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出会いと…

子供扱いを受けている場面に補足説明を加えました。

内容は変更していません。


こちらにどんどん近づいてくる瑞穂と章吾の姿に気付いた村の住民たちは、2人の見慣れない衣装と裸足の状態に警戒心を露に眉を顰めた。


こちらを見て、ひそひそと話しながら、ちらちらと様子を伺っている人もいる。

瑞穂達の姿を見かけるまでは遊んでいた子供達も、ピタリと静かになり、大人の後ろに隠れたり、家に入るよう促さている。




(歓迎されていないんだな…)




露骨な態度を目の当たりにすると気の弱い瑞穂は小さい身体をさらに縮こまらせた。


しかし、こんなところで怖気ついていては駄目だ。ようやく出会った人なのだ、今の現状を把握しなては、どうしようもないのだ。それにお腹も空いたし、喉はカラカラなのだ。図々しいかもしれないが、お水を飲みたい。せめて水を飲める場所を教えてほしい。

だから、オドオドするのではなく、誠心誠意ある対応をこちらからするべきだ。

相手に伝わるよう事情をきちんと話すことが大切である。


そう心に誓うと瑞穂はしっかりと住民達は見据え、向き合った。




目の前の住民達は、瑞穂がいた世界の古代ローマ人が着ていた衣装に似たものを身に着けている。

生成色の肌に優しそうな綿素材の生地で、肩で結ばれている簡素なワンピースだ。腰には茶色のロープがベルトの役割になっている。ゆったりとしたズボンも履いていて、こちらも生成色でワンピースと同じ素材で作られているようだ。靴は皮製のサンダルで紐で何重にも足首で巻かれている。


こんな時代錯誤な民族衣装を身に纏った民族が地球上にいれば、きっとメディアが黙っていないだろうし、話題になっているはずだ。


初めて見る衣装を着た住民を前に、ここが今までいた世界とは違う。という現実を突きつけられているようだ。


あの最後に見た景色を思い出して考えて行き着く先は〈死〉だ。

自分達は死んだのだから、ここは死んだ者が行き着く先なのか?この人達も死んだ仲間なんだろうか?

それとも天使なのだろうか?


後者の天使なら、あの輪が頭の上についていそうだが、何もついていない。

皆、染めていないだろう天然の栗色をしてる。無造作に結い上げている髪はふわゆるパーマのような癖毛でツヤがあり、触り心地が良さそうだ。





夫婦が住民達のテリトリーに近づくにつれて、住民達の表情はより一層険しくなっていく。


その集団の中でも恰幅がよく、皆に頼られているのだろうと、雰囲気だけでそう感じられる60代くらいの女性が、ズンズンとこちらに向かってくる。

言い方を変えれば女ボス的な人物だ。

髪は皆と同じ栗色だが、なぜか彼女だけ癖毛が強烈なのかパンチパーマだ。

日本でいう大阪のおばちゃんのような雰囲気を醸し出していて、なんだか親しみが沸いてきた。




「あんたら何ね!?」




開口一番、住民の誰もが思ったことを口に出した大阪のおばちゃん(仮名)は鼻息を荒げつつ腕を組んでいる。

どうやら言葉が通じるようだ。なんでだろうか?おもいっきり西洋人顔の彼女の言葉が日本語…。

しかも微妙な訛り。なんだか、吹き替えの映画を観ている気分だ。




「俺達は旅の途中で道に迷ったんだ。荷物や食料もなく、偶然ここにたどり着いた。

 申し訳ないが、彼女に水を分けてくれないだろうか?」




ダンナさんの言葉を聞いて、瑞穂はなるほど、と感じた。

確かにある意味これは〈旅〉かもしれない。辿り着く先は天国か地獄かわからないが…。

そしてダンナさんが瑞穂を気遣う発言をしてくれたことに、瑞穂の心の中は小躍り状態だ。

ここに来てから、なんだか優しい。

今まで、熱しやすく冷めやすかった彼はどこにいったのだ!あの、熱が再び到来したのだ!環境が変わり、自分たちの関係も変わったのかもしれない。


そう感じた瑞穂の目には、瑞穂の脳内で勝手に変換されたキラキラと輝くダンナさんが移っていた。


しかし、皆の様子を見ると小躍りが止まった。顔を見合わせ、こちらの様子を伺っている。

なんだか、先ほどの態度から保守的な考えの人達と印象を受ける。

他民族を受け入れることができない。という考えを持つ人もいるかもしれない。こんな怪しさマックスな夫婦を受け入れて、手を差し伸べてくれるのだろうか?




