第5話 平手大虎
1998年2月6日。
午前十時三十二分。
札幌市中央区。
大通公園。
雪祭りの準備が進む中、
一人の男がベンチに腰掛けていた。
年齢は十七、八歳ほど。
黒いロングコート。
無造作に流した髪。
手には缶コーヒー。
周囲には人がいる。
だが誰も男に近付かない。
理由は簡単だった。
男の周囲だけ、
妙な空気が流れていたからだ。
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「平手さん」
背後から声が掛かる。
男は振り返らない。
「何だ?」
低い声だった。
威圧しているわけではない。
だが自然と相手を緊張させる。
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「例の件です」
スーツ姿の男が頭を下げる。
「調べが付きました」
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平手大虎。
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それが男の名前だった。
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「話せ」
大虎は缶コーヒーを口に運ぶ。
スーツの男は資料を差し出した。
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「本城圭太」
「藤川誠司」
「五条聖斗」
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大虎の手が止まった。
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「ほぅ」
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初めて興味を示した。
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「集まったのか」
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男は頷く。
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「札幌帝都学園です」
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大虎は雪空を見上げた。
しばらく黙る。
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そして笑った。
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「そうか」
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その笑みを見たスーツの男は鳥肌が立った。
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滅多に笑わない。
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だからこそ怖かった。
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「面白くなってきたな」
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大虎は立ち上がる。
百八十五センチ近い長身。
決して大柄ではない。
しかし圧倒的な存在感があった。
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「車を出せ」
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「どちらへ?」
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大虎は笑う。
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「決まってる」
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「仲間に会いに行く」
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その頃。
札幌帝都学園。
生徒指導室。
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「来るな」
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五条聖斗が突然言った。
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圭太が振り向く。
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「何がだ?」
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「大虎だ」
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誠司の表情も変わる。
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「本当か?」
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「間違いない」
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聖斗は窓の外を見た。
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「もう札幌にいる」
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その瞬間だった。
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ガラッ!!
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生徒指導室の扉が開く。
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全員が振り返る。
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そこには一人の男が立っていた。
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黒いロングコート。
鋭い眼光。
静かな笑み。
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そして。
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「久しぶりだな」
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その一言だけで、
圭太が立ち上がった。
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「大虎!」
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誠司も笑う。
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聖斗も珍しく口元を緩める。
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男はゆっくり室内へ入った。
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「相変わらず騒がしい連中だ」
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四人の視線が交わる。
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二十年前に始まった計画。
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その中心にいた四人。
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ついに全員が揃った。
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しかし。
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誰も知らなかった。
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この再会の二日後。
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札幌帝都学園で最初の事件が起きることを。
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そして。
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その事件こそが、
北海道計画の闇を暴く始まりになることを。
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―第6話へ続く―
第6話
四神集結




