第16話 団体戦!⑦(予選3戦目ー2)
ご覧いただきありがとうございます。
予選は今回にて終了です。
相手はすかさず「▲6五桂」と跳ねる。
(金の両取りだ)
と焦って、「△6二銀」とした。
相手の目が笑う。
手の動きも軽やかで、その手をまっていたかのようだった。
「▲7五歩」
僕は相手の一手一手に意味が分からずに時間を使う。
居飛車でもない、振り飛車でもない、新しい将棋の形。
しかも、自分より強いだろう相手が仕掛けてくる。
一見、僕が良さそうなんだけど、そんなことを相手はしてくるだろうか。
相手の意図はわからないけれど、とりあえず「△6四歩」で相手の桂馬を殺す。
「▲2二角成」と角交換。
「△同銀」
「▲5五角」と、銀を狙う。
取られてはまずいので「△3三銀」と受ける。
「▲6四角」と桂馬に当たっている歩を取り込み、「5三」の地点を狙う。
ここは相手の角、桂馬と僕の銀の守りであり、枚数が負けているので攻め切られる。
「△5二金右」と自分の右側の銀を中央に寄せて、この「5三」を守る。
相手の攻めはまだ止まらない。
「▲7四歩」と今度は「5五」の角が僕の「8二」の飛車を狙っている。
「△同歩」とはできない。
「△6三金」と「7三」の歩を守りつつ、「5三」も守る。
なんとも、ぜいたくだ。
「▲7八飛」
と相手の大駒が攻めに向かってくる。
盤上を見てもらえば瞭然だろうけれど、相手は歩、角、飛車、桂馬しか動かしていない。
一方で僕は駒をたくさん使い、そして、それぞれでボロボロにされている。
攻めるどころか、序盤が一気に終わって終盤戦だ。
危ないことがわかるから、余計に焦る。
しかし・・・
「参りました」
持ち時間が10分ほど残して負けてしまった。
全力を出し切った感じがせず、動揺でいら立ちが隠せない。
相手は得意顔で感想戦をしようとする。
(嫌だ、感想戦はしたくない)
「すみません、トイレに行きたいです」
「ああ、わかった。ありがとうございました」
と、席を立ち、走り去るようにトイレに向かった。
洗面所で自分の顔を見る。
なかなかひどい。
これではママに心配をかけてしまう。
なんとか、気持ちを落ち着かせる。
(なんだろう、あんな将棋始めてみたよ・・・・)
思い返してみる。
相手の3手目の桂馬跳ねがそもそもおかしい。
(どう指したらよかったのだろう?)
いろいろ考えるが、今の自分ではわからない。
桜井先生も指したのを見たことがないので、きっと珍しい形なのだろう。
自分の中で振り返るとだんだんと気持ちが落ち着いてきた。
(そうだ、高槻さんと茨木さんはどうだったんだろう?)
なんとか、表情が戻ったことを確認して、試合会場に戻った。
二人は一生懸命戦っている。
盤面を見る。
双方とも相手の駒台にたくさん駒が置かれている。
明らかに劣勢だ。
それでも、諦めていない。
高槻さんはやがて、攻め駒がなくなり、遠くにある歩を突きださねばならない。
一方で相手は積極的に詰ませに来ず、あくまでその攻め駒を攻める。
(遊んでる・・・・)
高槻さんの表情を見る。
泣きそうだった。
顔が真っ赤で必死に逆転の手を探っている。
詰まされるまでやめる気はないだろう。
相手もそれをわかっているだろう。
わかっていて、詰ませに行かない。
(こんなひどい将棋もあるんだ・・・・)
僕もまただんだんとイライラしてきた。
高槻さんの対戦相手にはこの気持ちは伝わらない。
あくまで楽しそうに指している。
一方で、茨木さんも遊ばれているようだ。
ただ、茨木さんは積極的に攻めていくようなことはしていなかった。
不利をわかっているのか、駒を玉の周りにペタペタ置いて、守りきる布陣だ。
相手陣には自分の駒がひとつもない。
相手は高槻さんの相手のように余裕があるようには見えない。
駒がたくさんあるにもかかわらず、攻めあぐねているようだ。
堅い守りを突破するには飛車、角、金、銀など相手に渡さなければならない。
すると、その駒で逆襲されることを恐れているのだろう。
持ち時間はほぼ一緒から、相手の方が徐々に減ってきた。
(茨木さんならかてる?)
