その24
最近ラブコメ要素が強い気がしますが、ちゃんとストーリーは動いています。
次の日の朝、最寄り駅からの道のりで珍しく麻生と出会った。
「お前、今日放課後暇か?」
「ん?そうだな」
「じゃ、今日は俺に付き合え」
別に誰でもよかったのだが、俺にはそれほど選択肢がない。
「何するんだ?」
「昨日言った不審な女子にインタビューだ」
ふーん、とどうでもよさそうな返事をする麻生。
「お前、まさかもう飽きたのか?」
「というか、何かもう無理そうだなって」
確かに犯人を捕まえるのはかなり困難だろう。それにしてもこいつ、淡白なやつだな。まあ楽しければ何でもいいやつだからな。その辺は理解している。
「成瀬こそ、珍しく頑張っているじゃん。何で?まだ見込みあんの?」
頑張ってない。俺はまだ何もしてないからな。
「正直、俺も無理だと思う」
すでに詰んだと考えてもいい。俺たちの手には、切るカードは残されてないからな。
「じゃあ何で?」
麻生の言い分はもっともである。俺自身なぜだろうと思う。もう一人の自分に聞いてみる。答えはすぐに返ってきた。
「このままだらだらやっていると、あの二人が本格的に仲悪くなりそうだから」
「あの二人って、天野と真嶋か?」
「ああ」
「ふーん」
そう言うと、麻生は何やら考え込み、意味深に頷きだした。何だ?
「なるほどね。道理であいつ最近妙にぴりぴりしていると思った」
どういうことかというと、どうやら麻生にも思い当たる節があったようだ。
「それで、事件が原因なのか?」
「いや。だが、悪化させているのは確かだ」
「そうか。そういうことなら俺も頑張ってみようかな」
単純なやつだ。だが、今は助かる。
「でも、結局犯人解らないんじゃ意味ないんじゃないか?それに早く解決したいなら、占い研のやつらと対立するような真似するんだ?協力したほうがいいんじゃないか?」
麻生は、俺が昨日岩崎に頼んだことを言っているのだろう。またしても麻生の言うことはもっともだ。ではなぜかというと、答えは結局ここに帰結する。それは、
「俺が占いを信じられないからだ」
昼休み、久しぶりに岩崎も真嶋も教室で昼食を取っていた。
「今日はどこも行かないんだな」
俺は前の席を陣取っている岩崎に話しかけた。
「私は成瀬さんと違って、何もしていないようで影で動いているんです!ちゃんと昨日言われたことをやっています。現在進行形で!」
普通に授業を受けて普通に食事をしているようにしか見えない。とは言え、岩崎が影で何をしているのかさっぱり解らないのは確かだ。岩崎の家の家計図を遡っていくと、伊賀か甲賀に繋がっているのではないか。
それにしても嬉しそうだな。責任感が強いのは知っていたが、仕事を頼まれるのがそんなに嬉しいのか?とりあえずいいことをした。これからもいろいろ頼んでやろう。
「今考えると、成瀬さん何もしてないじゃないですか!あれだけ偉そうにしていて」
「別に偉そうにしているつもりはない」
「十分偉そうです!命令じゃなくてお願いする立場です。ねえ?真嶋さん」
「・・・・・・」
真嶋は岩崎の問いかけに応じることなく、自分の弁当をじっと見つめていた。どうやら何か考え事をしているようだ。その証拠に箸がまったく進んでいない。
「あの、真嶋さん?」
岩崎が不安そうに再び声をかける。
「え、何?ごめん、聞いてなかった」
二度目の呼びかけで、やっと真嶋が反応する。
「あ、いえ、大した事ではないのでいいですが、どうかしたんですか?」
すると、真嶋は慌てた様子で、
「え?ああ、ううん!何でもないよ!」
そんな言葉はまったく信じられないほど真嶋の様子はおかしかった。とうとう俺にも可視できるほど、不可解なオーラを発し始めたようだ。
