になっていたからだ。


「…ねぇ、カッキー。詩奈ちゃんってあんなに怖かったんだ」


「知らん。俺が言えるのは時間ギリギリまで寝ている方が悪いってことだけだ。ほら、いつまでも怯えてないでさっさと荷物を取りに行け。それとも、詩奈に頼んで一発アルケミックを起こせと頼もうか?」


 アルケミックは首を横に振り、座っていた身体を起こすと、脱兎のごとく預けた荷物を速やかに取りに行った。その様子を見届けた和貴は忘れ物が無いか座席を確認した。


(忘れ物は特にないな。…よし、行くか)

 確認を取った和貴は自身の荷物を取りに行くために移動を始めた。新幹線内を移動していると、荷物を持った幸成達が和貴を待っていた。和貴は急いで荷物を取りに行こうとしたが、既に和貴の荷物は本郷が受け取っていた。


「すまない本郷。俺の荷物の分も持っていて悪かった」


「別にいいさ。和貴が最後に忘れ物が無いか確認してくれてたんだろ?むしろ、こっちが礼を言いたいところさ。ありがとさん」


 本郷からの礼を受け取ると、車内放送で目的地の駅へ到着する放送が流れる。和貴はふと思い、窓を眺める。その景色は都会では見られない畑が広がっていた。普段と違った景色を見て、和貴は今回の旅行に対して密かに期待していた。


(駅に到着するまであと五分。長い新幹線旅もようやく終わって、本当の旅行が始まる…か)


 楽しみだ。そう心の中で和貴は呟き、誰よりも胸を躍らせていた。

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