第十三話 黒巨人、襲来
「失礼します!」
「無礼者! ここをどこと心得る!」
「よい。して何があった?」
ミトさんが詰問するが、カシワ男爵が止める。
そのままカシワ男爵は立ち上がり彼の元へと歩み寄った。
「じょ、城壁内に魔物が!」
床に倒れ込んだままの兵士が顔を上げて衝撃の報告を行う。
おかしい、周囲の魔物は全ていなくなったはずだ。
それに空を飛べる類の魔物はいなかった。
新手だろうか?
「なに!? どういうことだ!?」
「現在第三歩兵師団が避難誘導、第二騎士隊が中央広場で応戦しておりますが戦況は芳しくありません!」
敵の数は僅かに一体。
だが、第二騎士隊では足止めをするのが精一杯な状況らしい。
「カシワ男爵、私たちは現地に向かいます。ハヅキ!」
「はい!」
それだけいうとミトさんとハヅキさんは執務室を飛び出していく。
「そんなバカな、街中にだと?」
「それでは俺も行かせてもらいますよ」
第二騎士隊の面々は既に顔見知りだ。
それを見捨てるなんてできない。
多少危険かもしれないが、魔物が防御障壁や防御膜を突破できるとも思えないし。
「う、うむ、頼む。なにっ!?」
逸る心を抑え、俺はミトさんたちが出ていった扉とは反対側。
窓から体を乗り出し、飛翔した。
カシワ男爵は驚いていたようだが、今はそれどころではないからね。
多少の失礼は許してもらいたい。
「あれか」
空に上がると中央広場にて、騎士隊に囲まれた一体の黒い巨人が剣というには無骨すぎる鉄塊を振り回しているのが見えた。
上空には鷲のような鳥がまるで餌がそこにでもいるかのようにぐるぐると旋回している。
きっと餌となる犠牲者を待っているのだろう。
騎士隊はその手にもった武器を次々と巨人の足へと叩きつけるが、ダメージを与えられていないどころか武器を破壊されてしまっているようだった。
「あんな魔物いたか?」
俺は急行しながら考える。
三階建ての建物を超える背の高さ、黒く光り輝く筋肉質な身体。
今まで見たことのあるどの魔物とも違う、まるで複数の魔物が混ざったかのような気持ちの悪い魔力パターン。
俺が知らないだけかも知れないが、ゴーレムにしても少し大きすぎる。
「ん?」
一瞬視線を感じたような気がしたが、気のせいか?
魔物は騎士たちをを向いているし。
そんな事を考えている間にも魔物は大きくフランベルジュもどきを振り、騎士たちを斬り飛ばそうとする。
「させないよっと!」
俺は障壁を騎士たちの前へ展開。
その一撃を防ぐ――はずだった。
「なっ!?」
ガラスの割れるような音が響き、防御障壁が粉々に破壊される。
オーガ程度であればヒビが入ることはあっても破壊されることはない。
そんな障壁が粉々?
「嘘だろ、おい……」
小太郎の攻撃を受けたときに一度破られたことがあったが、あれは油断していたしあまり魔力を込めていなかった。
だが、今展開した防御障壁はそれなりに気合を入れていたのに!
だが、勢いは削がれたらしく直撃した騎士たちは殴り飛ばされたもののなんとか生きているようだ。
とりあえずは一安心だが、障壁を破壊するような魔物。
頭の中でリストアップするが、このような姿の魔物は見つからない。
とにかくタゲを取らないと。
騎士たちでは手に負えないはずだ。
混乱する頭の中でなんとか方向性を決める。
「氷短剣」
中央広場にたどり着くと同時に攻撃魔法を発動。
ゴリラのような顔をした黒巨人の顔面へ打ち込む。
「ウガアアアアア!!」
「っと!」
ダメージは通っていないようだが、黒い巨人は俺へとターゲットを変えたらしく絶叫とともに俺へと金棒を振り下ろしてきた。
障壁は粉砕されるのがわかっているので避けるしか無い。
「あぶねっ!」
「ジンガアアアアアアアアアアンンンンンン゛!!!!」
猛烈な勢いで振り回される金棒をなんとか避ける。
正直距離を取りたいところだが、下手に距離を取るとタゲが再び騎士隊に向かってしまうかもしれない。
それにこいつを中央広場から出す訳にはいかない。
ここは街のど真ん中だ。
俺が距離を取り、こいつが追いかけてきたら被害が拡大してしまう。
しかし初級じゃダメージが通らないなら、中級以上の攻撃魔法を撃つしか無い。
「氷よ穿け、氷結の、くっ!!」
中級攻撃魔法を詠唱しようとするが、黒巨人の攻撃のせいで途中で中断されてしまう。
くそ、こんなことならもっと練習しておけばよかった。
「氷短剣、氷短剣、氷短剣、氷短剣」
黒巨人の顔に氷短剣を連打するが、やはり効いていない。
氷に対する完全耐性でもあるのだろうか?
こんな街中で炎や雷を使う訳にはいかないし、土魔法を使ったら街を破壊してしまうし風魔法では威力不足だろう。
さてどうするか。
「氷短剣!!」
やらないよりはマシと思いながら氷短剣を連打する。
「しかし完全耐性か。ん? なんか変だぞ?」
よく見れば氷短剣が黒巨人に接触する直前で魔法が消滅している?
完全耐性であればこのような動きはしないはず。
「魔法が消滅……、まさか空間魔法か!?」
おいおい、冗談だろ。
空間魔法を使用する魔物なんて極一部の限られた魔物だ。
彼らは知性を持ち、人間とは敵対していなかったはず。
それがなぜ?
