ヒルクを家来にする
コンコン
「お嬢様、お夕食の時間です。
起きておられますか?」
もう、夕食の時間?
早い……。
「今、起きた。
入ってきて」
「はい。失礼します」
フェリスがカートを押しながら入ってくる。
「お嬢様、おはようございます。
と言っても、もう夜ですが…。
無事レイーヌさんが魔法を使えるようになりました。
それに、ヒルクさんも怪我がすっかり治り。
食欲もありました。
それから、ヒルクさんからお嬢様にお礼の言葉を預かっております。
姫だけでなく私も助けて頂きありがとうございました、と」
「あら、誰もそんな事訊いてないわよ?」
「はい、僕の独り言です。
レイーヌさんが廊下に来ていますが。
部屋に入れてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
やっぱり独り言を大声で言うなんて
変なのね、フェリスって。
それにしても、レイーヌが私の部屋に来るなんて、
何か用でもあるのかしら。
「失礼します」
私は体を起こしてフェリスを見た。
「夕食は何?」
「はい、焼き魚と沢庵漬けです」
蓋を開ければそこにはこんがりと焼き色のついた焼き魚と
白いご飯、沢庵の姿。
私用に少な目になっている。
「美味しい」
「はい!ありがとうございます!」
毎度嬉しそうにしているフェリスは置いといて、
未だ寝室の入り口で立ちっぱなしのレイーヌを見た。
「それで?レイーヌ、何か用?」
「はい、お嬢様にお礼を。
ヒルクも私も助けて頂きありがとうございました。
感謝してもしつくせません。
このご恩は、あなたに精一杯仕えることで返せるか、
分かりませんが、精一杯頑張らせて頂きます」
と、土下座をしてきた。
へぇー、この世界にも土下座があるんだ。
「レイーヌ、頭をあげなさい。
あなたは私に仕えるのだから、
助けるのは当然。
でも、あの男を助けた覚えはないわ。
ちゃんとあなたの役目を果たしてね」
さて、どうしようかなー。
そのまま放置しててもいいんだけど…。
「はい、ところで。
私は、どんなことを任されるのでしょうか?
私にはとても重労働は……」
とても不安そうな顔をするレイーヌを横目に
お茶をすすりながら答えた。
「そんな事させないわ。
あなたに任せるような重労働何て今の所ないもの」
私は特にしたいことはないし。
「では、私は何を…?」
「あなたにはメイド兼私の話相手になって貰うわ。
何か他に任せられるような仕事があれば、
加わるけど」
「そ、それだけ、ですか?」
レイーヌは呆気に取られたような顔をしている。
「そうよ。何か文句でもある?」
「いいえ、もっと厳しい事をさせられるのかと…。
それに助けた時にお嬢様は言っていました。
私に自由はないと。
だから、毎日毎日仕事に追われるような生活なのかと…」
私ってどれだけ酷いやつだと思われていたのかしら。
仕事に追われる生活なんて、したくもないしさせない。
「あら、メイドは大変よ?
特に私は自分じゃ何もしないから」
移動でさえフェリスの足を使うんだから。
「それに自由だってないわ。
私の許可なくこの城から出てはダメだもの」
それは逆に言えば城から出なければ
仕事以外の時間は自由ということ、何だけど…。
「はい、頑張ります!」
「この夕食を食べ終わったら
レイーヌの部屋に行っていいかしら?」
「はい。大丈夫です」
少ない量にされていた夕食も全部食べることが出来ないで終わった。
フェリスに先にお皿を返しに行かせ、
戻ってきたら、二人と共にレイーヌの部屋へ行く。
「あの、中にはヒルクも居ますが、
追い出すのですか?」
部屋の前で心配そうに訊いてくるレイーヌ。
「いいわ。
男が何かしそうになれば、
あなたが止めれば良いだけよ?レイーヌ。
出来るわよね?」
「は、はい」
レイーヌの表情からは緊張が伝わってくる。
コンコン
「ヒルク、起きてる?」
「ああ」
扉を開けるとベッドに腰掛け
上体を起こしたヒルクがいた。
「ヒルク、いくら魔法を使って怪我を治したとはいえ、
治ったばかりなのよ?
