レイーヌ 王家の力
いよいよ紅月の祝い日になるまであと2時間。
紅月の祝い日にはお嬢様が何とかしてくださる。
そのためにはお嬢様が目覚められた時、この状況をちゃんとお嬢様に伝えなくては。
私が出来ることはそれくらい。
「どうか、あの日と同じような惨劇が起こりませんように……」
紅月が地を見下ろしている中、レイーヌは天に祈っていた。
自分の故郷が人間に襲われたことを思い出した。
たとえ憎むべき人間だったとしても、
そんな人間にだってあの頃の私のように大切な家族や友人がいる。
私のように悲しみに暮れる者はいない方がいいに決まっている。
「あっ!」
人間の兵が攻撃を受けて倒れた。
あの日の惨劇で命を落とした者たちの姿が脳裏に映る。
「傷付く者が一人でも少なく終わりますように……」
何度も祈りを捧げていると、レイーヌに変化が訪れた。
突然体が光り出したのだ。
「えっ、何これ?私どうしてしまったの?」
見に覚えのない出来事に頭のなかは真っ白になる。
やがて光は収まり、レイーヌはハッと自分の体を見る。
けれど、変化はどこにも見られず、
何事もなかったかのように突っ立っているだけだ。
「こんなこと今までなかったのに……」
搭の外を見てみると、変化が起きたのはレイーヌだけではなかった。
魔物と対峙している兵士の人たちも光っていた。
みるみるうちに兵士の人たちが疲労から歓喜へと顔色を変えている。
すると、魔物に押されていた兵士は押し返し、倒れていた兵士は立ち上がった。
「いったい、これは……?」
レイーヌは突然訪れた変化に驚きを隠せなかった。
お嬢様を起こしてこの状況を知らせるべきなのか、思考を巡らせていた。
「レイーヌ、何があったの?」
後ろを振り向くと、今まさに起こそうか悩んでいたお嬢様が立っていた。
何か大きな力を感じて目が覚めた。
眼を開けると、眠気眼には刺激が強い光が目に入ってきた。
大きな花火でも上がったんじゃないかと思うほどの強い光。
「何なの?近所迷惑ね」
手で光を遮りながら光源のほうを見ると、なんと光源はレイーヌだった。
レイーヌが体から光をだす能力を持ってるなんて聞いたことが無かったけど……。
光が少しして収まった。
後ろからレイーヌに声をかけると、レイーヌはポカンとした顔をしていた。
「レイーヌ、何があったの?」
というより、あなたは発光能力があったの?と聞きたいけど、
この様子だと本人も分かっていないみたいね。
「お嬢様。い、いきなり私の体が光って……
そしたら、外の兵たちも光って。なんだか今までと違うみたいになって!」
レイーヌは少しパニックになっている様子だった。
とりあえず、レイーヌを落ち着かせて窓の外を見る。
レイーヌの言うとおり、寝る前までは疲れが見て取れた兵士たちの動きが、
回復しているように元気になっていた。
「これは。レイーヌ、心当たりはないの?」
「いえ、特に思い当たることは…」
レイーヌはふと何かを思い出したように声を上げた。
「お嬢様、エルフの王家に伝わる力の正体を御存知ですか?」
いきなりの話に少し驚いた。
そういえばレイーヌはエルフの王族だったことを思い出した。
「エルフという種族の、それも王家の血筋にしかない力としか知らないわ」
「お嬢様がそう言うのも仕方ありません。
エルフの王家の力は王族にしか伝えられていませんから」
門外不出の話だから知らなかったのね。
ある程度の知識なら女神から貰ったから存在は知っていたけど。
詳しくは知らないのよね。
「エルフの王家が持つ力は王族ひとり一人で違います。
ある者はどんな武器にも防具にも勝る槍。
ある者はどんな強力な魔物でも破ることが叶わない鉄壁の結界。
どんな姿形なのかも分かりません」
「まさか、さっきの光が王家の力だとでもいうの?」
私の『主の加護』のスキルによって魔法が使えるようになったのなら、
王家の力だって使える可能性は十分にあるわね。
「おそらくは」
レイーヌは頷いてゆっくりと塔の外を見た。
同じように外を見てみると、騎士たちからはすっかり疲労は見られなくなった。
「これがレイーヌの王家の力なのね」
「『傷付く者が一人でも少なく終わりますように……』と願ったらこうなりました。
なので恐らく私の力は治癒系のものなんだと思います」
まさかこんな形でレイーヌの力を知ることになるとは思わなかった。
そもそも、レイーヌの王家の力には期待してなかったし、
王家の力が無くても『誕生日おめでとう』スキルで何とかなると思ってたし。
「でもやっぱり敵の数が多すぎるわね。
予想の3万よりも多いわ。
3万対5千なんてそもそも桁が違うもの」
「でも、お嬢様がいるんですもの。
なんとかなりますよね?」
「そうね。女神次第かしら。
私のスキルは万能ではあるけれど、
それは女神が認めなければならないわ」
そう、そこが少し不安だったりする。
意地悪な女神が私の願いを断った場合、
私は何も出来なくなる。
「きっと大丈夫です。
神は私の願いを叶えてくださいましたから」
そう言って私の手を両手で取り、レイーヌは微笑んだ。
そうね。いざとなれば何が何でも願いを叶えて貰いましょう。
「レイーヌ紅月の祝い日まで、後何時間?」
「もうそろそろだと思いますけど……」
レイーヌが呟いたときだった。
私の頭の中に1年前に聞いた声が聞こえてきた。
前回投稿したときにアクセス数が今までにない伸びを見せました。
これも読んでくださる読者様のお蔭です。
感謝の気持ちで一杯です。
本当にありがとうございます!




