番外編 『せんにゅう!ゆうお兄ちゃんのがくえんさい!』 Ⅱ
少し気分を悪くするシーンがあります。
ご注意下さい。
紅葉の年齢が間違っていたので更新しました。
有宇とは7歳差で8歳でした。
「むぅ……」
紅葉は頬を膨らませて口を尖らせていた。
お化け屋敷やものづくり体験など色々回った後にゆうお兄ちゃんのお弁当を食べて、緩やかにお昼が過ぎていっていた。
食後のデザートを楽しもうと屋台に並ぶも何処も紅葉の前で完売してしまう。
最終日という事とお昼が過ぎた事もあって、材料がなくなって後夜祭に向けて後片付けというわけだ。
最初のうちはまだ頬を膨らませたり、元気だった紅葉も、次第に表情が曇っていき、俯き気味になっていた。
「次こそは買えるもん!」
力を込めていないと泣いてしまいそうにまでなっていた。
若干瞳が潤んでいるのは誰も突っ込まないで温かい目で見守ってほしい。
食べる事より買う事が第一になりつつある紅葉。
パフェ、アイス、チョコバナナ、綿飴、りんご飴……
その全てが売り切れて最後に残ったのは、有宇と結衣が食べたクレープだった。
人も3人ほどしか並んでおらず、材料が余っているのかじゃんけんに勝ったらもう一つ貰えるみたいだった。
特殊な材料な物は売り切れになっていたが、定番所のチョコやイチゴのバナナは置いてあった。
「なに食べよっかな?〜チョコに〜イチゴに〜」
落ち込んでいた紅葉も表情が晴れて自分の番を今か今かと楽しみに待っていた。
3人ともじゃんけんに勝って、嬉しそうにクレープを2個貰っていく。
チョキを出そう!と心に決めてお姉さんに声をかける。
「チョコのクレープ下さい!」
笑顔でお金を台に置く。しかし……
「あ、あぁ……ごめんね?さっきので売り切れちゃったの……」
「え?……ぅぅぅ……っぐす……」
もう紅葉瞳は涙を堪える事はできず、少しずつ溢れそうになる。
紅葉も周りの迷惑はかけたくないと鼻を可愛らしく啜りながら堪えようとしていた。
屋台のお姉さんも泣き出しそうになりながらも頑張って堪えようとしている紅葉にオロオロしていた。
中にはきゃー!!可愛いっ!なんかいい物買ってくるからっ!!と紅葉の可愛さに当てられ、目にも留まらぬ速さで食堂に向かっていた女子生徒もいた
一度や二度上手くいかない事なら紅葉もここまでなる事はなかった。
我慢する事を知っている優しい子だ。
しかし、悉く楽しみを潰され、最後の1つすら叶える事が出来なければ大の大人でもかなり来るものはあるだろう。
それを小学生の子どもに泣くなというのはあまりに残酷だ。
いつどの刺激で爆発するか分からないほど涙を瞳に浮かべながらとぼとぼと立ち去ろうとする紅葉。
「ねぇ?お姉ちゃんとクレープ食べない?一個余っちゃって困ってるんだけど……どうかな?」
そんな紅葉に救いの手が差し伸べられる。
さっき自分の前で並んでいたお姉さんだった。
綺麗な甘栗色の髪を肩まで伸ばした、あどけない人懐っこいさに少し大人びさが混ざった笑顔。
「いい、です、か?」
「うん!一緒に食べよ?その方が楽しいからね!」
恐る恐る上目遣いで訊ねると嬉しそうに笑うお姉さんを見て、表情がぱあっと明るくなっていく。
高まる嬉しさに頬を綻ばせていると
「んんー!!かわゆすぎる!!塞がってて抱きしめられないのが歯がゆいよー!」
と本当に悔しがっていた。
一個クレープを持ってあげるとわしゃわしゃと抱きしめてくる。
しかし不思議と苦しくなく、優しくて温かいぬくもりに目を綻ばせていく。
ゆうお兄ちゃんとは違う気持ち良さ。
硬くて、大きくて、頑丈なものに支えられて守られているような安心感とは少し違く、
触れられる所全てが柔らかく、温かく、ふわふわして包み込まれるような安心感。
父性と母性の違いなのだろう。
こうやって女の人に抱きしめられるのは何年ぶりだろうか?