寝ていなきゃダメじゃない」
「もう大丈夫です、レイーヌ。
レイーヌのお陰で痛くも何ともない」
「それなら、良かった……」
と、ヒルクの目線がレイーヌの後ろにいる私たちに向く。
するとヒルクはベッドの上で土下座した。
「レイーヌを助けて頂きありがとうございました。
それに俺まで、初めは疑ってしまって悪かった。
レイーヌから話は聞きました。
レイーヌに魔法まで使えるように手助けしていただいたと」
「『主の加護』発動」
フェリスは『144』
レイーヌは『118』
そして、ヒルクは『100』
「ヒルク、合格よ」
「「えっ!」」
まさか、30から一気に100まで行くとは思っていなかった。
けど、ヒルクもレイーヌから話を聞いて信頼できると思ったのね。
「あの、もしかして合格って…」
レイーヌが不安げに訊いてくる。
「私のスキルで合格基準を超えたってこと」
「本当ですか!ってことは」
ヒルクを見つめて問う。
「ヒルク、あなたがもし私に仕える気があると言うなら
あなたの分の部屋も用意するし
あなたの分の食事も用意させる。
どう?」
「あの…。俺が仕えるのはレイーヌで…」
仕える者がすでにいるから迷っているのでしょうね。
自分としてはレイーヌの部屋にいつまでもいてはレイーヌの迷惑になる。
食べる物だってレイーヌから貰うことになる。
だけど、仕えると決めた者以外に主人を作るのはダメ。
「ヒルク!私はもう姫じゃないって言ったでしょう?」
「ですが…」
「誰も私だけに仕えなさいとは言っていないわ。
あくまでもあなたが仕えるのはレイーヌ。
でも私の命令も聞くし、もちろん私の命が危険になったら私を助ける。
もし、私とレイーヌの二人が危険だったら、
優先するのはレイーヌってこと。
どう?とってもいいと思うのだけど…」
「本当にいいのですか?
そんなことでは俺の忠誠なんて当てにならないのでは?」
「二度も言わせないで。
私に仕える気があるの?ないの?」
私がキッパリとした口調で答えると、
ヒルクは少し考えてから答えを出した。
「……分かりました。
精一杯お嬢様に仕えさせて頂きます」
深々と土下座した。
立って頭を下げることを知らないのかしら?
「なら、ヒルクの部屋はレイーヌの隣ね。
そして、あなたの役割は…。
何かある?フェリス」
思いつかない。
この二人がいなくてもフェリスで何とかなっている現状がある。
「いえ、対外私一人で出来ますので…」
「じゃあ、ヒルクは何が出来る?」
「俺は剣を扱うぐらいしか…。
家事などやったことはありませんから」
まあ、ずっと剣士としてレイーヌに仕えていたのなら、
家事なんて出来ないわよね。
「そう…。当分は体を休めることが仕事ね。私がいいと言うまで。
そうね…、この城に訪問者が来た時は出て貰うことにする。
人間も来るかもしれないけど、出来る?」
もしかしたら、人間がトラウマになっているかもしれないけど、
剣を扱えるなら城を守る門番的なのがいいと思った。
「そんなことなら!お安いご用です!
それだけでいいのですか?」
目を丸くして驚いているヒルク。
まあ、この仕事は楽よね。
そうそうこの城が狙われるなんてないだろうから。
「ええ、レイーヌには大変な仕事を与えてるから」
「そうなのですか!?レイーヌ」
「お嬢様はああ言うけれど、私はメイド兼お嬢様のお話し相手よ?
そう難しい仕事ではないわ」
「そうですか…。レイーヌが大変だったら俺が手伝ってもいいですか?」
男メイド…。ダメだ、想像なんてしたら気分が悪くなりそう。
「体を休める仕事が終わった後、力仕事なら許可します」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げるヒルク。
私、眠たくなってきたわ。
「二人とも、分からないことは全てフェリスに訊きなさい。
私に訊かないでね。
私は自室にいるから。
あ、そうそう。ヒルクは私に仕えるようになったから
レイーヌ、もう監視しなくていいわよ?」
「は、はい!」
二人が頭を下げている中、フェリスに抱かれたまま退室する。
レイーヌとヒルクの嬉しそうな顔が
頭の中で流れる。
いいことをすると、気分がいいなんて。
いつ忘れたのかしら…。




