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勘違いは程々に  作者: ゆうさと
文化祭
15/43

奉仕と罪と無垢な笑顔と食事のお誘い

「あ!ねーちゃんたちだ!!」


遠くで遊んでいた子ども達は明日香先輩達が入り口から入ってくると、

ぞろぞろと集まってくる。

明日香先輩が慣れた手つきで子ども達と接する事が出来そうなのは、

少ない間柄ではあるが、予想できた。

佐伯さんもいつもの物静かで無表情な態度からすると少し意外ではあるが。

読書だけが全てというわけでもないか。


「あれ?ゆうじゃん?きょうはおっそいなー!もみじがまちくたびれてるよ!」


俺に気づいた男の子は俺に文句を言いながら紅葉を呼びに行ったみたいだ。


「ゆうおにぃーちゃん!あそぼ!」


「だめだよー。もみじおねえちゃんとかえるんだよ?もうおそいし、ね?おにいちゃん」


「ゆーう!きょうこそはあそべよー!!」


いつも通りの光景。

紅葉を迎えに行って、子どもが群がって来て、

紅葉を我先に呼びに行く男の子。

今日こそは一緒に遊ぼうと腕を引っ張ってくる女の子。

それを横で止めようとする女の子。

そんな事御構い無しに特攻するが如く突っ込んでくる男の子達。


「大丈夫よ。今日はそこのお兄ちゃんも一緒に遊んでくれるから」


「え?……あ、部活の活動って……」


つまりここの手伝いだって事だったのか。

ここなら紅葉がいるから心配する事もないし、

先輩との約束も守れる。

一石二鳥とはこの事だ。


そんな俺の内心は子ども達は知らず、

喜んで俺を引きずるように建物の中には連れて行く。


「あれ?ゆうお兄ちゃん?お家かえるんじゃなかったの?」


「ああ、今日から学校の人の手伝いするって言ったろ?ここだったんだ」


「え!そうなんだ!じゃあ、お友だちとあそんでくるねー!」


紅葉は奥にまた戻る。多分ランドセルを置きに行ったのだろう。

それにしても、お兄ちゃんとは遊んでくれないのね……少し凹む。


それから子ども達と遊ぶ。

メインは怪我やトラブルが起こらないように見守る事だ。

だからと言って干渉しすぎるのは過保護になるだろうから、

このさじ加減は難しい。

慣れている事だが、私的なものとボランティアでやるものでは責任が違う。

少し身も引き締まるのも無理ない。


俺が少年少女達にチャンバラやらダンスやらで、

ギッタンバッコンされてる中……


明日香先輩に集まる女の子達はどこか気品がある。

多分そう見せるように明日香先輩の真似をしているのだろう。

明日香先輩も淑女とは何かと、レクチャーしているみたいだ。


佐伯さんはというと、少し奥の方で読み聞かせをしている。

読書家の彼女だから出来る、彼女にあった子ども達との接した方だろう。

聞いている子ども達も楽しそうで、

読んでいる佐伯さんもいつもよりも柔らかい表情をしている。


自分に合ったやり方で子ども達と接している2人に見習わなきゃなと思いつつも、

感情も豊かで、野生児のような身体能力を持っている少年少女達の面倒を見るのが一番適任ではないかと気づいた。


心地よい疲労感に包まれながら俺は子ども達との時間を過ごした。


◇◆◆◇


はしゃぐ子ども達に揉まれながらも楽しそうにしている有宇の顔を見て安心する。

一緒に楽しむ事も、笑い合う事もできないけど……

近くで楽しそうな顔を見られて良かった。

もう一生見られないものだと諦めていたから。


「るりお姉ちゃん!」


ランドセルを片付けて、本を一冊持って来た紅葉ちゃん。

今日は紅葉ちゃんの日だった。

紅葉ちゃんを膝の上にのせて、さっそく読み聞かせようとしたのだけど、


「よかったぁ……ゆうお兄ちゃんとるりお姉ちゃん、なかなおりしたんだね?」


安心したようにニコニコ笑う紅葉ちゃんに言葉が詰まってしまう。


「今度、もみじのおたんじょうび会するからるりお姉ちゃんもきてね?


