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兵站奉行だって、疲れる

慶長三年。


八月に豊臣秀吉が死去してから、豊臣家中の空気はどことなく張り詰めていた。


そんな中、石田三成は利家を見舞うため、大坂城下の前田邸を訪れた。


「佐吉……来てくれたんか。」


「ご尊顔拝し、恐悦至極」


挨拶の途中、利家に遮られた。


「ああ、構わんわ。楽にしてくれ。」


「……はい。」


「佐吉、こっち来い。」


「失礼します。」


利家の前に座る。


"叔父貴"と慕った人は、今は随分と小さく見える。


「槍の又佐も、病には勝てませぬか。」


「ああ、そうみたいだわ。」


利家は小さく笑う。


「佐吉よぉ……おみゃあ、ちゃんと寝とるか?」


「……寝れる思うてんの?」


やる事は山積みだ。


秀吉亡き後、幼くして当主となった秀頼を支えてなければ。

秀吉の命で、朝鮮へ出兵をした際の、その後始末もまだまだ残っている。


利家は小さく笑って、三成の頭を優しく撫でた。


「おみゃあは、昔っから無茶ばっかしよるでなぁ。」


「俺がやらな、誰がやるねん。」


「ああ、そうやなぁ。」


利家の手は、三成の頭から離れない。


「……なぁ。佐吉よぉ。」


「……はい。」


「そろそろ……人に頼ってもええんじゃないか?

おみゃあは昔から一人で抱え込もうとする癖がある。」


言い返せない。


「おみゃあから見たら……徳川殿以外は馬鹿に見えるやろ。

現に……虎之助も市松も、馬鹿や。阿呆や。」


口にするつもりはなかった。

だけど、自然と溢れていた。


「清正は城造りに関しては天下一や。

それから……正則は領地における治世は本物やで。」


三成がそう告げると、利家は目を見開き……やがて小さく笑う。


「んならぁ……少しは人を頼れや。

見てるとこは違うけども……。豊臣家への想いは同じやろ。」


「……はい。」


その数週間後、前田利家は息を引き取った。


利家の言葉を受け、三成は少し歩み寄ろうと考えた。


それなのに……


結果は、襲われそうになった。


幸い、利家の弔問前に密告があり難を逃れることが出来た。

更に、寧々が事前に家康に三成の保護を要請していたお陰で、大事には至らなかった。


だが――


利家の最期の言葉を、信じてみようと思った。

少しだけ、人を頼ってみようと思った。

そう思って、三成なりに準備を進めていた矢先の出来事だ。


三成の中で何かが切れた……。


目の前に座る家康は、腕を組んで三成をじっと見つめていた。


(疲れておるな……。)


それは、誰の目から見ても分かるほど。


三成は疲れ切っていた。


長い沈黙の後、三成はポツリと小さくこぼした。


「……疲れた。」


家康は目を細める。


「大事にならずに、良かった。」


計算なのか、それとも一人の武人としてなのか、はたまた父親としての情なのか……。

家康は静かに、そう呟いた。


三成は、はぁーっと重い溜め息を吐き……愚痴り始めた。


三成自身も止めようと思った。


だが、もう止まらなかった。


「俺も言い過ぎたから……少しは歩み寄ろうかなって……。

俺が頭下げて、それで収まるんなら安いもんか思うてたのに。」


家康は黙って三成の言い分を聞く。


「福島は……市松はアホやから、酒チラつかせたらホイホイ来るやろうな思うて、伏見の酒蔵に手配しようと思うて……。

細川幽斎様のツテ頼ろう思うて……。幽斎様もお力添え下さったのに……。」


「……うむ。」


普段の三成は、どんな場面でも武家口調を崩さない。

それが今は……近江訛り全開だ。

もう取り繕うのも、面倒になっているのだろう。


「松寿……黒田長政は面と向かって行っても俺の話なんて聞いてくれんやろうから思うて……。

お父上の官兵衛様に間入ってもらおう思うて、俺なりに手筈整えてたのに……。」


三成は天井を見上げる。


その頬から、一筋の涙が落ちた。

家康はそれを見ていないことにした。


「……そう思ってた矢先にこれかいな。」


三成の声から、失望の色が滲み出ていた。


「……もう知らん。あのアホども、勝手にしたらええわ。」


三成はガクリと首を落とした。


「……治部殿。呑むか?」


家康は静かにそう聞いてみる。


すると、三成はゆっくりと顔を上げた。


「……よろしいので?」


目を真っ赤にしたまま、家康を見つめる。 


その目には、疲労と失望が滲んでいた。


「まぁ、愚痴ぐらいは……。」


「呑まな、やってられへん……。」

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