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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
26/43

『番外編』 闘いの結果と有宇の本心

文化祭2日目のお昼頃まで遡る。


「二人とも、大活躍だったわね」


前日リハーサルも兼ねて集まってお弁当を皆で囲っている。

明日香先輩が示した話題、

それはお昼頃から流れ始めた、放送部によるラジオ放送。

今は、料理研の部長がゲスト出演している。


『では、各コンビの講評をして頂きましょうか。辛口と言う事で、皆さんご覚悟を』


『はい。一組目、コンビ・ミラクルですが、一人の動きは良かったんですけどね。もう一人との連携がいまいちでした。そこで少し全体としての評価が崩れてしまった……ということです。ただ、汁物を最後に作って、温かいまま出したのはかなりの高得点です』


「何処の組も完成度が高かったわね」


「お昼前って事もあって見ていて凄くお腹空いちゃってました」



「……妙味の料理は、間近で見ない方がよかったな……本当に」


「あはは……あれはもう料理じゃなかったもんね?」


明日香先輩、朝日奈さん、石川さん、佐伯さん、秀。

皆の会話を聞きながら、放送に耳を傾ける。


『四組目の、妙味は?』


『あれは……審査台に置かれた二品は、片一方が若竹色、もう一方は紫色でしたからね』


『味の方は?』


『……とても懐かしい光景が目に移りましたね。そこで祖父が元気に手を振ってましたよ』


『……審査員諸君の存命を祈ります』


確かに、5組目であった俺達の盆の横に置かれた妙味の盆に載っていたのは、

絶望の二文字をそのまま具現化したようなものだった。

何をどうしたらあんな臭いがしてくるんだ?


『それでは、大本命!今回優勝した五組目、シンデレラは?』


「お、言われてるぞ」


秀がニヤニヤとこちらを見る。

それに気づかないふりをする……わけにもいかないから軽く睨む。


『しかし、味も良かったですが……シンデレラが他から突出していた点は、何といってもあのコンビネーションでしょう。正直、味は二位の味よし亭や、三位の芒星生徒会とそこまで差があったわけじゃなかったですしね』


『なるほど……それが決め手だと?』


『ええ。即席キッチンは少し手狭で、二人が揃って料理をしようとすると肘や足、下手をすれば肩なんかも当たってしまうんですよ。けど、あの二人はぶつからなかった。一度もですよ?実況台から見ていた感想を述べさせてもらえば、あの二人、次に自分と相手がどう動くのか、二手、もしくは三手先まで分かってるような動きでしたね』


まあ、確かに相手がどう動くかは、大体予想できてたけどさ。


「あ、これ本当なの?」


「……作る料理決まってた。有宇のやりたい事……次にどう動きたいか……それ分かるから問題ない」

 

尋ねた朝日奈さんとそれを横で聞いていた明日香先輩はほへーと感心していた。

何処まで本当の事なのか分からないが、心なしかトーンが高いから全くの嘘ではないのだろう。

それはそれで気恥ずかしさがある。


「蒼井くん?怖い顔してる。何かあったの?」


「いや、ちょっと考え事してた」


佐伯さんの事になると心が乱れるのは悪い癖だなと心の中で反省する。


『……つまり、他の組の料理には、その所為で手元が狂ったような切り方の具材があったり、溶けきってない塊が入っていたりしたんですが、そういうのがシンデレラには無かったんですね。どの料理も完成している。そして美味しい。粗を探そうとすれば確かにありますが……どれも取るに足らないものでしょうね』