その日が楽しみで瞳がキラキラと輝いていた。


「最近ゆうお兄ちゃんのたんじょうび会もこれないみたいでさみしかったから……」


紅葉ちゃんの本音が心に刺さる。

私が有宇の家に行けなくなった理由を紅葉ちゃんは知らない。

だからこんなにも喜んで、そして悲しかった事を伝えてくれる。

なんの悪気もない。

事実紅葉ちゃんは何も悪くない。

有宇も。悪いのは私だけ……


「……ごめん。いつかまた遊びに行くから」


「ほんと?……やくそくだよ?」


「……うん」


守れない、果たす事のできない約束をまたしてしまった。

それがとても辛い。

指切りをして嬉しそうな紅葉ちゃんを見るとさらに私の心に積もっていく。


「……何処で間違えちゃったのかな」


「ん、どしたの?るりお姉ちゃん?」


心配そうに覗き込んでくる紅葉ちゃんに何でもないよと、

頭を振って、私は集まってきた子ども達に読み聞かせを始める。



◇◆◆◇


夜も更けていき、俺達のボランティア活動も終わりを迎えていた。

また来る事が分かっているのか、子ども達もぐずる事なく別れている。

今は、紅葉を加えた4人で車を待っていた。

何度も断ったのだが、


「こんなに遅いのよ!部長としての責任があるの。それに紅葉ちゃんもいるのだから暗がりを歩いて帰るよりもいいでしょ?」


と言われてしまうと俺も横に首を振りづらい。


「それにしても……ユウが妹さんの為に頑張っていたって聞いた時はまさかって思っていたのだけど。本当に紅葉ちゃんだったなんて」


「よく分かりましたね?」


「偶々よ。青と紅が名前に入っているのがお洒落で覚えていただけだから」


確かに……


「それに比べるとユウはあまり捻りがないわよね?」


何気ない明日香先輩の指摘。


「……そうですね。きっと1人目は無難に考えたんじゃないんですか?」


言葉に詰まりそうになるのを堪えて一息に話す。

乾いた笑いが出てしまったが、

紅葉には角度的には見えないし、明日香先輩も気づかなかったからセーフだろう。


「………」


佐伯さんの視線は無視する。

お互いに些細な変化に気づいてしまうのは厄介だな。


しばらくすると車が来て、俺達は乗り込んだ。

佐伯さんの家が一番近く、今は3人っきりだ。

3人っきりってなんだよ?


「あ、そうだ」


他愛のない会話をしていたが、明日香先輩は何か思い出したかのような声を上げる。


「どうしたんですか?」


「ユウと紅葉ちゃんを私の家に招待するの忘れていたわ」


「……唐突ですね?」


相変わらずだけど……


「パ……お父様からもなのよ?昨日の話をしたら、いきなり真剣な表情になったと思ったら、有宇くんと妹さんを誘って来なさいって。明日香の話を聞いて興味が湧いたって」


「それはまたいきなりですね」


「そうなの。お父様が誰かに興味を持つなんて珍しくて」


明日香先輩は考えるように顎に手を置いていた。

本当に珍しいんだな。


「でもそれだけじゃないのよ?私がユウを最低な人だって勘違いしていたからそのお詫びをしたいって気持ちがあったから。私がお願いする前にお父様から言われて驚いちゃった」


