表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/80

第二十一章 まるで、それは世界最期の日のようで…… 1

 ケルベロスを先頭にして、アイーシャとインソムニア、そしてバイアスの三名は進んでいく。


 色々と愚痴り、敵の能力の後遺症を話し続けるインソムニアを相手にして、アイーシャは適当にあしらい続ける。

 地底城は相変わらず、家具がさかさまに付いており、鎧などが天井に張り付いていたりする。アイーシャはゾンビが擬態していないかどうか、入念に警戒するのだが、何処吹く風で進んでいくインソムニアに対して、多少の苛立ちを覚えていた。


「なあ、アイーシャさ。この戦いが終わったら、もう一度、私と再戦しろよな?」

「ああ、はいはい、分かった。分かったから」

 ケルベロスとバイアスは無言のまま進んでいる。


 ……ルブルとメアリーは、全力で来るだろう。満身創痍の私達で勝てるのか?

 トラウマは乗り越えられたのだろうか?

 アイーシャは個人的に、グリーン・ドレスを殺された恨みも、ダート側に対してはある。

 だから、その恨みも晴らさなければならない。


 地底城は幾度となく螺旋階段によって、階層を行き来する事になり、扉を開ける際も、天井に張り付いたドアをわざわざ開けて這い上がる、という形になったのだが。途中、途中の寝室や食堂らしき部屋を覗けば、迷う事無く進む事が出来た。

 大体、三人が合流して、二十分くらい経過した頃だろうか。

 ぽっ、ぽっ、と、鬼火のようなものが回廊に現れた。

 そして、その先に、メイド服を纏い、両耳に細長いピアスを身に付けた女が現れる。

 彼女はメイド用のカチューシャを床に投げ捨てて、黒や茶色が混ざる金髪を掻き上げる。


「よく来たわね。そして、よくも私達ダートのメンバーを沢山、負かせてくれたわね?」

 メアリーは明らかに引き攣り、怒りを露にしていた。

 アイーシャは。

 不思議と……恐怖は無かった。覚悟して来たからだろうか。あるいは、メアリーの焦りのようなものを強く感じ取ったからなのだろうか。

 メアリーはアイーシャを罵倒するかと思いきや、まずケルベロスに向けて剣呑な表情を浮かべていた。


「ドーンは本来なら駆逐される筈だった。でも、お前はよく這い上がってきたわね?」

「さあな。まあ、人間は不滅だ、とでも言っておこうか」

 ケルベロスは冗談めかした口調になる。


「あら、そう。でも、此処で人の希望も潰えるわねえ。全員、バラバラにしてゾンビとして再利用するか、ゾンビのディナーにしてやるから此方においで。いや、貴方達は殺しても殺し足りない」

 メアリーは、そう言うと。

 奥の回廊へと消えた。


「行け、インソムニア。頑張れっ! お前強いんだろっ! 私にその強さを見せ付けてみろっ!」

 アイーシャは叫ぶ。

「……えっ? 分かったっ! 見てろよアイーシャッ! お前らの出番なんて無いぜっ! 私があんな下品そうな女倒して来てやるよっ!」

 そう言いながら、インソムニアはダンス・マカーブルの大鎌を振り回しながら、回廊の奥へと進んでいく。

 後には、ケルベロスとアイーシャ、バイアスの三名が残される。

 アイーシャは淡々としながら、ケルベロスの顔を見ていた。


「どうする? メアリーは誘っているみたいだけれども。インソムニアがどれだけ持ってくれるかな?」

「そうだな……。明らかに、奴は“これは罠です”と言わんばかりに誘っていたが。どの道、進むしかないんだけどな」

 アイーシャは懐から、板金加工が施されたネズミを手にする。


「ルブル側がゾンビで襲撃してこないのは、私に死体を再利用されない為だ。けれども、城の中に徘徊していたネズミが結構いた。これなら偵察に使えるっ!」

 そう言いながら、彼女はネズミを通路の奥へと向かわせる。

 小型スクリーンが、アイーシャの目の前へと作られる。


 ……成る程。


「ケルベロス、進もう。やはり、インソムニアを捨て駒にして良かった。奥の通路に何かいるっ!」

「……捨て駒……。分かった、行くぞっ!」

 ケルベロスは全身から刃を生やして。アイーシャは大剣を構えて、バイアスは針や杭で撃ち抜く準備をする。

 回廊の奥へと向かう。

 すると、そこには床下に幾つもの薪が置かれて、炎が燃え盛っていた。

 メアリーは奥で、両腕に鉈を構えて、此方を見ていた。

 そして。

 インソムニアがぐしゃぐしゃのバラバラになって、散乱していた。


「あら、遅かったわね。お仲間さん、この通りよ?」

 アイーシャはメアリーの背後にいる怪物をしげしげと眺めていた。


「メアリー、そいつは何だ?」

 ケルベロスは訊ねる。

 巨大な白骨ドラゴンだった。

 肋骨の部位が幾つものナイフのように避けて、しゅりしゅりっ、と不気味な音を立て続けている。両翼は更に巨大な大鎌を幾つも携えている。

 顎は鉄の処女の内部のごとく、針のような牙が無数に突き出ていた。

 そして、尾の部分は毒虫の尾のように、幾つもの毒針があった。


「ルブルの最強のゾンビらしいわ。何でも、『スプリガン・クイーン』というお名前らしいわ。まあ、女王の守護者ね。最強のドラゴン・ゾンビにして動く拷問器具とでも言えばいいのかしら?」


