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第71撃:湖の主との邂逅

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 その謎の生物を見た瞬間、一真は思わず固まった。

 まるで時が止まったかのように動きを止めた一真に、首をかしげた生物が再び鳴き声をあげる。


「キュー?」


 その無垢な声に、一真の口から思わず声が漏れた。


「お……おお……」


 ゆっくりと歩み寄ろうと一歩を踏み出すが、生物はまだ怯えているのか、水面に出した頭を引っ込めようとする。


「キュー……」


 その仕草に一真はすぐに足を止め、ある程度距離をとってから、しゃがみ込んで静かに手を差し伸べた。自分から触ろうとはせず、ただ待つ。まるで野良猫を相手にしているかのようだった。


「ほら、怖がるな。俺はお前の敵じゃない」


 言葉が通じるとは思えない。だが、口にせずにはいられなかった。

 (……いや、召喚時に与えられた自動翻訳のギフトがある。もしかしたら通じるかもしれん)

 そんな考えが頭をよぎり、一真は自嘲気味に苦笑する。


 その心境を知ってか知らずか、生物は湖から這い上がり、ゆっくりと一真に近づいてきた。四枚のヒレを必死に動かし、ぎこちなく陸を進む姿は、正にぬいぐるみじみた小さなプレシオサウルスそのものだった。


「キュ! キュ! キュ!」


 懸命に声をあげながら近づくその様子に、一真の頬が思わず緩む。


(おお……可愛いな……って、イカンイカン。まだ油断はできん)


 気を引き締め直しつつも、その生物を待ち受ける。やがて触れられる距離にまで来ると、生物は差し伸べられた手と一真の顔を交互に見比べ――やがて顔をすり寄せてきた。


「キュ……キュゥー」


 警戒は解かれたようだ。牙を向ける様子もない。

 撫で回したい衝動を必死に抑えつつ、一真は静かに問いかけた。


「お前は一体、何者なんだ? この湖の主か……?」


 そう口にしたあと、少し気恥ずかしくなり「……なんてな」と付け加える。

 いくらなんでも人語が通じるわけがない。そう思って再び苦笑を浮かべた――その時だった。


「キュ!」


 生物が鳴き声をあげ、こくんと頷いたのだ。


「……っ!」


 一真の瞳に驚愕が走る。タイミングも仕草も、偶然とは思えなかった。


(まさか……本当に人の言葉を理解しているのか?)


 確かめずにはいられない。


「なあ、お前……俺の言ってることが分かるのか?」


 半ば馬鹿げていると思いつつ問いかけると、生物はまたも頷いてみせた。


「キュ!」


(驚いたな…。本当にこちらの言葉を理解している。これも自動翻訳の効果なのか?……いや、それならこいつの鳴き声も翻訳されてもおかしくはないはず。それとも、鳴き声はあくまで鳴き声で、そこに人と同じような意思は込められていないのか?あるいは、モンスターなどは対象外なのか?)


 一真はそれらの考えを一旦頭の隅に追いやる。ここで考えても答えなど出るはずもないからだ。一真は『そういうもの』だとして、柔軟にその事実を受け止める。師である姫咲との長い修業生活で、様々な不思議な経験をしていた一真だからこその切り替えの早さだった。


 一真はその生物の瞳をまっすぐに見つめて問う。

「ひょっとして……お前が、この湖を綺麗にしてる…のか?」


 荒唐無稽なように思えるが、ここは異世界である。一真の知る常識が必ずしも通じるとは限らない。何よりも、不思議とこの子が水質を綺麗にしている。そう一真には感じられたのだ。


 その生物は一真の問いに対して、やはり一つ頷き「キュ!」と鳴いて返した。その様子はどこか得意げに映る。


「……はは、参ったな」


 一真は吹き出し、小さく撫でてやる。生物は嬉しそうに身体をすり寄せてきた。


(不思議な感覚だ。何故かこいつといると、心が穏やかになる気がする。どこか癒やされるような……)


 そこまで考えて、一真は似た感覚を最近頻繁に感じていたことに気がつく。


(この感覚……晶から感じるものに似ている……?)


 そう一真が思った瞬間、場の空気が途端に変わる。湖周辺にいた魔獣たちの気配が一斉に遠ざかっていく。まるで何かから逃げ出すかのように。


 一真は即座に臨戦態勢へと切り替えた。


(なんだ?急に嫌な気配がしてきた…どういうことだ?)


一真は湖の主?を自称するその生物と戯れている間も、周囲の警戒は解いてはいなかった。なのに、途端に気配が変わったのだ。

幸いにも、離れた拠点で眠る晶、紫音、柚葉に異常はない。それを確認して安堵しつつも、警戒を解くことはしない。


 ちらりと湖の生物を見ると、先ほどまで愛らしかった瞳に恐怖が浮かんでいた。


「キュ……キュウ……」


 小さく鳴きながら震えている。


(そうか……こいつが最初から怯えていたのは、この気配の正体に対してか……)


 そう思考が至った刹那――


 一真の背後に、“異質”な気配がに現れた――唐突に。


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