第二十一章 まるで、それは世界最期の日のようで…… 2
「おいっ、どうする? ケルベロス」
インソムニアは飄々とした仕草で、状況を把握しようとしている男に訊ねる。
「いや、石へと変えるガスは天井から降り注いできているんだろう?」
ケルベロスはあくまで冷静だった。
「能力者がもう一人いるみたいだが、俺達はルブルとメアリーを倒しに来た。なら、そいつは無視すればいい。違うか?」
ケルベロスの判断は早かった。
地面を刃で切り刻み続けていた。
「逃げる」
彼は地中へと、モグラのように潜り込もうとしていた。
インソムニアの方は、まるで挑発に乗るかのように、天井へ向かってキルリアン・ストリームを放ち続けていた。
更に。
鉄格子を大剣で切り裂いて、アイーシャが再び、大広間の中へと入ってくる。
「おい、お前ら逃げるぞっ!」
「あら? アイーシャ」
メアリーが高笑いを浮かべていた。
「逃げる? 逃げるですって? また、この私から?」
アイーシャはメアリーの方を睨み付けると。
バイアスに指示を出して、杭を撃ち込ませる。
メアリーは、幻影の盾で、それらを悉く防いでいく。
「おい、バイアス……。お前、一方向にしか攻撃出来ないのか? 攻撃の軌道を曲げられないのか?」
「……で、出来ませんよ、そんな事」
無口な少年が、困ったような顔をする。
「なら、仕方が無い」
アイーシャは、まだ石へと変えられていない機械兵の一つを分解する。そして。
ブーメランを作った。
「行くぜ、メアリーッ!」
彼女は、ブーメランを投げて、メアリーを攻撃する。
メアリーは、新たに盾を生み出して、投げられたブーメランを防ぐ。だが。
アイーシャはすでに、三つ程、新たにブーメランを作り出して、投擲していた。
メアリーへと、明らかに防御し辛い位置から鉄の刃が降り注いでいく。
「『ソウル・ドリンカー』」
何かが、三つのブーメランを叩き落したみたいだった。
そして。
天井の大部分が崩れ落ちて、何者かが降り注いでくる。
それは、胸や腰から下を石の衣服で纏った少年だった。
髪の毛は灰色をしていて、足元まで伸びていた。そして、髪の毛の大部分も、石と化していた。
「お前は何だ?」
インソムニアが、天井から降ってきた、そいつに向かって訊ねる。
「僕はクルーエル。魔女ルブルの弟…………」
別の場所から、口が現れて、喋り出していた。
「姉さんは僕をバラバラにして、物言わぬ人形の中へと閉じ込めていた。僕がお痛ばかりするから。僕は僕を抑えられないから…………」
やばい……。
インソムニアは、スキゾ・フレニアを召喚して自らの身を守る。
三つ首のドラゴン・ゾンビは、石の彫像へと変えられて地面へと転がっていく。
そして、粉々に砕け散っていった。
「クルーエル、石へと変えるのもいいけれども、四名とも、私が始末する」
メアリーは楽しそうな顔をしていた。
彼女の背中から現れたものは、今やはっきりと、アイーシャやケルベロスの眼にも映っていた。
そいつは、獅子や虎、狼や熊、それらの肉食獣を混ぜたような顔をしていた。
そして、背中から鳥のような翼が生えている。
そして、右手には巨大な剣を手にしていた。
「行け、ソウル・ドリンカーッ! 私の悪意の結晶体っ! 全ての敵を薙ぎ払えっ!」
メアリーは叫ぶ。
すると。
数メートル程の体躯をした、肉食獣の頭をした人型の怪物が、長い長い剣を振り回し始める。
すると、部屋全体が薙ぎ払われ、切り裂かれていく。
ケルベロスもアイーシャも、すぐに動いていた。
……部屋から脱出しないと、拙い。
†
数分後。
アイーシャは、城の外にある黄土色の湖の辺りにいた。
逃げるしか無かった。
あれは、もう自分じゃ倒せる相手じゃない。
しかし、逆に考えるならば、メアリーはかなり追い詰められている。あの化け物と石化ガスを散布するクルーエルをどうにか出来れば、かなり此方側が有利に出来る筈だ。
……いや、逃げ回ってばかりでは駄目だ。一度、態勢を整えられるのも、あちらも同じだ。今、倒さなければならない。
すぐに、アイーシャは引き返す。
ケルベロスとインソムニアは無事だろうか。
間違えて、バイアスも置いてきてしまった。
これでは、自分が見苦しい、立ち向かわなければならない。何としてでも、メアリーを倒さなければ……。
……んっ?
アイーシャは、しばし呆然としていた。
城全体が、まるでルービック・キューブを組み替えるように、捻じ曲がっていく。
†
メビウス・リングは、地底城へと訪れた。フルカネリの言葉に従って。
ウロボロスが、かなり力を取り戻してきている。
コッペリアに肉体を作って貰う手間など、必要無いくらいに力が溢れ出してきている。
……さて、どうしたものかな。
彼女は、桟橋の辺りに来ていた。
そこには、一体のゾンビが空を浮遊していた。
そいつは、空を飛ぶ海亀の背中に乗った槍騎兵だった。
「我が名はカルナッソ。ルブル様のゾンビ四天王が一人、空を滑る者なり。他の四天王は不甲斐無く倒されてしまったが、我はそうはいかぬぞ」
メビウスは地底城の状況を確かめようとしていた。
……おそらくは、此方側、あちら側の陣営共、それなりの被害が出ているだろうな。フルカネリは中心部にいるだろうな。そして、そこにルブルもいるだろうな。ならば、私はそこまで赴くとするか。
カルナッソが、何か色々、喋っていたが。
メビウスは完全に無視して、ウロボロスによる歪曲によって宙を飛び、地底城まで向かっていく。
カルナッソが、槍を投げ付けてきたが、彼女の下に届かず、それらは空中で捻じ曲がり、何処へと消え去っていく。
メビウスは地底城まで来ると。
フルカネリとルブルを燻り出す為に、城全体をウロボロスの空間の歪曲で捻じ曲げ続けた。
†
アイーシャは、バイアスとケルベロスの身を案じていた。
「どうする……? 何者かが城を壊そうとしている…………」
空を見る。
すると、真っ黒なドレスの金色の髪をした女が、浮かんでいた。
おそらくは、この空間の歪曲の元凶だ。
……あれは確か……、ドーンの……。メビウス・リング……?
アイーシャは頭が痛くなってくる。
……あいつ、これ程、強かったのか?
城全体が、崩れていく。
アイーシャは迷わなかった。
ケルベロスとバイアスを探しに、城の中へと向かった。
†




