死にたがりの幼少期
前の世界で死んで、この世界にまた生まれ変わってしまってから早8年。気づいたことがいくつかある。
1つ、この世界の勉学のレベルはさほど高くない。
識字率は悪くないが、平民にそこまで高度な学問は必要ないとされている。
2つ、この国は電気ではなく魔力で動いている。
前の世界の電気のようなものはなく、全てが魔力を流して使う魔導具。
3つ、この国にはたくさんの種族が暮らしている。
獣人、竜人、エルフにドワーフ。そして人間。
人間以外は多少の差はあれど、何百年、何千年と生きる長生きな種族。
人間は、どの世界にいても儚いものらしい。
そして4つ。
私の兄に当たる人間は、すごくシスコンで過保護だった。
「僕の妹はなんて天才なんだ!!!」
1歳で文字を書いて見せればそう叫び、早めに言葉を発してもそう叫び、簡単な数式を解いただけでもそう叫んでいた。
「エヴァ、危ないじゃないか、ダメだぞ」
私が街で馬車の前に出ようとしたら当たり前のように止めてくるので、ひとりで屋敷からひっそり出ようとしても、
「エヴァ、ひとりじゃ危ないだろ。声をかければいつでも一緒に行ってやるから」
何故か察知して着いてくる。
鍛錬してようが勉強してようがお構い無しだ。
「お兄様、私はひとりで街に出かけたいのです。」
1度、はっきり兄にそういったことがあった。
だが、返ってきた言葉に何も言えなくなった。
「ダメだ。エヴァは外に出ると危険なことに巻き込まれるからな。この前だって馬車に轢かれそうになっていたじゃないか。僕がいなければ今頃エヴァはここにいないぞ」
ええ、それを望んでいるので。
轢かれそうになったというか、轢かれに行こうとしたというか。
だがこの過保護の兄にそんなことを言おうものなら絶対に一時も離れてくれなくなるので、口が裂けても言えない。
そして最後には家族どころか屋敷総出で私の見張り大会の開催だ。
◇◇◇
「エヴァ、お前に、王家から通達が来た。」
父から声をかけられ、内容を聞いて、頭を抱えそうになった。
何やら私は現皇帝の一人息子、つまり、次期皇帝の婚約者候補に選ばれてしまったらしい。
なんだその考えたくもない面倒くさそうな肩書き。
要らない。
それに、相手の名前はどこか聞き覚えがあった。
でもそれは、この世界じゃない。前世で、だ。
頑張って拙い記憶の引き出しを開けまくる。
そこで一つだけ、ヒットしたものがあった。
「でねー、私の推しはこの婚約者の悪役令嬢なんだけど、この子がマジで美人でー。マジで私の好みドンピシャ。」
がんばれ、もっと思い出せるはずだ。
「この波打つハニーゴールドの髪に、ちょっと吊り目で、何事にも無関心そうなフォレストグリーンの瞳がなんとも引き込まれそうでねー」
ああ、最悪だ。思い出さない方が良かったかも。知らない方が楽だったかもしれない。
「でもこのキャラ、どのルートに行っても、どのエンドにしても最終的に殺されちゃうんだよね。」
前世の知人の推しキャラ。
ああ、面倒臭い。最終的に殺されるのであれば、ばんばいざいだが、次期皇妃なんて面倒臭い肩書に、悪役令嬢とかいう意味のわからない肩書きまで背負って生きていくのは全力で拒否したい。
「お断りしたいです。」
私の言葉に、父は驚いたように目を見開いた。
なぜだかわからず、少しフリーズしたが、よくよく考えて、少し気づく点があった。
私はこの世界に生まれてから父に対して意思を持って意見することは一度もなかった。
子供らしいわがままを言うことも、何かをねだることもなく、ただただ日々を過ごしていただけの我が子が、自分の意思で拒否を示したことに、父は驚いたらしい。
そこまで気づいて父を見れば、泣いていた。
いや、正しく言えば、涙目になっていた。
「エヴァが初めて意見を言ってくれた。」
そして泣き出した。
「絶対に断ってくる!!父様もお前を次期皇帝に嫁がせたくはないからね!」
なんだかよくわからないが、とりあえず、断る方向でことは進んでくれるらしい。
父の本音なんて、どうせ、皇妃になると簡単に会えなくなるからってだけだが、断ってくれるならなんでもいい。
家では少し残念な父親ではあるが、外に出れば、意外にすごい人らしい。
「父上、絶対に断ってきてくださいね!!」
突然背後から聞こえた兄の声にびっくりして振り返る。
「いつの間に・・・」
一体どこから聞いていたのやら。
このめんどくさい2人をスルーして私は自室に戻った。
私の部屋は2階の最奥部にある。
ベランダもついていて、一度希望を込めて飛ぼうとしてみればどこからともなく兄が現れ拾われた。
そしてその後、魔法が得意な兄によってベランダから外には出れないように対人結界が張られてしまった。
そしていつの間にか、部屋の中にあった鋏なども綺麗に回収されていた。
本当に、あのシスコンは一体どこまでやるのやら。