「お弁当もまったく進んでませんね。おなか痛いんですか?」
「ああ、食べる、食べるよ」
思い出したように箸を動かし始めたが、しばらくするとまた箸は止まり、真嶋は虚空を見つめてフリーズした。
俺と岩崎は顔を見合わせる。
今日の真嶋は明らかに様子がおかしい。どうやら岩崎もそう思っているようだ。
「真嶋」
「え?ななな、何?」
俺が名前を呼ぶと、またしても大きなリアクションで応じる。そういえば名前を呼んだの初めてのような気がする。
「できればあんたにも手伝ってもらいたいんだが、今日暇か?」
「うん。大丈夫だよ。何をすればいいの?」
「こいつと一緒に動いてもらいたい」
「え?」
これは真嶋と岩崎の言葉だ。
「な、何で?別々に動いたほうが効率いいと思うんだけど・・・」
「相手が相手だからな、こいつ一人だと心もとない」
「何てこと言いやがりますか。いつも私に頼り切りのくせに」
俺は岩崎を無視して、
「こいつはものすごく短気だからすぐに頭に血が上る。そうなると何をするか解らないから、あんたに見張っていてもらいたい」
「無視しないで下さい!私のどこが短気だって言うんですか!私はいつでも冷静沈着です」
こんな様子を見て冷静沈着だと思うやつはいまい。と思ったのだが、真嶋は、
「え、でも・・・」
と迷っている様子。
「真嶋さん!成瀬さんの言うことなんて聞かなくていいですよ。それより、どうでしょう?久しぶりに天野さんとどこかへ遊びに行かれては。こっちのことは気にしなくていいですから」
いい加減黙ってくれないか。俺にも思惑があるんだよ。普段俺のことを鈍感とか言うくせに、少しは察しろ。
仕方がない。このままでは真嶋が岩崎の勢いに負けてしまう。可及的速やかに頷いてもらう必要がある。
「頼む」
俺は頭を下げた。二人とも驚いているのが、見ずとも解った。人に頭を下げるようなやつじゃないからな。その辺は自覚している。
「解った。解ったから頭上げて」
真嶋は慌てたように、俺の要求に応じてくれた。無理矢理言わせた感じだったが、仕方がない。全部岩崎が悪い。
俺は頭を上げ、
「悪いな。よろしく頼む」
真嶋に詫びを入れると、まだ途中の弁当をそのままにして立ち上がった。
「ちょっと来い。話がある」
「え、あ、ちょ、何ですかあ?」
岩崎の手を取ると、無理矢理立ち上がらせ、教室から飛び出した。
多目的ホールと呼ばれる、その名のとおりいろいろな目的に使われる廊下の途中に存在する開けたスペースに到着すると、俺は足を止めて岩崎と向き合う。
「一体何なんですか?強引ですね・・・」
若干頬を赤く染め、こんなことを言う岩崎を見て、俺は反射的に手を離し、一歩後退した。
「何ですか、その反応は。まるで私が迫ったみたいじゃないですか」
もっともだな。
「気にするな。それよりさっきの話だ」
「そうです!なぜあんなことをしたんですか?頭を下げてまで手伝ってもらう必要はないはずです。それより、早く天野さんと仲直りしてもらったほうがいいと思います」
「後半の意見には賛成だ」
「じゃあ何でですか?そんなに私を信用できないんですか?私はそんなに信頼されていないんですか?」
岩崎は声を荒らげる。話がこじれてしまった。本当にこいつは扱いづらいな。
「昨日、お前じゃなきゃ駄目なんだ、って言ってくれたじゃないですか。あれは嘘だったんですか?」
何だか俺はとても最低な男にされてしまっているが、ちょっと待て。そんなことは言ってないぞ。勝手にセリフを変えるな。
「これじゃあ、あの言葉を鵜呑みにして舞い上がってしまった私がバカみたいじゃないですか・・・。私って、そんなに頼りないですか?」
岩崎のまとうオーラの色が赤から青へと変化する。何だかとてもまずい方向に話が進んでいるな。俺のせいなのか?
