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第73撃:過去の影、師の言葉

またブックマークや高評価をしてくださった方が…!

本当に有り難う御座います!


 一真は湖の主を腕に抱きながらも、周囲への警戒を緩めなかった。先ほどの黒い霞の化け物が一体だけとは限らない。封神拳によって感覚を研ぎ澄ませ、森の気配を探り続ける。


 ――一時間ほど経った頃。


 森に逃げ出していたモンスターたちが、徐々に湖へ戻ってきた気配を捉えた。もっとも、一真の張り詰めた気配を察してか、一定の距離以上は近づいてこない。


(ふぅ……とりあえずは、大丈夫そうだな)


 ようやく肩の力を抜いた一真が腕の中を見下ろすと、湖の主は安心しきったように小さな寝息を立てていた。


(まったく……人の気も知らないで、気持ちよさそうに眠りやがって)


 思わず苦笑しながらも、その寝顔に心が癒やされる。だが脳裏では、先ほどの戦いが何度も反芻されていた。


(あの霞の化け物……耐久力はともかく、攻撃力は魔王軍の空将よりも明らかに上だった。なのに……実態はただのゴブリン?)


 この森特有の変異かとも考えたが――否、と一真は心の中で結論を下す。最後の瞬間に感じた気配は、紛れもなく「森の外で倒した普通の」ゴブリンと同じだったからである。


(じゃあ、あの黒い霞は……? いや待て……どこかで……あの気配を、俺は以前にも……)


 記憶を掘り起こす一真の思考が、不意に一点へと繋がる。


(そうだ……姫咲さんとの修行中だ。あの時、確かに――)


 思わず声が漏れる。

「どういうことだ……? なぜ異世界の化け物と、同じ気配を地球で……」


 記憶の糸を手繰る。あれは一真が二十代半ばの頃、姫咲に師事して何年か経ったある日のこと――。


 その日も早朝から地獄のような修行が始まると思い、気が重かった一真は、割り当てられた二階の部屋からリビングへ降りていった。


「おはよう、一真!」


 出迎えた姫咲は満面の笑みで宣言した。


「今日はデートしましょう! 気晴らしに少し遠出よっ!」


 突然の言葉に、一真は思わず眉を潜めた。


「……で、今度は何をさせるつもりだ? 走って世界一周か? マリアナ海溝で素潜りでも?」


 不審げな声音に、姫咲は頬を膨らませて抗議する。


「あなたねぇ! 私を何だと思ってるのよ!」


「齢百歳以上のお婆ちゃん」


 即答した一真の頭に、姫咲の手刀が容赦なく落ちた。


「痛ぇ! 何すんだ! いつも自分で言ってるだろ!」


「自分で言う分にはいいの! 人から言われると腹立つのよ。少しはデリカシー持ちなさい」


 姫咲はそう言って笑う。その笑顔を見て、一真は思わず愚痴をこぼした。


「なんだその理不尽……納得いかねぇ!」


「ふふっ」


 姫咲は楽しそうに笑い、一真もつられて口元を緩める。険悪さは一切なく、確かな信頼関係があるからこそ成立する軽口の応酬だった。


 やがて一真が真剣な顔になり問いかける。

「で、本当のところは何をするつもりなんだ、姫咲さん」


 姫咲もまた真剣な表情に戻り、言った。

「そろそろあなたにも見せておこうと思ってね。私たち封神拳の継承者が、何と戦っているのかを」


 その言葉に、一真は眉をひそめる。

「……戦っているものって、前に言ってた悪神ってやつか? 本当に神様なんているのかよ?」


 疑念を隠さぬ問いに、姫咲は苦笑する。

「あなたも頑固ね。私に師事してから、常識じゃ説明できないことをいくつも経験してるでしょ? 神様がいてもおかしくないって思わない?」


「といってもなぁ、実際に見たことないしな。信じろって言われても……」


 そんな返しに、姫咲は表情を少しだけ固くして言った。

「だから見せてあげようと思ったの。神様そのものじゃないけど……悪神の下っ端。そのまた下っ端をね」


「……何だそりゃ」


「今のあなたじゃ悪神本体には会わせられないわ。会った瞬間、殺されちゃうもの」


 淡々としたその言葉に、脅しの色は一切なかった。ただの事実。だからこそ、一真の背筋に冷たいものが走る。


「……そんな奴に、会いに行くのかよ……?」


 恐怖を滲ませる一真に、姫咲は笑みを柔らげた。

「だーかーらー、悪神そのものじゃなくて、人を辞めてしまった者たちよ。悪神の瘴気に呑まれた下っ端たち」


「……人を辞めた?」


「ええ。まあ百聞は一見にしかず。実際に見たほうが早いわ」


 そう言うと姫咲は一真の手を取り、ダイニングへと引っ張っていく。


「まずは朝食! しっかり栄養をつけて――そのあと下っ端退治のデートに出発しましょう!」


 テーブルには、色とりどりの料理が並んでいた。どれも一真の好物であり、すべて姫咲の手作りだ。長い年月の中で、味の保証は十二分にされている。


 だが、一真の胸には奇妙なざわめきが残っていた。


「いったい……何だってんだ?」


 師の言葉と記憶の影が、今の異世界での出来事と重なり始めていた。


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