困ったようで、嬉しいような笑みを浮かべる。


確かに俺も明日香先輩も何か勘違いしていた。

でもそれは、


「俺の言葉が足りなかっただけで明日香先輩が気に病む事じゃないですよ」


「ユウがそう思ってくれてても、ちゃんとけじめはつけたいの。じゃないとユウはずっと私の事を怖くて話を聞かない人だと思うでしょ?」


そうじゃないと私が納得いかないわと、強く言う明日香先輩。

そうやって、自分の為なんだからと言って、

本当は相手の事を思いやっている事を最近知った。


「……そんな事ないですよ」


最初は思ってたけど……

明日香先輩も言葉足らずなだけで、

石川さんの事も、俺の事も、ちゃんと見てた。

文化祭準備の事も駄々こねていたけど、ちゃんと自分の中で聞き分けていた。


「明日香先輩は思いやりのある素敵な人だって、今は分かります。」


「そ、そう……ううう」


率直な評価をしたら、顔を赤くして睨まれた。

怒らせちゃったな……やっぱり女の子は難しい。


それから無言のまま、俺達の家に着く。


「先輩、今日はありがとうございました」


「あすかお姉ちゃん、ありがとうございましたー」


頭を下げる俺に見習って紅葉も元気良く頭を下げる。


「いいのよ。私は部長なの。部員の無事な帰宅を見届けるのは当然よ」


ぶっきら棒な言い方は多分、照れてるのだろう。

もしかしたらさっきの事を根に持ってるのかもしれないけど。


「それで?お誘いの件なのだけど……どう?」


「どうする?お姉さんのお家行きたいか?」


「ん?あすかお姉ちゃんの?……ふふ、行きたい!」


紅葉が1度俺と明日香先輩を交互に見て、

何か悪戯を思いついたかのように微笑んでいたが、

まぁいいか。

紅葉の悪戯なら可愛いものだろう。


「なら決まりね!日程は貴方達に任せるわ」


「明日香先輩のお父さん、忙しいんじゃ」


「こちらが誘ったのだから、そのぐらいの調整できるなきゃ。それで、いつなら大丈夫そう?」


「土日なら大丈夫です」


明日香先輩がそういうなら大丈夫なのだろう。


「分かったわ。お父様にもそう伝えておくわ。上手くいけば明日にはユウに伝えられると思うわ」

そう言って明日香先輩はまた明日ね?と別れを告げて、車を走らせる。

勿論、明日香先輩が運転しているわけじゃないけど。


いつもより遅い夕食を食べて、紅葉とお風呂に入る。

これから叔父さんの手伝いに行くから紅葉を寝かしつける時間もいれたら、

数少ない兄妹だけの時間だ。


お互いに洗いっこして泡だらけになっている。


「そういえば……なんでお家行く事OKしたんだ?」


「うーん?」


腕を組んで、首を傾げて、考え込んでいる姿は可愛い。

紅葉がお誘いをなんの迷いもなく受けたのは、

純粋に気になった。

理由なんてないだろうけど、聞いてみたかったのだ。


「あすかお姉ちゃんはほんとのお姉ちゃんみたいだから?」


「本当の?」


「うん、なんかゆうお兄ちゃんににてるんだ」


「いっしょうけんめいなところとか。ちょっとそのせいでこわかったり。でもほんとはやさしいところとか」


指を一本一本立てながら嬉しそうに話す。


「わるいところもいいところもにてるんだ。だからあすかお姉ちゃんだいすき!」


にこっと満開の桜が咲いたように笑う。


「そっか……」


紅葉の洗い流した髪を撫でながら思う。


紅葉が俺と明日香先輩が似ているって言ってたって言ったら、

どんな感じになるのだろうか?

怒るのか、呆れるのか?

別に怒られても呆れられてもどうという事はないけど。

ほんの少しは喜ぶ姿も見てみたいと思う。

怒らせてばかりでそんな姿は見たことがないから。


「でも、1ばんだいすきなのはりょうりのじょうずなあおいお姉ちゃん!」


泡だらけの身体を丁寧に落としていると突然思い出したかのように立ち上がる。

料理番組のお姉さんなのかな?


「またあいたいなー!」


「きっと良い子にしてれば会えるよ。紅葉ならな?」


番組の何かで屋外で撮っていたのだとしたら、

この街に来るのは遠い先の話になってしまうかもしれない。

なんて無粋な事は言わない。


それからお風呂から出た紅葉は眠りにつくまで、

そのお姉さんの料理の上手さを俺を抱き枕にしながら説明していた。

そんな紅葉の頭を撫でながら聞いていた。


色褪せる事のない思い出を話す紅葉は幸せそうで。

こんな幸せが紅葉をいつまでも包み込んでほしい。


その為に、まずは今日の手伝いも頑張ろう、

そう思う俺だった。

お読みいただきありがとうございます。


PV800、ユニーク300突破しました!

重ねてありがとうございます!


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