ダンジョンの成果
家の長い廊下をフェリスに抱かれて運ばれている。
やっと、疲れなくて済むのね。
ユラユラと揺れながらそんなことを考えていると、
フェリスが話してきた。
「すみませんでした、お嬢様」
「もう、謝罪はいいって言ったでしょ?」
さっきからフェリスが謝ってばかりで、
さすがにうんざりしてきた。
「ですが…僕がお嬢様にあんなことを言わなければ…」
「ええ、だからもう言わないでね」
「はい……。
すみません、こんなウジウジしてしまって。
自分を責めてしまって、中々切り替えが出来ない人なんです」
はぁ…。
フェリスが全部悪いわけじゃないって普通なら分かるはずなのに。
何でそれを全部自分が悪いみたいに言うの?
やっぱり変な人。
「それが分かってるなら、さっさと切り替えてよ」
「はい」
丁度話が一段落した所で寝室についた。
フェリスが扉を開けようと手を掛けて
ドアノブを捻った所で、問題が起きた。
ボキッ
「あっ…」
「何?フェリス、私を寝かせたくないの?」
ドアノブを捻る前にドアノブがボキッと折れてしまった。
一体何がしたいのよ…。
ジト目でフェリスを見ていると慌てたようにフェリスが弁明してきた。
「いいえ!そんなことは…。
少し力を入れただけです!
もしかしたら、脆くなっていたのかもしれませんね…」
神様に家を出して貰ってから
1か月も経ってないのに?
へぇー、神は随分と脆い家を寄越したのね。
「とりあえず、隣の部屋にでも入りましょう?
そっちはフェリスの部屋よね?」
「…はい」
一つ右隣の部屋はフェリスが使っている部屋。
今度は私がドアノブを捻った。
何度も壊されたんじゃたまったもんじゃないわ。
「ベッドに寝かせて」
フェリスが私をベッドに寝かせて、
フェリスはベッドの端に立っている。
「で?何でこうなったの?
心当たりは?」
「えっと、実は城から去った後、
自分自身を許せなくて、ダンジョンに行っていました。
そこで魔物を沢山狩っていたので、
ステータスが上がったのかと……」
ダンジョン、ね…。
魔物を沢山狩ったにしては、ステータスの上がりようが凄い。
自分で制御できない程に上がるなんて…。
どんだけ魔物を狩ってきたのよ。
それに、もう一つの可能性…。
「『主の加護』発動」
って、嘘でしょ…!?
フェリス、いったい何があったのよ…。
『500』
ありえないでしょ!!
前は『144』だったじゃない!
「はぁ…。
フェリス、あなた…やっぱり変人ね」
「はい…?」
まあ、こんなに数値が上がってれば
自分で制御できないぐらいステータスだって上がるわよ!
「あなたの今の数値を教えてあげる。
500よ。500。信じられないわ。
普通はね。こんな一気に上がらないの。
私から離れればそれだけ下がりやすいし上がりにくい。
離れててこんなに上がるなんて、やっぱり変人ね」
「そうなのですか……」
しょうがない。
今までは面倒だからやってなかったけど…。
「『主の加護』解除」
「えっ!お嬢様!!」
驚いて私を見るフェリス。
「しょうがないでしょ。
このスキルがあれば、被害が出るのはドアノブだけじゃないわ。
魔物倒してステータスが上がったのなら、
私のスキルは非常時に掛けたのでいいはずよ」
「はい…」
フェリスが凄く落ち込んでいる。
そんなに加護がある方がいいの?
加護があると強くなれるから?
「それにしても、何で急激に数値が上がったの?」
「それは、多分。
僕はダンジョンにいる時、ずっとお嬢様の事を考えていました。
そして、自分を責めて、気を紛らわすように魔物を狩って。
とやっていたからだと思います」
えっ、フェリスがずっと私の事を考えていたの?
うわっ、鳥肌が立つ。
それにしても、このスキルの値は私をどれだけ信用しているか。
だったはずだけど…。
私に対する思いでも数値は上がるのかしら…?
だったら、逆に私を嫌いだったら数値が低いってことになるけど…。
何ともいえないわね。
「ほんと、変人ね」
意味不明な数値出して帰って来るなんて…。
「えっ、お嬢様。
今、何か言いましたか?」
私がボソッと言った言葉は聞こえなかったみたい。
「何でもない。
ダンジョンはどうだったの?」
「そうでした!
