第十四話 授爵と報酬
「ふぅ……。やっと死んだかな」
一体何発打ち込んだのか。
一〇発や二〇発なんかじゃ済まない数を打ち込み、ようやく黒巨人はその活動を停止した。
雷魔法や炎魔法が使えたなら楽だったが、水に濡れた市街地で使うわけにも行かず、かなり手間がかかってしまった。
「っと、魔法解除しないと」
俺は風魔法で濃霧を散らす。
霧が薄まるに連れ柔らかな日差しが石畳を照らし、霜を溶かしていく。
「ウリュウ様!!」
「うりゅうさーん!!」
「ミトさん、ハヅキさん。無事でしたか?」
霧が晴れると同時に二人が俺へと駆け寄ってくる。
そしてそのままハヅキさんは俺に抱きついてきたのだが……。
鎧兜で抱きしめられても、ね。
感想?
防御膜越しだけど十分に鎧の硬さは理解できたよ。
「それにしても疲れた……」
あんな魔物、見たことがない。
千年の間に新しく生まれた魔物なのだろうか。
後で調べておこう。
広場に残された巨大の魔石に腰を掛け、俺は空を見上げるのだった。
そして再び城へ向かうために用意された馬車の中で、一人我に返る。
「……、いや、なんだよあれ……」
いやいや、ありえないでしょうよ!
なんなの!?
なんなんだよ!?
障壁破るわ空間魔法で攻撃魔法消滅させてくるわ。
何が冷静になっただ。
なにか一つボタンの掛け違いがあっただけで死んでたんだぞ!?
意味がわからない!!
英雄症候群か何かかよ!
頭おかしいってマジで!
ミトさんやハヅキさんのためっていっても、別に俺の彼女とかってわけでもないし。
そもそも出会ってまだ何日よ?
ちょっとした手助けならともかく、命を掛けるほどの関係じゃない。
手が、足が震えるのを抑えられない。
歯がガチガチとなり、まともに喋ることも難しそうだ。
「次は、絶対逃げるぞ……」
今回は頭が煮えてたが、次は絶対に逃げてやる。
俺は心に誓う。
なんせ残機はないのだから。
「汝、ウリュウ・トオルを名誉魔導士爵に任ずる」
黒巨人の騒動の後、再び城に呼び出された俺は貴族に列されることとなった。
さんざんごねたのだが、押し切られてしまったのだ。
とはいえ、一代限りの名誉魔導士爵だが。
不幸中の幸いといえば、そのやり取りのおかげで俺の震えが止まったことくらいだろうか。
「魔法の才能は血によるものが大きい。いずれ『名誉』も取れるであろう」
と、カシワ男爵からは言われたが取れなくていいです。
街を救った対価と、残された巨大な魔石の対価としては男爵家の書庫の閲覧権限と、マツ・ド・シモサ伯爵への紹介状。
そしてミトさんとハヅキさんを好きにしていい権限をもらった。
巨大魔石は非常に高く売れるらしいので、復興費用に当ててもらうのに寄付することにしたのだ。
なんせ周囲の穀倉地帯がゴブリンたちに踏み荒らされ、このままだと民衆が飢えるのが目に見えていたからね。
……、後で小太郎に怒られるんだろうなぁ。
少し憂鬱だが、黒巨人と違って命の危険があるわけではない。
それくらいは甘受しよう。
書庫の閲覧とマツ伯爵の紹介状は使わせてもらうけど、最後の権利は使うつもりはない。
政略結婚とか拒否感あるし。
「まったく、貴殿は本当に見た目通りの年齢なのか? 欲がないにも程が有るぞ」
「あはは……」
まだこの世界のことを何も知らないのだ。
あまり気にしても仕方がないが、今は身を固めるわけには行かないだろう。
俺は席を辞すると、早速書庫へと向かった。
「これがウルガさんのいっていた神話の書かな」
図書館と比べたらささやかなものだが、カシワ男爵の書庫はそれなりに充実していた。
歴史書等が重点的に置かれているらしく、俺の知りたい情報がある程度揃っていたのだ。
「天の火、それに地殻変動か」
天の火が落ちた後、世界は魔物と多数の種族が争いながらも共存する坩堝と化したようだ。
その中に、人類が含まれたことは不幸中の幸いだったのだろうと書いてあったが……。
「どこが幸せなんだ!」
俺は思わず叫ばずにはいられなかった。
海外の情報はわからないが、少なくとも日本。
そのうちでも関東は人口の七割が死滅、その後も徐々に人口が減っていき、あと一歩で滅亡というところまで行っていたのだ。
そこまでの被害を受けて幸せとは俺はとてもじゃないが思えなかった。
俺の入っていたカプセルも天変地異で流されたのだろう。
運良く地上に流れ着いたけど、もし海底深くに流されていたらと思うとゾッとする。
その点だけを見れば幸運なのかもしれないが……。
「実家の方の情報は皆無か」
天変地異の後、日本の真ん中からやや西よりには海峡ができたらしい。
また、津軽海峡は広がり、その結果西日本、そして北海道は連絡が途絶しているようだ。
無事、ではないにしても滅んでいなければいいのだが。
