表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/33

幕間二 姉の奴隷

胸が悪くなるシーンがあります。


読み飛ばし推奨です。


 石礫が飛んでくる。


「魔物は死ね!」


 拳の半分程度の小さい石礫。


「お前たちのせいで!」


 肩に痛みが走る。


「消えろ!」


 せめて妹だけはと覆いかぶさるうちの背中へ、容赦なく衝撃が襲う。


「お、お姉ちゃん……」

「安心し、姉ちゃんは大丈夫や。うぐっ……」


 ほんの数分、されど数分。

 うちは、この子より先に生まれたお姉ちゃんなのだから。


「大丈夫、大丈夫やから……」

「で、でも……、ギャン!?」

「!!」

「ストラーイクっ!!」


 うちの腕の隙間めがけて投げ込まれた石礫が妹に当たったらしく、悲鳴が上がる。

 思わず顔を上げて声のした方をにらみつける。


 が、その行動はまずかった。

 奴らは、きっとそれを待っていたのだろう。

 今度はうちの顔めがけて石礫が投げつけられる。


「調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

「ガッ……」


 焼き鏝(やきごて)でも押されたかのような熱が額を犯す。

 視界が紅く染まり、意識が明滅する。

 おそらく、今の石礫で、頭を切ったのだろう。 

 温かい液体が頬を伝う。


 このまま、石を投げ続けられれば、うちは死ぬだろう。

 やけど、それでも震えるこの子を私は守るんや。

 すべてを犠牲にしても、この命に変えても。

 お姉ちゃんと呼んでくれる、うちの鏡写しのようなこの子を。

 まとまらない思考で、朦朧とする意識の中、決意を固める。


 いつの間にか石礫は止まっていた。

 そして、誰かが近づいてくる気配。

 ああ、そうか。

 今度は投石ではなく、直接というわけやな。


 私たちの頭上に影が差す。

 うずくまるうちらを、踏みつけるつもりなんやろな。


「●▲▲■……」


 頭上で声が聞こえる気がするが、よく聞こえない。

 まぁどうせ聞こえたところで、聞くに堪えない罵詈雑言程度だ。

 気にすることはないやろ。


 死ぬのは、せめてこの子より先に。

 意識は混濁してきとる。

 それでも力の限り抱きしめた。


「……?」


 しかし、覚悟していた痛みはいつまで経っても降ってこない。

 代わりに降ってきたのは暖かい光。

 先ほどまであった焼けるような痛みは拭い取られ、心地よい温もりが全身を包む。


「大丈夫かい?」

「……」


 頭上から心配するような声がする。

 誰か怪我でもしてるんやろか。

 もしかして投石が他の人に当たったのかもしれん。

 そう思えば少し広角が上がりそうになる。

 やけどうちらの周囲には誰もいなかったはず。


「えっと、まだ傷は痛むかな?」


 この声は、もしかしてうちらに向けられているものなんやろうか。

 気がつけば全身を蝕んでいた痛みは消え去っとった。


 うちはもう死んどるのかもしれん。

 そしてこの声の主は、神様なんやろう。

 ようやく、お迎えがきたんやな……。


 神様、神様ね。

 そう考えるとふつふつと怒りが湧いてくる。

 こんな世界に、こんな環境にうちらを送り出した神様。

 はっ、悪魔と何が違うんや。


 逝く前に、その面を拝んでやろうと顔を上げる。

 特に代わり映えのない、普通の人の顔がそこにはあった。


 神様っちゅーやつは、随分と特徴のない顔をしとるんやな。

 不謹慎かもしれないが、そんなことを思ってしまう。


 ちょっと間の抜けた、少し困ったような表情。

 悪意や敵意、侮蔑といった今まで向けられてきたものとは違う。

 柔らかい、妹がうちに向けるような、そんな目。


「あんたが神様かいな」

「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」


 やはり神様らしい。

 ……、もう、いいや。

 なんでか毒気が抜けてしまった。

 後はもう天国でも地獄でも好きに連れて行けばいい。

 うちは腕に抱える妹を抱きしめながらそう思った。



 神様は人間で、ご主人様だった。

 ようやくこの腐った世界から開放されたと思ったのに。

 うちら姉妹はこの人間に買われ、再び地獄に落とされるのだ。

 天国でも地獄でも好きに連れて行けとはいったが、現実世界の地獄に連れて行けとは一言もいっていない。

 

