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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース3:両想いになりたい(エリカ編)
32/109

第八話

  ■■■

 私たちは電車に乗り、中心街へと向かう。土曜日ということもあって電車の中はかなり混雑していた。私と星野君は吊り革につかまる。正直電車の中で立っているのはいつもの私にとって我慢ならないことなのだが今日は嬉しさが相まってかそんなにも苦痛ではなかった。

 ってか星野君の体が私の体にぴったりとくっついてる~~~! ヤバいよ! 緊張マックスなんですけど! このままだと私、死んじゃうよ~~! 

 私は、全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出していた。

 あぁ……汗ふきシート持ってくればよかった……

 ちょうどその時星野君が私の耳元でささやいてきた。


「エリカ、大丈夫? 足、つらくない?」


 私をいつも気遣ってくれる星野君。顔だけではなく性格までイケメンなのだ。でもまさか星野君のせいでこんな状態になってるとは言えないので適当に答えておく。


「うん、まぁ……でももう少しだから大丈夫だよ」


■■■


 目的地の駅に到着したのでそこで私たちは降りた。階段を降り改札を通る。電車に降りた時から駅を出るまで私たちは終始無言だった。あまりの緊張で何を話していいのかわからず私はずっともじもじしていた。でもなぜかそれでも心地よい雰囲気だった。星野君はあの暑苦しい電車の中から降りても相変わらず爽やか美少年。汗一つかいていない。ってか星野君が汗かいてるところって見たことないかも……(苦笑)

 そんな長い沈黙も終わりを告げる。星野君が駅を出たと同時に私に話しかけてきた。


「エリカ、噂のベルギーワッフルのお店、ここから歩いて十分くらいなんだけど歩ける?」


 急に話しかけてきたものだから私は少々びっくりしてしまい、変な声を出してしまう。


「ウヨエ~!」

「……え?」


 おそらく星野君の頭の中は疑問符だらけだっただろう。


「あっ! ご、ごめん。変な声出しちゃった!」


 一瞬星野君は目を丸くするもののすぐに笑顔になった。というか声を出して笑い始めた。


「はっはっは! エリカってばほんと面白いよね! 普段はちょっとクールなお嬢様って感じだけど、実は結構天然でしょ? はっはっは」

「ちょっと! 星野君ったら! もーう……」


 あれ? なんだかさっきまでの緊張がウソみたいに和らいでいく。自然と星野君と接してる……今、すごく楽しい!

 私たちはじゃれあいながらベルギーワッフルのお店へと足を運んだ。私は最高に嬉しくて この幸せな気持ちを忘れまいとよく噛みしめておいた。


「うわ~混んでるよ……」

「結構待たなきゃいけないみたいだね。どうする?」


 土曜日の午前中、人気店だからかそれとも時間帯のせいなのか長蛇の列をなして人々が並んでいた。


「せっかく来たんだから並ぼう! 私待つの得意だから!」

「ははははっ! 待つのが得意って聞いたことないよ! オーケー、じゃぁ並ぼうか! でも辛かったら言ってね!」


 相変わらず星野君は笑っていた。(まぁ、私が変なことを終始言ってるせいもあって……苦笑)私もその笑いにつられ一緒になって笑う。これが最高に楽しい。星野君といるとずっと笑っていられる私がいた。その時だった。どこかで聞いたことのある可愛らしい声が私の心を沈ませる。


「純!」


 星野君のことを名前で呼ぶ女は私の知っている限りではただ一人……


「おっ! 由奈!」 


 寺田由奈だ……ヤツは私たちに気づいて数メートル先から走ってやってきた。タイトなジーンズに白のワイシャツを合わせ黒のベスト着ている。横で一つにまとめた黒髪を肩にのせ、フェルト製のグレーの中折れハットをかぶっていた。寺田由奈のいつもの雰囲気からはあまり想像がつかないクールでユニセックスな服装だった。


「あっ、西園寺さんも純と一緒だったのねー!」


 相変わらず寺田由奈は私にも笑顔を振りまく。コイツはいつもニコニコしていて正直胸糞悪い。というか必ず私と星野君が一緒にいるときに邪魔をしてくるから本当にたちの悪い女と思う。


