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沼ハマの入り口  作者: 夏目 碧央


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12/19

パートナー

 保育所へ行ったものの、すぐに里奈を引き渡してはくれなかった。そりゃそうだ。誰にでもホイホイ渡されたのでは困る。

「あの、潮里奈を迎えに来たんですけど……。」

勝手が分からない。

「あー、はい。潮さんからお聞きしています。身分証明書を見せていただいてもよろしいでしょうか。」

免許証を出して見せた。保育所の先生は免許証の写真と俺の顔を見比べ、

「はい、確認いたしました。ありがとうございます。少々お待ちください。」

と、やっと態度を軟化させて、そう言った。こちらもホッと胸を撫で下ろす。

「あ、あのー、今後もこういう事があるかもしれませんので、名刺を置いて行きますね。播磨祐作と申します。よろしくお願いいたします。」

一番偉そうな先生に、名刺を渡した。その先生は名刺を受け取って目を通し、

「まあ、菱形建設にお勤めで!インテリアデザイナーをなさってるの?!素敵ですねえ。」

褒めちぎって来た。頭をかく。どういう反応を返せばいいのか分からない。

「播磨さんは、独身ですか?」

更に聞かれる。

「ええ、まあ。」

「ご予定はありますの?ああ、そういえば潮さんとはどのようなご関係なのでしょうか。お友達にしては、少しお年が離れていらっしゃるような。」

困った。朝陽は今日迎えに来る俺を何と言って紹介したのだろう。知り合い、とでも言ったのだろうか。慌てていたからそんなとこか。

「えーと……パートナー、と言いますか……。」

「お仕事の?潮さんはダンスをされているんですよね?その関係でしょうか?」

このおばさん、全くゲイカップルの可能性が頭にないらしい。こっちはインテリアデザイナーだと言っているのに。

「まあ、そんなところです。」

だが、面倒なのでこれ以上説明するのは辞めた。パートナーだと言ったのだ。嘘をついてはいない。そこへ里奈が連れて来られた。おぉ!里奈が歩いている!

 この間つかまり立ちをしていたと思ったら、もう先生に手を引かれてよちよちと歩いているのだ。子供の成長は早い。

「里奈~、歩けるようになったのか~。おいで!」

しゃがんで両手を広げると、里奈は先生の手を放し、ヨタヨタっと駆け足のように、しかしゆっくりと俺の元へ駆けてきた。雰囲気としては駆けてきたのだが、よちよちと歩いてきた、というスピードだった。

「ゆ、ゆ」

俺に抱き着いてきた里奈は、「ゆ」を連発した。もしかして!祐作、と言ってるのか?

「そうだよー、ゆうさくだよー。さ、帰ろうか。あの、私何も持ってきていないのですが、抱っこバンドとか、預かっておりませんか?」

「あ、先日から里奈ちゃんはベビーカーで来ていますよ。こちらにあります。」

若い先生が里奈のベビーカーを持ってきてくれた。そうだったのか、ベビーカーなんて押した事はないが、抱っこバンドよりは楽そうだ。

「ありがとうございました。では、さようなら。」

「さようならー、里奈ちゃんバイバーイ!」

先生方に見送られ、午後7時過ぎに保育所を出た。


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