「私ってそんなに頼りないですか?一人じゃ何も任せてもらえないんですか?」
「違う、逆だ」
「逆って何がですか?」
「全部だ」
「全部じゃ解りません!はっきりおっしゃって下さい!」
やれやれ。こんな様子じゃ俺の思惑を察してくれそうもないな。俺は教室に置いてきた弁当は放課後食べることにして、一から説明してやることにした。
「俺が真嶋に手伝ってもらおうとしたのは、」
「私が頼りないからですよね?」
俺の話を遮って皮肉を言う岩崎。どうやら完全に拗ねてしまったようだ。俺は苦笑するしかない。
「だから逆だって言っているだろう。いいから話を聞け」
「はーい」
岩崎は口を尖らせ、そっぽを向いた。子供そのものである。
「俺が真嶋に手伝ってもらおうとしたのは、あんたに真嶋の様子を見てもらいたかったからだ」
岩崎は眉をしかめて、俺の顔に視線を戻した。
「今日、あいつ様子がおかしいだろ?だから、一緒に行動させて、あんたに探ってもらおうと思ったんだよ」
「それなら、私が言ったように天野さんとどこか遊び行ってもらったほうがいいんじゃないですか?天野さんのほうが正確だと思います」
「そうすると、天野は真嶋の変化の原因を俺たちと事件のせいだと決めつけ、二度と俺らに関わらせないようにするだろう。そうなってしまうと、もう真嶋の悩みを解決してやれない。真嶋と天野も今までのような関係で入られなくなるだろう」
「・・・・・・」
岩崎は黙り込んだ。俺の言い分は理解できたはずだ。もしかしたら、とっさに出たいいわけだと考えるかもしれないが、
「ですが、事件のことと真嶋さんのこと、両方ともしっかり出来るでしょうか・・・。どちらか一方疎かになってしまうかもしれません」
どうやら岩崎はきちんと理解してくれたようだ。
「どっちもしっかりやってくれ」
「・・・簡単に言ってくれますね」
「あんたならできる」
「え・・・」
岩崎はフリーズした。こんなこと言われるとは、予想だにしなかったのだろう。口を開けたまま固まっていると、アホに見えるぜ。
「だから言っただろ。全部逆だと」
しばらく固まっていた岩崎だったが、ようやく処理能力が追いついてきたようで、点きっぱなしだった砂時計が消え、
「つまり、私が頼りないから真嶋さんに手伝ってもらうのでなく、私を信頼して下さっているからこそ、真嶋さんと私を一緒に行動させる、と?」
「ああ」
「真嶋さんが私を見るのではなく、私が真嶋さんを見る、と?」
「だから全部逆、ですか」
みなまで言うな。しかも丁寧に口に出して言いやがって。誰に説明しているんだよ。
「ちゃんと理解したか?舞い上がっても飛び跳ねてもいいが、仕事はしっかりやれよ」
またしても放心してしまって、だらしなく口許が緩んでいた岩崎だったが、俺の声で蘇生して、
「別に舞い上がりも飛び跳ねもしません!解ってますよ、誰であろう真嶋さんのためですから。別に成瀬さんのためじゃありませんからね。勘違いしないで下さいよ」
誰も勘違いしねえよ。岩崎が当たり前のことを叫んだ直後、五限の予鈴が校内に鳴り響き、昼休みの終わりを告げた。
「話は終わりだ。教室に戻るぞ」
「解ってますよ。偉そうにしないで下さい」
すっかり調子を取り戻した岩崎は、赤ではない暖色系のオーラをまとっていた。
教室に戻るまでの廊下で、後ろを歩く岩崎がポツリと呟いた。
「あんたならできる、かあ・・・」
俺は思わず吹き出してしまった。たぶん岩崎には聞こえてなかったと思う。