「お姉ちゃんの名前は石川 結衣、よろしくね!」
◇◆◆◇
抱きしめる事、抱きしめられる事を堪能した2人は中庭のベンチでクレープを食べた後休憩していた。
紅葉も自己紹介を済ませて今もお姉ちゃんの膝の上に座って、胸に背中を預けてリラックスしている。
心地が良く、甘えるように抱きついていた。
「ああ、私もお姉ちゃんが良かったなぁーこんな可愛い子がいたら良かったのにぃ」
どうやら、ゆいお姉ちゃんは妹みたいだ。
羨ましそうに、ねだるように頬を擦り寄せてくる。
くすぐったいけど、いい気持ち。
「ゆいお姉ちゃんも……好きだけど……もみじは……ゆうお兄ちゃんの…………だから」
ごめんなさいと思いながら、でもやっぱりゆうお兄ちゃんが1番なのは譲れないと胸を張る。
そんな姿がまた微笑ましくて結衣を炎上させるのだが、無垢な紅葉は分からなかった。
可愛いは正義とよく言うが、無自覚な可愛さは悪かもしれない。
「そっかぁ……ゆうお兄ちゃんが大好きなんだね、羨ましいな」
さっきのはぁはぁと少し興奮気味だったゆいお姉ちゃんとは雰囲気が変わって、
お兄ちゃん想いのいい子だねと、
愛しさや慈しみを持った聖母のように紅葉の髪を撫でる。
その一方で綺麗な絹のように滑らかな紅葉の髪を楽しむように撫でる事もあって、
なんかよく分からなく、掴み所がないけど心地よいお姉ちゃんだと思った。
「う……ん、だい、すき……」
「ん?……ゆうお兄ちゃんの劇まで眠たいなら寝ていいよ?ちゃんと起こしてあげるから」
「でも……甘えるの……いや……ダメ、から……」
うつらうつらしながら、葛藤してた。
甘えていいのかな?と。
甘美で、ぬるま湯に肩まで浸かっているような夢心地の感触。
いくら有宇が自分の事よりも紅葉の事に大半を割いて、愛情を注いでいても無理な話。
兄や父になれても母にはならない。
その事は有宇も分かっている。
それ以上に愛情を注げばいいと開き直った。
もし養母が必要なら自分があまり養母と会わないように調整すればいい。
でも必要ないなら、自分の手で紅葉を独り立ちさせる。そう、両親と約束したから。
紅葉はもう十分周囲に愛情を注いでもらったと思っている。
これ以上は望まない、ゆうお兄ちゃん以外は望まないから離れ離れにしないで。
お父さんもお母さんも要らない!と2人の養母に言い放つほどだ。
1人目の養母は今の保護者で面を食らった顔をした後、よく言ったよ!!2人は私が面倒見るわ!と笑い飛ばしていた。最初から2人とも引き取る予定だったらしい。
大笑いしたのは兄妹の仲を割く鬼だと思われていて、ちゃんと親戚達を見ているのね、と感心していたからだ。
勿論そのあと、有宇は謝り倒していた。
2人目の養母は紅葉が言い放った通りの女で、目論見がバレて破断となった。
紅葉は素直な子で人懐っこく、明るく純真無垢な笑顔は可愛らしく、いるだけで周囲を和ませるような天真爛漫な子だ。
しかし、その反面、他人に愛情を注がれる事に、甘やかさせる事に臆病な子でもあるのだが知る人は少ない。
それは両親との死別に理由があった。
いや、死のもたらした環境の変化だ。
有宇と紅葉の両親は研究職で毎日が多忙日々を過ごしていた。
有宇の時も1歳を少し過ぎたあたりから多忙に滑車がかかり、お手伝いさんに任せっぱなしになった。
しかし、その女には影があった。
有宇を、正確に言えば有宇の母親を恨んでいた。
自分と有宇の父親の関係を割いた女とその子を憎んでいた。
それでも女は有宇の父親を愛していたから雇い主と使用人という関係を受け入れた。
そんな女が任されたのは家事全般と有宇の子育てだった。
