不機嫌な有宇と隠された学ランの中身
週が明けた月曜日。
私は蒼井くんを観察していた。
ひかりちゃんの言った通りなのか、
私の思っていた通りなのか確認したかったから。
結果としては特に何もなかった。
「おはよー!」
と挨拶されれば、
「…………おはよう」
って返してるし、
話しかけられれば口数は少ないけど答えているし。
すぐに他の男の子とトイレに行っちゃうけど、
休み時間に一回行くのは不自然じゃないよね?
その事をひかりちゃんに言うと、
「……毎回トイレにはいかないでしょ?色々不自然な所あるけど、まぁいいや」
何か呟いていたけど聞こえなかった。
「あおが言うならそうなんだろうなって」
「ひかりちゃんが分かってくれて良かったよー!」
一息ついた事だし、お弁当食べよ……
「あれ?……お弁当忘れてきちゃった」
「どんだけあおっちの事で頭いっぱいだったのさ?まぁいいや!食堂行こうよ!」
呆れ顔のひかりちゃんは自分のお弁当を持って、
私がお財布を用意する前に廊下を出る。
「待ってよ!ひかりちゃーん!」
追いかけて廊下を出る。
そこには、
「お、あおっちも食堂?一緒に行こーぜい?」
「……どっちでもいいよ」
「あれ?朝日奈さん?お、俺は?」
グイグイと肘で突かれて困っている蒼井くんと、
なぜかあたふたしている室井くんがいた。
「2人が食堂って珍しいね?」
「うん、あおが気になってる人がいてね。頭いっぱいでお弁当持ってくるの忘れちゃったんだって」
「ちょ!ひかりちゃん!」
その言い方は語弊があるよ!
それに蒼井くんに気づかれたら恥ずかしくて顔会わせられないよ。
にやにやするひかりちゃん。絶対分かっててやってるよね。
室井くんもへぇーと興味有り気だ。
「…………」
一方、蒼井くんはといえば、無表情。
あれ?興味ないみたい。
少し悲しいような嬉しいような……
「あれ?あおっちは興味ないの?」
「……ないな。どうせ如月だろ?この間もいい雰囲気だったしな」
話をわざと振るひかりちゃん。
話を振られたのが嫌だったのか不機嫌そうだ。
ひかりちゃんもそれで満足したのかそれ以上は突っ込まなかった。
顔はにやにやしたままだったけど。
4人で中庭を抜ける。
そこでは男子は水風船を作って当てあっていた。
「バカだよねーあれじゃ午後どうやって過ごすんだか?」
「体操着に着替えて、あとはベランダに干しとけば放課後には乾いてるよ。な?有宇?」
室井くんから話を振られた蒼井くん。
やった事ないから知らないと言うと思ったのだけど、
「この季節は微妙だけどな」
と経験談的な返しをしていた。
「蒼井くんもびしょ濡れになったことあるの?」
「まぁね……休日に近所の子ども達とな……あとちょっと中学の時にね」
少し遠い目になっていたのは何故だろうか?
そんなに激しい戦いだったのかな?
でもへぇ……蒼井くんもそうやって遊んでいた頃があったんだ。
びしょ濡れになってる所を想像すると可愛いなと思った。
なんて考え事をしていたから私は前方から飛んでくる水風船に気がつかなかった。
「あお!」
「石川さん!」
私が気付いた時には顔の目の前。
もう避けられない!!
目も瞑れない。
ーーバシっ!
でも当たる寸前の所で蒼井くんがキャッチしてくれた。
よかった……
「あ、やべ……」
キャッチはできた。
でも勢いを殺すこと無く掴んでしまった水風船は
形をぐにゃりと変えて次の瞬間、破裂する。
何故か冷静の水風船の動きを眺めてしまった私に中に溜まっている水が襲いかかる。
「っきゃぁ!」
びしょ濡れになったシャツは肌に張り付いたり、透けてしまったりしていた。
幸い、スカートの方は無事だった。
寄ってくる男の子は申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
「石川さん!ごめん!」
一緒に遊んでいた如月くんも頭を下げる。
よく見ると如月も全身びしょ濡れ。
シャツが張り付いた部分は避けていて、引き締まった身体が見えてしまう。
内心おぉ!っと思いながら、
「う、ううん!大丈夫だから!」
「いや、でも……」
とまだ罪悪感から脱出できてない男の子は何度も謝ってくる。
そんなに謝れても。怪我だってしてないしな。どうしよう……
そう困っていると、上から学ランをかけられる。
蒼井くんだった。
「あ、蒼井くん?」
「本当に申し訳ないと思うならさっさと退いてくれ。お前らは男だから多少は濡れても平気だろうけど、石川さんが濡れたままで風邪引いたらどうすんだ」
「いや、多少のレベルじゃないけどな?」
冷静に突っ込む室井くん。
私もそう思ってた。
「自分から濡れたんだ。まだまだだろ?」
「う、うんそうだね、はは」
何故か不機嫌な蒼井くんに如月くんは困った顔をしている。
「食べる物なら適当に買ってくるから。石川さんは体操着にでも着替えて」
「えっと……体操着持ってないかな」
多分私のクラスは全滅だろう。
金曜日に体育があるからその日に持って帰っている。
かといって如月くんのクラスはこれから体育があるから無理みたいで。
「……石川さんが嫌じゃなければだけど……使うか?」
そう言って蒼井くんはシャツを脱ぎ始める。
「えぇ!!駄目だよこんな所で裸になっ……あ、Tシャツ」
蒼井くんの上半身を見てしまうかと焦ったけど、
ちゃんと下にTシャツを着ていた。
それもそうか。蒼井くんが考えなしなわけないか。
「一応Tシャツ一枚挟んでるから多少は綺麗だとは思うけど」
「汚いなんてことないよ!でも寒くない?」
「それは大丈夫だから」
「……なら借りよっかな?」
蒼井くんも親切で貸してくれようとしてるんだし。
それに少し濡れて寒くなってきた。
教室に戻って借してっていうのを繰り返すのは少し避けたい。
「じゃ!あおは着替えてくるから!10分ぐらいで食堂戻るからあおっち達は席取っておいてねー!」
とひかりちゃんは急に背中をグイグイ押してくる。
お礼もできないうちにその場を後にした。
そういえば……ずぶ濡れの如月くんを見た時に感じた、
モヤモヤした思い出せそうで出せない小骨が突っかかった感じはなんなのだろうか?
