1.契約
――ほう、面白い魂が落ちてきたな。
(……誰?)
――わしは貴様ら人間から〝悪魔〟などと呼ばれている存在だ。わしを見た者はたいてい情けない悲鳴を上げるものだが……怖くないのか?
(べつに)
――ふむ……。しかし貴様、未練も後悔も、それどころか満足感もない空っぽな感情しか持っておらんな。貴様を殺した奴への恨みくらい持っておらんのか。
(……?)
――わからんか。それほどに世界に絶望していたか。少しでもなにか感情があれば、もうちっと面白かろうに。
(……おれを、食べるの?)
――貴様がもうちっとジタバタしてくれれば、それもありえたろうよ。……なあ少年。貴様、生き返ったらなにがしたい?
(…………)
――なんでもいい。英雄になりたいとか、美味いものを腹いっぱい食いたいとか。可愛い娘に囲まれる、というのも悪くないな。
(……おれは)
――うむ。
(おれは……幸せになりたい)
――……ん?
(幸せになりたい。好きな人ができて、その人と結婚して、子どもも作ってもらって……。おとぎ話みたいな、幸せを味わいたい)
――ほう。それは、わしが一番好きな種類の願いだ。…………。
(……? どうしたの?)
――ふ……っふふっ、っく、はははっ、はぁーっははははははっ!!
(!?)
――ははははは……っ! あー、すまなんだ。こんなに笑ったのは久しぶりだったものでな。それで? 幸せになりたいと言ったな?
(う、うん)
――それはまた、この世界では大層な希望だな。それでも貴様は、生き返ったらそれを望むか?
(……それでも、いい)
――……よい。気に入った。貴様に加護をやる。
(加護?)
――すぐにわかる。だがただではやらん。貴様の望み――つまり幸せを得られずに死んだら、その時はわしの奴隷として永久にこき使ってやるぞ。
(……うん、わかった)
――契約成立だ。ほれ、道を作ってやるから肉体へ戻れ。
(うん……えっと、おじさん、こういう時、なんて言えばいいの?)
――おじ……。ああうん。なんだ、感謝を伝えたいなら『すまない』や『ありがとう』が鉄板だろう。
(そうなんだ。ありがとう、悪魔さん)
――……調子の狂う子だなあ。まあ、だからこそ、楽しみだな。
さあ、お前の幸せを探してみろ。




