その23
かなり短めですが、キリがいいのでこの辺で
こうして明日からの作戦を立て直し、ついでに気合も入れ直した。それからしばらく事件とは関係ない雑談に花を咲かせていた。最近あまり楽しい話をしていなかったので、雑談は盛り上がった。
気が付いたら、この家に来たときから時計の短針が六十度ほど動いていたので、俺たちは適当に雑談を切り上げ、お暇することになった。
気を使った真嶋が車を用意してくれたので、俺たちはそれぞれ乗り込み、麻生、岩崎の順で家を回り、現在俺は真嶋と二人になった。
「悪いな、部屋を借りた上に車まで出してもらって」
「ううん。家に呼んだのあたしだし、これくらいしか出来ないから」
なぜだが真嶋は落ち込んでいるようだった。そこで俺は天野が言っていたことを思い出した。今なら俺にも少し解る気がした。
「今日の放課後、うちの部室に天野が来たんだ」
「うん」
車内は静かだった。これが高級車というブランドの力なのかもしれない。
「あんたが俺たちに協力するよう頼んだみたいだな」
「うん」
「なぜだ?俺が以前言ったこと忘れたのか?」
俺は無理しないでくれと言ったはずだ。去年までの二人を知らないのだが、明らかに二人の雰囲気はよくない。
「・・・・・・」
真嶋は何を言わない。だから俺には真嶋が何を考えているか解らない。
「天野は心配していたぞ」
「え?」
だから俺は俺が感じたことを話す。
「あいつはあんたに頼まれたからうちの部室に来たわけじゃなかった。あんたが心配だったからだ」
「・・・・・・」
「あんたが心配だから、毛虫のように嫌っている俺の元にその理由を尋ねに来たんだ」
それは、度を越えた心配だったのだろう。隣にいる真嶋に視線を移す。そして目が合う。
「あんた、何か悩んでいるのか?」
「別にそんなことは・・・」
俺にも解る。明らかに嘘だった。
「悩んでいるなら一人で抱え込むな。どんな悩みだって、天野は真剣に相談に乗ってくると思うぞ」
「・・・・・・」
それからしばらく黙っていた。その間、俺たちはずっと見つめ合っていた。普段ちょっと目が合っただけで、すぐに顔を背ける真嶋もこのときは、俺をずっと見ていた。俺もなぜだか解らないが、視線をそらすことができなかった。真嶋の目はとても深い色をしていた。その目には俺が映っていたが、俺のことなど一切見ていない。そんな雰囲気だった。
そして、そのままお互い何も言わずに時間は過ぎ、俺の家に到着した。俺は運転手にお礼を言うと、真嶋のほうに視線を移し、
「じゃあ、また明日」
「うん」
その言葉を別れの挨拶だと受け取った俺は、車のドアを閉めようとした。
「成瀬」
だが、真嶋の声にその動きを止める。
「何だ?」
「ありがと」
「・・・・・・」
何に対してお礼を言われたのか解らなかったが、運転手が待っている様子だったので、俺はそれ以上何も言わずにドアを閉めた。
車はすぐに発進し、瞬く間に見えなくなったが、俺はずっとそのあとを見つめていた。