「辛口って言ってたけど、べた褒めだね」


「……だな」


「もしかして機嫌悪かったんじゃなくて、照れてただけ?」


妙に部屋の温度が高い気がするが、気のせいだろうか。

いや、俺が体感的にそう感じてるだけか。


「有宇、図星みたいだな!顔真っ赤にしてんの」


「……うっせ」



『……と、言うわけで、講評でした。この話を聞いて興味を持った皆さん!明日もう一度行われます!今度はキッチン数も七つに増やしますから、頑張ってくださいね!』


それを絞めに放送が終了する。ふと時計を見やると、丁度一時になるところだった。


「じゃあ、軽くリハーサルして文化祭回ろっか?……ユウはこれから暇?」


「はい」


「私のお願い通り優勝してくれたから……うーん。ユウとルリには何か奢ってあげる!」


嬉しそうに笑う姿はキラキラと瞳を輝かせていて、

遠慮するのを憚らさせる。


「……えっと、有宇?」


佐伯さんも同じ事を感じているらしく、どうしようか視線を送ってくる。


「うん、甘えさせてもらう」


そう言うと明日香先輩はうんうんと満足気に頷く。


「「ありがとうございます」」


そう示し合わせる事なく俺と佐伯さんはお辞儀をして、

息ぴったり、流石ねとくすくす笑う明日香先輩。

佐伯さんは嬉しそうに、俺は少し困ったふうに笑う。


それを見て、また楽しいものを見たかように笑う明日香先輩に引き連れられていった。


◇◆◆◇


「そういえば、お父様も2人の料理、とても美味しかったと褒めていたわ」


1日目に石川さんと行ったパフェの美味しかったメイド喫茶で先輩にご馳走になっている時、ふと思い出したかのようにそう言ってきた。


「……明日香先輩のお父さんいたような気がする」


「へぇ……って事はあの料理も食べたのか……」


それは御愁傷様だと俺と佐伯さんは明日香先輩から視線を逸らした。

明日香先輩もあの惨状を思い出して肩を竦めていた。


「あと、直接謝る事ができて良かったって言ってたわ。何処かであったの?」


そう尋ねられ、最初首を傾げていたが、

朝、3年生の教室まで案内していた男の人を思い出す。

確か最後謝られた気がするが……たぶんそれなのかもしれない。

謝られるわけないとそのまま去ってしまった。

失礼だったな。


その事を明日香先輩に言うと、


「ふふ、いいのいいの!分かりにくい謝罪をするお父様がいけないんだから。感謝と謝罪はちゃんと正面に立ってすべき事よ。それができなかったお父様に非がある。だから気にしないでね」


全くマナーがちゃんとなってないんだからと、

怒っていた。

しかし、その表情の中に、怒るに怒れない、しょうがないなといった優しい笑みも浮かべていた。

これが原因で親子喧嘩に発展する事はなさそうで安心する。


教室のドアが開く音と共に、おかえりなさいませという物静かな声が聞こえる。

今日は元気一杯、天真爛漫なメイドではなく、

粛々と、ご主人様(お客)をもてなす万能メイドのようだ。

メイドって言うか使用人って感じだな。


入ってきた男の人は中年というには老いてなく、

青年とは言えない。

30代後半ぐらいの自分達の親世代ぐらいだろうか。

しかし、この人は他の同世代の人とは違うオーラを身に纏っている、気がする。

このような人はそう何度も遭遇できないだろう。

そう、朝学園を案内した男の人……明日香先輩のお父さんだった。



「すまないね。楽しいお茶会に水を差してしまって」


「い、いえ。その……明日香先輩にはいつもお世話になっておりまして……」


「……有宇、緊張しすぎ。明日香先輩のお父さんは優しいから大丈夫」


資産家、政治家などなど。

財や地位の高い人を目の前にすると、

呼吸は乱れ、喉が急速に渇いて、身体も小刻みに震えてしまう。

苦手の域を通り越して、トラウマなのだ。


「君とは一度話してみたかったんだ。明日香がいつも楽しそうに君の話をするからね」


「お、お父様!?」


突然のカミングアウトに顔を赤くしながら焦る明日香先輩。


「失礼な人かと思ったら家族思いな優しい人だったと聞いているよ。あと明日香の事を特別視しないっていう事もね。なんでかな?」


試されるように瞳を覗かれる。

嘘は許さない。

いや、言っても構わないが私には見抜けるよと言ってるようだった。


「……そこを意識したら、恐れ多くて話す事すら出来なくなりそうですから」


嘘ではない。身分の高い存在。

そんな人とは本当だったら関わりたくない。

しかし、勝負に負けてしまった以上、逆らう事は出来ない。

最初はそう思っていた。

けど、関わる内に先輩の良さや魅力に気づいた。

そして、何より、『あいつら』とは違かった。

身分は肩書きよりも自分自身を見て欲しいと言った明日香先輩が眩しくて、嫌悪感がなくなっていた。


「そうか……有宇くん。政治家や投資家、資産家……そう言った富や地位、身分の高い人間達の事をどう思ってるか君の視点から率直な気持ちが聞きたい」


「お父様!?何変なことっ」


俺は怒る明日香先輩を制する。

悪ふざけでも試すのでもなく、

真剣に見つめてくる。

その真意は分からないが俺もそれに応えないといけないと思った。


「そうですね……正直に言えば、関わりたくないです。傷つくのはいつも俺の方ですから」


きっといつもならここで自分の意見を区切って、

触りのいい言葉で逃げていた。

でも……


「自分の力でもないのに、親のお金や権力に後ろ盾に俺の大切な物を、人を、思い出を全て奪った。そんな人種を許せるはずないです。でも勝てない……なら表面では取り繕って、笑って……心の奥深くでは、早くいなくなれと沸々とした嫌な感情が滾って……」