「由奈ももしかしてここのワッフル食べに来たの?」

「ううん、この近くのお店でさっき服を買って来たんだけどたまたまここを通りかかったら見たことある人を見つけてね。声をかけたってわけ! ウフッ」

「ははっ、その見たことある人ってのが俺か~」


 アイドルがするような営業スマイル。私はこのスマイルが大嫌い。そのスマイルをこいつは悪気なしに堂々と星野君にしている。

 星野君も星野君で楽しそうに笑いやがって……洗脳され過ぎだっちゅーの……

 私が唇をかみしめている間、この寺田由奈という女はとんでもないことを言ってきた。


「ほしい服買っちゃったし、ちょうど小腹すいてきたところだし、私もベルギーワッフル食べようかな~」


 はぁ!? 何言ってんだコイツは? いつも星野君をだぶらかしてくる……私たちは今、デート中なんだよ! デート中! 

 しかしそんなことを思っていたのもつかの間、星野君もそんな由奈の誘いに乗る。


「おっ! じゃぁ一緒に食べる?」

「え? でも西園寺さんに聞いてみないと……」


 そう言ってこの女はジロジロと私の顔を見てきた。


「エリカ、由奈も一緒にいいだろ? おいしいものはみんなで食べたほうがもっとおいしくなるし!」


 星野君は私のほうを振り向き同意を得ようとする。私は当然、この提案を断ろうとした。


「で、でも……こ、これはデ、デ、デートでしょ……」


 デートという言葉を口に出そうとした瞬間恥ずかしくなってしまい、つい語尾を弱めてしまった。人がたくさんいる状況で小さい声でしゃべると何も聞き取れないのは百も承知。案の定二人は聞き取れなかったようで……


「ん? 由奈も一緒じゃだめかな?」

「……」


 私はなんて答えていいものかわからず俯き自分の真下にあった小石をころころ靴の下で遊ばせる。


「うん! エリカもいいみたいだし由奈も一緒に食べよう!」

「?!」


 私は星野君の答えに目を丸くさせ驚いた。

 どういうこと? 私、「いいよ」なんて一言も言ってないんだけど……ってまさか顔を下に向けた動作を同意して頷いたと思っちゃったわけ?! 

 一方で寺田由奈もそれに喜び、目をキラキラさせ、笑みを浮かべながら私に感謝した。


「西園寺さん、ありがとう! 私、西園寺さんと前からおしゃべりしてみたいなぁって思ってて! 今日はおいしいもの食べて楽しい話いっぱいしようね!」


 そう言うとコイツは私の手を握る。はっきり言ってムカつく!! どうせこの女のことだからシメシメと思ったに違いない。っていうか早くこの手を放してほしい! うっとうしい! 

 二時間後ようやっと店内に入ることができた私たち。店員が営業スマイルで尋ねてくる。


「いらっしゃいませ! 三名様でよろしかったですか?」


 それに星野君が答えた。もちろん答えは――――


「はい!」


 そして私たちは四人がけのテーブル席へと案内される。

 絶対に星野君の横には私が座るんだから! 

 そう思い星野君が奥側の席に座ろうとした瞬間私もつかさずその横に座る。これで星野君の横をキープしたわけだ。

 ざまぁみろ! お前は一人で座るんだ!! 

 私の顔は思わずにやけてしまう。もちろんのこと、この女の横には誰も座らない。

 さみしいだろ? 悔しいだろう? 私が憎いだろう? バーカ! でもね、勝手に入ってきたあんたが悪いんだよ! フン、せいぜい悔しさを噛みしめるといいさ! 

 だかしかし私の想像してたこととは裏腹にこの女は涼しい顔をして奥側の席、すなわち星野君の真向かいに座った。……え? 真向かい? って……自然とお互い見つめ合ってしまう……


「あっ、そうだ! 純に貸したい小説があるの!」


 そういってこの女は自分のバッグから一冊の文庫本を取り出す。


「この小説、超面白いんだよ! 王様が市民に過酷なゲームを課す物語なんだけど、映画化もされてて……」


 星野君はその小説を手に取り、この女の説明を聞いて「へぇ~」と興味津々で聞いている。

 そんなん子供だましの小説、どこがおもしろいのか私に教えてほしいものだ。そう思っているとこの女は私にも勧めてきた。もちろん満面の笑みを浮かべて。でもなぜかもじもじしているようにも見えた……


