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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース9,5:私の友達、夢乃ちゃん
104/109

第八話

□□□


「もうそろそろ起きようかな……」


 朝日が照り始め、雀がチュンチュンと朝の訪れを告げる。時刻を見ると朝の五時だった。こんなに早く起きたのは弟が生まれたとき以来だったかな? その時は別に自分から目覚めたわけではなく、お父さんに起こされて早起きしたんだけれど。でも今日は目覚めてしまった。だって今日は特別な日だったから。

 私は六時にセットした目覚まし時計をオフにし、早速出かける準備をした。


 歯を磨き、クリーム色のパーカーを着て、赤いチェックのスカートを履き、髪をとかし、そして、昨日おもちゃ屋さんで買ったプレゼントを手に持った。


「よし、行こう」



「ねーねー! ねーねー!」

「おはよう。あら? 今日は早いのね。あっそうか、夢乃ちゃんのお見送りに行くんだものね」


 玄関で靴を履いているところにパジャマ姿のお母さんが弟を抱きかかえながら階段から降りてきた。


「おはよう、二人とも。うん、だから朝食は戻ってきてから食べるよ」

「わかったわ。行ってらっしゃい。夢乃ちゃんによろしく伝えておいてね」

「うん。じゃぁ、行ってきます」


 そう言うと、弟は私に大きく手を振った。


「ねーねー! バイバイ!」


□□□


「めいちゃ~ん!」

「夢乃ちゃん!」


 今度は夢乃ちゃんが笑顔で大きく手を振ってきた。私も手を振り、夢乃ちゃんのもとへと近づく。夢乃ちゃんが住んでいるマンションの入り口前には夢乃ちゃんの両親とお姉さんもいた。


「あら、これは青木さん。こんな朝早くから、わざわざお見送りだなんてすいません。いままでうちの夢乃がお世話になりました」


 私の顔を見るや否や夢乃ちゃんのお母さんはそう言うと私に深々と頭を下げたの。


「いえいえ、私こそ夢乃ちゃんにはお世話になりました」


 私も夢乃ちゃんのご両親に感謝の気持ちを伝え、頭を下げた。


「ねぇねぇ、めいちゃん」


 挨拶を済ませたところで夢乃ちゃんが私の肩を軽く叩く。私が振り向くと、夢乃ちゃんは私をマンションの入り口からちょっと離れたところに私を連れて行き、「はい、これ!」と言って、透明な袋で可愛くラッピングされたクマさんのクッキーを私に渡してくれたの。


「うわー! 可愛いクッキー!」

「ちょっと遅れちゃったけど、ホワイトデーのプレゼントだよ! 昨日、作ってみたの」


 そういうと夢乃ちゃんは照れ臭そうにしながらニコリと笑った。


「すっごくうれしい……。ありがとう! 本当にありがとう!」

「まぁ、初めて作ったから期待できるほどの味ではないかもしれないけれど……」

「あ、そうだ! 私からも夢乃ちゃんに渡したいものが……はい!」


 そう言って私は手に持っていたプレゼントを夢乃ちゃんに紙袋ごと渡した。


「え? そんな気を遣わなくても全然いいのに……」


 夢乃ちゃんは申し訳なさそうにしながらも笑みを見せ、そのプレゼントを受け取った。


「開けてみて!」

「ここでみてもいいの?」

「もちろん!」


 その言葉に夢乃ちゃんは目をキラキラと輝かせながら紙袋からプレゼントを取出し、包み紙を開ける。


「か、かわいい~~~!!」

「ほんと? あぁ、よかった~!」

「また私の友達が一人増えたよ! ほんと、かわいい! っていうかこの子、ルルにそっくり!!」


 すると夢乃ちゃんは視線をプレゼントから私に移しお礼を言ってきた。


「めいちゃん、本当に本当にありがとう!」

「ううん、お礼を言うのはこっちのほうだよ。今までありがとうね。私、夢乃ちゃんのおかげでこの一年間、とっても楽しかった……」

「私もめいちゃんがいてくれたから、この短い学校生活でも楽しく過ごすことができた。私ね、引っ越してばかりだったからなかなか友達ができなかったの。だからここに来た時もすごく不安だった。でも、めいちゃんが私のここでの生活を変えてくれた。バラ色に変えてくれた! 本当にこの気持ちは他の何物にも代えられない」

「夢乃ちゃん……。私、私……」


 いけない、泣いちゃダメ! ここで泣くのは……


「めいちゃん?」


 でも……やっぱりこの気持ちを押さえることなんかできっこない!

