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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
16/43

休日の特訓と女嫌いは勘違い?

翌日、明日香先輩は早速今週末の日曜はどう?と訪ねてきた。

わざわざ教室まで足を運んでくれたのだ。

放課後でも良かったのにと思っていたが、


「結果はなるべく早く言った方がいいでしょ?……連絡先は知らなかったから直接行くしかなかったの」


なんとも真面目な人だ。

連絡先は別れた時に教えてれば良かったな。


「だから連絡先教えなさい?ここまで来るのが面倒だとは言わないけど、メール出来た方が効率がいいから」


「はい、どうぞ」


俺は携帯を明日香先輩に手渡す。


「連絡先の入れ方分からないのでやってもらえませんか?」


「なにそれ……って本当に連絡先少ないのね。5件しかないじゃない」


叔父さん、叔母さん。紅葉、この間遊んだ結衣。

あと……


「瑠璃?……これって」


「明日香先輩の思っている瑠璃じゃないですよ……決して」


もう絶対に交わる事のない、かつて大切だった人の連絡先。

関係が酷く、たとえもう連絡が取れないとしても、

色褪せない思い出が、想いが、削除ボタンを押せない。


「そう……余り詮索されたくないみたいだからもう聞かないけど……はい、登録完了!」


この話はお終いと明日香先輩は俺に携帯を返す。

また放課後ね?と先輩は教室を出ていった。


後になって分かったのだが、今日は劇の練習も、部活動もなかったから、

明日香先輩が教室を訪れたのは正解だったのかもしれない。


平日も過ぎた土曜の朝。

近所には河川敷がある。

子ども達はサッカーや野球。

おっさん達は釣りを興じている。


そんな道を俺は1人で歩いていた。

紅葉は友達の家に遊びに行っているからだ。


「風に当たりながらのんびり歩くのも悪くないな……」


なんともジジ臭い。

夏休みが終わってから少し忙しかったから、

この時間はとても貴重だ。

少しのんびりしたら来週の献立の食材でも買いに行こうかな。


歩いていると見知った横顔が見える。


「あ、石川さんだ」


ドレスのような白いワンピース姿。

声をかけようと近づくと……


「わあーー!!」

「うわぁっ!!」


突然お腹を絞るように大きな声をあげる。

それにつられて俺も声を出してしまった。


「きゃあ!!………って蒼井くん?」


俺の声に驚く石川さんは俺だと気づくとキョトンとした顔をしていた。

俺もこんな顔になってるんだろうなとため息をついた。


◇◆◆◇


「そっかぁ……発声練習だったんだ」


野原に腰を下ろした蒼井くんは安心したかのように息をついていた。

同級生が突然大声をあげれば誰だって心配するよね。

あの練習の後、私は大きく声が出るようにする為の練習方法を探しに本屋に行った。

そこで買った本の内容を試そうと近所の河原まで来たんだ。


「うん。このままじゃ皆に迷惑かかっちゃうから」


「そっか……」


短い一言。

そして立ち上がる蒼井くん。

帰っちゃうのかなと、視線で追うと、


「あーー!!!」


川に向かって大声を出す。

いつもの静かな蒼井くんからは想像もつかないぐらい大きな声。


「こほん……こんな感じかな?」


大きい声を出したのが恥ずかったのか、

咳をして、にっこりと笑う。


「俺も手伝うよ……いいかな?」


不安で一杯だった練習。

でも蒼井くんとなら……


「……っうん!よろしくね!」


笑顔で私もそう答えた。


それから私達は本にあった方法を色々試してみる。

いつもよりは声が出てるような感じかな。


「石川さん、つま先を外側に向けてみたら?」


蒼井くんに言われた通りに足を開いてみる。


「片方は腰に手を当てて、もう片方はビシッと指差す感じで」


威張り張った愛妹の完成だ。

足を外側に向けただけで、お腹から声が出やすくなった気がするし、

腰に手を当てると自然と背筋が後ろに少し返る。

ビシッと指差せば高圧的でいい感じ。

シンデレラの掃除が全然なってないと駄目だしするシーンを演じてみて、

そう思っていたのだけど……


「うーん?なんか違うな……」


「そ、そうかな?今までで1番いい感じなんだけど……」


「うん。まだお淑やかさ?っていうか、大人っぽさとかが」


「お、お淑やか!?」


「うん。あと可愛らしさかな?まだ愛嬌が残ってる所為で悪女な感じがしないかな」


「かわっっ!?」


蒼井くんはいたって真面目みたいだ。

真剣に悩んでいて恥ずかしそうな素ぶりはない。

……それともこういうの言う事に慣れてるのかな?


「じゃあもう一回やってみようか?」


「うん!」


ビシッとポーズを決めてシンデレラを罵る。

役だとは分かってるけど、言ってて悲しくなる。

と視線が落ちそうになった時、


「っっえ?」


蒼井くんの手に顎を優しく、くいっと上に挙げられる。

自然と見つめ合ってまるでキスするみたいで……

キス!?


「っっっっ!!」


だって私達ただのクラスメイトだよ?