家事全般は全て完璧にこなしていた。
埃一つない、口の出しようのないぐらい隅から隅まで行き届いていた。
子育てもある意味では完璧だった。
有宇の両親や近所に6年間バレないぐらいに。
虐待をしたわけではない。
身体を見ればすぐにバレてしまう。
そうなったら、何の為に使用人まで落ちぶれたかという事になってしまう。
女は生命に関わる食事だけはこなしていた。
しかしそれ以外は外から鍵のかかる防音の部屋に放置した。
いくら泣いていても女は3時間に一回しか世話をしなかった。
お腹を空かせて泣いていようが、オムツを濡らして不快感で泣いていようがだ。
定期的な時間にしかミルクを与えなかったし、オムツも交換しなかった。
栄養はちゃんと計算して出されたものだから、栄養失調になるような問題になる事はなかったが、
しかし、そんな事だけならわざわざ雇う必要はない。機械でもできる事だ。
現に泣く事を辞めた。
いくら泣いても届かないから、余計にお腹が空いてしまうから。
泣いても静かに待っていても時が経てばちゃんと食事も替えもしてくれるから。
大人しく、一人でいる事を覚えた。
気づけば、空腹も不快感を訴える感受性が失われていた。
愛情を注がれるという行為を理解できなくなってしまった。
いや、理解というのは語弊がある。
分からないのではなく、記憶にない、知らずに貴重な乳幼児から幼児の間を過ごしてしまったのだから。
有宇今のような人間性を取り戻したのは、女が解雇され、紅葉が産まれてからの事なのだが……その話は後でにしよう。
有宇は愛情なく育ったが、紅葉はそうはならなかった。
周囲に関心を持てなかった有宇が当時唯一関心を示した紅葉に付きっきりだったのも理由の一つだったが、もう一つ大きな出来事があった。
両親は女の全てを知り、大きく落ち込んだ。
辛い思いをしていたという自覚すらないほどになっていた有宇を見抜く事が出来なかった事にだ。
懺悔する勢いで猛省した両親は同じような悲劇は繰り返さないと、同じ研究所のチームの人達に協力を仰ぎ、これまでの功績を盾に研究所内に預かり所を設置を申し込んだ。
お手伝いに任せっきりで研究に没頭したのは伊達じゃない。
すぐさま許可され設置された。
変わらず多忙ではあったが、休憩中を利用して紅葉と有宇に会いに行き、その他は代わる代わる職員達が子ども達の面倒を見ていた。
誰もが両親を尊敬していたし、有宇の事も聞かされていて、皆協力的だった。
中でも両親の上司達はまるで孫ができたみたいだと嬉しそうに面倒を見ていた。
実験結果が出るまで手伝う事のない若手達はお兄さんお姉さんとして一緒に施設内で遊んだりしていた。
だから紅葉は様々な人から愛情を注がれていた。
しかし、両親の死によって、彼らと会えなくなってしまう。
研究所に行く機会がなくなってしまったからだ。
そして唯一の家族の有宇もまた、あらゆる悪意の標的になっていた。
有宇の所為で、優秀な人材が死んでしまったと、有宇の前で嘆く他のチームの研究者。
研究は今後どうするのか、何か遺していないかと、家の中を我が物顔で漁る他のチームの研究者。
資産はどうするか、子供達はどうするかと揉めに揉めている親戚。
両親の死を悲しむ暇すら与えられなかった。
いや、悲しむ事すら許されないと言っているようだった。
『もう安心して?』
『辛かったでしょう?もう大丈夫よ』
『さぁ、おいで?』
有宇の存在を無視して紅葉に救いの手を差し伸べる親戚たち。
紅葉の味方は親戚の中で沢山いた。
大半が父の親戚で4、5組、母の親戚は母の兄。
しかし、殆どが紅葉のみを引き取るというものだった。
