第3話 聖斗
午後八時四十分。
札幌帝都学園理事長室。
理事長・黒崎源一郎は受話器を握ったまま立ち尽くしていた。
窓の外では雪が降っている。
受話器の向こうから聞こえてきた名前。
それが彼を動揺させていた。
「本当に確認できたのか?」
黒崎が低い声で尋ねる。
電話の向こうの男が答えた。
『間違いありません』
『本人です』
黒崎は目を閉じた。
二十年。
二十年間現れなかった存在。
まさか今になって。
『どうしますか?』
「監視を続けろ」
黒崎は即答した。
「絶対に接触するな」
『しかし――』
「接触するな」
声に圧が宿る。
電話の向こうの男は黙った。
「もし本当にあの子なら……」
黒崎はそこで言葉を切った。
「我々では手に負えん」
受話器を置く。
そして窓の外を見る。
雪は強くなっていた。
⸻
翌日。
札幌市北区。
古びたアパート。
二階の角部屋。
一人の少年が机に向かっていた。
静かだった。
部屋にはテレビもない。
ゲームもない。
あるのは本だけ。
壁一面を埋め尽くす本だった。
数学。
物理学。
哲学。
歴史学。
心理学。
少年はページをめくる。
そして鉛筆を走らせる。
その速度は異常だった。
まるで答えを最初から知っているように。
⸻
コンコン。
突然ノックが鳴る。
少年は顔を上げた。
時計を見る。
午後六時。
予定より三分遅い。
「どうぞ」
扉が開く。
宅配業者だった。
「荷物です」
「ありがとうございます」
少年は受け取る。
差出人の名前はない。
だが中身は分かっていた。
⸻
封筒。
一枚の紙。
そこにはたった一行。
⸻
札幌帝都学園へ来い
⸻
少年は笑った。
初めて。
ほんの少しだけ。
⸻
「遅かったな」
⸻
誰もいない部屋で呟く。
そして窓の外を見る。
降り続く雪。
⸻
「圭太」
⸻
その名前を口にする。
懐かしそうに。
⸻
「誠司」
⸻
続いてもう一人。
⸻
「やっと動き出したか」
⸻
その目は、
同年代の少年のものではなかった。
⸻
翌日。
札幌帝都学園。
昼休み。
圭太は屋上で寝転がっていた。
誠司は本を読んでいる。
「なぁ」
圭太が言う。
「何?」
「見つかったんだろ?」
誠司は本を閉じた。
少しだけ笑う。
「うん」
「どこにいた?」
「札幌」
圭太も笑った。
獲物を見つけた狼のように。
⸻
「迎えに行くか」
⸻
誠司が立ち上がる。
冷たい風が吹く。
雪が舞う。
⸻
「そうだね」
⸻
二人はまだ知らない。
その再会が、
札幌帝都学園を揺るがす事件の始まりになることを。
⸻
そして。
四人の運命が再び交わろうとしていた。
⸻
―第4話へ続く―
次回予告
第4話「四人目」




