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元アラフォーが皇女に転生?!元暗殺者の少年を拾ったので育てます!  作者: 桜月ふたば
第二章

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EP.61 肉球スタンプと情報ギルド


―プニプニ柔らかいな―

フワフワな毛布が顔にかかり、くすぐったくなったクレールはくしゃみをした。


「ックシュン――」

「起きたか、馬鹿弟子」


バッと目を開くと、目の前にリリーの顔が見えた。

それと同時に聞こえてくる、ゼノの盛大ないびき声が部屋に響いている。


「なぜ、ボロボロになって帰ってくるのだ」

「魔法の訓練してんだよ」

「抑えろと我は言ったつもりだが? 」


リリーの金色の瞳が細くなっていく。俺は何も言えなかった。


「ハァ……馬鹿者が」

リリーが小さく呟くと、ベッドが紫色に光り俺達は部屋から消えた。


シュッンッ


ドサッ

「いてぇ! 」


―ああ、俺の家がある森だな―


見渡すと、放課後に来ていた森の雰囲気ではない。

見慣れた木造の小さい家と、大きく育っている美味しかった実が成っている木がある。


「入れ。部屋で話すぞ」


ガチャ


見慣れた家具、使っていたコップ。

数週間前までは、師匠と訓練後に休んでいた場所。

そして、数か月前まではサーシャが来てくれた場所。


―少ししか住んでないのに、懐かしいと思うとはな―


そっとキッチンの机に触れると、お茶の準備をし始めた。


「茶はいらん! おい! 聞いてるのか? 」

「俺が、喉乾いたんだよ。たまにしかもう来れないんだから、許してくれ」


リリーは溜息をつきながら、クレールの背中を見つめていた。


コトッ

「ほらよ。これ好きだったろ? 」

「こ、こんなことで我の怒りは……決してほだされな――」

数分間。平たいお皿に入ったスープを見ないようにしていたリリーだったが、

そっと一口舐めると目を輝かせた。


「うまい! この味は久しぶりだぁああ! 」


棚の隅にあった鰹節にお湯を掛けただけのスープを、

尻尾をブンブン振りながら飲み始めたリリー。

鈴が皿に当たり、カランカランッと音を立てて食べている様子に

クレールはフッと口元が緩んでいた。


「ふぅ~ 満たされた」

ゴロンと仰向けになったリリーは幸せそうにお腹を撫でた。

だが次の瞬間、我に返りガバッと起き上がる。


「ってそうじゃない!! 弟子よ! そこに座れ! 」


ガタッ


「ちゃんと話すから、カリカリすんな」

皿を洗って片付けたクレールは、ゆっくり椅子に腰を掛けた。


それからウォーリア先生から持ち掛けられた話と、

放課後に行っていた森での特訓の話を順番に説明していった。


「確かに放出して、元の魔力量を増やす方法は間違っていない。

だが、それは人間によって違う。

一歩間違えば、魔力無しになる危険な訓練法だ」


「魔力無し? 」

「そうだ。枯渇状態が長引けば、魔力がもう自身で生み出せない」

キョトンとしているクレールを見たリリーは溜息をついた。


「ハァ……その感じだと、説明はされていなかったようだな」


リリーは俺の腕に尻尾を絡ませた。


「その教師。胡散臭いぞ」

「俺も、最初からそう思ってたぜ。

でも、特訓してから少しずつ強くなっているのも事実だ! 

俺はもっと早く――」


ガブッ!! 


「いってぇ!! 何で噛むんだよ! 」

「フンッ! 反抗期の弟子に躾だ! 」


腕に嚙みついたリリーは、プイッと横を向いた。

くっきりと歯型が付いているのを見たクレールは頬を膨らませる。


「そう焦るな。まだ1年も経っていないだろう? 」

「俺は、早く強くなりたいんだ」

「分かっておる。ならば……」


リリーは静かに目を閉じると毛を逆立てた。


ブワッ――


すると、黒く紫色の光がクレールを包み始める。


「お、おい! なにしてんだ?! 」

「うるさい。もう少しだ」


―女神の時みたいに、温かいな―


「終わったぞ」

「だから、何が――」

ペチッと尻尾が手の甲に叩かれ、手元を見ると小さい肉球が浮かび上がった。


「本契約は主だからな。弟子にはこのくらいしか出来ぬ」


俺は首を傾げた。

「まぁ、お守りだと思ってくれ」

「それだけか? もっと説明を――」


シュンッ

元の寄宿舎に突然転移すると、トンッとリリーはクレールを押し倒す。


「あまり無茶をするなよ」

「まだ、話は……」

起き上がろうとしたクレールに、リリーの前足が額に触れると

そのまま瞼を閉じ夢の中へ落ちて行った。


「眠れ、我が愛しき弟子よ」


リリーは寝息を確認してから、部屋から消えた。


――翌朝。

ゴーンッゴーンッ


鐘の音で目覚めた俺は、ゆっくり起き上がった。


「あれ、体が軽い」

手の甲を見たが、昨日付けられた肉球の跡は見えなかった。


―何だ、夢だったのか―


「あいつが、愛しきとか言う訳ないもんな」


シャ――


「な、なんだ?! 恋人の話か」

真ん中のカーテンをガバッと開け、嬉しそうなゼノに

クレールは全力で枕を投げつけた。


バフッ


「うあっ!! 」

「ちげーよ! 開けんな! 」


着替えをしていた時、クレールの腕には猫の噛み跡が

くっきりと残っていたが気づかず一日を過ごした。


     ◆


バタンッ! 