両親が死んだ理由を作った張本人、感情の起伏も少なく、何考えているか分からない不気味な存在。
そんな有宇を引き取る物好きはほとんどいなかったのである。
今の保護者である父の妹と母の兄しかいなかった。
皆口を揃えて、有宇を引き取るのを拒んだ。
2人とも引き取ると言った2人を紅葉だけでいいだろうと説得しようとする者もいた。
有宇と紅葉の目の前で、有宇は保護施設にでも入れればいいと言い放った。
紅葉は言ってる事はよく分からず不思議そうに首を傾げていた。
しかし、有宇は当時11歳。
大人たちの話す内容が分からない事もない。
施設の事も社会の授業で何となく知っていたし、彼らの自分の見る目が紅葉とは違い、明らかに悪意に染まっていると感じていた。
それでも有宇はその事に、腹を立てる事も、諦める事も、悲観する事もなく、どんな結末になろうともただ受け入れようと見つめていた。
可愛らしく首を傾げている紅葉を優しく撫でながら。
おじさんたちのことはわすれちゃったけど、その時ゆうお兄ちゃんに言われたことは今でもよくおぼえてる。
『紅葉は紅葉の居たい所にいればいいんだよ?それが1番なんだから……』
頭を撫でてくれた有宇の声はいつも通りだった。
ん?と何が違うと首を傾げていた。
今にも倒れてしまいそうなゆらゆらと回っているコマみたい。
離したら、うんと遠くに行ってしまいそうで……
きっとこのおじさんたちのせいだ!
ゆうお兄ちゃんを泣かせるわるいひとなんだ!!
だからお兄ちゃん以外はもう要らない!!
あの日、幼い紅葉は胸に誓ったのだ。
しかし、彼女はまだ4歳。
本来なら甘えたい時期だろう。
誰しも甘えられる特権を持っている頃だろう。
そうやって強い覚悟をしてもやはり揺らいでしまう事はある。
そんな時は決まって、ゆうお兄ちゃんを一日独り占めしてゆったりと過ごすのだが……
ゆうお兄ちゃんは劇で大忙しの毎日。
それに加えて昨日まで風邪を引いていて、いつもなら付きっきりで看病してくれるゆうお兄ちゃんも忙しさからそばにいてあげられなかった。
この件に関して、有宇はまるで両親と同じじゃないかと、落ち込む程反省している。
さらに風邪が治った今日も病み上がりだからと1人にされてしまった。
今日は劇が始まるまでゆうお兄ちゃんと一緒にいようと楽しみにしていたから余計にダメージが入っていた。
紅葉も本当に気に掛けているからこそまだ大人しくしてほしかったというゆうお兄ちゃんのお願いの は分かる。
理解してても弱った身体と幼い心では人肌恋しくなってしまったのだ。
仕方ないだろう。
積もりに積もっているから尚更だ。
だからこうして悩んでいる。
さっきみたいに、じゃあね!と離れればいいのに、身体が言う事を聞かない。
心は安寧を求めている。
寂しかった分を補給したい。
少しくらい寝てもいいよねと囁く。
「いいんだよ、甘えて」
ぎゅっと抱きしめてくれる感覚が気持ちいい。
温かさが伝わってきて、ふわふわな雲の上にいるみたい。
「ほんとに?……」
窺うように見つめると、解きほぐすように頭を撫でてくれる。
怖い夢を見た時に寝るまで頭を撫でてくれてたお母さんみたい……
「うん……お姉ちゃんもその劇を観るために来たんだ。好きな先輩が出るから……って、これ内緒ね?まだ誰にも言ってないことだからね」
悪戯がバレた少女のようにウインクと笑顔を見せる。
ニカッと笑って内緒で『けんきゅうじょ』から飛び出して泥んこになって遊んだ時のゆうお兄ちゃんみたいだ。
