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第257撃:温もりの裏側で

最近遅くなってばかりで、申し訳ありません。

いつも読んでくださり、有難うとざいます!

晶たちが翠霊郷へと戻り、早くも一月ほどの時が流れた。


シルヴァは三人の成長ぶりに、正直驚きを禁じ得なかった。


紫音は自らの内に存在する魔力、オドの扱いをより洗練させていった。

少々独特な型ではあったが、紫音はもともと剣の使い方を修めていた。

その型を実戦向きに研ぎ澄ませ、オドによる身体強化すらも可能としたのだ。


結果として覚えた技——魔力を剣に纏わせて斬撃へと昇華する技、“魔法剣”。

シルヴァが得意とする“アーツ”を身に付けたのだ。


スキル、『サムライブレイド(偽)』や紫電ノ奏に頼らずとも、

剣に魔力を纏わせることが出来るようになった。


柚葉もスキルに頼らず、アーツとしての魔法行使を可能になった。

魔法をアーツ経由で使用する場合は、並列発動は出来ないが、

魔力の消費効率や威力の調整はできる。


これにより、より細やかな魔法行使を可能とした。


だがシルヴァが一番驚いたのは、晶の成長だった。

戦う術を持たなかった少年は、下級だが魔法を使えるようになったのだ。

当然スキルとしてではない。——アーツとして。


その他にも、晶は貪欲に様々なことに挑戦していた。


剣、槍、斧、鞭……そして弓。


その中で晶は、自らの武器として弓を選んだ。


驚くことに晶は、撃ち放った矢に魔力を込めて、矢の軌道を変化させてみせた。

矢を遠隔操作したのだ。


威力自体はまだ弱い。

だが将来的には、矢に魔法を込める“魔法弓”を使えるようになるだろう。


そのまま魔法を使うのとは、また違う汎用性を産む。


三人が三人とも、僅か一月少々の時間で、魔力回路を自らの内に構築した。

——本来なら、年単位の鍛錬が要求されるはずなのに。


才能という言葉で片付けてはいけないのだろう。

なぜなら、シルヴァは見てきたのだ。


三人が文字通り、死にものぐるいで訓練をしてきた姿を。


三人の心にある気持ちは、みな同じもの。


——一真を支えたい——


一真に再会した時、自分たちは一真に感情をぶちまけた。

彼自身から聞いた過去の話以外では、初めて見る一真の“生”の痛み。

それを自分たちの目で見たにも関わらず、己たちの感情を優先してしまった。


それが恥ずかしくて……情けなくて……。


死に物狂いで強さを求めた。

一真が安心して寄りかかれる強さを。


それはもはや、才能などではない。


執念。

三人はいま執念で、強さを求めている。


(少しだけでも良い……

ボクも一真さんの背負っているものを支えたいっ!)


(オレは自分を許せねぇ!

違うだろ……違うだろ!

オレが甘えてどんすんだよっ!)


(私はもっと、あの人の心に触れたい。

……強く……ならなきゃ!)


————


その日の訓練も終わり、シルヴァは翠霊郷の外へと向かう。

外の様子を確認するためだ。


「では今日も行ってくる」

「例の温泉は使って構わない。

風呂から出たら、身体をほぐして冷やさないように気をつけるんだ」


シルヴァはそう言うと、三人が頷き返すのを見て去っていった。


温泉。


シルヴァの家から少し離れた場所に、温泉があるのだ。

水の精霊と火の精霊が、戯れに作った温泉だ。


それは三人にとって、とても有難い事だった。


この世界に来てからというもの、まともに風呂に入ったことのあるものは晶だけ。

紫音と柚葉は、帰らずの森での水浴びのみ。

ルナリスに浄化してもらったとは言え、年頃の女の子にはキツい状況だった。


三人はシルヴァの家で着替えると、温泉へと向かう。


「ルナリス、おまたせっ!

一緒に温泉に行こう!」


晶の笑顔の言葉にルナリスは嬉しそうに鳴くと、晶の胸に飛び込んできた。


「キュウ!キュッ!」


身体の浄化と湯の浄化。

それに汚れた服の浄化なども、ルナリスに頼ってしまっている。


それでもルナリスは、嫌そうな様子は見せなかった。

三人の役に立てるのが嬉しいのか、褒めてもらえるのが嬉しいのか。

喜んで力を使ってくれた。


三人はルナリスを連れて、温泉まで走っていく。

早く温泉に浸かりたい。


温泉の周りには、シルヴァが結界魔法を張ってくれている。

この周辺のモンスターは近寄っては来ない。


温泉についた晶たち。

晶はルナリスを連れて、森の木々の奥へと向かおうとする。


「じゃあいつも通り離れて待ってるから、終わったら呼んでねっ」


笑顔で声を投げてくる晶に、紫音と柚葉は礼で返す。


「悪いな晶。いつも先を譲ってもらっちゃってさ」


「たまには晶くんが先に入っても良いんだよ?」


その言葉に晶は、笑みを深めて言葉を返す。


「ううん、ボクは後で大丈夫。

後でルナリスと、ノンビリ入らせてもらうから」


その言葉に柚葉が羨ましそうな声を上げ、それを紫音が宥める。

もはやお馴染みの光景だ。


「う~~。たまには私もルナリスちゃんと入りたい」


「はいはい、どうどう。

ちょいちょい身体を浄化してもらってるだろ」


二人のやり取りを見て、くすりと笑って森の奥へと消える晶。


その背を見送ると、紫音と柚葉は顔を見合わせて、一気に服を脱いで温泉に浸かった。


「くぅ~~!さいっこう!」


「ふふっ、紫音ったらおじさんみたいだよ?