「出せ」


―この間は、楽しかったな―

足を前後にパタパタ動かしながら、仮面をかぶり大人の姿になったルイス。

馬車は、ルイスが運営している情報ギルドへ向かっていた。

窓から見える空を見上げ、初めて飛んだ感動を思い出している。


「マスター。今日はご機嫌ですね」

「そうか? そうかもしれないな」

仮面の下で、少し口角が上がっていることに気づいたルイス。


―今度は、自分の力で空を飛ぶんだ―


馬車を軽い足取りで飛び降り、いつもの手順で裏手から建物へ転移する。


「変わりはないか? 」

近くにいた部下に話しかけると、少し沈黙が流れた後。

部下は近くの金庫を開けて、慎重に大きいトレイをルイスへ差し出す。


「マスター。こちらをご覧ください」


黒い皮のトレーの上には、どれも高品質なアクセサリーが並べられていた。

「どうした。たまにあるじゃないか――」


左から右へ視線を移しながら見ていると、

一点のアクセサリーに目が留まり口を閉じた。


―なぜ、ここにあの宝石があるんだ―


「取引した女が、かなり不審者だったので盗難品かと――」


トレイの端に、皇女の誕生日に送った

紫色の宝石が付いた銀色のイヤリングが置かれていた。

片方を手に取り、金具の刻印を確認すると月のマークが入ってる。


―間違いない。俺が作らせた品だ―


「これは、誰が持ってきた」

低い声が部屋に響く。


「担当した者を連れてきます」

部下は、すぐにその職員を連れてきた。


「全て説明しろ」

ルイスは机に肘をつき、静かに聞き始める。


「実は――」


担当者は静かに話し始めた。



昼間の街に、頭からローブを被った女が大きい建物へ入って来た。


ルイスの情報ギルドは、

表向きの貿易商で、高額品の買取りも行っている。


ジャラジャラッ――


机の上に、高価な宝石が付いたアクセサリーが転がる。

赤や紫色の宝石が付いたイヤリング。

深い緑色の宝石に繊細な細工が施されたブローチ。

小さい金の指輪と腕輪……。


受付の者が、その量と品質に驚いていた。


「買い取って欲しいの」

「お客様、別室にご案内致します。どうぞこちらへ」


バンッ!


「早くして! 私は忙しいのよ!」

女は終始、イライラして落ち着きがなかった。


ギィィイ――


大きな扉の先で、個室に通された女は微かに震えながら椅子に腰を掛けた。

受付の女性から、ガタイの良い男に案内役が変わったせいもあるのだろう。


「これは、どこで手に入れた」

「……退職金と言われて貰ったものよ。家にまだ他にもあるわ」

「換金に時間がかかる。少し待て」


暫くすると、赤いトレーに金貨が積まれていた。


カチャッ


「金貨140枚だ」

「少ないわよ! ちゃんと鑑定したの?! 」


女は椅子から勢いよく立ち上がり大声を発した。

だが、職員の男は動じない。


「悪いが、重さで買い取りになるとこの金額が最大だ。

このままでは販売しない。お前もだからここへ持ってきたんだろう?」


ギルド職員の男は腕を組みながら、まっすぐ女を見つめた。


「クッ……分かったわ。それで構わない」

フードの下では口をへの字にした女は、ギュッと服の袖を握りしめていた。



「ということがありました」

「分かった。次、その女が来たら……。これを渡せ」


引き出しから、水色の宝石がはめ込まれたリングを机に置いた。


「え、いいんですか? 」

「ああ。プレゼントだと言えばいい」


「御意」


パタンッ


部下が帰り、部屋は静かな空間に戻る。

グシャリと報告書を握りしめたルイスは、怒りに震えていた。


『一緒に頑張りましょうね! 』

アイビーの純粋な笑顔が、ルイスの脳裏に過る。


「あの優しい人の物を、よくも――」


―絶対に許さない―


ルイスは引き出しから帳簿の履歴に目を通し、書き込みをし始めた。

時計の針の音と筆を走らせている音だけが部屋に響く。


「ハァ……すぐにでも解決したいが、時間がかかるな」

筆を止めて、額に手を置いたルイスは深く溜息をつく。


その日、情報ギルドでは深夜までルイスの部屋の灯りは消えなかった。




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