 そして、メアリーは指先を弾く。

 スプリガン・クイーンの右翼が動き、それは振り子のように部屋全体を動き回っていた。

 バイアスが。

 問答無用で、メアリーの辺りへと杭を乱射していく。

 メアリーの肉体は孔だらけになるが、すぐに消滅して、再び別の場所から出現する。


「ふふっ、うふふっ、早く部屋に入ってきなさいよ? この子と戦わないの?」

 アイーシャは冷淡な口調で、その光景を眺めていた。

 ケルベロスが部屋の中へと突入する。

 巨大な白骨ドラゴンの化け物がケルベロスへと刃を振るう。


「『アケローン』」

 それは、一瞬の出来事だった。

 一瞬にして、ルブルの最強兵器がバラバラに砕け散っていく。


「あらっ?」

 メアリーは明らかに狼狽した顔をしていた。

 ケルベロスは、ふうっ、と溜め息を吐く。


「俺の能力は骨格を組み変えるんだぞ? 調査済みじゃなかったのか? セルジュから聞かなかったのか? どんなに巨体でも、骨格があるならば俺の敵じゃないな」


 そして、更に。

 アイーシャが指先を弾く。

 バラバラになった骨達の上に、鉄の塊を被せていく。

 そして、何体もの剣や槍などを構えた人型の機械ゾンビを創り出していく。


「で、ルブルは言わなかったの? ゾンビは私のネクロ・クルセイダーに再利用される、ってっ!」

 メアリーは明らかに、呆けたような顔をしていた。

 そして、頬を引き攣らせながら、ケルベロスの下へと近付く。


「お前はミソギを死へと追い遣った事を悔やんでいる。だからお前は罪悪感がある。そして、お前は恐怖している。お前の鍛錬された肉体は弱さを隠して纏うだけ」

 メアリーはケルベロスを呪詛するように言う。


「『クラウディ・ヘヴン』、何者も貴方は貴方の罪から逃れられない……っ!」

 アイーシャは、ケルベロスが、メアリーの術中に嵌まった事を知る。

 ケルベロスは周囲に眼をやりながら、明らかに、何かの幻影に怯えていた。


 だが。

 地面に撒かれていた、インソムニアの腕がケルベロスの足首を掴む。

 そして、ケルベロスの中に膨れ上がっている負の感情を、どうやらインソムニアは吸い取っているみたいだった。


 アイーシャの創り出したゾンビ達は、何も無い空間へ向かって、剣を指し示す。

 すると。

 インソムニアの右手が、ケルベロスから集めた負の感情を弾丸にして、キルリアン・ストリームを撃ち続ける。

 部屋全体に、破壊の衝撃が渦巻いていく。

 アイーシャは、ひゅうっ、と巧く鳴らない口笛を吹く。


 ……勝てる。戦略をある程度、立てていて良かった。ルブルのゾンビも、メアリーの幻影も、メアリーの切り札のクラウディ・ヘヴンも、この面子なら全て破れるっ!

 ぞわり、ぞわりっと、悪意のようなものが、部屋の中に満ち満ちていくかのようだった。


「アイーシャ、貴方も部屋に入ってくる事ね」

 冷たい声が響き渡る。

 部屋全体は、大広間になっている。

 アイーシャは、慎重に、部屋の中へと入っていく。

 メアリーは平然とした顔で、撃ち込まれたインソムニアの攻撃を防いだみたいだった。


「ルブルの好意に付き合って、多分、役に立たないだろうドラゴン・ゾンビを使わせて貰ったけれども。此処からは本気で行くわよ。ああ、それから、クラウディ・ヘヴンも、もう使わない。通じない事は、よく分かったから」

 メアリーは超然とした態度を取っていた。

 ケルベロスは正気に戻ったみたいだった。

 インソムニアは、再生を終えていた。

 魔女の城のメイドは、まるで怯む事無く、むしろ猛々しささえ感じる表情へと変わっていく。


「此処からは、クルーエルと私の更なる能力『ソウル・ドリンカー』を使わせて貰う。貴方達が此処にやってきた事を後悔させてあげる」


 メアリーはただただ、ほくそえんでいた。

 明らかに、その顔には余裕さえ見られた。

 何らかの勝ち手段があるのだろう。一人一人が、ダートのメンバーを倒した強力な能力者数名を相手にしてもなお、悠然とした態度を取り続けている。

 メアリーは両手を構えていた。


 ……四対一で、その余裕? いや、私の機械兵達もいる。

 本当に勝つ気でいるのか?

 メアリーは舌なめずりをする。


「クルーエル」

 彼女はそいつの名前を呼ぶ。

 ケルベロスは、咄嗟に、おそらくは“殺気”と呼ばれるもののようなものに気付いて、後方へと飛んでいた。


 びきり、びきり、と。

 ケルベロスのいた地面が、石へと変えられていた。

 そして。

 次々と、剣や槍を手にしていた機械兵達が、動かぬ石の彫像へと変えられていく。

 アイーシャは少しだけ離れながら、その様子を見ていた。

 部屋全体に、触れたものを石へと変えていくガスが撒かれているのだ。インソムニアもそれに気付いて、焦りながら部屋の外へと出ようとしていた。

 大広間と通路の途中の辺りが、鉄格子によって閉められようとしていた。


 アイーシャはバイアスを強引に突き飛ばし、抱えると、素早く身を翻して、通路の場所へと滑り込む。

 インソムニアとケルベロスの二人が、大広間の中へと閉じ込められたみたいだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