もっとも、カシワ男爵の持っている書籍はすべて人類種が書き残したものだけだったので他の種族は何かしらの情報を持っているかもしれない。
「ドワーフはグンマー、エルフはトオホグか」
ドワーフもエルフも人類が衰退した後、それぞれグンマーとトオホグと呼ばれる国を建てたらしい。
その後、現在人類とは一応は友好的な関係を維持しているそうだ。
とはいえ一部の過激派の人類は土地を返せと騒いでいるのだとかなんとか。
「とりあえずはグンマーかな」
エルフの国は森の奥深くにあり、警戒心も高いため人類は早々立ち入れないようだがドワーフの国の首都、クサツであれば街道もある。
とはいえ、かなり距離があるし路銀もない。
しばらくはこの街に滞在してお金を稼がねば。
天変地異の後、各地にできたダンジョンと呼ばれる魔物の多数居る洞窟では魔法の道具が産出されるらしい。
大抵は使い物にならないゴミアイテムだが、極稀に優れたものが出てくるのだとか。
また、ダンジョンの魔物が持つ魔石は地上の魔物の魔石に比べ品質もよく、比較的高値で売れるそうだ。
魔法の練習も兼ねて、しばらくダンジョンに潜るのも悪くない。
幸い、カリワ近くにはいくつかダンジョンが点在しているようだし。
ダンジョンへの入場許可をカシワ男爵からもらうと、俺は城を後にした。
もっともダンジョンは一般に開放されているらしく、特に許可はいらないそうだったが。
男爵からは馬車を手配するといわれたが、固辞する。
馬車の御者は間違いなくミトさんとハヅキさんだろうしね。
今会うのはちょっと気まずい。
「正座」
「はい……」
案の定、宿に戻ると小太郎に怒られた。
無表情ではあるが、激怒していることがわかる。
「寄付は、持っている者が、持たざる者にするもの」
「はい……」
少し震える声で静かに言われると身にしみる。
俺のことを思ってのことだから文句も言えない。
「ご主人様、お金ある?」
「明日からダンジョンで稼ごうかと……」
バンッ!
小太郎がベッドに座ったままサイドテーブルを叩く。
「明日やろうは、馬鹿野郎」
「ごもっともです……」
俺や小太郎だけじゃない。
タマモとナナオの生活もかかっているのだ。
それを考えれば激怒されて当たり前だろう。
「まぁ、それくらいにしとってや? ご主人も悪気があってやったわけやなし」
「わ、私たちもそれで救われたなので……」
空気だったタマモとナナオが俺たちの間に入ってくれる。
だが、一人悪者になったような小太郎は涙目であった。
「二人ともずるい……」
「ごめんって! 本当に反省してるから!」
俺は立ち上がると涙目の小太郎を抱きかかえ、そのまま夜まで必死にご機嫌を取るのだった。
「貴族になったのは良い判断」
「そうか? 余計な面倒事に巻き込まれそうだけど……」
夕食後、ようやく機嫌を直してくれた小太郎たちと話し込む。
小太郎曰く、平民だと街に入るのも大変らしい。
「せやな、獣人連れやと余計になー」
「貴族でしたら、信用がありますから……」
なるほど。
ハイブリッター、獣人は嫌われているんだったか。
そういった感覚はついつい抜けてしまうな。
これから覚えていかないと。
「ともかく、明日からは路銀稼ぎでしばらくダンジョンに潜るから。その間三人は宿で待っていてくれ」
「だめ」
「だめやな」
「だめ、ですね……」
「……」
俺を一人にさせるとろくなことをしない。
そんな目で三人から反対を受ける。
いや、大丈夫だって。
ただダンジョンに潜るだけなんだぞ?
やらかす要素がないだろうが。
「ご主人様は、想像の斜め下を行く」
「今度は借金作って返ってきても不思議じゃないしなぁ」
「私、売られたくないです……」
信用ゼロだと辛いね……。
貴族になったのに信用されないとはどういうことなのだろうか。
当たり前か。
「でも、ダンジョンは危ないよ?」
「大丈夫」
「うち獣人やもん。ちょっとした魔物くらい平気やで?」
「打たれ強さには自信あります……」
そうでしたね。
飛竜にハイブリッター。
三人とも生身の人類に比べたらかなりの強さを誇る。
近くのダンジョンでは最奥の間と呼ばれるところ以外ではゴブリンとホブゴブリン程度しか出ないらしいし問題はない、のか?
なにか忘れているような気がしてならないんだけど……。
「すみません、お借りします……」
「いえ、でも先に気づいてよかったです」
翌日、気まずい思いをしながら俺たちはミトさんたちから武具を借り受ける。
ああ、他の騎士団員の噂する声が聞こえてくる……。
「それでは、いってらっしゃい」
「あ、はい……」
ミトさんとハヅキさんがどこからか取り出した火打ち石を打ち鳴らす。
……。
気にしたら負け、気にしたら負け……。
俺は重い足取りでダンジョンへと向かうのだった。