「…まさかあんたら夫婦かい?」




大阪のおばちゃん(仮名)がさっきよりも険しい顔つきになったが、臆することなくいつもの冷静なローテンションでダンナさんは間をおくことなく言い返した。


この発言で瑞穂は崖から突き落とされたのだった。




「いや、彼女は旅の途中で迷子になっているところを偶然会ったんだ。

 それと彼女には記憶がない。この世界についても知らないようだ。知っているのは自分の名前と生活 をする上で最低限必要な事だけだ。」




(うそ――――――――――――――――――――――――――――――――ん!!!!!!)




心のなかで思いっきり突っ込みを入れた瑞穂だが、本人もびっくり設定だったが、周りが信じたようで、住民達は哀れんだ目で瑞穂を見ている。





「物騒な奴等が増えてるっていうし、辛い思いをしたのかもねぇ…。」




大阪のおばちゃん(仮名)は人情味溢れるお方なのかもしれない。

少し感傷的になり、瑞穂の方へ視線を向けた。さっきまでの、警戒心は薄れ、母性愛を含んだ眼差しへと変わった。


なんだか妙な事になってしまったぞ。

さっきの発言を否定したいが、この空気の中そんなことを言ったら、一生水にはありつけれない気がした。

一歩前に出て大阪のおばちゃん(仮名)と目を合わせて訴えるダンナさんは堂々として、お前もこの設定に合わせろよと背中で訴えているようだ。




「「…………。」」




どれだけ沈黙が続いたのだろうか…。

お互い見詰め合ってそのまま無言だ。なんだか、目で訴えあっているような気がする。




(…き、気まずい…。)



瑞穂は極度の緊張の為か、喉は更に渇き唾液さえも出ない状態だ。


視界が、なんだか暗くなってきたような気がする。

それに身体が揺れているようだ。

頭がガンガン響く。




「…どうした?おい!瑞穂!!」




ダンナさんに呼ばれた気がしたが、どうだろうか?








あぁ、この感じ2回目だな。また目が覚めたら別の場所だったりして…。








薄れゆく意識の中、そんなどうでもいいことを思い、意識を手放した。




















目が覚めたそこは野原




ではなく、ふかふかとしたベットだった。生成色の綿素材でできた布団をかけられていた。

石作りの家なのか、少しひんやりと涼しい。


ここは…。

そう考えようとしたと同時に、扉がノックされた。




「はい。」




なんだか反射的にそう返事してしまった瑞穂だが、この部屋は自分のものではない事に気付き、心の中で焦った。




「目が覚めたのね?良かった。気分はどう?大丈夫?」




ほっと安心したようにふんわりと柔らかい笑顔でそう気遣ってくれたのは、20代後半くらいのスタイルの良い

美人なお姉さんだった。


手には大きめのお盆に水の入ったコップとタオルと小さな桶を持っている。

どうやら、彼女がお世話をしてくれたようだ。




「あの、ありがとうございます。

 もう大丈夫です。

 ご迷惑をお掛けしました。

 それに、大切なベットをお借りしてしまい申し訳ございません。」




他にも言うことがあるかもしれないが、目覚めの頭が働かない状態ではこれが精一杯だった。




「あら、そんなこといいのよ。ここはゲストルームだから、気にしないで。

 自己紹介がまだだったわね。私はケリスよ。よろしくね。

 まだ身体がだるいと思うから、無理しないでね。」




「ケリスさん。本当にありがとうございます。申し遅れました私、瑞穂と申します。よろしくお願いし

 ます。」




ケリスさんは名前しか名乗っていなかったこともあり、瑞穂もそれに習い名前だけを名乗った。




「ミズホね。ふふ。お行儀がいいのね。はい。これお水よ。水分をこまめに取った方がいいってお医者 様が言ってたのよ。」



なんと医者まで者を呼んでくれたようで、恐縮だ。

ニコリと微笑んだ彼女はとても美しく女の私もドキリとした。


しかしなんだか、子供に接するかのようで、若干居心地が悪い…。

もしや、この身長と童顔で幼くみられているのだろうか。大いに有得る話だ。

西洋人顔の彼女にとって、やはり東洋人は幼くみえるようだ。

すんません。23歳です。と心の中でなぜか詫び、お水を差し入れしてくださった事にお礼を言って、差し出されたコップを受け取った。水は常温で飲みやすく、喉の渇きをじわりと癒してくれた。




「お医者様まで呼んでくださって、本当にありがとうございます。

 …あの、一緒に来た男性の事なんですが…。」




水分を取ったことで落ち着いた瑞穂はどうしても一番気になることを口にした。一応他人設定なのだから、〈主人、パートナー、ダンナさん〉発言は禁句だ。




「彼なら、あなたをこの部屋に運んで、私達に預けた後すぐにここを出たわ。」




「え!?」




「まぁ、今まで一緒に旅をして、信頼していた相手に置いてきぼりにされたら誰だってびっくりするわ よね…。

 大丈夫よ。彼はまた戻ってくると言っていたわ。これから先の旅にあなたを連れては危険だから、こ こで預かってほしいって。」




彼女の話は右から左に流れていく。人の話を流すなんて失礼極まりない態度なのだが、放心状態だ。

もう上の空で彼女がなんて言ってるかさっぱり分からない。吹き替え映画から字幕の映画に変わったみたいに。

ただ、今は字幕なんて出てこないけど。


ダンナさんは私を置いていった…。


捨てられたのだ。


家出?


