竜王とお嬢様のピンチ
とある城、その玉座に座る一人の王がいた。
自分の配下たちがせっせと仕事をこなしているが、
王は椅子にふんぞり返り退屈そうな顔をしている。
「おい、気晴らしがしたい。
この頃、力の限界も感じておるしな。
我はしばらく戻らんからな」
「お待ちください!竜王様!」
部下の一人に立ち上がりながら言う。
部下の一人が止めてくるが、我にそんな軟弱な力など効かぬ!
「うわああぁ!」
部下を薙ぎ払い堂々と部屋から出て行く。
もうこうなった我を止める奴などいない。
誰もが我に歯向うなど無謀だと分かっているからだ。
「ふん!どいつもこいつも使えん奴らだ」
3年前、我の妹、ミーリスが複数連れていた部下共々死んだ。
ミーリスが乗っていた馬車が襲撃を受けたらしい。
我が直接見たわけではない。
だが、報告した部下は真剣そのものだった。
我は信じていない、あんな可愛い妹が死ぬはずがない。
いつだって無邪気に笑っていたミーリス。
お兄ちゃん、と我を呼んで笑いかけていた。
まだ、10にも満たたない年だった。
報告があった日から何日経ってもミーリスは帰ってこなかった。
犯人も特定できていなかった。
どこかで生きていて何か事情があって帰って来られないだけだと
我は今でも信じている。
大好きなミーリスが死んだ報告を受け、
部下に捜索の命をだし、
我は3年。ひたすら部屋に引きこもっておったが
大臣達に部屋から追い出され、
この頃ようやく仕事に復帰できたのだ。
そして溜まりに溜まった仕事を片付けているうちに飽きた。
何か気分晴らしがしたくなったのだ。
ミーリスのおらぬ城など静かすぎる。
城の出入口の扉へ向かう。
城の正面の扉から出て城壁まで歩き、城下町に出る。
今日も我が国は賑やかで平穏だ。
城下町を歩きながら魔力探知を使い国の外を探す。
この近くに我を超える者はいないことは既に分かっている。
魔力探知の範囲を広げて探す。
「おお、知らぬ間に西の方向に少々強い者がおるな!
たまには魔力感知をしておくもんだな」
ここからは我の全力疾走で2日か?
ふむ!楽しみだ!
ニヤリと笑みを浮かべ反応があった方向に目を向ける。
城から出ると真西を目指し、走り出した。
「どうしましょう…。大臣様。
竜王様が出て行かれてしまいました」
竜王の出て行った城で竜王の配下の一人が大臣に問う。
「ええ、でも致し方ないでしょう。
竜王様も大切な妹君を亡くされたのだ。
精神的に参っている所に我々が無理矢理仕事を押し付けたこともある。
ほおって置きましょう。
竜王様ならそうそう死ぬことはありません」
本当は仕事をして少しでも妹君を忘れてほしかったのですが…。
あんなに溺愛されておったのだ、無理もない…。
竜王様まで死ぬような事がなければ良いのですが…。
ここはレイーヌさんの部屋。
今、お嬢様にとても似合う服をご用意いたします
と言ったとおりに服を用意しようと思ったのですが…。
「どうしたら良いのでしょうか?」
「そうね。ここにはロクに何もないものね。
服すらないなんて、初めは驚いたものよ。
お嬢様がいいと思ってるのなら言うべき事でもないと思っていたんだけど」
そう、この城には服の一着もありません。
硬貨もないので買うこともできません。
硬貨があったとしても、初めての街はお嬢様と行きたいので、
買いに行くなどしなかったでしょう。
「それで、レイーヌさんに知恵をお借りしたく…」
レイーヌさんは考える素振りを見せるが、
一向にいい案が浮かんでいない。
「と言われてもね。
布でもあれば私が手作りしてもいいんだけど…」
「レイーヌさんはお裁縫が出来るのですか?」
「ええ、姫としての嗜みよ!」
レイーヌさんは得意気に胸を張って答えた。
「う~ん、どこかに布でも落ちてないかしら?」
「あの、お風呂場のタオルは使えませんか?」
お風呂場のタオルは異様に多い。
そこから何枚か取っても大丈夫でしょう。
「あの生地は服には向いてないのよ。
身体を拭く用の柔らかい生地だから。
どっちかと言うと部屋着向き?」
はぁ…。何故体を拭くタオルは用意していて
普通の服を用意していないんですか!神様!!
「うーん、どうすればよいのでしょうか…?」
パリン!
遠くの方で何かが割れたような音がした。
「何!?この音。何かが割れた音?」
「寝室の方からです!
お嬢様の様子を見てきます!」
音がした方向から考えると嫌な予感がする。
「ええ!」
僕はワープでお嬢様の寝室に行った。
「何よ!離しなさい!」
「お嬢様!」
そこではお嬢様と人間のような男。
でも、魔力からして人間ではないことが分かる。
そして、男はお嬢様の腕を掴んでいる。
「フェリス!」
「クソッ!ここじゃ話すこともできないな」
男はこちらを一瞥するとイライラしたように話していた。
僕はお嬢様の方へ走る。
が、それに気づいた男がお嬢様を抱き上げた。
「な!何するのよ!主の……フグッ!ふっー!ううー!」
「少し黙ってろ」
男はスキルを発動しようとしたお嬢様の口を手で塞ぎ
そのまま、開いた窓ガラスから飛び降りた。
僕も後を追うように飛び降りた。
そこから男は全力疾走で走って行く。
僕も追いかけるように走るが追い付けず、
逆にどんどん距離が引き離される。
「お嬢様!」
とうとう、相手の姿が見えなくなるほどに引き離されてしまった…。
僕は地面に膝を着いた。
「くそぉ!なんて僕は無力なんだ!」
地面に拳を何度も何度も打ち付けた。
拳が痛む。だがそれ以上に自分が許せない。
一度ならず二度もお嬢様を危険にさらしてしまった。
「何であの時お嬢様の近くにいなかったんだ…!
何でもっと早くお嬢様に手を伸ばすことが出来なかったんだ……!
何で!何でっ!!」
「もうやめなさい!」
振り返れば走って来たのか、レイーヌさんとヒルクさんが
息を乱して立っていた。
「一端城に戻って考えましょう。
何をするのが一番最適なのか。
少なくともこんな所で自分を責めているよりマシよ」
「はい、すみませんでした…」
それから城に戻りレイーヌさんとヒルクさんが話し合っている中、
僕はその話を聞かなくてはいけないのに
話が耳に入ってこなかった…。
「重症ね」
「大丈夫でしょうか、フェリス。
怒りで周りが見えなくなることはなさそうですが。
あれでは精神にとても来ているでしょう」
「そうね。でもここはフェリスに頑張ってもらわなきゃ!
もちろん、私たちも頑張るのよ!」
「分かっていますよ、レイーヌ」
レイーヌさんとヒルクさんは部屋に籠り話し合いを始めた。