◇◆◆◇
食堂に行った俺達4人の雰囲気は葬式みたいに静かで重かった。
如月と石川さんを濡らした男は着替えて体操着だ。
なんでも、予め用意しておいたらしい。
それも下着もだそうから用意周到だ。
他の奴らはそのままにして、2人は石川さん達を待っているみたいだ。
濡らした本人が待つのは分かるが何故如月まで?
とも最初は思っていたが、1人でこの空間に止まるのは酷な話だからしょうがないと割り切る。
「にしても意外だったよ」
如月は本当に意外そうな顔をしている。
「何が?」
「蒼井くんが石川さん……女の子に服を貸すのがね?蒼井くん、女嫌いで有名だからさ」
「嫌いなわけじゃない。生理的に苦手なんだ」
大切な事だから否定する。
恋愛感情はちゃんと男子ではなく女子に湧く。
ただその対象がいないだけだ。
「それは嫌いよりも酷い気が……でもなおさら疑問だね?なんでかな?」
「……困ってる人が知り合い、クラスメイトなら助けるだろ」
心の中でたぶんと、付け加える。
別に助けたかった理由があったわけでもなかったからだ。
「本当に、それだけかな?」
含みのある言い方に少しムッとする。
勿論、顔には出さないつもりだけど。
「お前は……俺が人を選んで助けてるとでも言いたいのか?」
いつもこうやって好戦的なわけじゃない。
ただ、今は何故か無性に言い返したかった。
虫の居所は悪いだけ……って言い訳は大人気ないとは分かっているけど
そう言葉にするのが今の心情を説明するのに最適解だった。
「いや、そうじゃない……確かにそういう捉え方もできるんだけど……」
上手く言葉に出来ずに悩んでいるようだ。
如月にそんな他意はなかったのは頭では分かってるつもりなのだが、
そんな姿にも何故かモヤモヤする。
「有宇。たぶん如月は葵ちゃんに気があるんじゃないのって気になってるだけだよ」
秀が助け舟を出す。
秀が言う事が確かなのなら、
「……邪推だな。そうだとしても、やっぱり俺が人を選んで助けてるって言い方じゃないか?」
「いやいや、それこそ邪推だよ。単純に女嫌いな有宇が、それを押し殺して女子を助けたのが意外だっただけだよ。まぁ俺は昔から有宇を知っているからな。別に石川さんを理由関係なしに助けたいと思った……もしくは助けたいとも思う前に咄嗟に行動していたとかなんだろうけど。日頃の有宇を見てると知らない人からすれば驚くんだよ。これが好きだからって理由なら如月もこんな変な聞き方はしなかったはずだ」
「なんだ、そういう事ね。急な親切心は下心にしか見えないって事か……ありがと、気をつけるな」
「いや、誰かを助けたいという気持ちに理由を尋ねた俺も可笑しかったから……」
あれ?秀の指摘を自分なりに考えて話したのだが……
さらに雰囲気が重くなって失敗したのだと気がつく。
「おっ待たせー!!」
そんな雰囲気を壊すような元気な声が俺達にかけられる。
朝日奈さんが妙に楽しそうに歩いてくる。
「あ、ちょっと待ってよぅ……」
その後ろを恥ずかしそうに歩く石川さん。
そして俺達の前まで来ると、
「じゃじゃーん!どう?学ランのあおは?はい!感想どうぞ!」
ガバッと石川さんを俺達の前に立たせる。
俺との身長差と男女差があって学ランはぶかぶかだ。
学ランに線がつくのを気にしているのか、
余りある袖を手で掴んでいる。
裾も長く、スカートの半分以上ある。
「まさか、リアルでぶかぶか萌え袖学ラン女子が見れるとは……是非朝日奈さんも葵ちゃんと並んでやって欲しい!!」
まるで懇願するように手を合わせて歓喜している。
「……変態が横にいる。通報しようか?」
「やめてくれ!俺はこの姿を延々に見ていていたいんだ!!」
白熱する秀がうざいから目潰しをした。
「うおぉー!!目がぁ!目がぁ!!」
床を転がる秀。
これまたうざいが、変態から石川さんを守れたからいいか。
他の2人は固まっていた。
見惚れているのかもしれない。
そこまでか?