でも、気持ちは分かるかな。

本当に有り難いよ」


疲れが湯に溶けていくようだ。

心なしか、身体に活力も戻ってくるような気がする。


二人はしばらくはしゃいでいたが、やがて沈黙が訪れる。


その沈黙を破るように、紫音が声を出す。


「……晶、大丈夫かな」


何がとは言わない。

言うまでもなく、柚葉も分かっていることだからだ。


——晶の女性化。


オラクルとリュミナを癒やしてから、一気に進んだ。

そのおかげで二人とも、驚異的な回復を見せたのだが。


晶は平気そうにしているが、そんな訳はないだろう。

これまでの晶の人生を考えれば、辛いはずなのだ。


紫音としても、晶に申し訳なさを感じていた。

晶は自分を救うために、初めてその力を使った。

女性化のきっかけを作ったのは、自分の様なものだ。


オラクルたち二人は今、翠霊郷の外で情報収集をしている。

魔王軍過激派の動向や、ロイ、オルディンの行方を。


晶の現状を考えれば、過激派の情報は掴んでおきたい。

オラクルたちにとっても、恩返しのつもりなのかも知れない。


ロイ達の行方は分からないが、一つ気になることがあった。


いまだハッキリとした情報は掴めないが、何やら魔族にきな臭い動きが見られる。

オラクルとリュミナの二人と、情報交換をしているシルヴァが言っていたことだ。


晶たち三人が訓練を急いでいるのには、そういった情報があったという事もある。


再び訪れる沈黙。


今度は柚葉が沈黙を裂いた。


「……ちょっと長く入りすぎちゃったね。

もう出よっか」


紫音は短く返事をする。


「……ん」


二人は温泉から上がると、予め用意していたタオルで体を拭き、新しい服に着替える。


これが出来るだけでも、心的負担は大きく違う。


衣食住の充実。

それがどれほど大切なのかが分かる。


二人は着替え終わると、紫音が森に向かい声を上げる。


「おーい!あきらー、ルナリス—!終わったぞ—!」


その声を受けて、ルナリスを抱えた晶が森から顔を出す。


「あ、終わったんだ。

それじゃあ、ボクとルナリスが入らせてもらうね」


そう言って、二人と入れ替わりに温泉に向かう晶。


そんな晶の背中に、咄嗟に紫音が声を掛けた。


「あ、晶!」


紫音の声に、晶は振り返って小首を傾げる。


「どうしたの?」


紫音は咄嗟に声を出そうとするが、喉が詰まって言葉が出ない。

代わりに答えたのは柚葉。


「晶くん、改めて紫音を助けてくれて有難うね」


その言葉に続けるように、紫音も言葉を出せた。


「本当に有難うな、晶。

オラクルさんやリュミナさんの事もさ……お前は凄いよ」


——ズキン——


一瞬晶の胸に、違和感が走る。


(え?……今の……なに?)


晶の様子の異変を感じて、二人が心配そうに声を掛ける。


「晶くん?大丈夫?」

「晶、オレたち変なこと言っちまったか?」


二人の心配そうな声を聞き、晶は慌てて言葉を返す。

——胸の違和感を無理やり振り払って。


「あっ……ううん、大丈夫!」


晶は言葉を続ける。


「……ボクは凄くなんてないよ。

エルフェリーナ様の力を借りてるだけだしね……えへへ」

「そ、それじゃあ、温泉に入るね!」


そう言って、紫音たちに背を向けて温泉へと駆けてゆく。


その背を見送り、二人は森の中へと消えていった。

晶への心配を拭いきれぬまま。


晶は服を脱ぐと、ゆっくりと温泉にその身を沈める。

嬉しそうに泳ぐルナリスを見て、笑みをこぼす。


——何の気なしに、自らの身体を見下ろす晶。


その瞳に映るのは、豊かに膨らんだ胸。

くびれたウエスト。

男性の面影は、ほとんど残っていない。


そんな自分の体を見た晶の心に——説明の出来ない“歓び”が浮かび上がってくる。

意味のわからない高揚感。


「……えっ」


慌てて頭を振り、その感情を追い出そうとする晶。


「ボ、ボク何考えてるの……?」

「こんな事考えるなんて、ボク……最低だ。

……気持ち悪い」


ふと、晶の鼻腔が“自ら”の体臭を捉える。

今までとは明らかに違う、女の匂い。


晶は以前帰らずの森で嗅いだ、一真から借りたタオルの匂いを思い出す。


男の匂い。


——一真の——匂い。


晶はその匂いを思い出し、先程追い払ったはずの“感情”が再び浮かび上がってくるのを感じた。

 

「ボク…どうしちゃったの……?」


その様子を、ルナリスが心配そうに見上げていた。


「……キュウ」


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― 新着の感想 ―
「キュウ?」  と私でもきっと声をかける。  晶ちゃんは女の子になってしまいましたね、  そして一真を思う気持ちは友情から愛情へーー。  続きを楽しみにしてます╰(*´︶`*)╯♡
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