第17話 団体戦!⑧(決勝トーナメント)
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「みんな残念だったね」
と、茨木さん。
苦戦ながらもやり切った表情が見える。
「ちょっと相手が強かったから、周りを見る余裕がなかったよ。雛ちゃん、水無月君はどんな内容だったの?」
と尋ねてきた。
僕と高槻さんはお互いを見合わせる。
どちらもなかなか言い出しにくい。
どうしようと思っていたら、高槻さんが先に口を開いた。
「私は【相居飛車戦】だったわ。金無双からの攻め合いを考えていたんだけれど、こちらが攻めるまでもなく完敗だったわ。あと、水無瀬君ね、【鬼殺し】がはまっちゃって負けちゃった」
と、簡単に説明してくれた。
「そう、雛ちゃん、リベンジならなかったね。相手は有段者で前回も優勝したけれど、そんなに強かったんだ?」
「うーん、水無瀬君の鬼殺しされているのをみていたらムカムカしちゃった。そして、一手うっかりして、そのままずるずると・・・・」
「なるほど、雛ちゃんらしいね」
「高槻さんらしい?」
「そう、【鬼殺し】も立派な戦法なんだけどね。私たちは水無瀬君のこと初心者だって知っているから、奇襲戦法は卑怯だって思っちゃったんだね、雛ちゃんは」
「僕のために怒ってくれたんだね」
と、納得した。
「なっ、負けたのはわたしのせい。それに負けちゃったら何にもならないじゃない」
と、高槻さんは照れていた。
「と、反省はこれくらいにして、決勝トーナメント、がんばろう!」
と高槻さんが話題を切り替える。
そうだ、決勝トーナメントだ。
今回は16チームが参加して、予選リーグ3試合やって上位2チームの勝ち上がり。
残った8チームでトーナメントで優勝チームを決める。
「今回の目標は達成したから、気楽にいこうね?」
と、茨木さん。
高槻さんの表情から、さっきの試合を引きずっているのがわかっているのだろう。
「そうね、前回の個人戦よりも成績はよかったしね。優勝は無理だろうけれど、ひとつひとつチャレンジよ!」
と、高槻さんもなんとか気持ちを切り替える。
「二人ともすごいね。二人のおかげで決勝に来ちゃったよ」
と、素直な感想を述べる。
そうだ、僕はまだ始めて2カ月。
そんな僕が大会で決勝に残るなんて。
「ううん、水無瀬君が来てくれなかったら、そもそも大会には出られなかった。出てくれたから決勝に残れたんだよ? 本当にありがとうね」
と高槻さんが言った。
「そうだね。雛ちゃん、決勝行きたいって言ってたもんね。一緒に出てくれる人、なかなか見つからなかったしね。私からも、水無瀬君、ありがとう」
茨木さんが続く。
僕は嬉しかった。
将棋に誘ってくれて、一緒に将棋を指して、一緒に特訓して、一緒に大会に出て。
ただ、それだけなのに二人ともとても嬉しそうだ。
もちろん、僕も楽しいし、嬉しい。
ちょっと嫌なこともあったけれど、それよりも二人とこうやっていたい。
「僕の方こそありがとう。将棋がこんなに楽しいとは思わなかったよ」
と笑顔で応えた。
話にひと段落が付いた頃、3人でママたちのところへ向かった。
「残念だったね。でも、よく頑張ったわね」
と、高槻さんのママが言った。
そして、右手で高槻さんの頭をなでる。
高槻さんは嬉しそうだ。
「そうそう、桜井先生があいさつに来られたわ。運営の手伝いがあるから、皆には会えないけれど頑張ってって」
茨木さんのママが僕たちに伝える。
「たっちゃん、あの先生に教えてもらってたのね。どうする? 本格的に習うならそれでもいいわよ?」
と僕のママも習い事として許可してくれるらしい。
「うん、ママがいいなら、このまま習いたいな」
と答える。
高槻さん、茨木さんはとても嬉しそうな表情で僕を見る。
僕ははにかむことしかできない。
二人と一緒に将棋ができる。
「わかった。じゃあ、また改めてあいさつに行こうね」
と約束してくれた。
「じゃあ、トーナメント行こっか」