最近は見た事ないなときゅっと胸が締め付けられる感覚と、ゆいお姉ちゃんをお母さんとゆうお兄ちゃんと重ねてしまって、余計に寂しくなって離れられなくなってしまった。
「じゃあ……お願いします」
迷いの先から紡がれたのは受け入れる事……受け入れられる事。
「うん、おいで?」
ゆいお姉ちゃんは嬉しそうに微笑みながらポンポンと膝を叩く。
紅葉は一旦離れてゆいお姉ちゃんの膝の上に座り直して、正面から抱きつく。
「ええ?も、紅葉ちゃん?!」
「あ……ごめんなさい……ゆいお姉ちゃん、痛かった?」
びっくりするゆいお姉ちゃんから離れる。
何処か痛いところを押しちゃったのかもしれない。
恐る恐る窺うように見つめる。
「あ……そっか……ううん!大丈夫だよ?ちょっとびっくりしちゃっただけだから。ほらおいで?」
にこっと笑って腕を広げるゆいお姉ちゃんに安心して膝の上に座って抱きつく。
寝る時は手を前で組みながら眠るから、柔らかい感触といい匂いが顔と組んだ手を包み込む。
髪と背中を心地よいリズムで撫でられる。
季節は秋なのに、春の陽気に包まれたように。
お母さんとお父さんがいなくなって、ゆうお兄ちゃん以外の人の胸の中で寝るのはるりお姉ちゃん以来だから、3年ぶりぐらいの夢心地。
「おやすみなさい……」
「うん、おやすみなさい」
るりお姉ちゃんよりも柔らかいなと失礼な事を思いながら紅葉は眠りについた。
◇◆◆◇
「すぅ……すぅすぅ……」
寝ていると、何処にでもいる可愛らしい少女だ。
膝枕かと思っていたから急に抱きついてきた時はちょっと驚いてしまった。
本当は甘えん坊な女の子なのかも?
でも何か恐れいてる女の子。
きっと私には計り知れない事があったのだろう。
甘える事が怖く、遠慮してしまう、そんな過去が。
それを聞く事はまだしない。
意味もなく傷つけたくないし、正直聞いたところで何も意味はない。
すべき事は同情じゃなく、お兄さんと接する時のように寄り添う事だ。
お兄さんとはちょっとしつこくて、いろんな事に好奇心旺盛な困った後輩
紅葉ちゃんとは甘えられる、頼れるお姉ちゃんになる事だ。
どっちもなりたくてなれなかった私だ。
自然体なのに、身内以外には許されなかった私だ。
お姉ちゃんと事あるごとに比べられる私はお兄さんといる時の私ではいられない。
お姉ちゃんほど、甘えられて頼れるお姉ちゃんはいない。
いつものほほんとしているのに、変なところで頑固で、だから絶対に私をいつも助けてくれた。
見比べられる事や勝手に手本にされる事はあっても頼られたり、甘えられたりはされなかった。
思考の海に潜っていると紅葉ちゃんはもぞもぞと動く。
幼子のように私の胸の中で丸くなる紅葉ちゃん。
「すぅすぅ………おねぇ……ん…………いなく……ならないで……ひとりは……い、や」
「うん、大丈夫。お姉ちゃんもお兄さんも紅葉ちゃんを置いていったりしないから」
身体を守るように硬く丸くする紅葉ちゃん。
髪と背中を恐怖から解すように撫でる。
決して離さないと抱きしめる。
そうすると苦しそうに丸くなっていた紅葉ちゃんの身体から力が抜けていく。
安心したように身体を預け最初の位置に戻った。
絶対にお兄さんも紅葉ちゃんも離さないんですからね?
……お兄さんには想い人がいるみたいですけど……諦めませんよ!
まずは2人の特別になってみせます!
そう決意しながら、彼女は秋の陽気に包まれながら紅葉ちゃんの髪を梳かすように撫でるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
もう2、3話番外編を投稿しましたら、前回の活動報告で書いた通り一旦更新をお休みさせていただきます。