 うちらが石を投げられているのを見て買ったらしい。

 それも即金で。

 かなりふっかけられていたようだが、言い値で買ったようだ。

 つまりうちらの命は、身体は、どう使っても構わない。

 そういう契約だ。


 あまり長く、使わないでもらいたい。

 早く、殺してほしい。

 やけど、そんな希望を持つなど、許されないやろな。

 なんせうちらは獣人。

 半分魔物なんやから。



 ご主人様は神様だった。

 降り注いできた光は信じられんことに治癒魔法だったらしい。

 獣人に治癒魔法を使う人間なんて、聞いたことがない。

 貴重な魔力を使い、聖なる治癒の魔法を、半魔の獣人にやなんて。

 そんなことをするのは神様以外にありえん。


 今までどうして助けてくれなかったのか。

 そんな思いが鎌首をもたげるが、もしここで見捨てられたらと思うととても口には出せんかった。

 うちらは神様の後について、立派な宿屋へと入っていった。 



 神様は人間、なんかなぁ……。

 宿の中、うちらの目の前にはベッドに座り(まなじり)を吊り上げる全裸の少女と、正座しているご主人がいた。


「で、これはなに」

「奴隷です……」


 少女の問に、人間(?)が答える。


「なんで連れてきたの」

「買ったからです……」


 あー、ご主人、この子の聞きたいのはそういうことやないと思うで?

 わかっててはぐらかしとるんやろか。


「ご主人様、バカ?」

「面目ございません……」


 ため息混じりにご主人を罵倒する少女に、少し苛立ちを覚える。

 気持ちはわからんでもないけどな。

 あんたにとってもご主人はご主人様なんやろ?


「だからついていくっていったのに」

「ご尤もです……」


 どうやら、この少女の服を買いに出かけたところ、服ではなくうちらを買ったという流れのようだった。

 その後もしばらく尋問されていたが、ご主人の言っていることは半分も理解できなかった。

 そのうち少女は諦めたように首を振り、うちらにすべてを捧げて信じれば幸せになれるとどこぞの宗教家がいいそうなことを告げてきた。


 奴隷として、すべてを捧げさせられている以上、それ以外の選択肢はないんやけどな……。

 それにこの子を見ていると、うちらが幸せになれるとは思えへんかった。

 女の子やのに『小太郎』っちゅー、男みたいな名前。

 それに服も与えられとらんし。

 肌に傷がないのは……、これから傷つけるため?

 そういう趣味なんかもしれんし。


 どうせやられるなら、早いうちに覚悟を決めたい。

 そう思って挑発するように聞いてみたが、慌てたように否定されてしまった。

 演技をしているようには見えんし……、もしかしてマジなんか……?



 ご主人は、ダメ人間だった。

 聞けば先輩の服を買うためにでかけたのに、有り金全部使ってうちらを買ったらしい。

 今日と明日の宿は確保しているっちゅーとったけど、ご飯どうするん?

 鐚銭(びたせん)一枚すらないとか、意味がわからん。


 黙って何かを差し出し、売ってくるよういう先輩が少し不憫に思えた。

 おそらく、うちらを買ったお金も先輩が原資なんやろな。

 そら奴隷の全てはご主人様のもんやけど……。

 ご主人は一人で出歩かせてはダメやな、うん。


 そう思っていたのはうちだけやなかったようで、ご主人が一人で出かけるのを先輩は猛反対するのだった。


 その後洗浄魔法をかけられ、人間様が着るような、いや、人間様でもなかなか着れないような綺麗な服をうちらは与えられた。

 あー、わかっとる、わかっとるよ。

 そういうことなんやろ?

 名前も、先輩と違ってまともな名前やったしな。


 そして、コトの前の腹ごしらえでは信じられない御馳走を口にした。

 生まれて初めてリンゴを食べたときには思わず涙が溢れるかと思ったわ。


 まぁ、ここまでされたんなら、ご奉仕するのはやぶさかでないけどな?

 しっかし、治癒魔法だけやのうて浄化魔法まで使える魔導士様が獣人(そんな)趣味あるなんてなぁ。

 同じ部屋で、先輩とベッドを分けたのはきっとうちらの初めてを同時にっちゅーことなんやろな。

 ただ、ナナオには少し優しくしてほしいわ。

 その分、うちが頑張るから。

 さて、夜は長い。

 精一杯ご奉仕させていただくとするで!



 ご主人はヘタレチキ、ゲフンゲフン。

 紳士やった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