こういうのだったら、悪戯で俺のパジャマを着ていた紅葉の方が百倍……いや、もっと可愛い。
「ぐぐぐ……お前も十分変態だっぐふ………っがく」
呻き声をあげる秀。
ナチュラルに心を読むのはやめてくれ。
そんな思いを込めながら声をあげている最中の秀を踏みつける。
「んで!あおっちどうどう?貸したんだからさ、感想をどうぞ!」
「……まぁ着せられてる感じが可愛いんじゃない?」
勿論妹の次にだけど。
「そ、そうかな?……ぁりがと」
かぁっと赤くなる石川さん。
「そういえば、中はどうなってるんだ?」
シャツはどうしてるのか?
ただそんな疑問だった。
「えぇ!!えっと……その……言わなきゃ駄目?」
驚き慌てる石川さん。そんなに焦る事あるかな?
なんか見つめてくる瞳はうるうると揺らいでいるし。
「ん?石川さんが言いたくないなら別にいいよ?学ランで見えないからただ気になっただけ」
ぶかぶかであるはずのシャツは外から見えてないからどうやって隠しているのか、
興味がある。
「確かに学ランが大きいから目立たないけど。ないことはないし。ある方だとおもうよ?」
「でかいのは分かるよ?隠すの大変だったろうなって思うし」
学ランがでかいのだからシャツも比例するのは当然。
だから袖はどうしてるのだろうか?捲ればそのぶんモコっとする筈だし。
裾だってもしかしたらスカートからはみ出るかもしれなかったし、
非常に気になる収納術。
「ぅぅぅでかいってほどでも……本当に知りたいの?私の中身?」
胸に手を当てて覗き込んでくる姿は、
さっきよりも瞳が潤んでいるのがよく見えて、
Tシャツ1枚だというのに少し熱くなる。
「知りたいけど……石川さんを困らせたいわけじゃないし」
「そっか、物凄く気になってるんだよね?」
いや、物凄くってわけじゃない。
少しだ、ほんの少し好奇心が胸を擽るだけだ。
さっきも言ったが、石川さんの気分を害してまで聞きたいわけじゃない。
「……助けてくれた蒼井くんだけなら教えてもいいよ?」
しかし、石川さんは恥ずかしそうに、何か勇気を振り絞る。
その姿は告白をしようとしている女の子のように見えて、
少し心臓が昂ぶる。
「……耳貸して?……あのね?」
そして俺の肩に手を置いて、背伸びして耳元に自分の口を近づける。
息がかかって、くすぐったさが妙な気持ちを焚きつける。
紅葉では決して感じる事のない事で内心困惑する。
しかし、次の瞬間、全てが凍りつく。
「……今、付けてないんだ。学ランとシャツの厚みのお陰で膨らみも隠せてて……これ以上秘密だよ?」
「へぇーは?……え?ぇぇ!!!」
ようやく、俺は石川さんとの会話のズレに気がついた。
俺はシャツの話をしているつもりだった。
でも石川さんはシャツのさらに深層の部分の話を俺に聞かれていたと思っていたのだ。
……完全に俺、セクハラじゃん。
それを怒らずに、剰え、細部まで教えてくれる石川さんは本当にいい人なんじゃないかと泣きそうになる。聖女葵様っ!
もう今更、『シャツの事聞いてたんだよね?てへ?』なんて言えない!!
というか、今俺のシャツは……もう考えるのはやめよう。いや、やめろ!やめてください!
貸すという事はこういう事だってあるって分かってはずだ……って考えるのやめられてないし!
「あははは!もうだめ!!っお腹痛い!!ひぃひぃふぅー」
顔を真っ赤にしている俺と石川さんを見て、
全てを理解したのか、朝日奈さんはお腹を笑いで本当に痛そうにしている。
どうか真実は彼女から聞いてください、いや、聞かないで。
これは墓場まで持っていく……
その後、滞りなく事態は解決していく。
ようやく、葵の気にしていない姿勢が伝わったのか、
加害者?の男子生徒も落ち着いていた。
不機嫌の根源だった有宇が顔を真っ赤にして一言も話さなかったのが一番大きいのかもしれない。
ちなみに、葵が有宇の真意を知るのはひかりに勘違いを正されるまで気づけなかった。
勘違いに気づいた彼女は、それはもうこれ以上ないくらい顔を真っ赤にしていた、
という事だけは記しておこう。
葵の尊厳の為に……
お読みいただきありがとうございます。
昨日、PV1000とユニーク400突破しました!
これからも面白くなるよう頑張りますのて、よろしくお願いします!
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