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164.思い出して

「そうか、紅竜がまさかそなたの竜であったとは、とアイレン様は仰っています」


「この依頼は私たちの上げたものではないのです。どこの誰が依頼人かも分かりませんでした。ですが、それは我々の管理責任。こうして紅竜が発見された以上、目に余る成果。ここに記述されている褒美は翌日取らせましょう」


 アイレンの傍に仕える兵士の二人が、アーチェにそう告げた。あまりの報酬の多さと、依頼の内容に疑問を持っていたものだが、そういう事情だったようだ。

 しかし報酬が貰えるとなれば、ロロたちからブーイングを喰らうことはなさそうだ。

 

 ルーペも含めて、アーチェたちの四人は無事にダルカナルへ入ることが出来た。本当にルフォーネは話を通してくれていたようだ。彼が一体何者なのか。謎は深まるばかりだ。


 流石にヘリオは中に入るのは無理かと思われたが、昔使われていたという厩舎を貸し出してくれた。そのため、ヘリオも一緒にいることができたのだ。アーチェはそのことに深くホッとしていた。リトはヘリオを狙っていた。一年前にもヘリオを狙いに来たモンスターがいた。ヘリオはきっと何か重要な力を持っているのだ。アーチェはこれからもヘリオを守る必要がある。


「承知しました。僕はこれで失礼します」


 アーチェは兵士とアイレンに向けて一礼をすると、そのまま部屋の外に出た。廊下は重厚な作りとなっているが、あの部屋よりは幾分、空気を入れ替えることができた。


「あ、鳥……」


 窓辺に白い鳥が止まっていた。アーチェがその鳥を眺めていると、突然アイレンの部屋から悲鳴が聞こえてきた。


「どうかしましたか?」


 アーチェは部屋に飛び込んだ。本来なら許されるべきことではないが、何か異常事態が起きているのは確かだ。


「あ、アイレン様が何者かに攫われて!」


 兵士の一人は地べたに突っ伏していたが、もう一人の兵士は無事なようだった。頭を押さえつつも、天井を指さす。天井には大きな穴があいており、そこから太陽の光が差し込んでいた。兵士の言葉から察するに、この先に攫われたのだろう。アイレンはダルカナルで一番強い兵士であると聞いた。そんなアイレンを攫うなど、ただ者ではない。


 アーチェは足に力を入れると、そのまま上へと飛び上がった。そこはダルカナルでも一番高い場所だった。なにせ、籠城の屋根の上なのだ。


「……」


 そこには黒いモヤがいた。アーチェがどんなに目を凝らしても、その人物の体格や顔を確認することはできなかった。何か魔法によって阻害されているのだろうか。黒いモヤはアイレンを片手に抱えこんでいた。 


 攫われる際、抵抗したのか、腕に傷跡を負っている。その手には何も握られてはいなかった。かわりにアーチェの足元にアイレンが身につけていたものとされる剣が落ちていた。手から落としてしまったのだろう。アーチェはそれを拾い上げると、黒いモヤに向けてその剣を向けた。

 持ち上げた瞬間、あまりの剣の軽さにアーチェは驚いた。力のないアーチェでも容易に持てることができる剣だったのだ。この剣で威力が出せるのか不安になってしまうほどに――。


「その人を離せ」

 

「……。……!」


「何だ? 何か言っているのか?」


 アーチェは黒いモヤが何かを伝えようとしている気がした。口元は見えない。だが、何かを言おうとしている。それだけは分かるのだ。その姿がとても悲しそうに見え、アーチェは思わず怯んでしまう。とてもではないが、誘拐を企てた者の雰囲気ではない。


「その人を離さないとなれば、こちらも攻撃するまでだ」


「……!」


「すまないが、何を言っているのか分からないんだ。とにかくその人を離してもらう」


 アイレンはダルカナルを治めている人間なのだ。もし、アイレンがいなくなればダルカナルは一気に混乱に陥るだろう。


「はぁ!」


 アーチェは跳躍すると、剣を相手に叩きつけた。黒いモヤはそれを手で受け止めると、アイレンをその場で手放した。あっさりとアイレンを解放したことにアーチェは驚いていた。


「何が目的なんだ?」


「……。……」


「悪いけど、分からないんだ。何か他に伝える手段があればいいんだけど」


 アーチェはすっかりと困ってしまった。まさか話ができないとは。何かに書いてもらうと言っても、それができるものは今は手元にないのだ。


「……、……!」


 黒いモヤは何かを思い出したかのように、ある方角を指差した。その方角をアーチェは釣られるように見た。


「あの方角? あっちの方角と言えば、レオナード王国しかないはずだけど」


 アーチェにとって馴染み深い国だ。あの国の人間はみんないい人だった。しかし国王は一年前に大きく体調を崩し、それ以来訪れたことはない。何でも国王は誰にも会う気力がないとのことだ。


「くっ……! 私としたことが……!」


「アイレン様」


 アーチェが黒いモヤと対話を試みようとしている間に、アイレンが立ち上がっていた。腕からは血が流れている。


「その武器を私によこすのだ。今すぐにこいつを処刑してやらねば!」

 

 兜をしていて表情は見えないが、鬼気迫っているのがアーチェには分かった。


「え、ちょっとこんなところで、危ない!」


 アイレンが、あまりにも必死に剣を取ろうとする。しかしここは足場の不安定な屋根の上だ。アーチェとアイレンは一緒に屋根から転げ落ちる形となった。アーチェは腕に雷を纏うと、屋根の端を掴んだ。幸いにも、落ちることは回避できたみたいだ。


「うっ! 急に屋根から突き落とすとは、まさか賊の仲間ではあるまいな! いや、しかしルフォーネ様の助言の方か……」


「誤解だよ。僕は――」


 アーチェがアイレンの言葉に答えようとしたその時、アーチェはアイレンの兜が取れていることに気が付いた。アイレンの耳は真っ直ぐに尖っており、顔立ちは端正な女性だった。


 アーチェはその種族を知っている。それはエルフだ。


 

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