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第259撃:解放の報せと、最後の選択

ブックマーク有難うございます!

とても嬉しいです!

 ヴァルドランが告げてきた情報は、二人の思考を一瞬停止させた。

 今しがた考えたことだ。

 なぜ、グラウザーンが本気で攻めてこないのか。


 それがまさか、このタイミングで襲撃の報告を受けるとは思わなかった。


 僅かな硬直の後、アリステリアはようやくと言った様子で言葉を絞り出す。


「なぜ……こんなタイミングで……」


 ただの気まぐれ?

 なにか理由が?


 いや、今はそんなことは問題ではない。


 アリステリアは動揺を無理やり抑え込むと、ヴァルドランへと問いを飛ばす。


「ヴァルドラン、現状報告を」


 その言葉に、ヴァルドランは視線を伏せる。

 口を開くが、言葉が出ない。


 アリステリアが知るヴァルドランという人物を考えると、この態度は異様に映る。


 冷静でありながら、心は熱を秘め。

 現実を見極めながら、的確な判断を下せる。

 それがアリステリアの抱く、ヴァルドランという人物像。


 そんなヴァルドランに、アリステリアは何度も助けられてきた。

 ヴァルドランの父、ランガルドの代から仕えてくれている忠臣だ。


 アリステリアが幼い頃から傍にいてくれた、兄のような存在でもある。


 それだけの長年の付き合いだが、彼のこのような態度を取るのを見たのは初めてだった。


 心に横たわる不安が、更に深さを増す。


 アリステリアが再び問いを飛ばそうと口を開いたその時、ヴァルドランが言葉を漏らした。


「……グラウザーンは……アビス・ケイルの囚人を解放しました」


 その言葉を聞いたアリステリアは、足元が崩れていくような錯覚を覚える。


(え?……アビス・ケイルの囚人を解放?)


 あの凶悪な者たちを?

 何かの聞き間違いじゃないのか?


 アリステリアは一縷の希望を込めて、ヴァルドランを見る。


 だが彼の表情が、それを否定する。


 本当にグラウザーンは、アビス・ケイルの者たちを解き放ったのだ。


「おじ……様……なぜそこまで……」


 そこでアリステリアはハッとする。


 ——ヴェイル。


 アビス・ケイルの囚人の中でも、特に危険とされる人物。

 その人物まで解放されたというのなら……。


「ヴァルドラン、まさかヴェイルも?」


 不安を含んだその問いに、ヴァルドランは首を横に振り答える。


「いいえ。ヴェイルの姿は確認出来ていません。

 ……索敵可能な範囲には、ですが」


 アリステリアは胸を撫で下ろす。

 だが安心はできないし、ヴェイルがいないからと言って状態が好転したわけではないのだ。

 油断は出来ない。


 ヴァルドランが再び、言葉を繰り返す。


「さあ、早くお二人で離脱を。

 時間は我々が稼ぎます」


 ……勝てるとは言わない……言えない。


 それはつまり——自分たちの死を覚悟しているということ。


 アリステリアは、咄嗟に「自分も戦う」と言いそうになる。

 だがその言葉は、喉元で止まった。


 それでは意味がないのだ。

 これは、アリステリアとファレナを守るための戦いなのだから。


 今まで本気で動かなかったグラウザーンが動き始めた以上、

 自分が魔王の力を保持しているということも、安心材料にはならなくなった。


 魔王の力を渡すわけにはいかない。

 ファレナに勇者召喚を使わせるわけにも。


 アリステリアは唇を噛み締める。

 全ては自らの愚かな行動から始まった。

 グラウザーンは、間違いなく邪神に心を縛られている。


 あの優しかった伯父は、自分のせいで……。


 戦うという言葉の代わりに、口から出たのは——


「……っ!

 逃げると言っても、どこに……」


 現状、魔族領に逃げ場はない。

 グラウザーンが本気で動き始めた以上、何処に逃げても無駄だろう。


 アリステリアからの問いを受けたヴァルドランは、

 二人を交互に見やり、答えを返した。


「……お二人はこれから、エルサリオンへと——逃げるのです」


「「!?」」


 二人は驚きに目を見開く。


 声を上げたのは、それまで黙っていたファレナ。


「ヴァルドラン様……エルサリオンは今……」


 ——セレフィーネに支配されている。


 ファレナがそう続けようとした時、

 ヴァルドランの口から驚きの情報がもたらされる。


「先程、エルサリオンへと送っていた偵察兵が戻りました」


 息を呑む二人。

 今のエルサリオンに兵など送り込んだら、セレフィーネにバレてしまうだろう。

 故にこれまで、エルサリオンに偵察は送れなかった。


 だがどうやらヴァルドランは、その禁を破ったらしい。


「……今あの国に……セレフィーネはいません」


 唐突に告げられた言葉。

 あまりの事に、二人は今度こそ言葉を失う。


 決してエルサリオンを離れなかったセレフィーネが——いない?


 だが、ヴァルドランの言葉はまだ終わらない。


「それだけではない。

 かの城の者たちに、洗脳に囚われている様子が無いとの報告を受けました」


 情報密度に、二人は頭が混乱してきた。


 ヴァルドランがエルサリオンに兵を送った理由。


 それはこの一月ほど、魔王城にエルサリオン側からの進軍が無かったからだ。


 いつもならもう一度くらい、勇者を召喚して送り込んできているはずだった。

 だがそれが無い。


 不審に思ったヴァルドランは、自らの部下数人に偵察を頼んだのだ。


 部下たちは快く引き受けてくれた。

 一歩間違えば命を落とすような、危険な任務なのにもかかわらず。


 そして先程、その部下たちが無事に帰ってきた。


 部下から告げられた報告は、セレフィーネの不在とエルサリオンの解放。


 何があったのかは分からない。

 それでもファレナの帰るべき場所は、確かに取り戻されていた。


 ようやく理解が追いついたファレナの瞳から、涙が一筋零れ落ちる。


「エルサリオンが……みんなが……」

「ああ……お父様……」


 ファレナは思わず、アリステリアの胸で泣き崩れる。

 その姿は、アリステリアがファレナを保護して以降、初めて見せるもの。

 気丈に振る舞ってはいたが、やはり不安は大きかったのだろう。


 アリステリアはファレナを抱きしめると、震えるその背を優しく撫でる。


 ——逃げよう——ファレナを連れて。


 だがエルサリオンまで逃げれたとして、その後は?

 セレフィーネが戻ってきたら?

 グラウザーンが攻めて来るのでは?


 アリステリアは、その不安要素をヴァルドランへと話す。


 ヴァルドランはファレナへと視線を向け、言葉を落とした。


「……ファレナ姫、もし無事にエルサリオンに帰れたら。

 そのうえで安全を確認できたのなら……その時は」


 ——その時は。


「今一度だけ——勇者召喚を考えてください」


 ヴァルドランが告げたその言葉で、二人は何度目かの驚愕に固まった。


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― 新着の感想 ―
 ーー引き込まれました。  そして最後に私も固まりましたƪ(˘⌣˘)ʃ  次が楽しみです╰(*´︶`*)╯♡
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