お嬢様にお土産があるんです!
これです」
そういってフェリスは何もない所から
結構大きい赤い宝石を出した。
「今の何?」
私が気になったのは宝石よりも
何もない所から宝石を出した手品のような技だ。
「これは、時空魔法の一つです。
空間に穴を開け、そこに物を収納することが出来るんです」
「そう、便利ね。
時空魔法」
「はい。他にもワープという場所を移動する魔法や
古くなった物を新品だった頃に戻す魔法などがあります。
機会があればお見せします」
フェリスは手に持っていた赤い宝石を
私に手渡した。
「この宝石はダンジョンの50階にいた魔物から
手に入れた宝石です。
お嬢様に似合うと思います」
魔物ね。
異世界っぽくなってきたわね。
「ダンジョンには、宝石があるのね」
ダンジョンなんて知らないし。
もちろん言ったこともないから
どんな所なのか、知らないのよね。
神から貰った知識の中にダンジョンの事はないし…。
「はい、他にも手に入れた物がありますが、
ご覧になりますか?」
「多いの?」
「はい、結構手に入れましたから」
結構って、どれだけ狩ったのよ、フェリス。
フェリスってまさか戦闘狂じゃないわよね。
「じゃあ、いい。
手に入れた宝石はどうするつもり?
宝石ばかり持っていても外に出る機会なんてないんだから」
「ダンジョンからは、宝石だけでなく
防具や武器も出ます。
冒険者はそれらをギルドに売ることで稼いでいる人もいるようです」
「ふ~ん」
冒険者ね。
よく、主人公がそれで注目されたりしてるけど。
私には無縁の話でしょうね。
「まあ、フェリスの物なんだから
好きにすればいいんじゃない?」
「いいえ、僕の物はお嬢様の物です。
僕がダンジョンで手に入れた物は全てお嬢様の物です。
売るなり捨てるなり、お嬢様のお好きにどうぞ」
お好きにって…。
それでいいの?まあ、フェリスが言ってるんだし。
いいんでしょうね。
「じゃあ、この家には1円もないから売りましょう」
「お嬢様、イチエンとは何ですか?
何か必要な物でもありましたか?」
不思議そうに見てくるフェリス。
まさか、日本のお金の単位が分からないなんて…。
「は?前の世界の料理が作れるくせに
お金の単位を知らないの?」
そうか。食べ物が違うんだから、お金だって違うわよね。
なんたって違う世界だもの。
「は、はい…。
お恥ずかしい話なのですが。
僕、お嬢様には美味しい物を食べてほしくって…。
練習しました」
私のためだけに練習したの?
和食とか、たまに洋食も出て来たけど、それ全部練習したの?
「あなた、頭おかしいんじゃない?
何で他人のためにそんなこと出来んのよ」
フェリスの思考にいまいち理解に苦しむわ。
「お嬢様は他人ではありません!
お嬢様は、僕の大切な人です!
大切な人に美味しい物を食べて貰いたいと思うのは、
自然なことです!」
フェリスが急に真剣な顔で言った。
そう、私には到底理解できない事ね。
だって、大切な人なんて今までも今もいないもの。
「いいや、なら近くの街にでも行って
フェリスが売って来なさい」
「あの!お嬢様も行きませんか!?
朝のお散歩は湖だけでは飽きませんか??」
何でこう必死そうなんだろう?
まあ、行かないけどね。
「もちろん、お嬢様が行きたくないと言うのでしたら、
僕は諦めますが…」
今度は凄く悲しそう。
何なの?
「分かったわよ。
行くから、その顔はしないで」
「ほんとですか!!」
露骨に嬉しそう…。
そんなに街に行けることが嬉しいの?
街なんて人間が沢山いるだけじゃない。
「その代り!私は今この服しか持っていないの。
それはフェリスも知ってるわよね?
だから外に来ていく服を用意して」
「はい!分かりました!
お嬢様にとても似合う服をご用意いたします!」
任せろと言わんばかりに張り切っている。
街とかほんとはあまり行きたくないんだけどね。
まあ、フェリスにあんな顔されたら、
断るわけにもいかないじゃない…。
でも、お金もないのにどうやって服を手に入れる気なのかしら…。




