正則、閃いた※大体碌でもない
ある日の長浜。
福島正則の正室・泉は、屋敷の中を見回して首を傾げた。
「……喜久は?」
末娘の姿が見当たらない。
先程まで庭で遊んでいたはずなのだが。
丁度そこへ、嫡男の忠勝がやって来た。
「忠勝殿。」
「はい、母上。」
「喜久を見ませんでしたか?」
忠勝は一瞬だけ考えた。
「ああ、喜久なら父上と共に佐和山へ。」
何でもないことのように答えたので、泉はポカンとした。
「……佐和山?」
「はい。」
「治部様のところへ?」
「はい。」
暫く沈黙。
そして泉は一つ頷いた。
「なら大事ないな。」
「ですね。」
話が終わった。
普通であれば、『なぜ勝手に連れて行ったのです!』と怒る場面である。
だが相手が石田三成である。
泉にとって三成は、『真面目』『堅物』『子供に甘い』『絶対に変なことを教えない』という評価であった。
一方、正則はというと――『佐吉ぃぃぃ!!』である。
泉の夫に対する評価は、お察し下さい。
「しかし父上は、何をしに行ったのでしょう?」
忠勝が呟くと、泉は遠い目をした。
「……どうせ、急に思い付いたのでしょう。」
「ああ……。」
忠勝は察した。
福島正則が思い付きで動くと大体、碌でもない。
そして今回もまた、その予感は正しかった。
佐和山に到着した正則は、末の娘の喜久を連れて、三成の部屋へ。
「お初にお目に掛かります。喜久と申します。」
幼いながらも、きちんと挨拶する喜久に、三成は目を細める。
「しっかりした子やなぁ。喜久はいま幾つや?」
「九歳でございます。」
「奥方の躾がちゃんとしてるんやろうな。」
「はっはぁ!!儂の嫁さんやでのぉ!」
正則は豪快に笑う。
「どうや?ウチの娘や!可愛ええやろ?」
完全に親バカである。
「しっかし……お前もようやっと落ち着いたなぁ。
前の奥方を亡くした時は、どうなるか思うてたけど。」
「まぁな〜!」
正則は前妻と死別して以降、長らく独り身であった。
再婚を勧められても、「面倒や。」「今はええ。」と、のらりくらり避け続けていたのである。
だが、江戸幕府成立の前後。
家康や高台院らの取りなしもあり、ようやく泉を迎えた。
因みにこの奥方……正則の女性関係と酒癖に怒って、薙刀片手に追いかけ回した事がある。(※史実です。)
「泉殿はよう出来たお人やな。」
「……否定はせん。」
「お前が否定せんのも珍しい。」
「事実や。」
正則は鼻を鳴らした。
「せやろ?」
「お前が偉そうに言うな。」
「俺の嫁やぞ。」
「だから何や。」
「自慢や。」
三成は呆れた顔をした。
その時、廊下からトタトタというおぼつかない足取りが聞こえてくる。
「ジジさまぁ……。」
「ああ、なんや。起きたんか。」
三歳ぐらいの男の子が、三成の膝の上に座る。
「……この子は?」
「孫や。重家の次男坊や。」
「ほぉ……。確かに、重家の子供の頃に似とるなぁ。」
正則はマジマジと見る。
「なぁ、坊主。おっちゃんとこ、おいでぇな。」
正則が膝を叩く。
「ぼうずちゃう、やたろ!」
「ん?やたろ?」
「弥太郎。この子の名や。」
代わりに三成が答えた。
「……喜久。すまんが、弥太郎と遊んでやってくれんか?」
「はい。」
喜久が立ち上がり、弥太郎と手を繋いで部屋を出た。
「……お前。」
三成は前のめりになり、正則をじっと見つめた。
「碌でもない事考えてたやろ?」
「はぁ?なんでぇ?ウチの娘とどうやろ、思うたん。」
「アホか!」
「ええやん!福島家と石田家の縁組みやでぇ!」
「アホ!歳の差があるやろ!」
「んな気にするほどでもないでよぉ!」
「気にせぇや!喜久は九歳やろ!弥太郎は三歳やぞ!
それから、家同士の縁組は幕府へ届け出なあかんやろ!」
「んな怒るなや〜。」
やっぱり、碌でもなかった。
そして、後日。
正則は本当に幕府に届け出ようとしたが、忠勝と正之、泉に止められ、三成には雷を落とされた。
その後は暫く大人しかったとかなんとか……。




