演目と配役
「なん、だと?……」
放課後の文化祭準備室。
そこでまた俺は黒板の前で驚いていた。
俺達の演目は明日香先輩の強い要望でシンデレラになった。
そのままシンデレラも明日香先輩に、と思ったのだが、
そこはくじ引きらしい。
何だか、強引なのか真面目なのか分からないな。
そうして各々がくじを引いて……
王子 ーー蒼井 有宇ーー
シンデレラ ーー佐伯 瑠璃ーー
愛母 ーー神宮 明日香ーー
愛姉 ーー石川 葵ーーー
などなど。
完全に役がおかしいのが3……2名だ。
俺と石川さん、自身と真反対な役だ。
石川さんが誰かをいびるところなんて想像できない。
……いや、クラスにいじめなんてないけどね?たぶん。
少なくても男子は大丈夫だ。女子は分からない。
そして俺も、あんな爽やかな王子とか……
いつも通り、秀が隅で笑っている。
しかし、決まってしまったものはしょうがない。
「んー!なんで私がシンデレラじゃないのよー!コウスケとやりたかったー!」
明日香先輩も隅で地団駄踏んでる。
何者の意思も捻じ曲げる高貴で高圧的なイメージが壊れてく。
だってイメージ通りだったら、この決定に文句があれば表立って行動する筈だしな。
ああやって隅で隠れて、悔しがる事ない。
全然隠れられてないけどね。
先輩達はいつも通りみたいな顔してるし。
役も決まった所で台本合わせが始まる。
明日香先輩が書いてくれたらしい。
……本当にシンデレラやりたかったんだ。
パラパラと一通り目を通す。
ほとんど、オリジナルに近い。
と思っていたのだが…。
「王子とシンデレラの絡み多くない?」
確か、1度目の出会いで一目惚れした王子にタイミングが良いのか悪いのか、
結婚の話が来て、婚約者は自分で決めると、
シンデレラにもう一度会いたいが為に、国中の娘を婚約者を決めるダンスパーティーに招待する。
そこで2度目の再会を果たすのだが……
「街中で再会しちゃってるじゃん」
「だって一目惚れってのも悪くないけど、愛を育んでいくのも悪くないでしょ?それに王子が変装して庶民に紛れるのは定番よ」
ウインクする明日香先輩。
明日香先輩の場合は庶民に紛れられてないからな。
てか庶民に扮するとか何処の徳川家だよ。
まぁ、その他はオリジナル通りだから問題は……あった。
「……よろしくね?有宇」
明日香先輩と話していて気づかなかったが、
いつの間にか俺の横にいる佐伯さん。
いつも通りの無表情だけど、
少しだけ瞳が輝いていて、嬉しそうだ。
「……不本意だけどな。よろしく」
「……うん、これは仕方ない事だから。決まっちゃったし」
言葉とは裏腹に嬉しそうに話す……ように俺は聞こえる。
周りからしたらあんまり変わってないんだろうけど。
そこは経験値の違いだ。
「ねぇ?ユウ、少しルリに冷たくない?」
「……いいんです。有宇は私にはこんな感じですから」
「ルリがそういうならいいのだけど……親しき仲だからこそ一定の礼儀はあるべきよ。そんな存外な態度とってるといつか嫌われちゃうわよ?」
「………っ。俺はそれでも構わないですよ」
嫌われる。
その言葉に胸を掻き乱されるようで、明日香先輩から逃げるようにその場を立ち去る。
佐伯 瑠璃はこの世で2番目に嫌いな奴だ。
それこれ狂おしい程に。
だからあいつにも嫌われたって構わない筈なのに、
嫌われたいと思うのに、心が掻き乱される。
嫌いなのに嫌われたくないなんて何て身勝手なんだろうな?
自分の嫌な所を垣間見てため息が出そうになる。
取り敢えず、文化祭は何も起こらなきゃいいけど……
不安を隠しきれない文化祭の準備が始まる。
そんな文化祭の演劇練習が終わる。
練習と言っても台詞なんて覚えられるわけないから台本を持ちながらだ。
一通りの流れは掴めた。あとは練度を上げていくだけ。
中にはカット続くの人もいて……石川さんなのだけど。
やはり素の性格と役が真反対な所為もあって、
堂々とした態度でいられない。
それもあるのかそれとも元からなのか声量も低い。
練習が長引いてしまったが、
そもそも1日目にそんなに求めても無茶な話だったのだけど、
他の人達が出来てしまうと目立ってしまう。
「ったく、貴女の所為で遅くなっちゃったじゃない」
「ご、ごめんなさい」
心のない言葉を石川さんに突きつける。
いや、お前ただ見てただけじゃん。
頭を下げたままの石川さんはスカートをぎゅっと握りしめてして、
心が痛む。遠目で見てそうなのだから本人はもっとだろう。
「石川さ……」
「ちょっとユウ?そろそろ行くわよ!」
石川さんの元へ歩み寄ろうとする前に明日香先輩に止められる。
そのまま引きづられていき、視線だけ戻すと、
俯いた先に如月がしゃがみ込んでいた。
驚く石川さんに如月は微笑むと、
石川さんの手に何か描いていく。
『元気が出るおまじない』
そう言ってるように聞こえた。
石川さんも少しばかり表情が明るくなっていて。
「……っ、まぁ、いっか?」
何かつまらないと感じながら、俺は明日香先輩に引かれてその場を後にした。
明日香先輩と1度昇降口で別れて、校門に向かう。
先輩側の昇降口が近い事もあってもう既に先輩はいた。
「……車で移動ですか?」
「まぁね。交通費の節約になるでしょ?帰りはユウを送ればそのまま家に帰れるんだから」
黒塗りの高級車。
金持ちなのだなと思うと少し嫌悪感を感じる。
明日香先輩達の所為じゃないから顔に出ないようにぐっと堪える。
「やっぱり緊張するもの?他の車と変わらないわよ?」
堪えている表情が緊張していると勘違いしたらしくて、
明日香先輩は気を紛らわしてくれてるのだろうけど、
他の車とは違うでしょ?と思ってしまう。
本人は本当にそう思ってるみたいだから余計突っ込めない。
「……あまり車に乗らないので。あと高そうなものを見るとちょっとびっくりしちゃいます」
「そういうものかしら?でも慣れて。これからはこれが移動手段なのだから……って来たわね」
校舎の方から駆けてくる。佐伯さんだった。
「すみません、遅れました。」
ぺこりと頭を下げる。
「まぁいいわ。もう遅れてるのだから。先方にはちゃんと連絡もしているし」
「何で佐伯さんが?」
「そりゃあ、数少ない真面目な部員だから。ルリはユウと一緒で平日担当だから」
平日担当?
「説明はあとよ。さぁ乗って?」
俺は明日香先輩と佐伯さんに挟まれるように車に乗った。
どうなるんだ?
文化祭に続いて部活動にも不安を感じる。
辿り着いた目的地は恐らくこの3人の中では一番馴染みがあって、
それだけが俺の唯一の救いだった。
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