それに空間魔法を破るためには同じ空間魔法か魔法破壊系の魔法を使う必要がある。
しかし、両方共俺は練習しておらず、比較的慣れている空間魔法でも詠唱短縮が精一杯だ。
黒巨人は俺にそんな余裕を与えてはくれない。
かといって騎士たちに囮を頼めばどれだけの被害が出るか考えたくもない。
「クゾガアアアアアアアアアアア!!」
「くっ!!」
段々と黒巨人の動きが俊敏になっている気がする。
最初はただ振り回していただけのはずの金棒が、修練したような太刀筋になっているような。
その俊敏さは徐々に俺の余裕を削り取ってくる。
「ウリュウ様!! 援護します!!」
「喰らえ!!」
追いついてきたミトさんとハヅキさんがガントレットから矢を放つ。
しかし黒巨人には一切のダメージを与えることなく、虚しく矢は消滅した。
「そんな!?」
「全然効いていない!?」
「ジデエエエエエエエエ!!!」
驚く二人を無視して黒巨人は俺へと金棒を叩きつける。
魔法だけじゃなくて物理攻撃も無効、いや消滅させるとは……。
ん、消滅?
「試してみるか……」
このままではどうせジリ貧だ。
藁をも掴むつもりでその考えに飛びつく。
瓦礫をいくつか掴み、黒巨人へと投げつけてみると瓦礫は黒巨人の正面で消滅していった。
そのまま周囲を回りながら投げつけるが、どの角度でも魔法と同じく瓦礫は消滅する。
どうやってかは知らないが、おそらくこいつは体表に消滅の魔法を張り付けているのだろう。
それも全身にだ。
なるほど、燃費は悪いかもしれないがこれなら無敵と思える。
「僕が考えた最強の魔物ってか!」
しかし現実はそう甘くない。
全ての物理的、魔法的な干渉を消滅させるというのであれば奴は地面に立つことすら出来ず、地球の中心に向かって沈むはずだ。
「なるほどね、ならこれはどうだ? 石筍」
足元から石の槍を生み出してみる。
俺の想像が正しければ、黒巨人の足の裏に突き刺さるはず。
だが、石の槍はあっさり消滅させられてしまった。
「おい、ふざけんなよ、おい……」
……、どうやらこいつは蒼いたぬき型ロボットのごとく、少しだけ浮くことで土の中に落ちていくのを回避しているようだ。
そんなの反則すぎるだろうが。
こんなのどうやって倒せっていうんだ。
あれか、ゲームの岩男で出てくる敵のごとく、一定時間ごとに弱点露出するとかないの?
「うおっ!?」
黒巨人の金棒が防御膜をなにもなかったかのように切り裂きながら俺の眼前を掠める。
「あぶねぇ!?」
くそ、現実逃避している場合じゃない。
現実はゲームとは違うんだ。
残機は無い。
よし、少し冷静になれたぞ。
全ての外部からの刺激をカットしている?
ありえない。
全てをカットするというのなら、光だって同じはず。
「濃霧」
「ナ゛アアアアアアアアアアアアア!!!」
「正解かな?」
ではなぜ黒巨人は俺が、周囲が見えているのか?
「濃霧」
「ヤベオオオオオオオオ!!!」
見覚えのない上空を舞う鳥。
きっとあれが目の代わりをしていたのだろう。
だから、俺が濃霧の魔法を使うと同時に発狂し始めたのだ。
「濃霧、濃霧、濃霧」
徐々に深くなっていく霧。
息苦しくなってきたが我慢だ。
動きを止めないと一方的にやられるだけだからな。
ある程度、霧が濃くなったところで黒巨人の動きが止まった。
「ドゴオオオオオ……」
唸り声を上げるシルエットがすぐ先にある。
俺からはかろうじて見えているが、上空の目からは全く見えなくなっているだろう。
そう信じて俺は更に近づく。
一撃、一撃だ。
一発で仕留めないと奴は周囲を巻き込んで暴れ始めるかもしれない。
そうなると被害が拡大してしまう。
かといってあまり悠長にもしていられない。
業を煮やして暴れられても同じことだ。
「落ち着け……、ふぅ……」
俺は呪文を慎重に思い出す。
教師だったとはいえ、流石に上級魔法までははっきり覚えている自信がないからね。
よし、あとはこれを確実に、迅速に詠唱すればいい。
「凍てつく大地の氷結よ。白い息吹の女王よ」
周囲に浮遊していた小さな霧の水滴が、一斉に凍てつき動きを止めた。
吐く息は凍り、足元の石畳には霜が浮かび上がる。
それと同時にまるでマーカーのような白い円が黒巨人の左肩へと浮かび上がる。
「永久の眠りを導く汝の名において、我は命ずる。樹氷を束ねし槍をもて」
漂う氷の粒が俺の言葉に従うように渦を巻き、白い柱を作っていく。
「貫け、穿て《うがて》、撃ち抜け《うちぬけ》。氷の大槍!」
巨大な氷の槍が凍った空気を切り裂き、黒い巨人に作られた白い円へと吸い込まれ、貫いた。
「グガアアアアアアアアア!?!?!?」
思ったとおりだ。
あとは、傷口に攻撃が通るかどうかだけど……。
「氷よ穿け、氷結の刃! 氷槍!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?!?!?!」
「よし、行ける!」
苦しむ黒い巨人の傷口に俺は中級魔法を連打していった。