ダメだよ恋人さんじゃないんだから!

でも私も突然の事で身体が動かない。

怖いんじゃなくて、ドキドキして言う事が効かない。

このまま本当にされたら…………



「顔はこのままで視線だけ下向いて?」


視線だけ?それって目を瞑れってこと?

ま、まさか本当にしちゃうのかな?


「っぅん……」


逆らう気持ちにもならずそのまま瞳を閉じる。


「………石川さん?瞳は閉じなくていいよ?」


「……………え?」


「地面を見て?」


頷こうとしたけど顎をくいっとされているからできずに、

うんと声を出す。

そうして視線だけで地面を見ると、


「お、いい感じ。高圧的に見下してる感じになった。さっきのセリフ言ってみて?」


えっと……まさか。

さっきまでのはポーズを決めていただけで私の勘違い?


「っっっっ!」


顔がドンドン赤くなっていく。恥ずかしいっ!

勘違いも恥ずかしいし、赤くなっている顔を見られるのも恥ずかしい。

蒼井くんもなかなかセリフを言わない私に首を傾げているし。

恥ずかしさで涙目になりそうなのを何とか堪えてセリフを言う。


「おおー!今のいい感じだったよ。見下しながら少し睨んでる感じなのもいいね」


それ涙を堪えようとしただけなんだけどな。


「声も今日1番だし」


……それも恥ずかしさから思わずね。


「……少し、顔が赤いね?ちょっと休もっか」


「う、うん。少し疲れちゃった、てへ」


バレちゃったと少し笑いながら、

頬の熱さと緩みが取れるように秋風に当たる事にした私達。


時より強い風は吹いて、私は手で髪が乱れないように押さえる。


「あ、その手……」


蒼井くんが指差すその手には絵が描いてあった。

もう薄れて消えかかっていたのだけど。


「ああ、これね?如月くんが描いてくれたんだ」


先輩に怒られて落ち込みそうになって俯いていた時に、

しゃがみこんで私を驚かして笑わせてくれた時の事を思い出す。


「ふふ、元気になるおまじないなんだって」


思い出した私はにこにこと蒼井くんを見つめる。


「……つまらないな。俺だって元気になって欲しいと思ったのに」


ぼそっと、まるで本人も言ったか分からないぐらい小さな声。

でも私には風とともに伝ってきて、

絵の描いた方の手を優しく包まれる。

まるで上書きするように……


「蒼井くん?……それって」


どう言う意味?と聞こうとしたら、


「あれ?あおにあおっちじゃん?」


何処からかやってきたひかりちゃんの声に遮られる。


それから少しだけ3人で話していたのだけど、


「ごめんね?……俺帰るわ」


蒼井くんは帰ってしまった。


「あちゃーごめんね、あお。邪魔しちゃったみたい」


やっぱりかーと頭を抱えているひかりちゃん。


「邪魔って?蒼井くんの事?なら大丈夫だよ。きっと用事があるだけだと思うよ」


もしかしたら用事の合間に手伝ってくれたのかもしれない。


「ううーん。それならいいんだけどね。私を避けてるみたいだったから」


唸るひかりちゃん。


「ひかりちゃんを?そんな事ないと思うけどな」


嫌われてると思った私だから分かることなのかもしれないけど。


「そうかな?でも私だけじゃないと思うよ。殆どの女子は避けられてる、そう思ってるよ」


そうかな?


「勘違いだよ。蒼井くん、本当は優しいから……少し瞳が怖いけどね。話してみればちゃんと分かるから」


あははと笑うとひかりちゃんも困ったように笑う。


「確かに。さっきもいい雰囲気だったしね?あはは」


グイグイと肘で突いてくる。


「もう!揶揄わないでよ!蒼井くんはそんな気ないんだから」


「お!って事はあおはあおっちに脈ありって事かな?」


あれ?と口を押さえるひかりちゃん。


「ち、違うよ!もうっ!」


カァッと真っ赤になっていく顔。

ぽんぽんとひかりちゃんを叩く私の耳には、


「あおには心を開いてるって事かな?いや、違うな。もう少し情報が必要だね」


不穏なひかりちゃんの独り言は聞こえなかった。


おまけ


「……つまらないな。俺だって元気になって欲しいと思ったのに」


俺は2人と別れた後、そんな言葉を思い出した。

なんか他人事のように言っているけど、

気持ちはそんな感じだった。


俺は何でこんな事を?

思ったのだろうか?

口に出してしまったのだろうか?


いくら考えても分からない。

主観的にも客観的にも言葉の真意が伝わらない。

つまらない事と元気になって欲しいと思ったことが繋がらない。

その場にいた如月が慰めて、

その場にいなかった俺が慰められなかったのは当たり前だ。


「…………って俺は慰めたかったのか?」


一瞬答えを掴みかけたような気がした。


しかし、


「んなわけないか」


これ以上は考えては無駄だと、

これから向かうスーパーのタイムサービスに思考をシフトした。

無駄だと思った思考を後に再考する事になるのだが、

今の有宇は気づかなかった。


お読みいただきありがとうございます。


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