 私は泣きながら夢乃ちゃんに訴えたわ。


「私、夢乃ちゃんとまだまだ一緒にいたい! 離れたくない! このまま離れて大人になんかなりたくない! 夢乃ちゃんの夢をこの目で見ながら応援したい! でも、でも……それができないなんて辛すぎる……。私、夢乃ちゃんのことが大好きだから!」

「めいちゃん……。めいちゃん!!」


 胸にドンという衝撃を受けた。気づけば夢乃ちゃんが私の胸の中にいたの。この小さな私の宝物は熱を発していて、私の体温を上昇させた。私はもっと温もりがほしくなりその宝物を思い切り抱きしめた。パーカーが涙でぬれていくのがじんわりと感じられた。


「私だって、めいちゃんと離れたくなんかないよ……。ずっとずっとめいちゃんと一緒にいたい。私もめいちゃんのことが大好きだから……」

「夢乃ちゃん……」



 別れを惜しんでいると車のエンジンをかける音が聞こえてきた。その音と同時に夢乃ちゃんのお父さんの声が耳に届く。


「夢乃! もうそろそろ行くぞ!」


 その声に夢乃ちゃんは顔を上げ涙を拭い、私から離れると、「ちょっと待ってって」と言って車のほうへと行ってしまった。

 私は不可思議な表情で向こうへ言ってしまった夢乃ちゃんの背中を見つめる。夢乃ちゃんは車の後部座席を開けた。あぁ、もう車に乗り込むんだなぁと思い、切なげに彼女を見つめたの。しかし、夢乃ちゃんは何かを手に取り、再び私のところへと走って戻ってきた。


「夢乃ちゃん?」


 私はびっくりして彼女を見つめる。


「はいこれ! めいちゃんにあげる!」


 夢乃ちゃんはまだ涙のせいで目が赤くなっているものの満面の笑みで、それを私に渡したの。私はよくわからぬままそれを受け取ったわ。


「え? いいの??」

「うん。いままでこの子が私の一番の友達だったけれど、めいちゃんが一番になったからもういいの。時々この子を見て、私のことを思い出してね!」

「夢乃ちゃん……。ありがとう! 大事にする! 私、この子のことずっと大事にする!」

「ありがとう。じゃあ、私、行くね」


 夢乃ちゃんは最後にもう一度私に微笑を浮かべると、くるりと私に背中を向け、家族がもうすでに乗っている車へと向かった。夢乃ちゃんは先ほどと同じ動作で後部座席を開け、今度は本当に車に乗り込んでいく。しかしその瞬間、風がひらりと吹き、夢乃ちゃんのスカートをめくり上げたの。「キャー!」という声が聞こえてきた。またしてもキャンディー柄の白いパンツだった。

 私はとたんにおかしくなり、思わず声を出して笑ってしまった。


「ハハハッ! ほんと夢乃ちゃんらしい!」


 夢乃ちゃんは窓を開け、外に身を乗りだす。そして私に大きく手を振った。


「めいちゃーん! 絶対絶対、また会おうね!! 約束だよー!」


 私も夢乃ちゃんに負けず手を振り、大きな声で、こう言葉を伝えた。


「もちろん! 私たちは永遠に友達だからー! 絶対会おうね!!」

「手紙書くからねー!」

「私も夢乃ちゃんに手紙書くよーー!」


 そしてその直後、車は音を出して発進した。排気ガスのにおいがツンと目と鼻に沁みた。思わず咳が出た。そのせいで涙が出た。たくさん、たくさん、これでもかってくらいに涙が溢れ出てきた。涙腺がバカになってあまり何も見えなかったけれど、なぜか手に持っていたものははっきりと見えた。そして私は手に収まるくらいのそれを思い切り抱きしめた。


「あったかい……」


□□□


「それがいまだに二人は行方不明らしいよ……。まぁ、あくまでも噂話なんだけどね。でもほんと不思議だよね~」

「ってか死んじゃったってことだよね?」

「ちょっと、さやか! そんな縁起でもないこといわないの!」

「でも、いまだに行方不明って――――」


 めいちゃんへ


 お元気ですか? 私は転校先の学校にまだ慣れず、毎日めいちゃんと過ごした楽しい日々を思い出してはめいちゃんからもらったミミちゃんを抱いて寂しさを紛らわしています。めいちゃん、正直、今すごくすごく寂しいよ。めいちゃんに会いたくて仕方がない。でも……会えない。これが現実。いつになったら私たちは再会できるのかな? あ、なんか落ち込むようなこと書いちゃってごめんね。でもアイドルになる夢は今でもちゃんと胸に抱いています。最近、ダンススクールにも通い始めました。結構楽しくてその時だけ、めいちゃんのことを思い出さずにダンスに集中できています(笑)。めいちゃんは? ドリームショップの経営者になるためになにかしてる? 近況報告待っています。

 またお手紙書くね!


 夢乃


 P.S.ルルの誕生日は四月二十日です。(私がルルに出会った日)その日は何かお祝いしてあげてね!

 


 夢乃ちゃんからこの手紙をもらったのは半年前。この手紙を最後に夢乃ちゃんから連絡が途絶えてしまった。

 そんな噂嘘だよね? 夢乃ちゃんはアイドルになるためにどこかに行ったんだよ。絶対に死んだなんて私は信じない。

 私は机の中にしまってある物をそっと取り出しこうつぶやいた。


「ねぇ、ルル。君の友達はまだ生きているんだよね?」


 END

こんにちは、はしたかミルヒです!


ドリームショップ番外編 私の友達、夢乃ちゃんもついに最終話を迎えました。そして次回は最後のケースになります。

ケース10:小説家になりたい(芽衣子編)です。(前お知らせした時のタイトルと変更しました)

さっそく明日からスタートです。

お楽しみに♪

ミルヒ


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