#69
第十三話『メリークルシミマス!』
――12月。雪がしんしんと降り積もるさむーい季節だ。そろそろジャンパーを着てくる人も出てくるだろう。しかし、うちの学校は厳しくて学ランの他に着ていいのは学校指定の上着だけ。いやいや、問題はそんなことではないんだ。12月といえば、そう――24日と25日にアレがあるだろう? そう――
「メェェェェリィィィィクルっシミマぁぁぁぁぁ〜〜〜〜スぅ!!」
「のっけから叫ぶなって!」
ふざけてみたらリョウからしばかれたので、おふざけは控えておこう。24日と25日のアレとは、そう、クリスマスイブとクリスマスである。サンタさんが良い子の家にプレゼントを配る季節だが、同時に――そこかしこにカップルが徘徊し始める辛い季節でもあるのだ。リア充もげろぃ!
「ねえマサキ、イブは何か予定あるの?」
「ない」
レンから質問を受けたのでとりあえずテキトーに答えてみた。テキトーではあるがこの回答は事実である。
「えー……じゃあクリスマスは?」
「ケーキ食べる」
「誰と?」
「そりゃお前、家族と食べるに決まっておろう!」
「おいおい、寂しいこと言うなよ……」
リョウとレンが残念そうな目付きで俺を見つめる。何かまずいこと言っちゃったかな、そういうつもりはなかったのだけど――。
「でもリア充に嫉妬するだけのクリスマスはやだなあ……」
何かいい案はないものだろうか。リア充へ憎しみを抱くだけのクリスマスなど過ごしたいのはみんな一緒だ。リア充、それは充実した生活を送っている男と女のことである。ときにはアツアツのカップルのこともそう呼ぶのだ。――男女、カップル……
「……ハッ!」
「マサキ、どうした?」
「俺にいい考えがあるッ!!」
「いい考えって、それ信用していいの?」
「今回は人事だから大丈夫さ〜、たぶんね」
いい考えが出たぞ! 胸を張って俺は二人にそう言い放つ。その考えとは――今から説明する。
「イブとXデーの間だけリア充ごっこをしよう!」
「リア充ごっこ……って何よ?」
「簡単さ、じゃんけんして勝ったヤツから順番に好きな女の子を選び抜いてデートするんだ」
「えーと、デートなんかしちゃったらそれはもうごっこじゃないと思うんだが……」
リア充ごっこについて俺はリョウとレンに内容を話すが、リョウの奴が疑問符を浮かべてきやがった。反対する気か? こういうヤツに限っていざ始まればノリノリになるって相場が決まっているわけなんだけど。
「そんなこと俺が知るか! 今からでも遅くない! さあ、クリスマスに予定が無い女の子を探すぞ!」
「オーッ!」と俺たちは三人で手を上げる。直後、レンから「……先輩でもいい?」と訊ねられたので、俺は「もちろん、後輩の子でもいいよ」と答えて差し上げた。
「リア充ごっこ……と、申されますと?」
「リア充とは充実した生活を送っている男または女のこと。ときにはカップルのこともそう呼ぶんです、クリスマスイブとクリスマス当日にそれの真似をして遊ぼうっていう企画なのれす!」
「は、はあ……そうでしたか」
せっかくだから高嶺の花であるあの方を誘ってみようと、俺は生徒会室へ行ってみた。お相手は2年生で、次期生徒会長候補の学級委員長――三ノ宮ユカさまだ。明るい茶色の髪をリボンで二つに結んでツインテールにしている。なんでも武家屋敷に住まうお嬢様らしく、とてもきれいだ。そしてかわいい。――他の二人はどうしたかって? 彼らとは別行動だ。
「でも私、イブもクリスマスも家族と旅行に行くことになってまして……残念ながらスケジュールが空いていませんの」
「そこを何とか!」
ダメだってことはわかっている。でも頼み込む!
「……うーん」
頭を下げてでも頼み込んでみたところ、ユカさまはおっぱいをたくしあげるように腕を組みながら気難しい表情をお浮かべになられた。――ひゃー、こりゃダメだ。ダメ元でやってみたけどたぶんお断りされるんだろうなあ――。
「……少しお時間をいただけないかしら?」
「え?」
「今日家に帰ってから、家族と相談してみます。それでよろしかったですか?」
「……はい!」
――予想外だった。聞いて嬉しい答えが返って来た。