#11
第三話『とある高校の保険医』
あっついねー。
今日も、あつがなついねー。
――それは、春も過ぎてやってきた、ある初夏の日のことだった。
俺たち1年生は体育の授業でグラウンドに出ていたのだが、これがもう白熱しまくっててさ~
クラス対抗で、全速力で走る俺たち。
D組からは俺が、A組からは大阪から来ているという双子の姉妹の姉である蔀屋リサさんが、
B組からは寺辺ヒロユキが、C組からはレンが、E組からは気の強い敦賀ミカさんがそれぞれ代表として走ることとなっていた。
女子二人には悪いが、この勝負――負けるわけには、いかないんだ。
「お前さぁ、独り言でナレーションとか恥ずかしいからやめてくれよ。顔から火ぃ噴きそうだよォ……」
「そりゃあ悪うござんしたねぇ、氷室さん……ケッ! ケッ!!」
「こらぁ、刃野ォ! D組代表のお前がこんなところで何をボサッとしている? さっさと持ち場につかんかァ!!」
「げえぇシンスケ先生!」
このちょっとテンパな髪した男の先生は、『長浜 シンスケ(伸輔)』さん。
ノリがよく、それでいて真面目で剛毅な体育会系の先生ズラぁ~~~。
ただ、ちょっとキビシーんだよこのオッサン。でも俺らには厳しくても女の子には優しいんだよなあ。
女の子に媚び売ってモテようとは、ふてぶてしい!
そんなセンセーに俺は引っ張られ、持ち場に着いたのであった。
全力で走る俺たち。
「負けへんで~」
「こっちの台詞だい!」
「この戦い、勝たせてもらう!」
「勝つのはあたしよ!!」
なんてみんな強気で呼びかけながら、
それぞれスパートをかけていたが――
「あ゛ぁぁぁ――――――ッと足すべったァァァ!!」
なんとここで、ヒロユキが転倒!
まあ、この時は頑張りすぎてコケたと、思っていたさ。
だが――現実は、違っていたのだ。
やつは、『わざと』転んでヒザをすりむいた。
理由は、保健室にいるエリノ先生に会うためだ。なんて、なんて汚いんだ。
汚いマネをしたこいつに俺のエンジェルを、女神様を汚させるわけにはいかぬッ!
「ウヘヘヘ、これで天使えりーんはオレの嫁! ヒャッホーイ!!」
「――寺辺ヒロユキ、油断のならぬヤツだ……」
授業を終え、休み時間。
きみょんな笑い声を上げながら保健室を目指すヒロユキを、俺は追跡することにした。
ヘラヘラ笑いやがって、あんな大ケガして痛いと思わないのか?
おかしいヤツだ――ヒロユキ、お前はどうかしてるぜ!
ここからは俺のターンだ。断罪だ!
エリノ先生を傷つける悪しき魂に天罰をくだしてやる! ザッツァ――パニッシュ!!
「も、もう少しだ。もう少しでエリノ先生が待っている保健室に……待っててね、俺のえりーん!!」
えりーん――はっ、えーりん!?
い、いかんいかん。俺は、東の方は守備範囲外だ。
何を言って――
とにかく。
「なんて不埒なヤツ。エリノ先生は、俺のエンジェルなのに……。
よし、ストーカーしちゃる。あ、いや……、不埒者めェ……
俺が、俺が成敗してやるッ!」
こうしてヒロユキを尾行したのはよかったのだが――
「マサキー、お前ここで何やってんだ?」
「え~~~~~ッ!? りょ、リョウ……お前、なんでここにいんのォ!?」