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その25

事件についての捜査がメインです。

「で、最初はどこから行くんだ?」


 俺と麻生は荷物を部室においてから体育館に向かった。昨日部室嵐があったばかりだが、今日警官が数人いるため、かつてないほど安全だ。普通なら立ち入り禁止なのだろうが、一応部室の使用者だからな、許されて荷物を置けたというわけだ。


 岩崎と真嶋はどうしたのだろうか。二人とは教室で別れたため、荷物をどうしたかは不明である。教室で別れるとき、岩崎はかなりやる気満々だった。昼とは明らかに様子が違うため、真嶋はかなりいぶかしんでいて、昼休みに何を言われたんだろう、と思っていたに違いない。まあ、真嶋は空気を読んでくれて、何も聞いてこなかったからよかったが、とにかく岩崎の様子は異様だった。


「今どこが体育館を使っているんだ?」

「知らん」


 まあターゲットである三つのうちのどれかがやっているだろう。


「行き当たりばったりだな」

「ほっとけ」


 いやならお前が調べればいい。だいたい何でお前はお客さん気分なんだよ。ちったあやる気を出してもらいたいね。


 俺たちは体育館に着き、靴を脱ぎ中に入った。


「ところでお前知り合いいるよな?」


 聞くの忘れていた。そうでなければ麻生など連れてくる意味がない。


「ああ、女子バレーと女子バスケにはいる」


 ぎりぎりセーフだ。麻生は男女問わず知り合いが多い。特に根拠もなくどの部活にも知り合いがいると、半ば信じ込んでいたのだが。いないのがバドミントンでよかった。あそこには三原・戸塚コンビがいる。ラッキーだった。


 入り口から館内を見渡す。中では女子バレーがやっていたが、他は全部男子の部活。となると必然的に女子バレーに行くことになるな。


「じゃあ頼んだ」

「はいよ」


 俺が言うと、麻生は知り合いを呼び出し、事情を話す。昨日俺と岩崎が来たばかりなので、話はすんなり通り、一人の女子を呼び出すことに成功した。


「何ですか?今練習中なんですけど」


 もっともだ。だが、やけに不機嫌だな。


「俺たちはこの前の部室荒らしのことを調べているんだけど」

「それはさっき先輩に聞きました」

「そうだよねー」


 何となく練習を邪魔されたという嫌悪感だけじゃないような気がする。かなりよくない対応なのだが、麻生は全然気にしてない様子で、


「少し聞きたいことがあるんだけど」


 と質問を続ける。こいつ、結構大人だったんだな。


「あの事件について、私があなたがたに言うことは何もありません。その必要もありません」

「何でかなー?」


 彼女が不機嫌なのは麻生のしゃべり方が原因なのではないか、と思い始めた俺だったが、その理由は別のところにあった。


「占い研究部の方が調べているからです」


 どうやらこの女子は姫の信者だったようだ。うちが敵対している組織ということも、もしかしたら知っているのかもしれないな。


「もう知っていることは占い研究部の方に全て言いました。もう他の方に言う必要はありません」


 それほど連中のことを信じているのか。なかなかの信者っぷりだ。


「じゃあ昨日俺たちがこの事件を調べていると聞いてなぜ動揺したんだ?連中を信じているなら他に誰が調べていようと関係ないんじゃないか?」


 この質問は俺からのものだ。


「別に動揺なんてしてません」


 返答までに一瞬間があった。この空白は一体何を示すのか。


「これ以上あなたがたと話すことはありません。帰って下さい」


 一方的に話を切られて、練習に戻っていった。


「時間取らせて悪かったね。練習頑張って」


 麻生は、コートに戻っていく女子の背中に向かってこう叫んだ。本当に大人だな。何か、麻生の違う一面を見た気がする。とりあえず俺に見せる表情ではない。


 これ以上ここにいても仕方がないので、俺たちは外に出た。


「明らかに何か隠しているな」


 こう言ったのは俺ではなく麻生だ。


「お前もそう思うか」

「ああ。成瀬が質問した直後、彼女がまとう空気が変わったからな」


 麻生、お前空気とか解るようになったのか。



 とりあえず怪しいということは再確認できた。それともう一つ新たな情報が増えた。姫の信者ということだ。彼女が隠しているのは、連中が捜査する上で有利な情報なのだろう。果たして他の二人はどうだろうか。あの女子、なかなか敬虔な信者であるようだし、これ以上あいつから情報を得ることはできないかもしれないな。


「どうするよ?思った以上に早く終わったけど」


 俺と麻生は体育館を後にして、中庭にいた。


「部室に帰ってもいいが、まだ警察がいるかもしれないしな。できればもう一人くらい話を聞きたいな」


 残りのターゲットは両方とも体育館にはいなかった。どこかでトレーニングでもしていればいいのだが。すでに放課後になってから三十分以上が経過してしまっている。もし今日が休暇だったら、もう帰宅してしまっている可能性が高い。


「おい、成瀬」


 漠然とそんなことを考えていた俺だったが、麻生に呼ばれて意識を取り戻す。


「何だ?」

「内田だ」


 麻生は昇降口のほうを示す。するとそこには女子が三人ほどいた。その中に確かに内田という苗字を持つ女子がいるのを確認する。おぼろげな記憶を呼び覚ます。


「内田って確か、女子バスケのマネージャーだっけ?」

「そうそう。よく覚えていたな」


 バカにするな。俺だって、去年のクラスメートの顔と名前くらいは覚えている。内田はクラスの中でも目立つ女子だった。


 しかしラッキーだ。ナイスタイミングで登場した内田の元に麻生が駆け寄る。俺も着いていくことにする。


「よう、内田」


 といった感じで気さくに話しかける麻生。


「あれ?麻生じゃん。あと成瀬君も。どうしたの、二人して。珍しいね」


 内田も気さくに応じている。二人はそこそこ仲のいい関係なのだろう。俺も去年同じクラスだったのに、なぜ二人が仲良いことを知らないのだろうか?