別居?


いやいや、もうあのお気に入りの庭付き中古一軒家はないのだ。


ということは、





離婚。





その2文字が頭の中をぐるぐると回る。

ダンナさん…ではなくなったのだ、そう呼んできたがもう呼べない。元ダンナさんは直接瑞穂に言うのではなく、態度で、行動で示したようだ。


死亡したんだから、離婚届けや、家の所有権、ローン、生活費、面倒な手続き…あれこれ悩む事は一切不要。


もしかして、あの他人です発言は、新しい生活環境になりそうな場所を見つけたんだから、そこで根を下ろして生きてけ。ということだったのか。


自分もそうするからと。


偶然だが、この村を発見したのは幸運だったのかもしれない。

この住民は優しく、見ず知らずの瑞穂を手厚く看護してくれた。しかも医者にも見せてくれたようだ。

だから、元ダンナさんはここに瑞穂が暮らしていく場所と決め、自分を置いて旅だったのだろうか。


(…もしかしたら、これから先安心して、暮らせる場所に連れてきてくれたのも、元ダンナさんの優さだったのかもしれない。)



そう、元ダンナさんを美化することで、自分が裏切られた事に対し、怒りがふつふつと湧き上がるのを必死で抑えた。

それに離婚に至ったのは自分が100パーセント悪くない!…とは言い切れない。

相手も思うことはあったのだろう。

しかし瑞穂は、元ダンナさんの心が離れたのは私が全て悪いんです。と言ってさめざめ泣く女ではな

い。


確かに大阪のおばちゃんを前にした時はビビッた小心者だが、心の奥にはしっかりとした芯があるの

だ。

だからか、何事に対しても好転的に捉えようと努力するし、一生懸命になる。一途なのだ。



瑞穂はひとつ深呼吸して、心を落ち着かせ、微笑みのお姉さまである、ケリスに正座になって向き直

た。

何が始まるのかとキョトンとした顔つきになったケリスに頭を深く垂れ、額の下には両手を付いてい

る。




あの時、元ダンナさんが言った〈記憶がない〉発言が今役に立とうとしている。

心の中でそっと元ダンナさんにありがとう。と発して。




「私はこの通り、ひ弱です。何か他人よりも抜きんでて出来る訳でもありません。

 世の中の常識も分からない、やっかいなよそ者かもしれません。

 ですが、自分の出来ることを一生懸命やります。皆さんのお役に立てれるよう頑張ります。

 看病していただいて、ご好意に甘えているとは分かっています。

 ですが、お願いです!ここで暮らしたいです!。皆さんの仲間に入れてください。」




落ち着いて、一言をかみ締めながら、そうはっきりと伝えた。


少ししてケリスの優しい声が頭上から落ちてきた。




「…ミズホ、顔を上げて頂戴。

 あなたの気持ちはわかるわ。それに、記憶を無くした事情を知ってしまった私達が、あなたをこのま ま放り出すなんて非情なことをすることなんてできないわ。ここらは隣の村まで距離があるし、周り は野原で囲われた場所よ。小さな村だから、皆が助け合って生きてきたのよ。

 ミズホ、もちろんあなたはここに残っていいのよ。」




最後に目を細めて笑うケリスは瑞穂の頭を撫でた。

人の温かさが胸にしみる。




「…ありがとうございます!」




胸がいっぱいになり涙が勝手に溢れてくる。


いつも傍に居てくれた章吾はもういない。


最後に見た章吾の姿。この住民に掛け合ってくれた後ろ姿が心と頭の中を支配していた。

冷静で、自信がにじみ出ている、頼りになるあの後ろ姿。

精神的に参ってもおかしくない状況なのに堂々と瑞穂をここまで導いてくれた。

もう二度と会えないかもしれない。

だからこそ、あの姿は絶対に忘れたくない。





大切な人が去って気付くことがたくさんある。

瑞穂はそっと胸に手をあてた。




(心から愛しています。)






 


 

 


ここから別行動です(^∀^)ノ


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