第十八章 地の底にある、さかさまの城 1
「バイアス……、私は生きたい」
アイーシャは、屹然とした顔でメアリーの両眼を見据えていた。
メアリーはただただ、蔑むような瞳をしていた。
アイーシャは、大剣の柄を強く握り締めていた。
バイアスは放心したような顔で、メイド服姿のメアリーを見ていた。そして、彼はすぐに、目の前にいる者が、自らの主人が散々、憎悪し、因縁のある敵だと認識した者なのだと理解する。
魔女の召使は笑う。
「ふふっ、アイーシャ、よく戻ってきたわね。また私の性玩具にでもされたいの?」
「黙れ」
アイーシャは有無を言わさなかった。
袈裟斬りに、メアリーを両断していた。
隣では、セルジュが驚愕した顔をしていた。
ごとり、と、メアリーの上半身が床に落ち、ぴくりぴくりと下半身が両膝を付いて、倒れる。アイーシャは無言だった。そして。
両腕両脚を分解し、再構築して、八つ程の刃物の腕を作り出して、辺り一帯に無作為に刃物を振り回していく。
「何処に本物が隠れている? 私の人生を破壊した女は。絶対に絶対に殺してやる。そこから、私の新しい人生はスタートするんだっ!」
セルジュは蒼褪めた顔をしながら、必死で階段を転がり落ちていった。
彼は負傷している。肩を撃ち抜かれ、全身を火傷している。
バイアスが、彼を始末する役目を担おうと思った。
彼はアイーシャの手足になろうと誓っていた。彼女の敵は自分の敵だった。
クリムゾン・サクリファイスの攻撃が、セルジュの下へと向かっていく。セルジュはそれを全身で受け止めた…………かのように見えた。
バイアスは眼を擦る。
そこには、血溜まりだけが存在し、彼は何処へと消えていた。
セルジュは死ななければならない。バイアスが倒そうと思った。
バイアスはセルジュを追う。
アイーシャは、ひたすら、辺りに刃物を振り回していた。
やがて、彼女が両断したメアリーの死骸は、空中分解していく。
「『クラウディ・ヘヴン』か? バイアス、お前なら、メアリーの憎悪に依存していない。精神に幻影を植え付けられていない。何処に隠れているのか、透明化しているのか分からないけど。バイアス、お前がメアリーを倒すんだっ!」
アイーシャは叫ぶ。
……クソッ。私は奴隷じゃない。自慰行為の道具でもない。私は生きたい。憎悪を終わらせたい。私の人生を切り開きたい。
彼女は心の中で、叫んでいた。
「寸刻みにしてやる。臓物を地面に撒いてやる。お前が二度と蘇らないように、塵も残さないっ! ああ、畜生っ!」
アイーシャは、怒りで恐怖を克服しようとしていた。
汚らしい自分を浄化したい。そんな思いでいっぱいだった。
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