「さ、西園寺さんももしよかったら読んで……みない?」


 私はテーブルの上に右肘をつきそっぽを向きながら一言だけ返す。


「いい」

「あっ、もしかして西園寺さん、すでこの小説読んだことある?」

「ない。そんな小説面白くもなんともなかったわよ!」


 その時、星野君が急に笑い出した。


「はっはっは! エリカ! 面白くなかったってことは君、この小説読んだんだろ?」

「え……あ……」


 私は言葉を詰まらせてしまう。なぜなら星野君の言う通り私はこの小説をすでに読んだことがあるからだ……


「エリカってガチ天然娘だな! はっはっは」


 そしてこの女も一緒になって笑っていた。


「本当、西園寺さんってば面白い。フフフフッ」


 星野君が笑うのはいいが、この女が私のことで笑うなんて許せない。だってこいつは私のことをバカにしてるから! 

 ムカつく、ムカつく……この女早くどっかに行ってくれないだろうか……この女を殴りたい衝動に駆られながらもなんとか冷静さを装い人気ナンバーワンのミックスベリーのワッフルを来るのを待つ。しかしその間もこの女はしゃべる。星野君と……当然私はこの言葉をこの女に捧げたい気持ちでいっぱいになった。


『死 ね !』


「大変お待たせしました~! ミックスベリーのワッフルでございます!」


 三人の前になんとも豪華で色鮮やかに飾られたベルギーワッフルが可愛らしいお皿の上に乗っていた。


「すごーい! すごいね星野……」


 私の言葉を遮りこの女がはしゃぎだす。


「うわ~! 超かわいい! ベリーがたくさん乗ってる~! アイスクリームも添えられてるよ! よーし写真撮っちゃお♪」


 この女は目をキラキラと輝かせてスマートフォンを手に取る。

 真上からカシャ。斜めからカシャ。どうやら二枚撮ったらしい。


「この写真、二人にも送るね!」

「おう! サンキュ!」


  星野君は笑顔でこの女に礼を言う。


「も、もしよかったら西園寺さんのメルアドも教えてもらえるかな? そしたらすぐこの写真送るから……」


 はぁ! テメェの撮った写真なんて要らないし、お前になんか死んでもメルアドなんて教えてやんないよ! 携帯番号知ってるだけでも十分だろ?! 