茨木さんに期待を込めて、集中してみているとやがて
「参りました」
と高槻さんの声が聞こえた。
と同時にその場から離れていった。
さっきの僕みたいだ。
茨木さんのことも気になるけれど、高槻さんも心配だ。
瞬間的に高槻さんの後をつけていった。
会場を出てすぐ高槻さんの姿が見えた。
声をかけようと近づく。
高槻さんは下を向き、顔を手で覆っていた。
そして、背中越しに肩をぶるぶると震わせていた。
(泣いている・・・・)
しばらく僕は高槻さんのすぐ後ろで何もできずにたたずんでいた。
幸いにみんな試合に集中していたのか、廊下を通る人はいない。
どれほど時間が流れただろう。
高槻さんが振りむいた。
「えっ? 水無瀬君?」
高槻さんが盛大に驚いていた。
「高槻さん、大丈夫?」
「あはは、嫌なところをみられちゃったねー」
と、乾いた笑顔を見せる。
「対戦相手、高槻さんで遊んでたね」
「そうだね、さっさと投了したらよかったんだけど」
「詰むまで諦めないって桜井先生に教えてもらったしね」
「そう、だから諦めなかったんだけど・・・・」
と、高槻さんは思い出して、また泣きそうだ。
「ぼ、僕もよくわからない戦法で負けちゃった」
と、話題を変えた。
「うん、見てたよ。「鬼殺し」やられてたね。知らなくて当然だよ。対策を知ってたら何でもないんだけど。ごめんね、教えてあげればよかったね」
「謝らないで、対策があるんなら、知らなかった僕が悪いよ」
「ううん、水無瀬君のを見て、ちょっとイラっとしちゃってね。前回も負けた相手だったのに、なんとか勝ってやろうって気負っちゃった」
と、互いを慰めあった。
僕も高槻さんも一生懸命特訓したんだ。
それをあざわらうようなことをされてとても悔しかった。
二人とも少々お話しして、気持ちが落ち着いたみたい。
「優ちゃんの応援にいこっか」
と、高槻さんが提案した。
僕は「うん」と頷いた。
会場に戻る。
茨木さんはまだ指していた。
遠くからでもわかる、まだあきらめてないと。
近づいて盤面を見る。
駒の数が互角に戻っていた。
対局者を見る。
相手が明らかに焦っている。
どうやら、茨木さんは相手の攻めをしのぎ切り、攻撃に転じたらしい。
茨木さんは長考している。
時計を見る。
相手が残り3分、茨木さんが残り1分だ。
(時間がない)
でも、茨木さんは焦っていない。
残り30秒まで悩んで、一気に攻めだした。
相手も時間をかけずに受ける。
崩しきれない。
時間だけが減っていく。
残り5秒で手が止まる。
ビーーーとチェスクロックの音がうるさい。
そして、音がとまった。
茨木さんの時間が切れたのだ。
「ありがとうございました」
茨木さんは頭を下げた。
時間切れで茨木さんが負けたのだ。
「あ、そっか。こうやってたら詰んでたんだ。やっちゃったなぁ」
僕たちと違って、茨木さんはマイペースだった。
将棋を一生懸命やってますとたまにこういうことがあります。
こういうので将棋人口が減らしてどうするんだと思うのですが、実際に起こるのはどうしようもありません。
ありがたいことに私に周りにはいないってことです。
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
皆さんの反応が私の活力となります。
よろしくお願いします。




