スプーンとフォーク『え』
4月22日(日)
【視点:鯨】
少しだけ灰色掛かった雲が重たいが、
俺と巻先輩はちゃんと買い物に出掛けた。
朝、改めて冷蔵庫の中を確認して決意した。
卵一個に半分減った牛乳が一本。
これはどう頑張っても無理だった。
弁当一つも作れやしない。
いつも会社帰りに食品などの買い物を済ましていたので
よし買い物に出掛けよう!と出掛けるのは随分と久しぶりな気がする。
そんな久しぶりテンションでいつもの近所のスーパーではなく、
隣り町の大きなショッピングモールまで足を運んでみた。
「せっかくここまで来たし、服とかも見たいから先そっちから行こう」
案の定、着いて早々巻先輩は食品売り場の一階ではなく、
服飾雑貨の専門店がある二階から見て回ると言い出した。
やっぱりな、これは正直予想していた。
なんだかんだ言っても巻先輩も性別は女な訳だし、
こう言うのを見て回りたいと言い出すんだろうなとは思っていた。
「…今日中に家帰れるならお付き合いします」
そしてそれに対して、俺はきっと断れないんだろうとも予想していた。
「勝手に見て回るから鯨も好きなように見てて」
「はーい」
「終わったら電話するわ」
「りょーかいす」
いつも通りののんびりとした足取りで巻先輩は店に入っていた。
俺もいい機会だし、服でも見に行こうかとメンズ売り場へと移動する。
レディースものよりも断然少ないメンズもの、
売り場の面積も全然違う。
一時間もあれば余裕で回れるくらいだ。
始めに入った店でTシャツ二枚を購入して、
次の店でベルト一本を購入。
個人的な買い物はこれくらいでいいかと思いスマートフォンを見てみる。
先輩からの電話はまだない。
時間を潰す為に本屋に向かう。
そう言えば最近本を読まなくなった、
大学に通っていたまでは月二冊は読んでいたのに。
陳列されている中から適当に一冊抜き取ってページを捲ってみる。
…
―♪
ポケットに入れていたスマートフォンがバイブレーションと共に鳴り出した。
相手は勿論巻先輩。
「はい?」
『もしもしー?終わったら食品買いに行こ』
「わかりました。どこにいますか?」
『サービスカウンターん所』
「りょーかいす…」
本を読んでいて気が付かなかったが
本を手に取ってから一時間も経っていた。
やはり女の人の買い物は長いと改めて思う。
*
「お待たせしました」
「いんやー。じゃあ行こっか」
来る途中にあるカート置き場からカートを引っ張って来た。
小型のカートにカゴを二つ積んでから巻先輩と合流。
それから食品売り場へ向かう。
「なんかいいのありました?」
「んー…、でも欲しかった感じのカーディガンあったから満足かな?安かったし。あと夏用の可愛いサンダルも買っちゃった」
巻先輩が持っていた紙袋と俺の買った袋をまとめてカートのフック部分に掛けてくれる。
「鯨は?」
「まぁそこそこ」
「そっか」
もともとそんなに二人ともファッションに拘りを持ってる方でもないので、流行に疎いしまず知ろうともしない。
着心地が悪くなくて気に入ったものを身に付ける、
くらいの感覚だ。
「…この夏は海行きたいなー」
食品売り場の野菜コーナーに向かっている途中、
でかでかと夏物入荷間近!!と書かれたポスターが何枚も連なって貼られていた。
「彼氏さんと行きゃいいじゃないすか」
「その彼氏さん泳ぐの苦手なのですよ」
「さいですか…」
唇を少し尖らせている。
結構本気で行きたいみたいだ。
「…じゃあわたげとか、信也たち誘って行けばいいでしょうよ」
「あ、それいい!そうしよ!」
この人に他の友達がいるのか心配になってくる。
…人のこと言えないが、
「もちろん鯨も同伴だかんね」
「え」
*
野菜コーナーに到着してすぐ、
巻先輩が品物を吟味しながら俺が押すカートのカゴの中に入れていく。
白菜を両手に持ちながら、こっちの方が重いかあっちが重いかと確かめている。
「二人で一株は多過ぎません?…半分の…こっちくらいで充分すよ」
「んー…でもなー、久しぶりにロールキャベツならぬロール白菜食べたくなったし、スープにも入れたいし浅漬も作り置きしときたいし…」
「じゃあ大丈夫すね、半分のにしましょ」
先輩のブーイングを右から左に流し半分の白菜を選んでカゴに入れた。
ちなみに、ロールキャベツのキャベツ部分を白菜で代用するのは葉を剥がしやすいし巻きやすいからだ。
その流れのまま食品を粗方選りすぐり、必要な分をぽんぽこ詰め込んでいく。
すぐに二つのカゴがいっぱいになった。
「…さすがに持って帰んの大変すよこれ」
「えーせっかくの普段来ない店なんだよ?」
「ここだから余計帰んの大変なんすよ」
「大変だよねー、だから鯨がいるんじゃないか」
「…」
にこにこしながら言ってくる。
端から荷物持ちの為に、
今日連れてこられたということはわかっていた。
「大丈夫だって、休憩しながらゆっくり帰ろうね」
背中をばんばんと叩いてくる。
まぁしかたないか、
自分でも何とかなる大丈夫と言い聞かせてみた。
「…あれ?マキちゃんっ?」
そんな時、後ろから声を掛けられた。
聞き慣れない声。
まぁ俺が呼ばれた訳ではないので反応はしない。
巻先輩がその人物の方を見てからすぐに声を上げた。
「あれー丸男くんだ!」
…丸男くん。
…丸男くんとは…巻先輩のテンションからしても、
昨日の夜、巻先輩を送る為アパートの前に停まってた青い車に乗っていた人物と同じ顔…、
間違いなく巻先輩の彼氏だ。