 しかしそんなことは星野君の前では言えないので、柔らかく断ることにした。


「自分で撮るからいい」


 そう言い、スマホとさっと取り出し、適当に一枚撮る。


 カシャ


「あぁ、やっぱりこういうのは自分で撮ったほうがいいよね! ハハハッ……」


 無理して笑っているのがすぐにわかる表情。きっと「この女ムカつく!」と思ったに違いない。


「ア、アイス、溶けないうちに食べちゃおうよ!」


 星野君が笑顔で私たちに促す。でも笑顔というか苦笑してる感じ……もっと柔らかく言うべきだったかな……


「そうだね! 私おなかぺこぺこだし! 食べよ、食べよ! いただきまーす!」


 この女の合図で星野君と私もワッフルを食べる。


 パクッ


「おいしい!」


 素直に出てきた言葉。本当にこのワッフルは見た目だけではなく味も抜群に美味しかった。


「うわ! 超うまい! こんなワッフル初めて食べた!」


 星野君も目を丸く見開いてこのワッフルの味に感動している。


「本当においしい! 今まで食べたワッフルの中でもダントツだよ! こんなおいしいお店誰が見つけたの?」

「エリカだよ。この前テレビでこのお店の特集やってたんだって。それで行きたいなぁってエリカがずーっと言ってって、それで今日に至ってるってわけ。なっ?」


 星野君が横にいる私を見ながら話す。慣れたとはいえそんなに見られるとやっぱり恥ずかしい……


「なるほどね! 西園寺さんに感謝しないと! ありがとう……」


 まーただ。この笑顔……そのツラはがしてやろうか……

 結局二時間並んで、しゃべりながらでもそのワッフルを三十分以内で食べ終えた。まぁ、おいしかったからいいか……


  ■■■


 会計を済まそうと私たちはレジへと向かう。星野君が伝票を店員に渡してお金を払おうとするとこの女がそれを止めた。


「今日は私のおごりだよ!」


 そう言うと自身のバッグから財布を取り出す。ふと私はこの女のバッグに付いているきれいな小瓶型のキーホルダーに目を向ける。

 綺麗なキーホルダーね……あれ? でもどっかで見たことあるような……

 私がボーっとそのキーホルダーを眺めている間、星野君とこの女が払う払わないで言い合っていた。


「いやいや、悪いよ。俺が払うから!」


 星野君がこの女の財布を押し返す。


「ううん、せっかく二人で遊んでいるところを勝手に入り込んで邪魔しちゃったからせめてもの償いだよ! それにこんなにおいしいワッフルを食べることができたし♪」


 そしてこの女は笑顔で星野君の手をよける。そしてさっと財布から五千円札を取り出し店員に渡した。


「ありがとうございました!」


 元気のいい店員の挨拶で店を出る私たち。


「おごってもらっちゃってなんか悪いな……ほんとサンキュな」

「とんでもない!」


 頭をかきながら星野君はこの女に礼を言う。この女は右手を左右に振り笑顔で答える。

 でも私はこの女がみんなにおごるのは当たり前だと思った。だってこいつは私たちの邪魔をしたから。だから私はこの女には礼を言わない。したがって星野君もこの女に礼を言う必要なんてない。


「じゃぁ、私はここで。あとは二人で楽しんでね!」


 ようやっとこの女は帰ってくれるようだ。しかし星野君があろうことかそれを止める。


「えっ? もう帰るの? せっかくだからこのまま三人で遊ぼうよ」


 なんで? 星野君はなんでこの女を引き留めようとするの? 今日は私とのデートだよ? 星野君は私のことが好きなんでしょ?! そんな笑顔をこの女に投げかけないで! 


「いやでも悪いよ! それに家に帰ってからいろいろやることあるし」

「そっか。それなら仕方ないよな。無理に引き留めてごめん」


 はぁ……良かった。てっきりこの後も三人で行動するのかと思った……


「今日はありがとう! じゃぁ、明後日また学校でね! バイバイ!」

「こっちこそおごってもらってありがとう! じゃぁな!」

「…………」


 もちろん私は無視を貫き通し、この女が去っていくのを横目で見る。はぁ、これでようやっと星野君との楽しい時間が戻ってくる! 今までの無駄な時間を取り返さなきゃ! 


「はぁ……どっか見たいところある?」


 星野君が軽くため息をつきながら私に尋ねてきた……その表情はなんとも寂しげ……

 なんで星野君はそんな顔をするのかわからなかった。聞きたくなかったけど聞かないわけにはいかない。思い切って星野君に聞いてみる。


「どうして、寂しそうなの? そんなにあのオン……いや寺田さんがいなくなって寂しいの? 今日は私と二人だけで遊ぶ約束だったんだよ!」


 私がそう言うと星野君は空を見上げた。


「まぁ、なんだろ? 俺と由奈は小さい時からずっと一緒に遊んできたから、無意識のうちに由奈と別れるときはいつもこんな表情になっちゃうんだよ……まぁ気持ち的にも幾分寂しくなるね」

「そう……」


 それっきり私は星野君と話すことができなかった。星野君も私の暗い表情を見て、話すのをためらっていたに違いない。ちょっとは話しかけてはくれるものの、すぐに話しを終わらせていたから……こんな状況のまま私たちはただぶらぶらと街を歩き一日を消化していく。

 これってデートって言えるのかな……

 夕日が沈みかけてきたころ星野君が私に話しかけてきた。


「もうそろそろ帰ろうか?」


 正直、その言葉をやっと言ってくれたかと心の中で思ってしまう。だって今日のデートは本当につまらなかったから……


「うん……」


 つづく

こんにちは、はしたかミルヒです!

秋の果物がおいしい季節ですね!皆さんは何の果物が好きですか?私は秋はやっぱり、柿と梨かな~。ヨーロッパでも柿と梨(和梨)は売られています。名前も「Kaki」、「Nashi」という日本語そのまんまで使われているんです(笑)「Kaki」はどこのスーパーでも売られているくらい人気が高いです。それに日本の物と負けないくらいおいしい!「Nashi」はある程度大きいスーパーで売られてはいるんですが若干高め。あれは20世紀っぽい味ですね......かたくて甘味が薄め。

まぁ、こんなどーでもいい情報は置いといて……第八話を読んでくださりありがとうございます! 次回、エリカは由奈に対し良からぬことを思いついてしまいます。さてそれはどんなことなのでしょうか?嫉妬心は女をここまで憎くするものなのでしょうか?

お楽しみに♪

ミルヒ

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