表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

第三幸その14「狭き道の戦い」

「く……! やるじゃねぇかおっぱいちゃんよぉ! 俺様の動きについてくるとはなぁ!」


 そう言うジョイチの顔面に魔言杖が突き込まれ、シナリーは続く動きで振り上げ、右腕に振り下ろす。


「そうですよー。貴方を防具の上から叩き殺せる程度には〜」

 シナリーは女といっても、幼い頃から勇者としての調整を受けた人間である。


 更にライデッカーから棒術の手解きを受けており、今までの喧嘩で、並の相手に引けを取らなかった。


「おや、キリーは?」

 ジョイチが腕を抑えて距離を離した隙に後ろを見ると、ニアダとエンディックが対峙する向こうに、誰も居ない。


 キリーと側にいた騎士の一人が、消えていた。

 そしてエンディックがニアダに殴り倒され、敗北したのを確認する。


(っ……! これはニアダさんがエンディックんに構ってる間に、二人とも倒してしまう必要が有りますね)


「余所見でガラ空きだぁー!」

 シナリーの予想通り、退かずに隙だと思い、乗ってくれた。

「魔言……!」


「この距離で間に合うかよー!」

 迫る敵に向けて杖を構え、先端より少し離れて魔力円を発生させる。


 光の円は、ちょうどジョイチの顔を覆い尽くすように発現し、一瞬視界を奪う。


「お……な?」

 動揺で止まった鉄棒を持った右手首に左振り払い、そのまま強く振り上げて、脳天に一撃を落とす。

「……ふ!」

 これで終わりではない。

 この攻撃で『二人』倒すつもりなのだから。


「魔言『THUNDER』!」

 すぐに後ろに反転し、ニアダに杖を向ける。

 幼馴染は倒れているため、射線に入らない。それに雷属性の攻撃なら殺傷せず、少量の魔力で人間を無力化出来る。



「魔言『MIRROR』」

 シナリーの杖、ファイスライアの魔力円から雷撃が放たれると同時、ニアダの前に魔力の鏡が現出する。


 鏡に跳ね返された雷光は、使用者へと戻り、シナリーは感電した。

「そ……んな!」



 魔言『MIRROR』は非物理を跳ね返す技術。

 それは光源や魔力攻撃を防ぎ、魔言使い同士の戦いでは、主な防御手段として多用される。



「甘いのぉ小娘。魔言使い相手に、戦士だけで勝負するわけないじゃろ?」


 鏡はすぐに霧散し、ニアダの後ろの物陰から、ローブを着た年老いた女が顔を覗かせた。

 その老婆、リンドはくぐもった声で言う。


「自己から遠くに作用させる攻撃より、身の回りに力を及ぼす防御の魔言の方が、発動は早い傾向が有る。


 よって魔言使い同士の戦いの際、魔言を跳ね返す『MIRROR』を警戒して、魔言以外の攻撃手段をとるのが常道なんじゃよ。


 じゃから……隠れて相手の魔言を『跳ね返し待ち』する方が、楽に勝てるんじゃな〜」



 シナリーは敵魔言使いの存在を知らず、迂闊に魔言を使用してしまったのである。


 倒れ伏すシナリーに近寄ったニアダは、抱きかかえてリンドの元まで連れて行った。


「悪いねぇシナリーちゃん。でも勇者は現実に居たんだよ。フィクションじゃなかったんだよ。なら……文句の1つも言いたくなるよね?




(ディーナ・地下の拷問室)



「私が連れてくるのはここまでのようだ。我々の仲間になりたければ、この女を連れて来るんだな」


 無人の酒場を通り、地下のこの部屋までの道のりで、意外にも何の妨害もなかった。


 ここまで護衛してくれたコーダンに後押しされ少年は、中で椅子に縛り付けられている少女の元まで進んだ。


 血の異臭が漂う空間を歩み、孤独な部屋の主の枷を解いていく。

「やっと会えたねリモネ……『お姉ちゃん』」



 対するリモネは目の前の男の子のことを、信じられないと目を見開く。

「嘘……? キリー……なの? そう、ここはライデッカー神父が居た、アリギエだものね」


「うん……。お父さんがおかしくなって、貧乏になって、僕は神父様に預けられたけど、お姉ちゃんはお父さんの側に残り続けた……。


 それからずっと会いたくて……お姉ちゃんがこんなことになるなんて僕」

 キリーは涙を浮かべながら、姉を支えて立ち上がらせた。


 そしてここに来た目的を告げる。

「僕、全部聞いたんだ。だから一緒に勇者を殺そう? お父さんをおかしくした、勇者って夢を、『良い奴ら』をやっつけようよ?」



 少年の名は、キリー=ブレイブン。

 彼もまた、この世の『善』を憎む者である。




(ティーナ近くの裏通り)




「俺に用か?」

 移動しようとする、ニアダとリンドの後ろに降り立ったのは、緑の勇者だ。


 異形の全身鎧の緑昇は、右腕のグロゴイルを構え、抗戦を促す。


「貴様の口上は上で聞いていた。肉親を失った憤りで、そのまま善良な騎士をやっていれば良かったのだ……。


 今の行動は、八つ当たりに過ぎない」

 振り向いたニアダはシナリーを壁際に下ろし、さぞおかしいと笑う。



「はははは! やっと会えた! 会えたよ母さん! 悪いことをすれば、絶対に寄って来ると思ったよぉ!」


 腐乱夢に取り憑かれた騎士は、大剣で振り上げて走り出した。



 数多の悪を切り刻み、その身に膨大な咎を抱える大食の勇者こと、緑昇。



 今夜、彼は敗北する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