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第三幸その13「騎士になれなかった愚者は、もう一度騎士道に挑めるのか?」

(孤児院への帰路)



 時刻は夕に近い。

 エンディックは帰る途中で、キリーの背中を見かける。学校帰りなのか、本を入れてるような袋を肩掛けていた。



「よぉ、帰りだな?」

 振り返ったキリーはこちらを視認すると、慌てるように早歩きで進んだ。

 エンディックは首を傾げ、その背中に追いつく為、走る。


「おい、どうしたんだよ? 何か悪いこと言ったか俺?」

 横からキリーを見て、彼は気付く。

 髪や服が所々汚れていることに。袋が汚れていることに。


「キリー……お前」

 キリーは次の言葉を聞く前にエンディックを押し退き、帰り道を走って行った。


 残されたエンディックは、強く追求することが出来ない。

 なぜならエンディックもまた、『経験者』だからだ……。

 もし……彼の予想通りの問題が、学校で発生しているのであれば……。



「大方、孤児院の出とか貧富のネタだろうな……。そうなると、今のキリーの現状は……俺のせいか」

 どう相談し、解決するか? と帰路を歩いた。



 だが既に手遅れなのだ。




 そして夜。

「今から家出したキリーの、生体反応を探知しますね」

 エンディックとシナリーは、キリーを探しに行く為、孤児院を出るところだ。


 夕飯前に孤児院や教会の、どこにも居ないことが発覚したのだ。

 前例の無い家出にサーシャは大心配し、彼女を安心させるよう、エンディックとシナリーは夜道を進んで行った。



「私、ネガティヴですから。もしもを想定して、家族全員の生体反応を魔言『SCOPE』で視て、事前に記録していたんです。


 今から魔力を地面に流して、探知出来た生体反応とキリーの記録を照合します。


 そうして練り歩けば、あの子のおおよその位置が掴める筈です」


 シナリーは魔言杖ファイスライアを両手で縦に構え、杖の下を地面に突き立てた。

「魔言『SCOPE』+『SHOT』」



 彼女の目の近くに薄い水晶体、レンズに似た物が現れ、杖からは広域化した魔力が、地を伝わり広がっていく。


 魔力は現時点で地に接触している生命体に反応し、その反応を水晶体が数値として記録。


 シナリーは水晶体に流れていく数字を読み取っていき、手元の手帳と見比べた。


「キリー以外の家族の反応しか有りませんね。もっと都心部に行ってるのかも……」


 エンディックはそれを横目で見ながら、去来する可能性を示唆する。

「なあ……それ関係無い人間全部の反応も頭に入れるんだよな? かなり……疲れないか?」



「そうですねー。普通の人ならゆっくり少しずつ確認するんでしょうけど、今は緊急時ですから。それに私は普通の人より、体の性能や許容量が高いので……」



 その後もシナリーは、一度に大量の情報を取得しては確認する作業を繰り返しながら、額に汗を滲ませながら、どんどん夜の街の中心部へ進んでいく。




(ライピッツレース会場付近)