と、高槻さんの声で将棋盤のところへ移動する。
トーナメント表もできていたみたいで確認する。
予選で負けた、あの嫌なチームは決勝まで当たらないみたい。
そうか、一回戦でもう準々決勝なのか。
試合進行のアナウンスに誘われ、勝負の場所へ移動する。
対戦相手も来たみたいで、長机越しに3者を見る。
「全員女の子?」
と、僕も驚いたけれど、高槻さんがもっと驚いていた。
背は僕よりも高いので上級生かな。
「珍しい?」
と、高槻さんの前にいる、相手の大将が尋ねてきた。
「ううん、嬉しいの。将棋って男の子が多いから」
「そう、私も嬉しい。試合が終わったら、お友だちになりましょう?」
と試合前から友好的な雰囲気。
でも、決勝に残ってきたくらいだからかなり強いんだろう。
がんばろう。
席に座り、駒を並べる。
相手の大将が振り駒をする。僕は先手だ。
準備が整う。
「「「おねがいします」」」
と、後手がチェスクロックを押して試合が始まる。
(奇襲は食らわないように)
さっきの敗戦が少々ひきずっているようだ。
「▲7六歩」と角道をあける。
「△8四歩」と相手は飛車先の歩をついた。
(【相居飛車戦】だ!)
知っている組み方になりそうで、安心できる。
とりあえず、この数手はわからない進行にはならなさそうだ。
「▲6八銀」と矢倉の主張。
「△8五歩」「▲7七銀」「△3四歩」
・・・・
【相矢倉戦】になった。
矢倉戦は実力差がはっきり出ると学んだな。
相手は僕よりも強いんだろう。
だから、矢倉戦を選んだのかな。
棒銀もやってみよう。
「2二」に玉が入ったのを確認し、1筋を狙う端棒銀をしかける。
「▲1五歩」「△同歩」「▲同銀」「△1三歩」
これで2筋の棒銀が成功する。
攻めている感触は悪くない。
まもなく相手の守りが潰せそうと感じながら手数を進める。
しかし、できたのは角交換と銀交換だけだ。
うまくしのがれる。
相手からの攻撃はまだ見られない。
あくまで僕の攻めを待っているようだ。
持ち駒の角と銀でなんとかできないかな。
考える。
矢倉の弱点の「3二」の金か「2三」の歩を攻められれば。
「▲4一角」と迫ってみる。「3二」の金が逃げれば、たちまち「2三飛成」で突破できる。
「△3三銀」と角を無視して飛車先を受ける。
固い。
まだ攻め筋が見つからない。
「▲3二角成」と守りの金を剥がす。
「△同玉」
持ち駒は銀と金。
玉をどかせたら、「2三飛成」ができるが、
「▲4一銀」と相手玉を剥がしにかかる。
「△同玉」
(よし!)
「▲2三飛成」
「△2二銀」
・・・・
崩せそうで崩せない。
駒損が続く。
できた龍を戻す。
そして、攻撃ターンが相手に渡る。
相手も攻めてくる。
僕の攻めていた時よりも持ち駒が多い分、攻め手が厳しく途切れない。
(だけど!)
最後まで諦めない。
茨木さんがさっき見せたようにここを守り切れれば、もう一度逆転できる。
相手もリスクを承知で攻めてくる。
(ああ、強い。強い!)
だんだんと守り駒が剥がされていく。
その分、こちらも持ち駒が豊富になる。
でも、持っていても負けてしまったら意味がない。
最大限しのげるよう、時間を使いながら、相手の次の手を読む。
相手も一手一手、必ず何かの駒を取ろうとアプローチする。
そのことも考えながら受ける。
できれば、反撃しながら受けたいのだけれど、今はまだできない。
手数が進む。
時間も進む。
盤上に駒が減る。
でも攻めきれない。
僕の玉がだんだん前へ前へと進んでいく。
玉は中央に近づくと逃げ場所が増えるので負け難くなる。
そうなると、攻める方はだんだんと焦りが生まれてくる。
だけど、相手は淡々と攻めてくる。
負けそうだけど面白い。
表情はわからないけれど、相手も指し方からとても楽しそうに指している。
・・・・
そして、
「参りました」
と、僕が頭を下げた。
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