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1年に1度のチートスキルで何とか異世界で生きようと思います……。  作者: 夜虎
第8章 ドレン王国運命の日 異世界2年目突入
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願いと思い、そして未来へ 3

目が覚めると、心配そうに私の顔を覗くレイーヌと目が合った。


「お嬢様! よかった……」


随分心配させてしまったようだ。

ぽろぽろと涙をこぼすレイーヌの姿が、

映像のレイーヌと重なる。


「大丈夫よ。全て私が片付けるから……」


私はそっと口に出して、

レイーヌの身体をそっと押す。

レイーヌは驚いた顔をすると、

私の身体を慌てて起こした。


私は窓まで近寄って外の光景をこの目に映す。

映像では悲惨な光景でしかなかったけれど、

窓の外ではひとり一人に命があり、

それぞれが生きようと必死に戦っている。


こんな悪夢は、早く終わらせましょう。

そして、皆と……。


「『破滅の襲来』発動」


ゆっくりと手を天に向けて上げ、

一気に振り下ろす。


すると、無数の光が地上へ落ちていく。

よく見ればその光はクロスの形をしている。

名前は物騒だが、見た目は綺麗だった。


黒い大地に無数の光。

誰もが手を止めその光景に息を呑む。

その光は迷うことなく、魔物一匹一匹に向かって落ちていく。

その光に当たった魔物は、一瞬でその姿を屍に変える。

そして魔物たちの断末魔があちらこちらから響き渡る。

同時に死の匂いが鼻を突く。


次々と魔物だけが倒れてゆき、

最後に残ったのは、人間と大量の魔物の死体、

戦いの跡が残る黒い大地だけだった。


「お、お嬢様……?」


「レイーヌ、終わったわ。全て」


振り返ってレイーヌの顔を見てみると、

床にへたり込み、

驚いているような怖がっているような変な顔をしていた。


「どうしたの? 魔物は全ていなくなったわ。

死ぬかもしれないなんて怯えなくて済んだでしょう?」


「お嬢様、一体何が……?」


そっか。レイーヌはこの状況についていけてないのね。

まあ、誰だってこんなの見たら驚くわね。

誰も私みたいな"力を持っていなかった者"がやったなんて思わないだろうし。


「レイーヌ、話は後でしましょう。

折角の紅月の祝い日ですもの。

とても綺麗な紅色の月だし、

高い塔を選んだのも月が見えやすいようにと思ったのよ。


まあ、下が見られるものではなくなってしまったから、

ここではダメになったけれど」


窓の外には綺麗に輝く紅色の月が見えている。

ここで、レイーヌとの約束を果たそうと思ったけれど、

とてもじゃないけど出来ない。


「お嬢様、ただいま戻りました」


私とレイーヌの前に、

ワープでやってきたフェリスとヒルクが現れた。

二人とも見た目に怪我は見えない。


「フェリス、ヒルク、怪我は?」


レイーヌが心配そうに二人に訊くが、二人は首を横に振った。

その答えにレイーヌがホッと息をついている。


「約束を果たすことが出来そうでよかったわ」


今とても安心している自分がいる。

家族の誰も失うことなく、今からを話せることに。


「さあ、紅月の祝い日よ。

約束通り、4人で紅月を見ながら、紅茶を飲んで、フェリスの作ったお菓子を食べましょう?」


レイーヌを見ると、とても嬉しそうに微笑んでいた。

レイーヌとの約束のために、フェリスには頼んでおいたのだ。

魔物の殲滅が終了したら、塔でおやつタイムが出来る準備を。


「フェリス、予定変更よ。

今すぐ城に帰るわ」


「はい、お嬢様」


フェリスに抱えられる。

レイーヌとヒルクはすぐ傍まで来ていた。

フェリスの魔法で一気に家まで戻って来る。


「短い数時間、家にいなかっただけで、

随分と懐かしい気がするわ」


何もない部屋、街へ行って家具を増やしたものの、

まだ絶対に必要なものぐらいしかない寂しい部屋。

けれどこの部屋が、この城こそが私の暮らす場所。

私の居場所。


皆でベランダまで来ると、

フェリスは手際良くおやつタイムの準備を始める。

ヒルクも手伝い、そんなに時間を掛けることもなく、

おやつタイムを始めることが出来た。


フェリスに頼んで、塔で食べられるように

テーブルと椅子を持って来て貰ってたけど、その必要はなかった。

紅月の光が私たちを照らす中、

空間に入れていたテーブルにフェリスの作ったお菓子が乗り、

椅子に4人が腰掛ける。


「まあ! フェリス、今日はシュークリームなのね!」


「はい、今回のシュークリームは、

特別クリームを多くしております」


フェリスのその言葉に目を輝かせるレイーヌ。

レイーヌのそんな反応に苦笑を顔に浮かばせているフェリス。

そんな二人を微笑ましそうに見ているヒルク。


「さあ、いただきましょう」


こんないつもの光景を見ることが出来なくなってしまいそうだったなんて……。

信じられないわね。


「フェリス! 今日のシュークリームも美味しい!」


「それは良かったです。お嬢様はどうですか?」


「ええ、美味しいわ」


美味しいを顔全体で表現しているレイーヌと、

黙々と食べているヒルク、

それは良かったです。と笑顔で言い、

3人が食べるのを見てから、落ち着いて食べ始めるフェリス。


「……ああ、やっぱりいいわね」


私の選択は間違っていなかった。

ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届かなかったようだ。


シュークリームを食べ終わると、椅子に座ったまま、

真っ暗な夜の闇に浮かぶ、綺麗な紅月を眺めた。


「綺麗ですね、お嬢様」


「そうね」


フェリスの落ち着いた声を聞きながら、赤い月を見上げる。

たまにはこんな風にのんびりするのもいいかもしれない。

横を見ると、紅月を見ているフェリス、

うとうとと眠たそうに目を擦るレイーヌ、

夜風を感じているのか、目を閉じているヒルク。


こんな風にのんびりできる時間を、

増やしてもいいかもしれないわね。


けれど、こんな静かにのんびり出来たのは、

嵐の前の静けさ故だったのかもしれない……。

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