「どうしてこんな遠くに……?」

 やがて二人が歩みを止めたのは、緑昇の拠点である酒場が有る、治安の悪い裏通り。

 キリーの反応は、この近くだと言っている。



「念の為持参してきたコイツが、役に立っちまいそうだな」

 エンディックはマモンの犯行の可能性を危惧し、素材の入った袋と小手、鉄棒を持ってきていたのだ。


 二人は嫌な予感がしつつも、キリーの反応が有るその地に向かった。



 キリーの悲鳴がエンディックらの耳に届く。

 駆けつけた先は、狭く長い裏路地。

 そこを進んでいくと、少年を取り押さえている二人の騎士甲冑の男達を発見した。



 エンディックは堪らず前に出る。

「テメー! キリーに何しやがる!」

「おや、エンディック君も来てしまったね」


 暗がりで解らなかったが、一歩進み出た騎士の顔は、ニアダ=ゲシュペーだった。

 村で共闘したこともある、良識的な長髪の男は、今は右手の大剣をエンディックに向け、左腕にはなぜか木製の盾を付けていた。



「どういうつもりだニアダさんよぉ……? 村で戦ったアンタのことは、騎士でも嫌いじゃなかったのによ」


「今は騎士ではなく、銀獣の会の任務として来てるんだ。この街の騎士団は、昔から彼らと縁故にしていてね」


「銀獣の会だと? 巷の風評は嘘っぱちだったのかよ! そんな奴が義姉ちゃんに近付いて」



 突然、シナリーの背後から襲いかかってくる影が。

 シナリーは振り向いて対応し、振り下ろされた短い鉄棒を杖で受け止める

「ほぉ〜、俺っちの闇討ちを防ぐとはなー! こりゃ捕まえた後が楽しみだぜぇ〜?」



 その男も騎士の格好の男で、名前はジョイチという。

 振り向きたいエンディックだが、ニアダの上段に構えられた剣と、殺気から目が離せない。


「背を向けない方がいい。今は僕が君の『敵』になってあげるよエンディック君。いや……黄金騎士」


「ち……ピンスフェルトで顔を見られたか? なら出し惜しみはいらねーな。錬金開始!」


 エンディックは棒を地に突き立て、上に振り上げる。

 撒き上がった土と砂が棒に集まり、彼の獲物の槍となった。色はくすんだ黄色だ。


「へー、原理は理解不能だけど、凄い特技だ。君のことは最近知ってね。

 情報提供者からあの勇者の周辺の者の事情は、既に伝えられているんだ。


 まさか君みたいな若者が、謎の英雄の正体とは……一応僕は君のファンだったんだよ?」



 そう言いながらニアダは、大剣を下げ、両手を後ろに引き、剣と地面とを平行にした刺突の構えを取る。


 この横幅の狭い場所で、長物は不利だ。

 だからニアダの大剣は振り下ろしか、突きを選ぶしかない。



「僕は昔から勇者や英雄が好きだった。だから君のような悪と戦うのヒーローを応援し、そして僕の手で殺すことを、人生の意味だと思ってる。


 だって英雄の存在は非現実的だから、『諦め』がつくんだよ? もし実在しているなら……『許せなくなる』じゃないか!」



「歪んだ愛情ってか? アンタの事情は知らねーけどよ、それって自分が変身出来なかった妬みなのかよ……?」


 エンディックはニアダの暗い気迫に押されながらも、偽物の富を構え、勝因を探る。


 彼も旅の中で様々な敵と対決してきたが、眼前の騎士の方が経験と技量は上だろう。

 恐らく突き合いを選んだのも、こちらの槍を大剣の大きさで押し、強引に急所に斬り込む算段。


 リーチはこちらが上なことから、先に踏み込んで来るのはニアダだ。


「妬みなんて、高等な物じゃない。逆恨みさ。普段の僕は育ての親から教わった、理想の騎士道を目指しているんだ。


 でも今は騎士ではなく、

僕の『一身上の都合』で剣を握ってる。



 勇者を殺す為に……ね。ここに居るのは、勇者に恨みが有る連中の集まりさ」


「……アンタの口からも『勇者』かよ。最近自分も含め、夢見がちな奴ばっか辟易するぜ」



 しかしエンディックには錬金術という、ニアダには予知不可能な強みが有る。


(突く瞬間、槍の長さを変えて、ニアダが目測した間合より長く、先に俺の攻めが届く! 更に横殴りのときは短くすれば、俺に長物の欠点は無くなる。行ける……この勝負、俺の有利だ!)



 小手の機力を集中し、素早く武器の形態を変えられるよう、用意する。

「なぁに、男子たるもの幼き頃は、英雄に焦がれるだ……ろう!」



 ニアダが踏み込む。

 エンディックは敵の間合いになる前に、前に出て槍を伸ばしての先攻を狙うつもり。


 接近するニアダが両手を引き、大きく詰めてくると思った直後。

 逆にニアダの方が届かぬ距離で、その場で斜め下に突きを放った。


 右手だけで伸ばし、手を……離す。

 放たれた大剣は少年に届かず、彼の右足の前の地面に、刃を向けて突き刺さった。

「な……?」


 武器を捨てたニアダは、防具の重さを無視した素早さで、エンディックまで走りこむ。

 エンディックは迎撃の為、左足を前に出し、右足を……の前には大剣の刃が。



 前に足が出せない。


(突きの為の勢いが……足りない!)


 ニアダの右拳が少年の頬を、左拳が顎を、右拳ががら空きになった腹に、左拳がみぞおちに。

叩き込まれた。



「ご……が……あぁ!」

 人は鉄より脆い。

 小手や手甲、盾といった鋼鉄で殴れば、人間は容易く死ぬ。


 ましてやニアダの剛力なら、全身を防具で守っていないエンディックに、膝を着かせるなど造作もない。


「君の錬金術とやらは、魔物の鋼鉄すら分解してしまう、恐ろしい力だ。

 そんな接触出来ない敵と、マトモに斬り合うわけないだろう? 僕の武器を壊されたら困るしね」



 経験の差であり、筋肉の差であった。

 英雄や模範的な騎士を目指すがゆえに、徹底的に肉体を苛め抜いたニアダ。


 鎧を着ていようが俊足、武器が無かろうと、防具を着た体その物が凶器なのだ。

 己の才能と、小手の力を頼りにするエンディックとは対照的であり、彼が過去敗北した『騎士戦闘術』、とりわけ重量戦闘の達人だったのがニアダなのだ。



 ダメ押しにと、脚甲を付けた右脚でエンディックの頭を蹴りつけ、壁に叩き付けた。


「僕が幼い頃、母が強盗に殺された……。そのときなぜか勇者が助けに来なかったんだよ。これっておかしいと思わないかい?」


 頭と鼻から血を流し、無様に呻くエンディックを見下ろす騎士。

 彼の目に光はなく、濁った闇でどこか遠くを見ているよう。



「僕も母も善良な人間だった。ならば悪者に殺されるわけがない。勇者が助けに来るからね。


 でも誰もお母さんを救いに来なかった!

 なら勇者なんか居ないことになる。良い行いをして生きても、何も有益がない! この世に道徳は、最初から存在しないことになるよなぁ!」



 かつて少年だった騎士は、糾弾のように黄金の英雄を蹴りつける。

 まるで黄金騎士こそが、この世に善意を広めた張本人のように。夢や希望、正義や法を塵だと踏み付けるように。



「君はそんな世の中を許せるかい? 僕はとてもじゃないけど、許すつもりはないなぁー」


 ニアダ=ゲシュペーの夢は、腐っていた。

 童心が描いた青い果実は、熟成を通り越し、既に賞味及び消費期限を過ぎている。



 腐った、青い、幽鬼の炎。

 腐乱夢。腐乱夢。

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