「ちょっと今時間ある?聞きたいことあるんだけど」


 麻生は世間話もそこそこに、本題に入った。


「ああ、もしかして部室荒らしの話?」

「そうなんだけど、何で知ってんの?」

「岩崎さんがちょっと前に来たからね」


 あいつはすでに調査済みだったのか。まあ友達百人を自称しているやつだからな、先回りしていてもおかしくないか。


「それで、首尾はどうなの?噂だと、占い研はもうすぐ解決できるらしいけど」


 そんな噂が飛び交っているのか。しかし、もうすぐ解決できるっていうのはどういう状態のことを言うのだろうか。


「え、そうなの?俺たちはまだ半ばってところかな」

「そうなの?頑張って!で、聞きたいことっていうのは?」


 前のクラスメートであるということもあり、内田はなかなか協力的である。それ以上に麻生の人徳のおかげなのかもしれない。思った以上に使えるやつだな、麻生も。


 考えてみれば、岩崎といい麻生といい、コミュニケーション能力の高いやつが俺の周りには多いな。真嶋も友人多そうだし。要するに、コミュニケーション能力がある程度高くないと、俺とうまく接することができないということか。いわゆる上級者向けというやつか。喜んでいいのか微妙なところだ。正直全然嬉しくない。


「おい成瀬」

「何だ?」

「説明してやってくれ」


 お前がやれよ、と言いたいところだったが、相手の都合もあるだろう。ただでさえ足止めしてしまっているわけだし、二人の友達も待たせてしまっている。俺は早急に話しを進めることにした。


「件の直後、女子バスケに体調崩した部員がいたみたいだけど、今どうしてる?」

「ああ、あの娘、今日も学校休んでいるみたい」


 まだか。そりゃ相当重症だな。これ以上事件に関わらせると、トラウマになっちまいそうだな。こいつに関してはもう触れないほうがいいのかもしれない。


「もう一つ聞きたいんだけど」

「うん。何?」

「その女子は占い研の話よくしてなかった?」

「あー、聞いたことあるけど、あまり行ってなかったと思うよ。一・二回くらいだと思う」


 なるほど。連中と関係しているみたいだが、信者とまではいかないかもしれないな。


「そうか。呼び止めて悪かったな」


 俺はとりあえずここまでで、質問を終えた。


「ありがとう。また何かあったらお願いね」

「うん。じゃあまたね」

「おう。じゃあね」

「成瀬君、捜査頑張ってね」

「ああ」


 適当に会話を切り上げ、俺たちは分かれた。




「やる気出た?」

「どういう意味だ?」


 麻生がやる気になってくれたのなら、俺は喜んでやるのだが、麻生はどうやら俺に対しての疑問文として口にしたみたいだった。


「だから、内田に頑張ってって言われて、やる気が出たかって聞いているんだよ」


 何を言い出すかと思えば。


「あれは社交辞令だろ」


 お前も社交辞令をまともに受け取ってしまう側の人間なのか?社交辞令っているのは、とりあえず返事だけしておけばいいんだよ。要は挨拶と一緒だ。


「違うよ。あれはマジな言葉だぜ」


 一体何を言い出すんだ、こいつは。


「何でそう思う?」

「簡単だ。内田はお前に対してのみ言っただろ。俺はじゃあねしか言われてない」


 確かに、あの時内田は俺の名前しか呼ばなかったな。そこに深い意味があると、俺は考えなかったのだが、麻生は違ったようだ。


「今、二・三年の間じゃお前の株は結構高騰しているんだぜ」


 そいつに関しては否定できない。最近どいつもこいつも俺に対して、妙な期待を持っているような気がする。だが、俺が感じているのは身近な人間だけだ。内田みたいなほとんど会話したことないようなやつにまで期待される覚えはないんだが。


「その理由を教えてくれないか?」


 正直俺は最近感じていた株の高騰を、誰かの陰謀だと考えていたのだが、


「去年の暮れの日向ゆかりの事件が原因みたいだな」

「あー」


 あれが学年全体に広まっていたとはな。麻生の言う、去年の暮れの出来事とは、一クラス全体を巻き込んだ、簡単に言うといじめの話だ。正直、心の弱い人間がターゲットだったら、自殺かなんかで終わっていたかもしれない、結構組織的な事件だった。まあそれはまた別の話なのだが。


「俺も直接は知らないんだけど、解決後に広まったらしい。だから今お前と岩崎は結構株が高いんだよ」


 俺としてはあまりいい思い出ではないのだが。あのときか。実際もっと早く解決してやれた事件だったと思うし、そのせいで無関係の人を巻き込んでしまった。あれをきっかけにして、俺の株が高騰しているとは、正直あまり喜べた話じゃない。


「なるほどね・・・」


 俺は一言呟いて、話を終わらせた。あの事件、これ以上無駄な広がりを見せないよな?


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