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馬車の中で

家の方向に踵を返すと慌てて走ってくる人が一人。

宮廷魔法使いだった。


「あの、お嬢様。

良ければこちらの馬車をお使いください」


「いいえ、結構よ。フェリスに連れて帰って貰うから。フェリス!」


「はい、お嬢様」


私が呼ぶとフェリスは一瞬で私の前まで来た。

その後ろからレイーヌとヒルクもついてきた。


「失礼します」


フェリスが私を横抱きにした。

そのまま家に帰るのかと思ったら、

フェリスは何故か私を馬車の方へ連れて来た。


「ちょっと!フェリス」


「お嬢様、約束ですので」


はあ?約束なんて聞いてないわよ。

どういうことなのか、目線で説明を催促するとフェリスは話した。


「ネフィル様が、騎士を呼ぶために国王に掛け合って頂きました。

そのお礼として、お嬢様とお話しされたいと、ネフィル様は仰いました」


「はあ?結局国の騎士が来た時は、フェリスが終わらせてたじゃない。

何故、お礼をすることになってるの?」


騎士は何の役にも立っていない。

だったら、礼なんてする必要ないわよ。


「お嬢様、騎士を連れ出す理由の表向きは、あなたを我が国の城へお迎えすることなのです。

一度我が国の王に会ってはいただけませんか?」


「それに頼んだのは私です。お嬢様。

勝手なことをしたと分かっています。

ですが、私はお嬢様が心配で…」


宮廷魔法使いとレイーヌがそれぞれ言った。

はぁ……。レイーヌが頼んだのね。


「分かったわ。でも、人間の国の王になんて会うつもりないから…。

馬車には乗ってあげるけど、王には会わないから」


フェリスに馬車の中に降ろされる。

そして、ヒルクが入ってきて私の右に座る。

フェリスが私の左に座る。


レイーヌと宮廷魔法使いは向かい側の椅子に座った。

私から見て、向かって右がレイーヌ左が宮廷魔法使いだ。


「ねえ、何でこんなにキツイの。

何で、私が大の男二人に挟まれてるの。

何で、馬車を分けて使うって発想がないの!?」


「お嬢様、僕の隣は嫌ですか?」


悲しそうな顔でフェリスが私に訊いてくる。


「はぁ…。そういうことじゃないのよ……。

あのね!好き嫌いどうこうよりも、居心地が悪いって言ってるの。

ヒルクは向かい側に座ったらいいじゃない」


せめて、私の左右はレイーヌと宮廷魔法使いでしょ。

何で男に左右挟まれなきゃいけないのよ。


「お嬢様、これが一番いいのです。

一番危険な扉側は僕とネフィル様がいます。

もしも、反対からの攻撃が来た場合、ヒルクさんとレイーヌさんがいます。

この配置こそ、もしものことがあった場合、

お嬢様をよく守ることが出来るのです!」


もしもなんて起こるわけないじゃない。

私の命なんて狙ったって、意味ないわよ。

私はお金を持っているわけじゃないんだから…。


「だから……」


私がフェリスに反論しようとした時、馬車の入り口から男が入ってきた。

入ってきた男は竜王だった。

さっきまでの姿ではなく、人間と何ら変わりない姿に戻っていた。


「あっちへ寄れ、我が入れんではないか」


なに一緒に行くみたいになってるの?

本当に勝手な人。


「まさか一緒に来る気?」


「当たり前ではないか!我はミーリスの兄ぞ。

可愛い妹と居たいに決まっておろう?」


「もう勝手にして」


もう何も言いたくない。

竜王の城で何を言っても無駄なことがもう分かってるから。


「フェリス、竜王が私に何かしようとしたら、止めなさい」


「はい、お嬢様」


もしかしたら、馬車が襲われるよりも

竜王が近くにいる方がよっぽど危険な気がするわ。


間もなく馬車が出発した。

馬車の周りを馬に乗馬した騎士たちが走っているようで、

馬車の周りからはパカパカと馬の足音が絶えない。


「とても静かとは言えないわね。寝たかったのに」


「よし、分かった。では我が周りの騎士共を血祭りにあげてやろう」


「やらなくていい」


そんな所で張り切らないでほしい。

竜王が血祭りなんて、本当にしそう。


「お嬢様、私の話を聞いてくださいますか?」


「………聞くだけよ」


私はフェリスの肩に凭れ掛かった。

特に深い意味はない。ただ、こっちの方が楽だから。


「実は、メイベの森は今、どの国の所有地でもないのです。

今までは、メイベの森に価値はなかったので、土地も持つだけ無駄だったのです。

ですが、お嬢様の城という価値のあるものが出来た。


今の所、メイベの森のお嬢様の城の存在に気付いているのは我が国だけです。

他国が城の存在に気付く前にこちらとしては、我が国の所有地に入ってほしいのです。


そのことも含めまして、国王陛下に会って頂きたいのです」


「さっきも言ったけど、私は王に会う気はないわ。

そして、あの家は私の物よ。

メイベの所有地に私の家が含まれるのなら、

メイベの所有地は私の物よ。


あなたの国の王にそう伝えなさい。

それでも何か文句でもあるのなら、聞いてあげる。

王自ら私の家にきなさい」


誰にも文句は言わせるつもりはないけれどね。


「そうですか。無理矢理城へ来ていただくわけにもいきません。

お嬢様の言葉を国王陛下にお伝えしましょう」


馬車は、このまま真っ直ぐ私の家まで帰って来た。

その間、襲われることもなく、うるさいだろうと思っていた竜王も大人しかった。


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