言葉は穴の開いたバケツの水のように溢れていく。

もう取り繕うことの出来ないほどに。

怒り、悲しみ、憎しみ、焦り、諦め。

あらゆる感情と明日香先輩のお父さんの瞳が、

俺を後押ししているようで……


「もう……俺達を放って置いてくれって感じです」


言い切った後は妙な爽快感があった。

溜め込んでいた気持ち悪い物を吐き出せたからだろう。

だから……


「でも、明日香先輩はそんな人達とは違って……権力もある筈なのに、気に食わなかった自分を幼馴染以外からは手を借りずに明日香先輩自身でテニス勝負しようとしたり。役決めだって、本当は自分がシンデレラやりたいかったのに決まったこと駄々捏ねないで……脇役の性根の腐った姉の役を完璧にこなして。我儘で自分の事と都合のいい事しか考えない彼らと違って、いつも周囲に気を配って心優しい先輩がいて……あいつらだけが全てじゃないんだなって思いました。」


爽快感の後にほんの少しのいつも言えないような本音が出てしまうのも仕方ない事だ。


でもどうしてこの人にはこんなに打ち明けられるのだろうか?

俺の発した言葉はどれも不快になるものばかり。

なのに俺はそれをほんの少しの罪悪感しか持たず、

話したいがままに話してしまった。


それが無意識に悩みを聞いて欲しい、相談に乗って欲しい、力になって欲しい……助けて欲しいと叫んでいることに有宇は気づいていない。


俺は不思議に思う。

頼りになる大人や恩師にも、

同い年の親友にも、

こんな風に吐き出したりしないだろう。


しかし、どう考えても答えには辿り着きそうにない。


もし一度でも、有宇が両親と辛い事や悩みを相談していればすぐに分かったかもしれない。

親は包み隠さしもしないどんなに汚い言葉でも受け止めてくれる。親はそれが正しい事なら褒めてくれる、間違っていたら叱ってくれる。

子供にとって人生で一番最初に頼る大人。

それが今の有宇が持っている感覚に1番近かった。


しかし、有宇は気づくことはないだろう。

自分の両親にすら心配させまいと虚勢を張って、全てを自分の中に飲み込んで、押し込んで来たのだから。


「そうか……やはり君は」


そんな事を考えていた有宇は気づかなかったが、

明日香先輩のお父さんは何十匹もの苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

暴言を吐かれた事というよりか、

そんな感情を有宇に持たせてしまった事を悔いているかのような表情。

しかし、流石はと言うべきか、すぐに表情は戻っていた。



「なら君は明日香のような身分の……いや、お金やしがらみにも囚われない何不自由もない幸せな生活ができるとしたら……それを望むか?」


さらにその瞳の真剣さが増したような気がした。

俺が求められている答えは?

なりたいと答えれば、さっきまでの自分の話はなんだったのかとなる。

まさか、自分は彼らのようにはならないなんて馬鹿げた事は言わない。

ならなりたくないと答えるか?

彼らのようにはなりたくないから。

そんな理由は小さすぎる。

あの瞳が求める答えじゃないだろう。

なら、力を得たら何の為に使うか

俺自身の為に?いや、それなら……


「……妹がそれで幸せになれるのであれば。」


悪魔に命を差し出す事になっても……

いや、俺は喜んで命を差し出すだろう。

そう瞳に込めて見つめ返す。

この人は何に俺に求めていたのか、

何を探っていたのか、試していたのか。

その真意を確かめる為に俺は見つめ直す。

しかし……


「そうか……ありがとう、参考になったよ。今、仕事の片手間本を書いていてね。貴族と庶民の恋の話をね。庶民の視点も欲しくてね……嫌な事を聞いてしまってすまなかった。それを素直に話してくれてありがとう」


さっきまでの真剣なオーラを纏っていたとは思えないほど、気さくで話しやすい雰囲気に早変わりしていた。

仕事と私事を分けていたのだろう。

あまりのギャップに力が抜けてしまう。

その所為で、本当は何の為に聞いたのかは結局分からずじまいになってしまった。


小説の為なのか、それとも他の……

それは彼のみぞ知る。


それからあまりにも土足で踏み弄る行為に耐えきれなくなった明日香先輩に説教を受けるといった面白い光景を見たり、取り留めのない話をしたりした後、

明日香先輩のお父さんと別れた。


別れ際にまた、悲しげな表情で

「すまなかった」と言われたのだが……

今度のあれは何に対するものだったのかは今の俺には分からなかった。

お読みいただきありがとうございます。


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